45.質疑応答
多分、その場に居た魔王以外全員の気持ちは『あちゃ〜!!』だったと思う。
ノアなんて天井を仰ぎ見て、額に手を当てたまま身動きしない。物凄い速さで、何か考えているのだろう。
魔王城の一室で、ジゼルが街で買って来た美味しい焼菓子と香り立つお茶を前に、寛ぎつつ話し合いをしていた。――その中に突如現れた勇者レン。
……どうするのよ、これ。
凝ったデザインの一人掛けの椅子に座り、レンはポカンとしている。
目の前には、カルロス、ノア、ロラン、キーラン。それに加えて、私とジゼルまで居るのだから訳が分からないだろう。
ただ、みんな人間の姿のままだったから、まだ良かった。
ジゼルは静かに移動すると、レンにもお茶を用意する。
目の前に置かれたティーカップに、ハッとしたレンは、「あ、すみませんっ!」とジゼルにお礼を言う。
それから、私達に向かって質問を投げかけた。
「あの、ここは一体どこなんでしょう? こんな時間に、カルロス先生やみんなで何をしているのですか?」
それは至極当然の疑問だ。
品の良い装飾品や備え付けられた高級家具。明るい室内は、王宮に引けを取らない。
魔王城といったら、いかにも薄暗く殺風景で寒々しい城を想像してしまう。そう、要塞みたいなのをね。
だから、ここが魔王城だと、レンは思ってもいなさそうだ。
「すまない、レン。こんな風に君を呼ぶつもりはなかった」と、通常運転に戻ったノアは謝る。
「……魔法ですか?」
無意識に尋ねてしまったレンは、慌てて口を押さえる。盗聴されている事を思い出したのか、確認するように自分の左腕を見た。いや、見たつもりだった。
「……えっ!? ええぇぇぇっ!!」
鳩が豆鉄砲を食ったように驚く。
そりゃそうだ。
自分の片方の腕が無い……なんて信じられない事が起こっているのだから。見ているだけの私だってビックリよ。
「驚くことはない。あの魔道具つきの腕は、其方の部屋に残してある」
カルロス姿であっても、口調は魔王に戻っている。驚くなっていう方が無理だろう。
「は? ……残して?」
「大丈夫ですよ、レン。腕は無事です。今、この場所が異空間になっていて、腕とは別々の次元で存在しているだけなので。つまり、見えていないだけで、繋がってはいるのです。痛みもないでしょう?」
「た、確かに、痛くない……。それって、空間収納の中に、腕以外が入っているような感じってことか?」
「まあ、そうです」と、ノア。
戸惑いつつも、必死で理解しようと頭を使うレン。見えていないが、腕があるはずの場所を反対の手で触ろうとする。
けれど、レンの右手はスカスカと空を切るだけだ。
「……これって、カルロス先生の仕業ですか!? 説明してください!」
レンは表情を強張らせながらも、カルロスを見据えた。
「そうだ、私がやった。……面倒だったからな。其方の目的はなんだ? アリス達は何を企んでる?」
えっ、質問の答えが面倒って……。更に質問を被せているし。
思わず、ノアを見てしまう。『いいの?』と、声を出さずに口をパクパクさせると、ノアは諦め顔で首を横に振った。
「面倒って、意味が解りません。こんな魔法は、高位魔術師でもないかぎり、普通使えませんよね? カルロス先生は何者ですか? 答えてもらえなければ、僕は何も喋りません」
「……ふむ。私は魔王だ」
あ、言っちゃった。
「は? 何の冗談ですか! 魔王が保健医とかあり得ないでしょう。みんなして、揶揄っているのですか!」と、レンはぐるっと私たちを見渡し睨んだ。
「……ならば」
とカルロスは言うと同時に、保健医姿から魔王の姿に戻る。レンは、驚きのあまり目を見開いた。
「私は魔王で、此処は魔王城だ。他に質問は?」
カルロス姿よりも、さらにパワーアップした美貌に宝石の様な魔眼。人ではないと一目でわかる。
レンは動揺しつつ魔王を凝視した。
「もし……。本当に、ここが魔王城だと言うのなら、他のみんなは魔族なのですか?」
胡乱げに言うレン。
「ノア、ロラン、キーランはな。ベアトリーチェとジゼルは人間だ」
ゴクリと唾を呑んだレンは、私達を見た。
「魔王が言っているのは事実です。レン様が魔王や魔族について、どう聞いているのかは知りませんが……。決して、彼らは悪ではありません。お互いに領域を侵さなければ、問題は無いのです」
そう言ってノアに目をやれば、レンに向かって頷いてみせる。
「ベアトリーチェ嬢の言う通りです。なぜ実害も無いのに、魔王討伐をしようと考えているのか理解し難いです。勇者レン、よく聞いてください。魔王にかかれば、この世界など――即消滅できるのです。我々は、人間界を必要としていませんからね。ですから、無用な争いは無意味です」
「……だったら、なんで勇者なんて召喚したんだ?」
「我々もそれを知りたいのです。彼らにとって、勇者は捨て駒でしょう。貴方の腕に嵌められた、魔道具を見れば分かります。レンの実力では、残念ながら魔王どころか、私達にも傷すら付けられないでしょう」
ノアの言葉にレンは驚く。
「あの魔道具のこと……知っていたのか?」と、消え入りそうな声で言った。
「はい。盗聴だけでなく、あれに頼り続ければ、筋力は衰え、魔道具無しでは歩けなくなります。それに――魔道具に使われた魔石の魔力は、永遠ではありません」
いくら素晴らしい魔石でも、魔王と戦えば直ぐに消費しきってしまうとノアは言う。空っぽになれば、いつかの魔石のように、粉々に砕け散ってしまうだろう。
「捨て駒か……やっぱりな」
あまり驚いていないレンは、自分の役割を予期していたのだろうか。
「他に質問は?」と、魔王は言った。
俯いていたレンは顔を上げ、魔王と私を交互に見てから口を開く。
「カルロス先生……いいえ、魔王。あなたとベアトリーチェ嬢の関係は何なのですか?」
その質問に、魔王は初めてレンに美しい笑顔を見せて、こう言った。
「私とビーチェは、大切なパートナーだ」と。
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