24.オリヴィエ視点
――おかしいじゃないかっ。
どうして姉上があんな目に遭わされるのだ!
学園祭が終わっても、胸のモヤモヤは晴れなかった。
あの、いつも嫌味なエルネスト殿下が、姉上に言ったことは本心だったに違いない。聖女の男爵令嬢についてはよく知らないが、きっと二人して本気で姉上を断罪しようとしていたに決まっている。
けれど、サプライズの演出だったと、顔を引き攣らせた笑顔のエルネスト殿下の種明かしに加え、王太子殿下や父上、映像として国王陛下まで動かれた。極め付けは、姉上からの祝福メッセージ。演出だと、皆信じただろう。
楽しい学園祭だったと、上手く幕も閉じたのだから。
全て、姉上を守るために父上等が考えたとしか思えなかった。そうでないなら、姉上が馬車で連れ去られる訳がないのだ。
学園祭後、寮へと戻り直ぐに公爵邸へ向かった。幸い、学園祭後は二日間の連休だ。
「父上! 姉上は大丈夫なのですかっ!?」
「オリヴィエ、気持ちは解るが落ち着きなさい」
宮廷から帰ったばかりの父上を待ち構え、問い質す。父上の顔には、少し疲労感が漂っていた。
「ベアトリーチェは、心配いらない。二週間ばかり旅に出たのだ。目的地は、ベアトリーチェが行ってみたいと言っていた国外の観光地だ。学園側には、体調不良で領地で静養と伝えてある」
流石に、王子と公爵令嬢が婚約を解消したのだ。円満だとしても、心情は穏やかではないだろうと、上層部は皆理解していると父上は言う。
「では、ミラボー辺境伯令息とモレル伯爵令息が、旅先まで姉上の護衛をしてくださっていると?」
「そうだ。彼等なら下手な騎士より余程頼りになる。モレル伯爵の息子は予定外だったがな。ベアトリーチェを送ったら、戻ってくる筈だ。勿論ジゼルも付いているから問題ない」
姉上が体調不良だなんて誰も信じないだろうが、それを口に出せる者はいないだろう。
父上はこれから、あの王子のしでかした後始末に宮廷に留まらなければならないそうだ。
正直、父上には同情するが……あれが義理の兄にならなかった事だけは、心の底から良かったと思う。
◇◇◇◇◇
連休を終え数日が過ぎると、姉上の学年に変わった者が編入してきたと噂になっていた。
どうやら、他国からの留学生らしい。学年が違うから、たまにしか見ることは出来ないが。この国には珍しい、不思議な髪色でよく目立つ。
ただ、顔立ちは整ってはいるが、正直地味だ。
姉上にあんな事をした王子と聖女が、やたらとくっついて学園を案内している。平然と学園生活を送っている二人を見ると、不愉快極まりない。
もしかして、重要な関わりの国の王子なのだろうか? 父上なら知っているかもしれないな。
剣の授業を終え、顔を洗いに水場へ向かった。
鬱憤が溜まっているせいか、いつもより少しだけ本気を出してしまった……。
未熟だな。
思いきり、頭から水を被るといくらかスッキリした。
「……君って、強いんだね」
突然、背後から声を掛けられ身体が強張った。
周りに人の気配は無かった筈だ。振り返ると、驚いた。
「……貴方は確か、留学生の?」
その生徒はコクリと頷いた。
何故、こんな場にいるのだろうか。訓練場でのこの時間の授業は、僕らの学年だけだ。
「ちょっと……知り合いと逸れちゃって。ちらっと剣の授業が見えたから、ついフラッと。この学校って、めちゃくちゃ広いんだね」
よく言えば気さくだが、喋り方がまるで平民みたいだ。まあ、上の学年だし僕のことも知らないのだろう。
「この学園は、王立で最大ですから。学生も貴族だけですし。教室まで……ご案内しましょうか?」
「ああ、大丈夫だよっ。適当に見てまわるから」
そんな、悪い人間では無さそうだ。それにしても、変わった髪をしている。
「あ、この髪ってやっぱり気になる?」
視線に気づかれてしまった。案外、勘がいいのかもしれない。
「二色なんて……珍しい髪色ですね」
黒髪だって珍しい方なのに、途中からは金色だ。
「あー、やっぱ勢いでブリーチなんてしなけりゃよかった。プリンなんてカッコわるっ」と、顔を顰めボソッと呟いた。
「えっ?」
思わず聞き返す。
「あっ、ごめん! なんでもないんだ、気にしないでっ! そうだ、君の名前教えてよ。僕は、レン・モチヅキ。良かったら、レンと呼んでくれ」
変わった名前だ。
「僕はオリヴィエ・ドルレアンです」
「ドルレアン……? もしかして、お姉さんいる?」
「はい、一つ上に。レンと同級生です。ただ、今は体調を崩して療養中で休んでいますが」
「そっかぁ、早く良くなるといいね」
何となくだが、レンとの会話は不快では無かった。――あの女が来るまでは。
「……レン様〜! あ、こんな所にいらっしゃったのですねっ。エルネスト様も探してますから、早く戻りましょっ」
声を掛けながらやって来たのは、アリス男爵令嬢だった。そして、そのままレンの腕を取る。
姉上とは大違い……本当に品の無い女だ。
漸く、僕の存在に気がつくと馴れ馴れしく話しかけて来た。それも、満面の笑みで。
「まあ、オリヴィエ様! 剣の授業されてらしたのですねっ。レン様、オリヴィエ様は公爵家の御子息で本当にお強いのですよ」
と、僕の腕にも触れようとしたので、サッと避けた。
「いえ、僕はまだまだですので」と、貴族らしい笑みを向けておく。
「あっ! それより、ベアトリーチェ様の馬車が盗賊に襲われたと聞きました! 無事に、領地へはお着きになったのかしら?」
――なっ……何だって!! 盗賊だと!?
思いきり頭を殴られたような衝撃の言葉だった。
その後、二人に何を話したかは覚えていない。
ただ、脇目も振らず公爵邸へと向かった。




