表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/114

42.解せません

「ビーチェ……私を褒めて癒せ」


 白衣姿で目の前に座るカルロスは、不機嫌そうに言った。

 

 ――はい? 今なんて?


 昼休みになり、私は一人で保健室へ来ていた。

 キーランは用事が出来たらしく、ノアに呼ばれて行ってしまった。

 いつもは、ジゼルか魔族の誰かしらが一緒なので、こうして二人きりになるのは、剣術大会の準備日以来だ。


「あの……ちょっと理解に苦しむのですが」

「……あの女を消滅させなかった私を褒めろ」

「消滅?」


 あの女とは、アリスを指しているのだろうか?


「……そうだ。少々確認したい事があったから、ノアに言われた通りに声をかけた。すると、どうだ。私に触れようと執拗に近付くではないか」


 表情の抜け落ちた魔王は、心底アリスを嫌悪しているみたいだ。

 窓から見たあれは、離れようとしたカルロスに、アリスが付きまとっていただけだったのか。だからって、消滅とは……やはりカルロスは魔王なのだ。


 が!

 それで、私に癒せとは解せない。完全なるとばっちり、勘弁願いたい。


 何故だか知らないが、私に魔力を流すと魔王が癒されると言うのだ。だから治療が終わった後も、時々それに付き合っている。

 まあ、私の中には魔王の魔力が流れているから、魔王自身の魔力の循環を促す――的なものなのかもしれない。

 きっと、長く眠っていた魔王には必要なことなのだと、無理矢理自分を納得させているけど。


「……来い」と、魔王は私に向かって腕を広げた。


 いや、ここ保健室ですからね。

 そうでなくても、さすがにそれは無理。

 だいたい……いつもは手を繋ぐだけでしょうが!


 ハプニングで抱きしめられた事はあっても、自分からは絶対に行けない。心臓持たないし。

 とはいえ、無下に断ってまた異空間を用意されたり、魔法で足を掬われても困る……精神的に。


「カルロス先生、ここは学園なので」と、広げた片手を取り、そっと握りしめてにっこり笑いかける。


 そう。これだって、私には精一杯なんですよ。

 遮音結界で会話は漏れなくとも、誰かに見られでもしたら大変だ。


 カルロスは小さく溜息を吐くと、握った私の手をジッと眺めた。


「仕方ない、我慢をしよう」


 と色っぽい笑顔を見せ、そのまま私の手を引き唇を落とした。


 ――なっ!!?


 突然の柔らかい感触に息ができない。

 一瞬で自分がカッと熱くなるのが分かった。たぶん、顔も耳も真っ赤になっているだろう。


 私から少しだけ離れたカルロスは、クッと楽しそうに目を細めた。


「ビーチェ、首まで赤いぞ」


 握っていない反対の手で、肩に掛かっている私の髪をサラリと払い、そのまま首に触れたかと思うと親指が耳の裏を撫でる。


 ひ、ひゃあぁぁぁぁ……!?


 ひんやり冷たい手で触れられたのに、却って熱を帯びている気がする。


「……ビーチェ」


 時が止まったように、私を見つめる魔王の瞳から目が逸らせない。


「お待たせしましたぁー!!」と、勢いよく保健室の扉が開いた。


 ――ハッとして、慌ててカルロスから離れる。


 よ、……良かった。


 ナイスなタイミングでキーランが来てくれた事に、胸を撫で下ろす。


「あっれぇ〜? またイチャイチャしてた?」


 悪戯っ子みたいに言ったキーラン。

 返答に困っていると、キーランは何かを感じたのかチラッと窓に目をやった。

 もしかして……窓の外には誰かがいたのかもしれない。


 さっきの……見られてないよね?

 一抹の不安とともに、唇の感触を思い出すとまた胸がドキドキしてくる。



 ――そして、肝心なことを訊けないまま、昼休みの終わりを告げる鐘が鳴った。



 ◇◇◇◇◇



 授業が終わり、今日はこのまま寮に戻るつもりだった。なのに――。


 うーん。どうしたものか。


 教室を出て暫く行くと、誰かに跡をつけられている事に気がついた。

 しかも、相手は気配を消している。只者ではなさそうだ。学園内なら物騒なことは起こさないだろうが、それでも気分は良くない。

 

 歩きながら考える。


 ミレーヌの可能性は無い。

 確か今日は、オレリアとミレーヌで一緒にお茶をする約束していた。さっきも、二人で帰り支度をしていたので間違いない。


 でも、まぁ折角だ。

 このまま、人気のない場所まで誘導してみて、顔を拝んでおこう。最悪……気絶させて、キーランに頼んでその記憶を消してもらえば問題ない。

 

 いつもの園庭を抜け、更に奥まで行ってみる。この辺りは、背の高い植木が多く隠れやすいだろう。

 油断していると思わせるように、足を止めて咲いている可愛い花を愛でてみる。


 さて、どう出て来るかしら?


 カサッ――と、背後で音がした。


 次の瞬間、私の肩にむけて手が伸ばされる。

 少しだけ膝を落とし相手の腕を捻り上げ、懐に入るとそのまま投げ飛ばした。

「……ベ」と聞こえた気がするが、身体はもう動いてしまっていたのだ。

 

 ――ドスンッ!


「え?」


 投げ飛ばした相手を見て、思いきり後悔した。


「……っ。あ、痛たたた……」


 しこたま背中を地面に打ちつけ、痛そうに顔を顰めているのは、見覚えあるプリン頭の義兄だった。


「ま、まあ! レン様、大丈夫ですかっ!?」


 慌ててしゃがむと、レンに手を貸し起こす。

 勇者を投げ飛ばすなんて、普通の公爵令嬢のする事ではない。

 どう誤魔化すか、頭はフル回転中だ。取り敢えず、謝りつつ護身術を習っていたと説明しなくては。尾行した理由を聞くのはそれからだ。


「申し訳ございません……私、護」と、言いかけるとレンに手で口を塞がれた。

 レンは、もう一方の手で自分の口に人差し指を立てると、シーッとジェスチャーする。

 

 えっ?

 

「ベアトリーチェ嬢、すみません! 前をよく見ていなかったもので。お怪我はありませんでしたか?」


 唐突に、レンは謝りだした。

 なぜ謝罪されているのか、ちんぷんかんぷんで首を傾げる。


 するとレンは、自分の持ち物からノートとペンを取り出して筆談を始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 甘~い。これでもカルロスとしてはだいぶ手加減しているんでしょうけどね (笑。何にせよ、「魔王と聖女の禁断の恋」が始まったわけではないどころかカルロスがアリスを心底嫌悪していることがベアトリー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ