38.困りました
――何がどうしてこうなった!?
今日は、久しぶりに姉弟水入らずでショッピング……の筈だったのに。
◇◇◇◇◇
今朝は早くから身支度を整えて、オリヴィエとジゼル、私の三人で馬車に乗って街へとやって来た。
ドレスショップやアクセサリーショップ、オリヴィエの希望で騎士に人気の剣を取り扱っているショップまで次々と見て回った。
その剣のショップでは……
「いつも、ありがとうございます! あ、……今日はお忍びなんですね」と、店主はジゼルにこっそりと話しかけている。
どうやら、ジゼルが剣を買ったのはこの店だった様だ。しかも、頻繁に来ていそうな。
それにしても、お忍び……とは?
今のジゼルの格好がお忍びなら、普段ここへはどんな姿で来ていたのだろうか。何やら店主との会話が盛り上がっているようだが、こっちはオリヴィエにバレないかヒヤヒヤだ。
まあ。
取り敢えず、私もオリヴィエも気に入った品を手に入れたので満足した。
お腹も空いたので、昼食とお目当てのスイーツがあるレストランへと向かった。
珍しく、オリヴィエが店の予約をしてくれていたのだ。しかも、個室を。
店員に案内されて入った部屋の中には、なぜか先客でレンが居た。
店側の間違いかと思ったが、どうやらそうではないらしい。意味が解らないまま着席すれば、テーブルクロスの中にはケリーがちょこんと座っていた。
多分、ケリーはレンの跡をつけやって来たのだろう。
――で、現在。
「ベアトリーチェ嬢、急に僕までご一緒させていただき、すみません! ご迷惑ではなかったですか?」
はい、迷惑です……とは、言えない。
「そんなことありません。勇者様とご一緒できるなんて光栄ですわ」
ニコリと愛想良く返事をする。
内心では、驚きのあまり慌てまくっているが――ボロを出さないように、表情を必死で取り繕う。
私と魔族たちとの繋がりを知られてはいけない。
それと、日向であったことも。
「そんな、勇者様なんて呼ばないでください! 僕自身、びっくりでっ……今まで通り名前でお願いします。なっ、オリヴィエ」と、レンは恐縮して、オリヴィエに同意を求める。
……オリヴィエめ、姉を嵌めたな。
「姉上、レンもこう言ってますし。以前、レンと姉上がお茶会をと言っていたので、丁度良いかと思いまして」
オリヴィエは、私の怒りを込めた視線を受けて苦笑する。
ええ、ええ、言いましたとも!
でもね、覚悟して挑むのと不意打ちでは、心構えが違うのよ。
声を出さずに、心の中で反論した。
テーブル下では、ケリーのふわふわの尻尾が左右に動き、私の足首を撫でる。
このレストラン、ペット同伴不可なのに……。まあ、ケリーはペットじゃないけどね。本当に、個室で良かったわ。
側に控えるジゼルは、背後からレンのプリン頭をガン見している。髪色が興味深いのだろうけど、殺気と勘違いされたらどうするのかしら?
全く……みんな自由だわ。
「レン様は、外出していても大丈夫なのですか? アリス様が、魔王を討伐すると仰ってましたけど、その準備とかでお忙しいのでは?」
「あー、まだ目的地がハッキリしていないそうなんです。それで、時間があるなら、この国を見て回りたいとお願いしました。僕、この世界の人間じゃないんで」
サラッとカミングアウトしたよ、おいっ!
「……えっ!? それは一体……?」
戸惑う演技も大変だわ。
「オリヴィエには、もう話しましたが……実は僕、勇者として異世界から呼ばれてしまいまして」
……知っていますがっ。
「ええっ!? い、異世界ですか? それで、あんなにお強かったのですね……」
「そうみたいです。何故か、どんどん強くなるみたいで。本当にチートってあるんですね。魔王討伐も大切ですが……実は僕には、もう一つ他に目的があるのです」
オリヴィエの前で、チート言うなっ!
私なんて一歳から、腹筋割る為に必死で努力したのよ。
「……他の目的、ですか?」
レンが、何を言いたいのか分からない。首を傾げつつ、聞き返した。
すると突然――。
「ベアトリーチェ嬢! オリヴィエ! お願いがあります!」
レンはガバッと頭を下げ、テーブルに突っ伏した。
思わずオリヴィエと顔を見合わせる。
「レン様……。どういう事ですか?」
勇者からのお願いなんて、警戒するしかない。
「内容を聞かないと返事できないよ」とオリヴィエも言う。
「実は、この世界に……僕の妹が居る筈なんです。どうしても会いたくて。探すのを手伝ってもらえないでしょうか?」
は……い?? 私の耳がおかしくなったのだろうか?
「えぇっ!? レンの妹もこの世界に?」
オリヴィエは目を見開き言う。
私の空耳ではなかったようだ。
「そうなんだっ! どうしても、妹に会いたいんだ。まさか、こんなに早く魔王討伐に行くとは思わなかったんです。もしかしたら、その戦いで僕は死ぬかもしれない。だから、その前に……! 一目でもいいから会って話がしたいんです。駄目……でしょうか?」
懇願するように私達を見詰める瞳は――とても真剣だった。
うん、ちょっと待って。
妹って日向よね? どうして転生した事をレンは知っているの?
まさか、アリス達にも知られているってこと!?
「姉上、僕はレンを手伝ってあげたいです。レンはこの世界の為に戦ってくれるのですから!」と、オリヴィエまで私を見詰めた。
ゔっ……。
でもね、魔王は悪い人じゃないのよ。そう言いたいけど、言えない。ここで断ったら、私は悪魔だわ。
嫌な汗が出てくる。
「この事は、アリス様やエルネスト殿下もご存知なのですか?」
「いいえ……僕を召喚した人達には言っていません。ですから、知っているのは、オリヴィエとベアトリーチェ嬢だけです」
嘘は言ってなさそうだ。
チラリと足元を見ると、ケリーが顔を覗かせた。
ケリーの片目の魔眼……まるで、魔王に見られているような気がする。ケリーは、コクっと頷いた。手伝って構わないと言うみたいに。
「分かりました。……私に出来る事がありましたら、お手伝いさせていただきますわ」
パッと、表情を明るくしたレンとオリヴィエは、グッと握手した。
――ん?
もしかして、これも二人に嵌められたの!?
だけど、これからどうしたらいいの……本当に困ったわ。




