29.蓮視点 過去と現在
お読み下さり、ありがとうございます。
ストレス要素有りです。
すみませんm(__)m
――転移前。
まさかあんな事が起こるとは、想像もしていなかった。
もともと、母には強い執着癖があるのは知っていた。
離婚した父に、日々行っていたストーキング。
母の幼馴染だった義父は、そんな母の行為を知りながらも結婚し、諭し続け守ろうとしていた。
母がいつか正気を取り戻した時、近所から変な目で見られないよう、周囲にも気を使いながら。
だから、まだ小さかった俺は……義父に任せて見ないふりをしたのだ。
――そんな、ある日。
義理の妹が出来た。
日向は両親を事故で亡くし、他に身寄りが無くこの家へやってきた。
義父は責任感が強いせいもあるが。彼女が来る事で、この家に新しい風が入るのを期待したのかもしれない。
母は、子供が好きだ。
けれど、俺は甘えるのが上手く出来なかったから。
日向は女の子だし、母に懐いてくれたらいいなと思った。
母は、素直で明るい日向を可愛がった。
日向も母に懐き、まるで本当の母と娘の様になっていったのだ。そのお陰か、父への執着も薄れて行ったかのように見えた。
――だが。
それは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。
ニコニコと元気な日向は、やはり周りからも好かれていた。日に日に可愛くなる妹は、近所でも評判になり褒められることが増えていったのだ。
その結果――母の執着は、日向に向いてしまった。
捩れた愛情は嫉妬に変わる。義父と俺で止めたが、逆に加速して行った。日向は、母の異常性に気づくと避けるようになっていく。
すると、父へのストーキングもまた始まってしまった。事情を知らない日向は、母の浮気を疑っていたみたいだが。
けれど、俺は子供で……。言い争いの末に、母から逃げた。家族を遮断し、極力部屋から出るのをやめた。
そして、反抗期だからと自分に言い訳し、何かを変えたくて髪を染めた。
◇◇◇
日向は中学卒業後に、この家を出る選択をしたようだ。
義父も、日向がこれ以上この家に居るのは良くないと思っていたから、賛成した。勿論、母には秘密にしていたが。
けれど、母は隠してあった日向の合格通知を見つけてしまったのだ。地元の公立高校の他に、遠く離れた全寮制の高校のものを。
日向の卒業式の日、開けっ放しだった親の寝室。
義父は、仕事で不参加のはず。
何気なく通り過ぎようとしたが、母のクローゼットから不自然な段ボールが見えた。保護者として粧し込むのに忙しく、片付け忘れたのかもしれない。
ただ、何となく気になり、箱の中身を見てしまった。
見覚えのある、日向が使っていた小物の数々。無残にも、細かく切り刻まれた高校の合格通知書。
そして、妹の写真にはハサミが突き立てられていたのだ。
信じられなかった。ヒヤリと背中が寒くなる。
時計を見れば、卒業式はもう終わっている時間なのに、だれも帰ってきていない。
慌てて家を飛び出す。
嫌な予感を拭い去るように必死で走った。運動不足の足はもつれそうになるが、止まらず進んだ。
すると、歩道橋の上に日向が見えた。
声を張り、精一杯呼びかける。とにかく、日向に合流しなければ。母から守らなければいけないと思ったのに。
――遅かったのだ。
日向は、歩道橋の上から突き落とされた。
スローモーションみたいに落ちる日向が、光に包まれ……一瞬、止まったかのように見えた。
けれど、次の瞬間には、日向は階段から転がり落ちていた。
◇◇◇
あれから、どのくらい経ったのだろうか。
もう涙も出なくなった。
今日、義父は……捕まって専用の病院へ入れられた、母の面会に向かった。
部屋に閉じこもるのをやめた俺は、今は日向の遺品の整理をしている。
母がした事と、逃げてしまった自分が許せなかった。
引き籠ってからは、ろくにコミュニケーションもとれていなかったが、それでも日向は……初めて出来た可愛い妹だったのだ。
「一言だけでいいから、謝りたかった……」
ボソっと独り言を漏らす。
次の瞬間、手元の本が宙に浮き――ピカッと光った。
部屋の中で信じられない事が起こっている。
俺の足元には、まるでアニメにでも出てきそうな魔法陣が現れ……強烈な光を放っていた。
眩しさで目が眩む。
やっと目を開けられるようになると、見たこともない人達に囲まれていた。
黒っぽい魔術師みたいなローブを被った男が数人。
金髪碧眼で派手な服装の王子様みたいなやつ。その隣には、いかにもヒロイン風の女の子が立っていた。
「勇者様! ようこそ、おいでくださいました!」
ローブを被った中でも、格上そうな男は俺に向かって声高にそう言った。
勇者、だと? は……うそだろ、おいっ!
返事も出来ずに戸惑っていたら、ピンクの髪を揺らしヒロイン風の女の子が近づいてきた。
「勇者様、私たちと一緒に魔王を倒しましょっ」
コテリと首を傾け、上目使いでそう言うと俺の手を握った。
何だろう……。
可愛いけど言葉が軽い感じがした。
それにしても――異世界転移なんて、有り得ねえだろっ!?
◇◇◇◇◇
あれから、自分を召喚したのは、この国の第二王子と聖女、そして宮廷魔術師団だと教えられた。
そして、現在――。
国についての知識をつけることや、使ったこともない剣の扱いを習うため、無理やり王立学園に入れられてしまう有様だ。
魔王討伐とか、無いなぁ。
特殊な力も備わって無さそうなのに、どうしろってんだ。俺、ただの引きこもりだよ。百歩譲って、新しい人物になれる転生ならよかったのに。
――だけど、何で俺なんだ?
ラノベやアニメで鍛えた脳みそを駆使して考えると、一つの仮説が生まれた。
ここは、日向の持っていた本の中なんじゃないかと。
あの本は、日向が歩道橋から落ちた時に一緒に転がっていた物だ。
もし、あの時見た――時が止まったかの様な光景が、現実だったら?
「日向は……死んだ。そして、本から現れた転移陣に、俺は連れて来られた」
可能性だが、日向はこの世界に居るんじゃないか?
それも、俺とは違い、転移ではなく転生者として。
――決めたぞっ!
俺は、この世界で日向を探す。会ってどうするかなんて、分からない。
もし、前世の記憶があったなら、罵られても刺されても構わない。憶えてないなら、見守るだけに止めよう。
そうだ、これは俺のただのエゴ。
けど、どの世界でもいい、日向が……妹が幸せになってくれるのなら。
魔王討伐は……うん、出来たらやろう。
会ったばかりの人間を信じるほど、俺は優しい人間じゃない。正義の味方も、俺にはハードルが高くて無理だ。
取り敢えず、適当に友人を増やして情報収集をしよう。で、自分の目で確かめて行けばいいのだから。
――そう決意した、数日後。
学園の庭、植木の間で昼寝していた男子生徒アルシェと友人になった。




