39.蓮視点 嘘と真実の狭間
目の前に座る黒髪の美少女は、戸惑いながらも俺の話を聞いてくれた。
可愛いなぁ……。
すまん、アルシェ。別に抜けがけをしている訳じゃないからな……と、心の中で謝っておく。
本当なら、オリヴィエを巻き込むつもりじゃなかった。
――だけど。
俺には時間が無さそうで、背に腹はかえられなかったんだ。
◇◇◇◇◇
剣術大会の少し前。
あの宮廷魔術師バスチアンが、俺にアームレット型のアーティファクトを付けた。
残念なことに、俺にはチート能力が無かった。
やっぱりな……って感じだ。
このまま、何の力を持たないで大会に出場すれば命の危険もあると教えられた。
たかが学校行事で、それはないだろ――と思ったが、せっかく召喚した勇者に何があってはいけないと、心配しているのだと納得した。
だから、素直にそれを腕に嵌めたのだ。念のために。
けれど、そのアーティファクトは想像以上に凄かった。
身体能力向上や、簡単な魔法も付与されていて、戦えば戦うほど、俺の能力は上がっていく。これがゲームだったら、神アイテムに違いない。
こんなのあるなら、勇者必要か?
普通にそう考えた。悪いけど、俺は素直な人間じゃないんだよ。
何だか、あいつらに利用されているんじゃないか――そんな疑問が生まれた。
だってさ、誰にも……そうエルネストにも、このアーティファクトについては秘密にしろと言ったんだ。
エルネストは、仲間で王子だろ?
本当の実力者のクラスメイトのロランなんちゃら。エルネストやオリヴィエだって相当強い。最初から、そいつらにこのアーティファクトを使えば、より有効な気がする。
な・の・に・俺だ。
外してはいけないと言われたが、試しに外そうとしたが、腕に張り付いたかの如く全く動きもしなかった。
……もしかして、GPS的な機能や盗聴機能とかまで付いてたりして? え、怖っ!
そんな疑問を抱えたまま、アーティファクトの力を自分の能力が顕現したと偽って、剣術大会前にエルネストとオリヴィエに練習相手を頼んだ。
間違っても相手を傷つけないように……この力を上手く制御するために。
――そして、大会当日。
まさかの、オリヴィエとロランが事故に巻き込まれてしまった。二人とも無事で、本当に良かったが。
ただ、結果として……。
ズルした俺が優勝したうえ、ヤバい剣を受け取ってしまった。見た目はキラキラして眩いんだけど、手にした瞬間ゾワリとしたんだ。禍々しい――そんな感じを。
突然のアリス嬢の宣言で、魔王討伐が早まりそうな予感がした。そうなると、日向を探せなくなる。
で、申し訳ないがオリヴィエを巻き込んだ。
もしも、物語に転生をするとしたら――。
お決まりパターンは、ヒロインか悪役令嬢。稀にモブキャラ、下手したら性別違い。
時間が無いから、可能性の高い順にあたって行くしかない。
因みに、ヒロインぽい立ち位置のアリス嬢は、絶対に日向ではないと思った。なんか直感だけど。
寧ろ、アルシェの話から……悪役っぽい立ち位置なのにやたらと人間が出来ている、公爵令嬢のベアトリーチェ嬢が気になった。
まぁ正直、可愛いし、話してみたいとは思っていたけどさ。
疑ってかかれば、オリヴィエから聞いた姉自慢の話だって、まるで何かを回避している様に感じたし。
それで、事実と嘘を交えて、ベアトリーチェ嬢に学園以外で会えるチャンスを、オリヴィエに作ってもらったのだ。
魔王討伐で死ぬつもりなんて更々無い。
そこら辺は、これから考えることにして。
妹が召喚に巻き込まれたと言えば、俺が怪しげな行動をしていても、妹探しだと思うだろう。
もし、バスチアンに盗聴されたところで、日向の転生の可能性さえ口にしなければ、何の問題は無いはずだ。
日本人の妹は、どう探しても異世界には居ない。日向の身体は、向こうの世界に残っていたのだから。……もう、墓の中だけど。
まあ、盗聴されていなければ、俺としては助かるが。
日向の邪魔になるようなことは、絶対にしたくないからな。
◇◇◇◇◇
俺の話を聞き終えると――。
「分かりました。……私に出来る事がありましたら、お手伝いさせていただきますわ」
ベアトリーチェ嬢は、何とも言えない表情でそう言った。
これで、ちょこちょこ彼女に接近する理由ができた。思わず、オリヴィエと握手したが……それを見たベアトリーチェ嬢は何かを感じ取ったみたいだ。
本当に勘がいい。
聡明なベアトリーチェ嬢が、日向だったらいいのにな。純粋にそう思った。
食事を終えると、オリヴィエとベアトリーチェ嬢を、部屋の中から見送った。
それにしても。
背後からの鋭い視線に、刺されるんじゃないかとヒヤヒヤした。あの侍女は一体何者なのだろうか?
たぶん、この髪が気になっただけだろうけど……ちょっと怖すぎた。
やはり、この目立つ髪色はどうにかしないとな。
袖を捲り上げてアームレットに触れると、アーティファクトは起動する。
視覚に作用する魔法を使い、周りの人間からは別人に見えるようにしてから、自分も個室を後にした。
そして、本当に誰も居なくなった個室から、「ニャァ〜」と猫の鳴き声だけが響いた。
お読み下さり、ありがとうございました!
次の更新、少し遅れてしまいそうです。申し訳ありません。




