20.意外な正体
今まで来た道と同じ、鬱蒼とした森とは思えない程に、ここは空気が澄んでいた。
「では、こちらでお食事に致しましょう」
ジゼルは馬車に積んであった敷物を広げると、準備してきた食べ物を並べる。ちゃんと其々の好物を用意してあった。
「うわぁ! 美味しそうだねっ!」
「ああ、ジゼルありがとなっ!」
ずっと馬車を走らせていたロランは、お腹がペコペコだろう。キーランは、あんなにお菓子を食べていたのに、まだまだ入りそうだ。
まるで、ピクニックの様なのんびりとした時間を過ごし、食後の休憩を終えた。
片付けを済ませて、そろそろ出発――と、立ち上がった時だった。
何かによって日の光が遮られ、急に辺りが暗くなる。
『――……見つけた』
空から怒りに満ちた声が降って来た。
「わっ、やばっ!!」と、キーランが青くなる。
なっ、何!?
全身に緊張が走る。もう、盗賊がやって来てしまったのかもしれない。
「お、お嬢様っ、何を……っ」
咄嗟にジゼルの腰に差してあった剣を引き抜き、魔力を込めて構える。剣は炎に包まれた。
そして、空から此方に飛んでくる、大きな鳥の様な物に向かって斬り掛かろうと地面を蹴った、その刹那!!
――ガシッ!! と、羽交い締めにされた。
へ……?
「ヒ、ヒナっ、落ち着けっ!」
私をガッチリホールドしたのはロランだった。
「あ、あれ、ノアだからっ!!」と、キーランも慌てて言う。
「……えっ? 何ですって?」
ポカンとした私の手から、炎の消えた剣をジゼルは急いで取り上げた。
バッサ……バッサと、大きな羽の音を響かせ下降して来たのは、正しくノアだった。
――て……天使だったの!? うそぉ。
黒味がかった銀翼のノアは、余りにも神秘的だった。
「……ヒナ、酷いですね。完全に、私を殺すつもりだったでしょう?」
ノアの怒りを含んだ美しい笑みは、凍えそうなほど冷たかった。
――ひええええぇ。
「ごめんねっ! まさか、ノアだと思わなかったのよっ。合流するの夜の予定だったし……それに、その翼はっ!? まさか、天使……なの?」
静かに降り立ち、翼を閉じたノアは溜息を吐いた。
「ヒナには、まだ言っていませんでしたね。私は天界の……元天族でした。天使とは、人が付けた呼び名ですから正しくはありません。まあ、その人間の言葉を借りるなら……私は堕天使といったところでしょうか」
だ、堕天使――!!
「じ、じゃあ、ノアは悪魔なの? もしかして、本名はルシ……」
「違います。全く……それは御伽噺です」
ノアはそこまで言うと、ジロリとキーランをにらんだ。
「そもそも、キーランは私と一緒に行動する予定でしたよね? あなたの魔眼でヒナ達を見つけ、転移で合流する為に」
グッと、ノアはキーランに顔を寄せた。
うっ、相当怒ってる。けれど、違う意味で見ているこっちはドキドキしてしまう。
「ご、ごめんよぉ……。ノアなら問題無いかなってぇ」と、キーランは半べそになる。
「山に入られてしまったら、夜では空から見つけ難いのです。ですから、急いで飛んで来たのですよ。場所が定まらなければ転移も出来ませんしね」
あー、そういう事だったのね。これは完全にキーランが悪いわ。
それにしても、ノアの迫力は半端ない。
「その姿、よく他の人に見つからなかったわね?」
「そんなもの、人間に見えない速度で飛べば良いだけですから問題ありません」と、事もなげに言った。
「では、ノア様。一先ずお食事をどうぞ。こちらにご用意してありますので」
ジゼルは、私達のやり取りを聞きながら、いつの間にかノアの分の食事を準備していた。全くもって、侍女の鑑だ。
そして、美味しい食事に怒りを鎮めたノアは、私の退場後の報告をしてくれた。
シナリオ通りに学園祭は上手くおさまったそうだ。
◇◇◇◇◇
馬車は再度、目的地に向かって走り出した。
ノアに叱られ、キーランはしょんぼりと猫の姿になった。私の膝に乗せて撫でると、次第に元気を取り戻していく。
「ところで先程、ヒナは一気に魔力を放出しましたね? 魔石にヒビが入っています」
スッと手を伸ばしたノアは、私の髪からダンスパーティー用の飾りに紛れ込ませていた、魔石の髪飾りを抜き取った。砕け散らないまでも、かなりの亀裂が生じている。
魔石とは、こんなに脆い物なのか?
「いいですか、魔石には二種類あります。自然の中の魔素を集めて出来た天然の鉱物と、魔力を持つ者の核。これは、前者ですから純度により硬さが違うのです。結構、良い石だったのですがね。ヒナの魔力の勢いが強すぎたのです」
疑問が顔に出てたらしく、説明してくれた。
魔石については授業で簡単に習ったが、魔道具に使われたりする石で色々な用途がある。
核っていうのは、魔力を持つ者の根源だ。持って生まれた魔力の大きさに比例する。魔物や魔獣が沢山いた時代は、討伐をすると得ることが出来る貴重な素材だったのだ。
今は殆どが天然の鉱物だけで、純度の高い物はとても希少であるのだと。
ううっ、すみません。
「けれど、これももう必要ないかもしれませんね」
ノアの手の中で魔石は綺麗に砕け散った。
私の額にくっきりと現れた痣。魔王が復活すれば、私の『鍵』の役目は終わる。そうなれば、きっとこれは消えるのだろう。
お読みくださり、ありがとうございました。
次の更新は来週になりますm(__)m




