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3.もしかしてファンタジー

 ――『鍵』って、なんだろう?


 漠然とした疑問。

 意識が戻った時には、そこはもう歩道橋ではなかった。


「ね、ね、姫様〜。ね〜え、そろそろ起きてよぉ〜!」

 

 焦れったそうな独り言。

 それは、さっきの声だった。

 ボーっとしながら、声のする方へ顔だけを向けた。

 柔らかいベッドの端の向こう側、ピクピクしている猫の耳が見える。


 ……猫だ。猫が居る。


 もともと動物は好きだったが、その中でも特に猫は大好きなのだ。飼ったことはないけどね。


 感情が露わになる耳の動きと、シッポの動き。ぷにぷにの肉球にずっと触ってみたかった。

 それが目の前にあるのだから、触りたい衝動に駆られるのは仕方ないことだ。


 ウズウズする手が止まらない。

 シャーっとされるかもしれないが……小刻みに動いている猫耳に、そっと指先を伸ばした。


 ――つん。


 触れた途端に耳は後ろに伏せ、ポンっとその猫は飛び上がった。

 

「姫様、起きたぁぁぁぁ!!」


 ……ひいぃっ!? 猫じゃない!


 猫だと思ったそれは、言葉を喋る……猫耳をした人間だった。 


 ポカンとしている私の顔を、嬉しそうに覗き込む。

 よくよく見たら、綺麗なオッドアイの瞳の男の子だった。

 どうやら、ベッドの脇にしゃがみ込んで、マットレスに額をくっつけていたらしい。オデコが赤くなっている。


「……あなた、誰?」


 やっと、言葉を出せた。

 けれど、透き通る様なその声は……聞き慣れないもので、自分の耳を疑った。


「俺のことは、ケリーって呼んでもいいぞっ」


 十歳くらいの赤茶髪の猫耳少年は、大きな瞳を輝かせてドヤ顔で言った。


 一瞬、妖怪かとも思ったけれど……部屋の装飾や少年の衣服を見ると西洋風で、まるでファンタジー小説みたいだった。それも、最近読んだばかりの小説の描写にそっくりの。


 だとしたら、この少年は獣人か魔物……。


 さも、名前を呼ばれるのを待っているかのように、私を見詰め、長く毛並みの良い尻尾はしなやかに揺れる。

 これって、呼ばなきゃ悪いわよね……。


「……ケリー?」

 

 パッと表情が明るくなる。


「なんだ、姫様!」

「あー、えっと……姫様って誰のこと?」


 明らかに、私を指しているのだと思うが、確認の為に聞いてみた。


「は? 姫様は姫様だろ?」


 意味不明。


「私は、望月日向。……ヒナタよ」


 一応、ちゃんと名乗ってみた。


「おー、姫様はヒナタか! じゃあ、ヒナ様だ!」


 ぶははっと、楽しそうに笑った。


「あの……ケリー、ここはどこ? 他に誰か居るの?」

 

 埒があかないから、他の質問をした。

 

「ここは魔王城だ! 他の奴は()()少ないけど、本当はいっぱい居るんだぞ。鍵の姫様きたから、すぐ仲間も増えるし。けど、今この城に居るのは俺を含めて三人だ!」


 ……魔王城?


 うーむ、突っ込みどころ満載だ。

 

 そもそも、私はただの中学生……卒業はしたけどね。

 姫様と呼ばれるような存在ではない。

 華奢で色白の腕、胸まであるロングの黒髪は艶々で、自分が別人になったとしか考えられない。


 まさかの、転生?


 いや、そんなのは小説や漫画の中だけと思う。きっと、私は歩道橋から落ちた怪我で、病院のベッドで寝ているのだ。……だから、これは夢だ。


「それにしても、人間の体は弱っちいなぁ。ヒナ様の使っていた体は、あっさり首と背骨がポッキリいっちゃってたぞ」 

「……ポッキリ」


 かわいい表現だけど、全くかわいくない話だ。

 あのコンクリートの高い階段を、後ろ向きに落ちたのだ。首と背中を打ったなら……果たして私は生きているのだろうか?


「夢……よね?」


 心の声が漏れてしまった。


「夢じゃないぞぉ! ヒナ様は他の世界で死んだんだ。けど、ヒナ様は鍵だから俺がちゃんと道を繋げたんだぞ。だから、今は生きている!」

 

 自分は国語とか得意だったし、相手の言いたいことは、すんなり理解できる方だと思っていたが……。

 だめだ、この子が言いたいことが分からない。


「くおらぁぁ!! キーラン! 姫が目醒めたら呼べと言っただろうがぁ」


 突然の叱責に、ケリーはビクッと縮こまる。


 バタンッと開いた扉から、筋骨隆々のダークブラウンの髪をしたイケメンが勢いよく入ってきた。

 

「あ、ロラン……今から呼ぶつもりだったんだよぉ」

 

 耳を後ろに伏せたまま、言い訳するケリー。どうやら、キーランが名前でケリーは愛称らしい。


 それにしても、ロランと呼ばれた人は何で上半身裸なのだろうか? シックスパックの腹筋、初めて見た。


 ……いいな、腹筋。私も割りたい。


 そっと、自分のペタンコのウエストに手を当てる。


「すまん、姫様。俺たちは説明が下手だ。今すぐノアを呼んで来る。詳しい話はノアがするから少し待っていてくれ」


 急にこっちに話しかけられハッとする。


 疑問はそのままに、ロランは踵を返しもう一人を呼びに行った。

 後からやって来たノアは、ロランと同じ位に背は高いが厳つさは無く、整った顔立ちのせいか冷たそうな感じのする銀髪の超イケメンだった。


 ロランにキーラン、そしてノア。

 あ……この三人て、完全にあの小説だ。


 信じられない事だけど。

 ノアの説明を聞く前に、自分が小説の中へと転生か転移したのだと、それだけは理解できた。


 ――だとしたら。

 主要の登場人物は、あと四人いる。



 


 

 

 



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