36.報告会
「……あれを、聖剣と呼ぶとはな」
珍しく感情を見せた魔王は、瞳の奥に怒りを滲ませていた。
剣術大会が閉会すると、生徒はその場で解散となった。二日間の休みを与えられ、その間に会場の撤収作業が行われる。
問題のメインステージ崩壊についても調べる筈だが……ジゼルが掴んだ、施工担当者あたりで尻尾を切られるだろう。
どう考えても、そんな証拠を残しておくなんて致命的なミスはしなさそうだ。
それよりも。
この連休中に、閉会式での出来事――勇者の魔王討伐の話が一気に広まるだろう。
「魔王は、あの聖剣について知っていたのですか?」
聞きにくい雰囲気ではあるが、尋ねずにはいられなかった。
ジゼルによって、ティーカップにコポコポと紅茶が注がれる。それを、コクリと飲んで魔王の返答を待つ。
剣術大会終了後、直ぐに魔王城へ集合した。反省会ならぬ……報告会をしているところだ。
「…………知っている」と、魔王。
で、その先は?
思わずグッと身を乗り出てしまう。
「あれは、遥か昔……。混沌の時代の産物ですね。私も本物を見たことはありませんが――違いますか? 我が王よ」と、横からノアが口を出した。
ノアは質問をしているというよりも、自分の中で立てた仮説の、答え合わせをしている様な感じがする。
「混沌の時代って……?」
歴史の教科書にも、図書館でこの世界を調べた時にも、そんな時代は載っていなかった。
「ああ……そこからか……」と、魔王は目を閉じて顎を上げると、椅子の背にもたれかかる。
……美形って、いちいち仕草が様になるわね。
「混沌の時代とは、天界、人間界、魔界が入り交じっていた時代のことだ。この世界の起源に近い。今は、其れを知る者など人間界にはいるまい。……あの剣は、その時代に作られた物だ」
「えっと……そんな大昔の剣が現れるなんて、それだけでも凄いことですよね? しかも、あんなに神々しく光っていましたし」
ゆっくりと私に顔を向けた魔王は、目を細め物凄く嫌そうな顔をした。
えっ、何!?
「あれは、聖なる剣ではない。真逆だ。あれは魔剣であり、刺した相手の魔力を吸うのだ」
「魔剣が……魔力を?」
「つまり、その魔剣に聖なる力が宿っているのならば、聖なる力の持ち主を刺して奪って得たもの――という事です」と、ノアは私にも理解できるように言った。
何それ、怖っ!!
「で、では……天族とか、聖女の様な光属性の者が刺されたのですか?」
「そうだ」と魔王は短く答える。
「刺された人は……?」
「全ての魔力を持って行かれる」
確か、魔力持ちの場合……魔力の枯渇は死に繋がるんじゃ。あ、でも剣で刺された時点でアウトだわ。
「その人は、殺されてしまったのですか?」
「…………さてな」
魔王は言いたくないのか、フイッと顔を背けた。
ノアも黙り込んでしまうし、これ以上は話してくれなさそうだ。
大昔の話だし、その時に助かっていたとしても、今はもう存在しない人なのだろう。
「はい、はーい。じゃっ、次は俺の番ね〜!」
キーランが手を挙げ、明るく沈黙を破った。
あ、そうだ。確かキーランは、ミレーヌ達を追っていた。
「キーラン、進展はありましたか?」と、ノア。
「んー、多分。ヒナが気になってる子爵令嬢のミレーヌ・オスマンだけど、彼女の正体が分かったよ。あの子、宮廷から送られた王族の監視者だね〜」
「ああ、やはりそうでしたか」
……はい?
ノアは勝手に納得しているけれど。
「ちょ、ちょっと待って。監視者って生徒の中にも居るの? それに、ミレーヌは子爵令嬢でしょう?」
「常に、監視者は代わります。教師や施設内の者であったり、生徒の場合も勿論ありますね。かなり、綿密に身元は作り上げられていますから、普通に見破るのは不可能でしょう」
そうか……監視の対象は、もしかしたら国王に成るかもしれない人なのだ。
国王陛下やその側近の、絶対的な信頼を得た者しか、監視者にはなれない。身分だって、国王陛下なら爵位を与えられる。取り潰しになった貴族の領地だって使えるし。
「それなら、ミレーヌって凄くない? 若いのに……完全に信用していたわ」
「さあ……年齢も本当かどうか」
た、確かに。
「それよりも、そんな監視者がなぜ学園内で近衛騎士と接触したかです」
そんな、危ない真似をした理由を知りたいらしい。
「ああ、それね〜。あの近衛騎士団の代表の人、ベアトリーチェ嬢のことを調べていたみたいだよ」
「……え?」
ティーカップを置こうとしたした手が滑り、カチャリと音を立てしまたった。
「それはどういう事ですか?」と、ノアの眉がピクリと上がった。
「あ、敵じゃないと思うよ。ヒナ、小さい頃にあの近衛と会ったんでしょ?」
キーランの問いかけに、ジゼルと顔を見合わせた。
「会ったことはあります。エルネストと初めてお茶会をした時に、護衛としてついて来ていましたから」
「私も、覚えております」
「なんか、それが忘れられないんだってさぁ」
へ……? ま、まさか幼女趣味……?
「えっとぉ、自分の不甲斐なさがどうとか……今の自分があるのはベアトリーチェ嬢のお陰だって。で、ベアトリーチェ嬢、色々あったじゃない。噂を聞いて心配していたらしいよ」
キーラン、話す順序が紛らわしいわ……。
「それで、ミレーヌに? 職権濫用ではないかしら?」
「なんか、二人はもともと知り合いみたい。それでも、エルネストについてはお互い全く触れてなかったよ。あくまで、ベアトリーチェ嬢の話だけだったよ」
心配してくれるのは有り難いけれど、私まで勝手に監視されたくないわ。――正直、これ以上私を調べられては不味いわね。




