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41.胸がざわざわ?

 休みが明けると――。


 勇者たちは予想通り、すっかり学園のヒーローになっていた。やはり剣術大会の影響は凄まじく、知らない者はいなさそうだ。


 それは、いつか見た光景とよく似ていた。

 噴水の前に立つのは、勇者と聖女と王子の三人だけど。周りには、人集りが出来ていた。

 人に見られることに慣れているエルネストとは違い、その隣で戸惑いの顔のレンには少々同情する。

 アリスは……何ともまぁ嬉しそうだ。


 これでは下手に近づかない方がいいわね、うん。


 レンに協力すると言ったものの、人目を避けて会話するのはより難しくなっていた。とてもじゃないが、暫くはまめに相談とはいかないだろう。

 タイミングを見計らって、聖剣についての話を聞きたいけれど……盗聴を知ってしまった今、安易な接触は控えたい。


 人集りを横目に離れると、そのまま朝の健康観察のために、保健室へ向かうことにした。


 歩きながらも、レン――というか、聖剣擬きのことが頭から離れない。


 レンは手に入れた聖剣を、何処に保管しているのだろうか。

 もし、盗まれでもしたら……いやそれは、無いか。 魔族か闇属性の者しか触れられないなら、盗むのは到底無理だろう。今の時代に、闇属性を持つ者は希少らしいから。

 レンが自室に置いているのか、将又(はたまた)あの宮廷魔術師が管理しているのか――。



「あの魔道具の中じゃない?」


 途中から合流して、一緒に保健室までやって来たキーランは、私の疑問を聞くなりそう言った。保健室には今日もまた、遮音結界が張られている。


 けれど、今朝はまだカルロス先生はやって来ていない。


「腕に着けている()()?」


「そっ。あの魔道具、空間収納がついてるんじゃないかな。それだと、いつでも出し入れ可能だからね。あの剣のサイズなら、そこまで容量必要ないしねぇ。あっ、あと。人の視覚に作用して、見た目を変える魔法も付いてたよ〜。この前レンが使ってた」


 キーランは、ちゃっかりカルロスの椅子に座って寛ぎながら話す。


「一つの魔道具に、そんなに沢山の機能って付けられるものなの?」


「うん、出来るよ。その代わり、魔石をいっぱい使うけどね。かなり良いやつ。例えば魔族の核とか、ね」


 キーランの一言で、背中がゾクっとした。


 魔剣といい、その魔道具といい、本当に魔族の核なら、沢山の魔族の血が流れたということだ。高額で購入した鉱物だったらいいけれど……キーランの雰囲気から、たぶん核なのだろう。 

 魔剣はかなり昔に作られたはず。

 いっそ、レンの魔道具も過去に作られた、王家に伝わる家宝的な物であってほしい。


 それにしても、今のレンの魔道具を作ったのは誰なのだろう?

 

「キーランて、魔法も凄いけど魔道具にも詳しいの?」

「ん〜……昔、人間と暮らしたことあるからかな」


 深い意味はなく尋ねただけだったが、えへっと笑ったキーランの顔が一瞬憂いを帯びた気がした。

 キーランはそれに触れられたくないのか、スッと立ち上がると窓辺へ行って外を見る。


「カルロス先生、遅いねぇ。ノアと、どこか寄ってから来るって言ってたけど。んー……授業もあるし、いったん教室に戻る?」


 振り返ったキーランは、いつもの柔らかい表情に戻っている。

 さっきのは……気のせいだったのかしら?


「そうね、遅刻は不味いわ」


 二人で何処へ行ったのかは気になるが。取り敢えず、昼休みにまた来ることにして教室へ戻った。



 ◇◇◇◇◇



「ささ、どうぞ。ベアトリーチェ嬢」


 キーランが、茶目っ気たっぷりに伯爵令息らしく扉を開けてくれる。教室へ入ると、思いのほか雰囲気は落ち着いていた。


 エルネストとレンの傍には、なぜかアリスじゃなくロランが居て、とても楽しそうに話をしている。


 思わずキーランと目配せをした。

 ロランのことだから、きっと再試合をしようとか男同士で盛り上がっているのかもしれない。

「僕、聞いてくるね」と小声で言ったキーランは、ススーッと彼らに近づいて行く。


 廊下に目をやれば、窓から入って来る風に銀髪を靡かせたノアが、姿勢良く歩いて来るのが見えた。

 すれ違う令嬢達の、好意的な視線に目もくれない。そのクールさが、さらに隠れファンを増やすのだろう。


 ギリギリまで、保健室に居るべきだったかしら?

 あのまま保健室で待っていたら、カルロスも到着したかもしれない。

 まあ、どうせ昼休みに行くからいいけどね。


 自席に座り、ふと窓の外を見る。

 綺麗な花が咲いている園庭を歩く、白衣姿のカルロスがいた。とても様になっている。


 ――んんん!?


 目を凝らしてよく見れば、カルロスの斜め後ろ。教室には居なかったアリスが、一緒に歩いている。とっくに、学園には来ていたはずなのに。

 しかも、アリスの伸ばした手は、カルロスの白衣をちょこんと摘んでいた。


 先生に掴まって歩く、嬉しそうな制服姿のヒロイン。まるで、少女マンガの一ページの様な二人の姿。教師と生徒ならぬ、魔王と聖女の禁断の恋が始まった――みたいな。


 チクン。


 今まで感じたことのない感情に、私の胸がざわざわと――……は、しないな。


 魔王はそんなにチョロくないはず。

 絶対に何か裏があるのだろう。遅れて来たのと関係があるのだろうか?

 それにしても。アリスに白衣を掴まれているのを置しているなんて……。不思議だわ。


 結局、二人の姿が見えなくなるまで目で追ってしまった。ま、昼休みにそれも訊いてみよう。




 ――同じ教室の中。


 カルロスとアリスの姿を眺めていた人物が、自分の他にも居たことを、私は後から知ることとなった。

 


 

 

 

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