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33.何かが起こる予感

 ――歓声と共に、開会式が始まった。


 開会宣言の後は、学園長の挨拶だ。テンポ良く式次第の通りに進行していく。来賓紹介が終わると、在学中の王族であるエルネストの選手宣誓。

 選手も応援席も盛り上がっている。


 学園祭の時とはまた違った熱気で溢れていた。


「魔術師団と近衛騎士団の代表って、あの人達だったのね」


 隣りに座っているキーランに向かって、小さく呟く。


 救護テントの前に簡易的に設置された席から、開会式を眺めていた。

 魔術師団代表は、アリスの魔力測定にわざわざやって来た宮廷魔術師だった。やはり、魔術師団の中でも重鎮だろうとの予想は当たっていたのだ。


 そして、近衛騎士団代表はカルロスの魔眼で見たばかりの、あの近衛騎士だった。お茶会の時から、正義感は強そうだと思っていたけれど……まだ若そうなのに、随分と出世したものだ。


 開会式が終わると、競技がスタートした。



 ◇◇◇◇◇

 


 つ、疲れた……。


 怪我人は大して出ないだろうなんて、誰が言ったのかしら?


 予測に反して、救護テントはごった返していた。


 そんな擦り傷で救護室へ来るのか……ってレベルの生徒が多くてビックリする。

 追い出すわけにもいかないので、取り敢えずカルロスが軽く診断して、私とキーランで薬を塗る、完全な流れ作業になっていた。


 そんな雑な感じなのに、終わるとみんな嬉しそうにニコニコして出て行くのだ。


 何なんだ、これ?


 首を傾げながらも時間は過ぎて、漸く前半が終了し休憩時間となった。


「ちょっと、足りないやつ補充してくるね〜」と、全く疲れを見せないキーランは、軽やかにテントを出て行く。


「……疲れましたね」


 カルロスに声を掛けると、楽しそうに私を見て言う。


「なかなか面白かった。……後半も楽しみだ」と。


 魔族って、みんなタフなのかしら?


「失礼します」とノアが入ってきた。


「後半のトーナメントが発表されました。とても、面倒な事が起きそうですよ」


 不安要素を含んだ言い回しなのに、ノアの表情はいつもと変わらずクールなままで、淡々としている。


「暫く私がこちらにいますので、ベアトリーチェ嬢は休憩されてはどうですか?」


 ちょうど喉も渇いていたので、ノアからの提案に甘えることにした。


「そうね、ちょっと行ってきます。折角だから、トーナメント表も見てきますね」


 テントを出て、周囲に誰もいないのを確認すると、グーッと伸びをした。

 別に、身体が疲れているわけではないが、常に人と接していたせいで気疲れしたのだ。ずっと口角を上げていたので、グリグリとコリをほぐすように頬を揉む。


 ――ん? あれは……。


 ケリーの尻尾がチラリと見えた。

 どうして猫の姿で走っているのだろうか。キーランが補充の為に向かった保健室は反対だ。気になる。

 思わず、気配消して後を追ってしまった。


 ケリーは、誰かを尾行していた。


 一定の距離を取りつつケリーを追って行くと、学園の生徒でも滅多に行かない奥の方までやって来ていた。人けも無ければ、植木もあまり手を入れられてない、塀ギリギリの場所。幸い、身を隠すにはもってこいだ。

 目を凝らして、ケリーが見ている人物を見た。


 あれは……。

 

 そこには男女が居た。それも、見覚えのある二人だった。

 男の方は、来賓で来ていたあの近衛騎士。

 女の方はこの学園の生徒で、自分がよく知っている友人の一人。クラブ活動の勧誘の時に、尽力してくれた――子爵令嬢ミレーヌ・オスマンだった。

 

 何で、あの二人が一緒に?


 逢い引きという感じではない。

 何故なら、近衛騎士の前に居るミレーヌは、制服姿にも関わらず片膝をついた姿勢だったからだ。

 そう、あれは上司と部下……。


 知らず知らずのうちに、私はスカートをギュッと握っていた。


 ほんの数分で話が済んだらしい二人は、直ぐにその場を去った。

 そして、ケリーもまた追って行く。時間的に、あの二人は会場へ戻ったのだろう。 

 私は混乱し、これ以上追うことが出来なかった。


「よいしょ……と」


 植木の間から這い出ると、制服に付いた葉っぱを払う。頭を整理しつ、会場へ向かってゆっくりと歩き出す。


 ケリーが尾行していたなら、それはきっとノアの指示だろう。さっきノアが言った「面倒な事」が、今の二人に関係あるのかは、まだ分からない。

 

 ま、悩んだって仕方ない。キーランの報告待ちね。


 

 ◇◇◇◇◇



 飲み物のことをすっかり忘れ、トーナメント表の確認だけすると救護テントへ戻った。


「お帰り〜、ベアトリーチェ嬢。はい、どーぞ」


 先にテントに帰ってきていたキーランが、冷たいジュースを渡してくれた。


「えっ!?」

「さっきので、休憩しそびれちゃったんでしょ?」 


「あ……バレていたの?」


「僕がベアトリーチェ嬢の気配、分からない筈ないでしょっ。あっちの二人は、全く気付いてないから大丈夫だよ」


 ニコッとキーランは私を見た。


 ――パンパンッ! とノアが手を鳴らす。


「さあ、楽しい休憩は終わりです。後半の試合ですが……ロランが怪我をしますので、カルロス先生よろしくお願いしますね」

 

 とんでもない事を、ノアはさらりと言った。

 

 ――な、なんでロランがっ!?


 飲んでいたジュースが気管に入り、ゴホゴホとむせてしまう。

 そして思い出した。

 確か小説では、この剣術大会で優勝した勇者は、魔王を倒すための剣を手にいれるのだ。


 私のバカタレっ! 


 勇者が義兄だった事や、ここが小説の中じゃないと知り――ストーリーの流れや出来事を、すっかり忘れていたのだ。



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