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23.して、その関係性は

 ――この世界に何が起こったのだろうか?


 確か、以前は窓の外には闇しかなかった。


 けれど、魔王が復活した今……魔王城の窓からは、人間界と何ら変わらない景色が見えている。強いて言えば、空には太陽が無く闇が占めているくらいだ。

 いくら視覚を強化しても、流石に遠い街並みまでは見えない。多分、住んでいる者達は人間ではなく魔族なのだろう。

 視線を落とせば、魔王城の独特な雰囲気の庭が見える。


 あれは、使用人かしら? 耳は尖っているが、一見するとまるで人間だ。


 ……んんんっ!? あれはっ!?


「ちょっと、ノアっ! 私の目がおかしいのかしら? あそこにある、岩の階段に見覚えがあるのだけど」


 私がしんどい思いをしながら登った、魔王が封印……いや、籠っていた場所に酷似している。しかも、氷柱のあった所には立派な魔王の銅像が建っていた。


 いつの間に?


「目も頭も、おかしくありませんよ。あれは、確かに魔王が眠っていた場所です」


 むむっ。頭とは、言っていませんが。

 

 それなら、城から直接行けば良かったのではないか。首を傾げた私に、ノアは更に詳しく教えてくれた。


「残念ながら。魔王が復活する前は、この城の外……と言うより、魔界自体が閉ざされていましたので。城から出る事も、干渉する事も不可能でした。唯一、行き来できる人間界のあの崖が、時空の切れ目であり、魔王の元へ行ける場所だったのです」


 時空……? 


 つまり、私たちは場所を移動するだけでは無かったのだ。だから、キーランの転移がいつもと違った感覚だったのかもしれない。


 魔王城は魔界の中で、ノアたち魔族三人の為に魔王が残しておいた特別な場所なのだ、とノアは付け加えた。


「成る程ね。あっ! もしかして、あの魔石の核って……」


「はい。魔王の魔力で、魔界の地と共に肉体を取り戻しました」

 ノアは、庭で働く使用人に目をやった。


 あの魔石を踏まなくて良かったとつくづく思う。うん、出来れば最初から教えてほしかったです。


「ねえ、魔王と私の関係性って……」


 此処ぞとばかりに、尋ねようとした時だった。


「一体、どれ程待たせるつもりだ?」と、扉の方から静かな良い声が響いた。


 ロランとキーランを従え、魔王がやって来た。

 ノアは、一歩下りお辞儀する。


「……ビーチェとの関係性か?」


 魔王がノアとの話に割って入ってきた。


 いや、だからビーチェって……。仕方ない。


「はい。私が『鍵』だったのは理解しています。ただ、何故……私だったのですか?」


 もう、思い切って本人に訊くことにする。


「……………………」


 沈黙が長い。

 魔王は視線をノアに向けると、フッ――……と笑った。


 ――!? え、笑顔!! 

 魅力的なそれを見て、失神しなかった自分を褒めてあげたい。


「……して、その関係性は何だ?」


 質問をそのままノアに問う。

 まさかの丸投げ……。

 ノアは深〜い溜息を吐いた。


「魔王にとって、ヒナの持つ魂は……かけがえのない存在なのです。つまり、ヒナとベアトリーチェはその生まれ変わり。ですから、何とも形容し難いのですよね? 我が王よ」


「うむ……そうだな」と、魔王は頷いた。


 かけがえのない存在とは? 結局、よくわからない。

 でも、やはり誰かの生まれ変わりで、魔王が自分の魔力を分け与える程の存在。

 そういえば、初めから魔族のみんなは、私を姫と呼んでいた。でも、親子でもなさそうだし。妻だったのなら王妃よね?


 色々引っ括めて……。


「では、前世の私は、魔王にとって相棒(パートナー)だったのですか?」


「……今は、それで良い」


 今は、って。

 何だか無理やり妥協したかの言いようだが、まぁ良しとしよう。だって、恋人とか夫婦なんて言われても正直困るから。

 さっきまで、握られていた手の感触を思い出すと、また顔が熱くなった。


「ね、ね、魔王様にノア〜」


 空気を読まない、マイペースなキーランが唐突に話し出した。

 魔王はキーランに視線を移し、ノアは「何だ?」と返事をする。


「崖んとこに馬車を取りに行ってきたらさぁ、何かに襲われたのかボロボロになって落ちてたんだよ。あ、俺が壊したんじゃないからね! 馬も居なくなっちゃってたし」


 一応、馬車は城の外に転移させてあるとキーランは言う。


「俺も確認したが、あれは賊の仕業だろう。ただ、箱自体は残っていたが、公爵家の紋章が剥がされて無くなっていた。一部不自然に変形していたが、それは封印を解く時の熱風が漏れた影響だろうな」


 やはり、賊は出たのだ!

 

 ロランの話を聞いたノアは、ジゼルを連れて馬車の確認へと向かった。




 ◆◆◆◆◆



 ――時は少し(さかのぼ)る。

 

「御頭っ!! 公爵家の馬車がありましたぜっ!」


 子分の一人が、山頂付近で見つけたと息を切らせながら戻ってきた。


 大通りから森へ向かった辺りまでは、確かにちゃんと追えていたのだ。何処へ向かうのかはサッパリ分からなかったが、人の目に触れない森を選んでくれた事は有り難かった。

 それなのに……どうしたことか、途中から見失ってしまう失態をおかした。


「でかした! 直ぐに向かうぞっ」


 これで、依頼主にドヤされずに済む。聞いている話では、御者と侍女、それと公爵令嬢だけが乗っているだけだ。

 さっさと殺して捨ててしまえばいい。幸い、山には崖や谷がたくさんある。遺体など、見つからなくたって問題ない。髪の毛か指の一本でも持ち帰ればリスクは下がるし、証拠になるだろう。


 ――が、馬車はもぬけの殻だった。

 馬も逃げたのか、暴れた跡だけが残っている。


「くそっ!! 何処へ行きやがった!」と子分達は声を荒げる。


 周辺を探っても人の気配は無い。


「……確か、この令嬢は王子に婚約破棄されて追放されたんだよな?」

「あっ!! もしかして、ショックで自殺とかっ」


 馬車の先には、見事な崖があった。

 プライドの高いお貴族様だ。こんな場所に来るとしたら、その可能性が高い。


 令嬢自体の証拠品は無理だったが、手間が省けたとほくそ笑むと子分へ指示を出した。


「お前ら! 馬車の紋章を外して、金目のもんだけ運びだしたら、馬車を落とせっ!」と。

 





 

 



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