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4.では、また後で

「時間がありませんので、要点だけです」

 

 そう言って、簡潔にノアの話は終了した。

 顔にかかった長い銀髪をサッと払ったノアは、私を見定めるかの様な視線を向ける。


「はい、ざっくりは理解出来ました」


 ノアからの説明を受けて、概ね自分の予想が正解だったと確信できた。


 やはり私は転生者だったのだ。

 

 元の世界で死んだ私は、ケリーの魔法に繋げられた時空の穴から、魂だけ此方の世界へやってきた。

 けれど、まだ転生が完了した訳ではない。

 転生の途中の寄り道……と、言った方がいいだろうか? この世界にやって来た行き場の無い魂は、強制的に転生させられるらしい。

 何かの力によって、ね。

 その時に生じる僅かなインターバルに、この城に導かれたのだ。


「……時間のようだな」


 ノアに言われて、自分を見るとキラキラとした青白い光に包まれ、徐々に透けていく。


「じゃあな、ヒナ様! また、後で」と、人懐っこくケリーは笑う。


「俺たちは、味方だ。必ずまた会える」


 ニカッと白い歯を見せたロランの言葉は、何だか安心感があった。


「ええ、その時まで……」

 

 最後まで言えなかった。 


 この三人は魔族だ。私を利用したいだけかもしれない。そうだとしても、優しい目だったな。

 生きたいと思った私に、差し伸べられた肉球……いや、猫の手か。


 そう、ずっと誰かに助けてほしかった。


 彼等を信じてみよう。決して、ケリーの猫耳と尻尾を触りたいからだけじゃない……。


 これから私は、この物語の中の()()に転生する。

 魔族の彼等に出会ったこと、魔王復活の『鍵』であるなら……誰にに生まれ変わるのかは、薄々わかった。


 そして、再会の時――私が魔王を復活させるのだ。



 ◇◇◇◇◇



 突然、あの日の出来事を思い出した。


 それは、普通なら物心さえまだつかないであろう、一歳の誕生日。ぼやけていた感覚が、霧が晴れるようにくっきり鮮明になっていく。


 私は、ベアトリーチェ・ドルレアン。公爵家の長女だ。

 しかも、前世の望月日向の記憶も持ち合わせている。


 この世界は、日向であった時に読んでいた小説の中――。


 私の役どころは第二王子の婚約者。

 ヒロインを虐める悪役令嬢で、断罪イベントで国外追放されたあげく、賊に襲われる。ボロボロにされ、投げ捨てられた場所に魔王が封印されているのだ。

 最後の命の灯火を使って、ヒロインを呪い魔王を復活させる。復活した凶悪の魔王と、その手下……魔族のロラン、ノア、キーランを筆頭に大量の魔物が生まれ、物語は始まっていく。


 魔王復活を知ったヒロインで聖女のアリス・ミュレー。愛しいエルネスト・ルーフェルブ王子と国の為に命懸けで戦うと誓う。

 王子は、ヒロインを助ける為に勇者を召喚し三人で魔王討伐へ向かう。

 そして、激しい戦いの末に魔王を倒しヒロインは幸せを掴むのだ。


 強く完璧で国民から支持をされている王太子の兄と、繊細ではあるが優秀でずば抜けた頭脳を持った弟に挟まれた、第二王子の心の成長も描かれていた。

 真っ直ぐなヒロインの純愛と、勇者と王子の友情物語。


 ベッタベタの物語だが、現実逃避に最適だった。

 辛い日々を前向きに生きるには、自分よりも頑張って幸せになる物語が……私には救いだったのだ。

 

 ただ、私が転生したのは悪役令嬢ベアトリーチェ。立ち位置としては魔王復活のきっかけ。


 それは確かにそうなのだけど……。


 悪役令嬢って! 断罪とか勘弁だわぁ。

 そもそも『鍵』とは、私の額に現れた痣の事らしい。

 普段、痣は消えている。私が何かを強く念じた時に浮き出てくるのだ。

 これは、魔王自身が付与した目印。これを持つ魂が、魔王の復活を望めば封印は解ける。そうノアは言った。

 私がわざわざ死ぬ必要はないらしい。

 

 けれど――。


 そんな『鍵』にまつわるストーリーは、あの本に書かれていなかった。

 つまりこの世界は、あの物語とは少々異なる様だ。


 だって、転生者としての記憶があるし、最初に出会った魔族の三人は悪者ではなかった。……勘だけど。

 魔王を慕い、魔王城で平和に暮らしたいと言っていた。魔物も、人間さえ領域に踏み込まなければ襲ったりしないのだと。

 

 私自身、悪役令嬢になってヒロインを虐めるなんて絶対に嫌だ。人の悪意とは……私にとって嫌悪でしかない。

 私はずっと、それを向けられていたのだ。

 だからこそ、私は――物語と違ってしまったとしても、絶対にやりたくない。


 敢えて、悪役になる必要ないよね? 

 ここは、最近流行っている小説の、悪役令嬢のフラグ折りかしら?


 ノアが言うには、復活の時は決まっているらしい。

 魔族は人間への転生は出来ないらしく、その時期が来たら、三人は魔法で人間の振りをして、私に会いに来ると言った。

 見た目が違っても、私が判るように名前は変えないでおくと。


 それなら……彼等との再会の日まで、私なりに足掻いてみようかな。


 ふと、ロランのシックスパックを思い出した。

 私はまだ、幼児だ。

 これから、トレーニング次第では()()を手に入れられるかもしれない。


 ムキムキになったら、王子との婚約も敬遠されるかもしれないし。婚約しなければ、断罪も回避できるかも。普通に旅して魔王を探せばいいじゃない。

 せっかく、魔法のある世界に転生したのだ。もしかしたらチート能力とか……。強くなれば、賊に襲われても応戦できる。貞操は自分で守らねばっ。ついでに魔王と勇者の仲裁とかできちゃったりして。

 

 うん! 頑張ろう。

 

 日向としての記憶も残っているし、地道に努力する事や、勉強も運動も嫌いじゃない。

 公爵令嬢としての知識と教養、淑女としてのマナーを身につけ、尚且つ鍛錬をすることが必須ね。


 自分で言うのも何だけど……。

 どうも、このベアトリーチェは日向の時よりも能天気――コホン、ポジティブな思考回路をしているみたいだ。

 まだ一歳だからか、舌が上手く動かず、言葉を発するのもなかなか難しい。取り敢えずの目標は、いつか腹筋を割って、婚約を回避! 

 これで行こうと決めた。



 ◇◇◇◇◇



 ――それから、六年が経ち。


 努力虚しく、腹筋が割れることはなかった。


 そして、悪役令嬢破滅への第一歩……政略結婚の為の、婚約が行われる事態になる。  

 


 


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