40.勇者だよね?
「さて、オリヴィエ。どういう事なのか、説明してもらいましょうか?」
レストランの帰り道、馬車の中で問い詰める。
よくよく思い返してみれば、二人の会話はわざとらしくて演技っぽかった。
「姉上を騙すつもりじゃなかったんです。レンに、出来れば学園の外で姉上と話したいと頼まれて……。なんせ急な事でしたし……。姉上に正直に言えば、日を改めてほしいと言われそうで」
オリヴィエはしょんぼりと、上目遣いで見てくる。
「……うっ」
「レンが勇者だって事にも驚きましたが、更に異世界から召喚されたと言うではないですか。その上、レンの妹までも、巻き込まれてしまったと聞いて……居ても立っても居られなかったんです」
「それって、事実なのかしら?」
だって私、召喚に巻き込まれていないし。
「……分かりませんが、レンは真剣でした。ただ、レンを召喚した側の人間に、この話をしていないのが気になります。正直、僕はあの二人を信用できません。レンが来てから、エルネスト殿下は少しだけ変わった気がしますが、アリス嬢は……。レン自身、向こうに信頼できる者が居ないのではないでしょうか?」
手前味噌になってしまうが、私の弟は美少年なだけでなく、ちゃんと人を見る目がある。なんたって、公爵家はオリヴィエが継ぐのだから、そうでなくては困るのだ。
「そうかもしれないけれど……。でも、どうやって探すつもりなのかしら?」
ほぼ、自問自答。
その当人である義理の妹は、転生してここに居るのだから見つかる訳がない。
「これから、まめに相談したいと言っていました。やはり、男では女性の行きそうな場所とかには疎いので。勝手なことをして、すみません。ただ、もしも僕がレンと同じ立場になり、姉上が巻き込まれてしまったらと考えたら……少しでも力になってあげたくて」
顔を赤くしたオリヴィエは、照れ臭そうに俯いた。
……ふぐっ。
お姉ちゃんの心は鷲掴みにされました。
ジゼルを見れば、聖母のような顔でオリヴィエを見ている。これは、どう足掻いても断れないわ……私。
レンとして、私に向かって明るく話す義兄には、まだちょっと慣れないけど。
「分かったわ。私もオリヴィエが巻き込まれたらって考えたら、嫌だもの。出来る限りのことはするわ」
そう言って微笑むと、オリヴィエは心底嬉しそうな顔をする。
――それにしても。
レンは何故、アリス側を信用していないのだろうか?
確かに今までの義兄なら、そう易々と人を信じるタイプではない。面倒ごととか嫌っていたので、勇者になったことを喜ぶとも思えないし。
だとしても、こんな知り合いも居ない異世界だもの。召喚した人達を、普通なら味方だと思うはず。頼るならやはりそっちの方じゃない?
もしくは、信用できない何かがアリス達にあったのか。逆に、私達を選んだ理由は?
オリヴィエの人柄を見て、とか。それならば見る目があるわ。
子供の頃から、義兄はしっかりしていた。引きこもる前は、自由な校風だが県でもトップクラスの進学校に通い、勉強も出来たし、本は何でも読んでいた。
――ん?
小説や漫画で流行っていた、異世界転生や転移という言葉。私ですら知っていたのだ。義兄だったら、知らない筈がない。
ましてや、義兄自身が異世界からの召喚者――こんな信じられない、ファンタジーみたいな世界に巻き込まれた渦中の人なのだ。
前にノアの話では、向こうの世界の小説によって召喚が成功した可能性があると。
つまり、あの小説の近くに義兄は居たってことよね。
あれを読んだ――とか?
私はもう死んでいたし、私の転生を疑っている?
『日向は、小説の悪役令嬢ベアトリーチェに転生したのではないか』そんな風に。
いや……まさか、ね。
ただ義兄に、そうまでして私を探す理由なんてあるのだろうか? 見つけてどうしたいのかが、さっぱり解らない。
うっ……頭が混乱してきたわ。
けれど、これはアリス達の企みと、聖剣擬きの魔剣についても探る絶好の機会だ。そもそも、魔剣をどうやって手に入れたのか。何だか裏がありそうな気がする。
魔王を陥れる為だけの、勇者という名の駒。――そんな予感が拭えない。
あの場にケリーが居たということは、今夜にでも魔王からの招集がかかる気がする。ちょうどいいから、よく相談したい。
「お嬢様、オリヴィエ様、そろそろ到着致します」
考え込んでいた私に、ジゼルは声をかけた。
馬車が止まると、門番がやって来る。いつかの門番の姿はなく、別の人間に代わっていた。
◇◇◇◇◇
予想通り、夜になると窓の外からケリーが迎えにやって来た。
ジゼルの持つ、今日行ったレストランの手土産の箱を見つけると、ケリーは嬉しそうに「ニァ〜オ!」と鳴く。
「ふふっ、あの状況でお預けは辛いわよね。甘いお菓子をたくさん買って来たわよ。さっ、行きましょう」
ケリーは私の腕の中にジャンプすると、直ぐに魔王城へと転移した。
到着すると、柑橘系の良い香りが漂って来る。もうノアが、お茶を用意してくれているみたいだ。
私の腕から飛び降りると、人の姿に戻ったキーランは、ジゼルから箱を受け取りノアに向かって胸を張る。
「ほら〜! ヒナなら絶対あそこのケーキ、買って来てくれるって言ったでしょっ。俺、あの時めちゃくちゃ我慢したんだからね!」
「はいはい。良かったですね、キーラン。美味しいお茶を入れておきましたよ」
キーランをなだめるノアが、何だかお母さんみたいになっている。
「今日のレンとのやり取り、知っていますよね?」
席に着くと、早速訊いてみた。
「大会直後に、こそこそとレンがオリヴィエに接触していましたからね。キーランに探ってもらいました。まさか、妹探しとは思いませんでしたが」と、ノアが答える。
「あの時、その話を受けるように合図したのは」
「もちろん、魔王様だよ〜」
口の中をケーキでいっぱいにし、幸せそうなキーランがモゴモゴと言った。
やはり、気のせいではなかった。
「でも、あの話には矛盾がありましたけど……良かったのですか?」
「ああ。……あんな物を着けられているのだ。何かあるのだろう」
「はい? あんな物って?」
魔王はチラッとノアを見た。
「レンの腕には、かなり高性能の魔道具が嵌められているそうですよ。厄介な、魔法付きだそうです」
「え……厄介?」
「多分ですが、彼の身体能力はその魔道具のお陰でしょうね。いくつかの便利な魔法も付与されている様ですし」
「それのどこが厄介なの?」
「単純に、それだけでしたらね。その他に、居場所や会話が誰かに筒抜けの上、自力では外せない仕様です。長く使い続ければ、魔道具に頼っていた自身の筋力は衰え、やがて立っていることさえ難しくなりますよ」
ひえっ! 何そのハイリスクなアイテムはっ!?
「早く外さないと、不味いんじゃ?」
「まあ、暫くは平気でしょう。彼にも何か考えがありそうですから」
優雅にお茶を飲むノアは、さほど心配していない様子だ。
「外す前に、一戦してみたいな!」と、ロラン。
「一生懸命どうにか自分で外そうとしてたよ。レンも、ヤバい魔道具って気付いてるみたいだから。ま、大丈夫、大丈夫」と、キーラン。
何だか少し、義兄が可哀想になってきた。
お読み下さりありがとうございましたm(__)m
これから、ゆっくりペースで更新させて頂きます。




