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26.懐かしき名前

「僕の考えが足りなかったのです」


 そう言ったオリヴィエは、慣れないお茶に苦そうな顔をすると、グイッと残りを流し込むように飲んだ。オリヴィエには、大人の味はまだ少し早かったのかもしれない。


「そんな事ないわよ。突然、家族が盗賊に襲われたなんて話を聞かされたら、焦ってしまうのは当たり前だわ」


 オリヴィエにおかわりをすすめると、微妙な顔をして頷く。

 少し渋めのお茶だが、甘過ぎるくらいのお菓子にとても良く合う。急いで買ったわりに、ナイスチョイスだったと大満足だ。

 お勧めしてくれた店員さんに感謝しつつ、会話を続ける。


「いいえ。冷静さを失っていたのです。領地に向かう途中なら、一緒に行かれたお二人が戻っているのは変ですし。領地内での出来事なら、父上が連絡をくれたでしょう。それに、姉上に敵う者がそうそう居るわけがないのです」


 まだ、私に勝てないのを気にしてるみたいだ。


「なぜ、アリス様は()()に襲われたと言ったのかしら?」 


 そもそも、そんな噂を流した者は誰で、アリスはどのタイミングで聞いたのか。アリスが知っているなら、エルネストも知っているだろう。


 それに、盗賊――馬車を壊したのは一体何者なのか?


「確かに……。誰から聞いたのでしょうね。勝手な噂を流されては不愉快です。今度、レンにも探ってみます。どうも、アリス嬢は苦手なので」


 ――ん? 


 今、サラッと聞き慣れない……ううん、随分昔によく()()()()()名前が聞こえた気がした。


「……レン?」


「ああ、姉上はご存知ないですね。姉上の学年に入った留学生の、レン・モチヅキです。たまたま、声をかけられて話したのですよ。その時に、あの女がやって来てこの話を」


 …………今、何て言った? 

 レン・モチヅキ? ――望月蓮っ!!?


「えっと…… オリヴィエ、その留学生の特徴って?」


 私達の中では、留学生=勇者だと確信している。

 だって、ノアがそう言ったもの。ノアは、確証がない事は決して言わない。知っていて、敢えて言わない時もあるが、それには何か理由があるのだ。


「特徴ですか? そうですね、一番は髪色でしょうか。黒髪と金の二色です。顔立ちは、地味で瞳は黒。話し方は平民のようでした。ただ、言葉は流暢(りゅうちょう)で訛りなど一切有りません」


 地味な顔……。

 それに、二色の髪色って。


 信じたくはないけど。義兄が、伯父と伯母――彼の両親と言い争いした翌日に、突然ブリーチして金髪になっていたのを思い出した。

 もしそれが、伸びたのだとしたら? 


 言語については、異世界転移者や転生者にありがちな特有の能力ってことね。私も初めから、みんなの言葉は理解できたし。


 でも、本当に……レンという留学生が義兄(あに)なのだろうか? 

 しかも、勇者でしょ。意味が解らない。

 いや、落ち着け私! ベアトリーチェに転生してから、もう何年も経っているのだから。

 ただの同姓同名……ゔっ、そんな偶然なんて滅多にないわよね。

 

「……上、……姉上!」


「えっ、あっ何?」

「どうしたのですか? 旅の疲れでも?」

「ううん、何でもないわ」


 うん、考えたところで仕様がない。学園に行って、会ったら判ることだもの。



 ◇◇◇◇◇



 ――翌日。


 お父様から学園には連絡を入れてもらい、勝手に帰省してしまったオリヴィエと共に、学園へ向かって出発した。勿論、あの馬車で。


 ジゼルも今回は御者の格好ではなく、いつもの侍女姿だ。荷物の中に、自分の剣も大切に忍び込ませてある。

 

「オリヴィエが、あまり叱られないと良いのだけれど……」

「仕方ありません。黙って学園を飛び出した僕が悪いのですから」


 こういう素直なところが、オリヴィエの良い所だ。思わず頭を撫でると、「もう、子供ではありませんっ」と顔を赤くした。可愛いぞ、弟よ。


 寮に残された従者はパニックだったに違いない。

 使用人へのお土産の一部を持って来た。それをオリヴィエに渡すと、ちゃんと労うように伝える。


「そろそろです」


 ジゼルは、学園の門が見えてくると鋭く目を光らせて、こちらにやって来る者を凝視した。

 門番は、先ず馬車の紋章を確認する。そして、学生証で本人確認を行うのだ。


「あの門番は、()()()()者ですね」と、ジゼルは言う。


 あの時の者とは、学園祭で会場から出された後に、私達が乗った馬車を確認した門番のことだ。ジゼルは、御者姿で対応したので彼をよく見ていた。

 バレたら大変だものね。


 馬車を門の前で止まらせると、門番は直ぐに紋章側へやって来た。

 そして、目を見開き、食い入るように公爵家の紋章を見る。


「どうかされましたか?」


 ジゼルの言葉に門番はハッとした。


「あ、いえ。……では、学生証を確認いたします」


 先ず、ジゼルはオリヴィエの学生証から渡した。

 公爵家の子息であると分かったのか、にこやかに丁寧な対応をする。


「では、中の方へお進み……」と言いかけた門番の言葉を遮り、ジゼルはもう一枚の学生証を出して見せた。

「もう、お一方いらっしゃいます」と。


 学生証を受け取った門番に、窓から顔を見せニコリと微笑んだ。

 

 あら、門番さん真っ青ですよ。


「か、確認いたしました。……では、中へお進み下さい」


 馬車は、門を潜るとゆっくりと進んだ。


「あの門番、何か知っていますね。後できちんと尋ねておきます」

 ジゼルは不敵な笑みを浮かべると、剣が収納されている荷物を見た。


「姉上、ジゼルは最近雰囲気が変わりましたか? 何でしょう、頼りになるというか……侍女より護衛っぽいですね」

 オリヴィエはコソッと言う。

   

 はは、ジゼルったら……。

 剣はロランで、思考はノアの影響を完全に受けているわね。


 そして、馬車は定位置まで行くと止まった。



 さあ、学園生活の第二幕ね!

 

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