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28.説明します

 ……ええっと。この状況は?


 私は今、明らかに人間に扮した魔王の腕の中にいる。恥ずかしいとか、そんな場合ではない。何故か、足には力が入らないのだ。


「だっ、大丈夫ですか!?」


 慌てるレンに、教室から出て来たばかりのクラスメイトも心配そうだ。

「いや、大丈夫です」と、言いたいが言えない。


「ベアトリーチェさんは、このまま保健室へ連れて行きますので。皆さん、心配はいりません」


 それだけ言うと、ヒョイッと私をお姫様抱っこした。

 魔王がスラスラと喋っているのにも驚きだが、人間になっても恐ろしくイケメンな魔王の顔が近くて戸惑ってしまう。 

 そして、またしてもあの笑顔を見せた。


 ……くっ! 効果音が入るなら、ズキューンってやつだ。

 

「ベアトリーチェ様っ!」と、教室から見ていたアリスが駆け寄って来た。


 ――ん?


「先生、私……ベアトリーチェ様が心配なので、保健室にご一緒しますっ」


 瞳を潤ませているが、その瞳に映っているのは私ではなく……魔王だ。まさかと思うが、魔王の美貌にやられたのか? 

 無節操すぎやしないか、聖女よ。斜め後ろには、婚約者のエルネストが居るのに。ほら、王子の顔色が悪い。


「それでは、キーランに付き添いをお願いしましょう。キーランは保健委員ですからね。よろしいですか?」と、有無を言わせないノアの一言が廊下に響いた。


 いつから、保健委員なんて出来たのだろうか?

 あー……、今朝か。ノアが遅れて来た理由はこれだ。


「はーい! カルロス先生、お供しまっす。ベアトリーチェ嬢も、いいですか?」


 キーランは、その場を和ますように笑顔で言った。


「キーラン様、付き添いよろしくお願いします」と、こちらも微笑みで応える。


 魔王は、頷くとアリスに見向きもせずに歩き出す。

 背後からは心配そうな視線だけではなく、嫉妬まじりの負の感情を感じる。

 それを放っているのがアリスだと、見なくても分かった。

 

 見た目だけで魔王に惚れるとか……。この顔だし、理解できなくもないが。今までの出来事を考えると、タチが悪いとしか言えない。



 保健室に到着すると、魔王は私をベッドに下ろし、キーランが部屋に結界を張った。

 魔王は、長い足を組んで目の前に座ると、ニコニコと笑顔を向けてくる。一体、何があったのか?


 それにね……足、動くんですけど。

 

「……ねえ、説明してほしいのだけど。魔王って、今まで余り喋らなかったし、表情だって……。それに、カルロスって、誰よ?」


「カルロスは、以前使っていた私の人間用の名前ですよ。学園では、カルロス先生と呼んでくださいね。ノアから言われているのですよ、人間らしく喋るようにと。怪しまれたら、()()に居られなくなるので」と魔王。


「ヒナ、魔王様は人に化けるの得意だから心配ないぞっ!」


「いや……そういう事ではなくて。この学園には、聖女も勇者もいるのよ?」


「言っておくが、ビーチェ。あの者等に、私は倒せない。それに、あの女は聖女ではないぞ。光属性で加護持ちなだけだ。それよりも……あの男は何者だ?」


 さっきまでの丁寧な口調はどこへ行ったのか、魔王モードに戻っていく。


「レンですか? 彼が勇者みたいですね」


 更に、魔王はムスッとする。


「そうではない。……お前との関係だ」


 ――ああ、そうか。

 魔王は、気付いているのだ。(かれ)と私の関係が普通とは違うと。


「私も、今日直接会って分かりました。話さなければならない事があります。出来れば、魔王城で――みんな一緒に聞いてほしいです。そうですね、早速今夜にでも時間を」


 と言っている間に、魔王はパチンと指を鳴らした。

 一瞬で、そこは魔王城の見慣れた部屋に。そして、みんなが揃っていた。

 

「……やってくれましたね」と、口調が冷ややかなノアは、本とペンを持ったままだ。

 ロランは木剣を振り上げた状態で、ジゼルは洗濯物を抱えている。放課後の、それぞれ居た場所から直接転移させられたのだろう。

 キーランは、ソッポを向いて知〜らないって感じだ。


「大丈夫だ、時は止めてある」と、とんでもない事をサラッと言った。


 魔王の能力って……。


「で、ビーチェ。聞いてほしい事とは何だ?」


 どうやら、頭を整理する時間はくれないみたいだ。

 はあぁぁぁぁぁ……仕方ない。


「では、先ず……。勇者レンは、私の前世である望月日向の義理の兄、望月蓮です。そして、この世界は私が読んでいた小説の中だと考えられます」


 ――自分の身に起こった出来事を、全て話した。



 ◇◇◇◇◇



「それで、合点がいきました」


 話を聞き終え、口を開いたのはノアだった。


「ヒナは、あの時……何故か、賊に襲われると決めてかかっていました。変だと思ったのです。その他にも、不自然な点もありましたし。この世界で、起こることが予め分かっていたのですね?」


「ええ。でも、全く小説の内容と同じではないのです。魔族のみんなについては書いてなかったし、魔王の復活方法も大分違いました」


「ビーチェ。それは、此処が小説の中ではないからだ」と、魔王は言った。


 魔王は、信じられないのかもしれない。


「魔王の言う通りです。その小説は、この世界の誰かが書いた物でしょう。それも、王子と聖女サイドの者です。記されなかったヒナの転生と、記されたレンの召喚――それが証拠です。多分ですが、勇者の方はその本が媒体となり、召喚が成功したのでしょうね」


「そんな事って……」


「理由は分かりません。けれど、普通の魔術師が、異世界から人を召喚するというのは、とても難しいことなのです。何より、勇者がヒナと同じ世界から来て、この世界について書かれた本が其方の世界に有るなど、偶然と考えるには無理があるでしょう?」


 た、確かに。


「この件については、私が調べます。それで良いですね? カルロス先生?」

 

 ノアが魔王を軽く睨んだ。


「……………わかった」


 しぶしぶと魔王は返事し、また指を鳴らす。

 いつの間にか、皆それぞれの場所に戻っていた。


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