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16.ジゼルの決意

「これは、一体どういう事でしょうか?」


 ジゼルは、真顔で質問をぶつけてきた。


「あまり、話したくないのだけど。見逃しては……くれないみたいね」

「はい、無理です」


 こうなったジゼルは、絶対に自分を曲げない。

 正直、自分でもジゼルに話してしまえたらと、何度も思った。けれど、私が話したらジゼルは後戻りできない。


 どうしたものか……。


「では、お嬢様がお話ししやすいように、先に言わせていただきます。様子がおかしいと思ったのは入学式の日、此方へお戻りになった夜です。私が退室後、このお部屋からお嬢様の気配が消えました」


 ――え!?


「直ぐに部屋に戻ったところ、お嬢様はいらっしゃらず……。部屋の様子から、連れ去られたのではないと理解しました。もし誘拐だった場合、お嬢様なら何らかの痕跡を残すでしょうから」


 うっ、確かに。私が簡単に誘拐される訳ないわ。


「そして、他の部屋や外を確認に行き戻ってきたら、何事もないかのようにお部屋で眠っていらっしゃいました」


 少し悲しそうな表情でジゼルは話を続ける。


「次の日も、その先も、お嬢様は私に何も仰いませんでした。つまり、私に言えない事だったのでしょう。私は何も聞かず、お嬢様が話して下さるのを待つ事に致しました。時々、寝間着やその日に着ていなかった筈の服に付いていた赤茶色の動物の毛。日を追うごとに、お嬢様の筋肉のつき方にも変化が見えました」


 うそっ……体型は変わってない筈だ。

 目を見開いた私に、ジゼルは笑みを見せる。


「信じてないでしょうが、毎日の湯浴みやお支度をするのが私の仕事ですよ。それに、お嬢様に体術を教えたのは誰だかお忘れですか? 私も共に成長して参りました」


「……あっ」


 そうだった。

 面接の時、ジゼルが提出した履歴書と、その横にはお父様が身元を徹底的に調べあげた調査書があった。

 ジゼルは、女騎士にもなれる能力を秘めていたのだ。


「そして、確信したのは公爵邸で剣の稽古を見てです。お嬢様、どこかで剣の腕を相当上げられましたね。しかも、オリヴィエ様相手に殆ど力を出されていなかった」


 ジゼルは、更に核心に近付く。


「ベアトリーチェお嬢様、私を置いて何処へ行かれるおつもりですか?」


 真剣な瞳で、私を射抜く様に見つめるジゼルに、嘘はついてはいけないと思った。


「ジゼル……これを話したら、貴女は後戻りが出来なくなってしまうわ。平穏な将来を手に入れられなくなってしまうかもしれない」


 聞くか聞かないは、ジゼルに委ねる。


「私は、父達のように騎士になりたかったのです。騎士は、主人と決めた方に忠誠を誓います。私の雇い主は公爵様ですが、私の主人はベアトリーチェ様だけです。何処までも、お供致します。……それでも、お話し下さいませんか?」


 だめだ、侍女服が鎧に見えてきちゃった。

 平穏より、忠誠ですって。敵わないな……やっぱりジゼルが好きだわ。嬉しくて、涙が出てくる。

 

 ごめんね、ジゼルのお父様。きっと、ジゼルの平穏な女性の幸せを願って、騎士の道を進ませなかったのでしょうに。


「わかったわ」


 私も覚悟を決めた。

 ジゼルと泣き笑いで見つめ合うと、突然――!


「はい、じゃあ決まりだね〜」


 ポンッと、人の姿になったキーランが楽しそうに言った。


「ね、猫が人にっ!?」


 ビックリしたジゼルは、私を庇うように前へ出た。


「お姉さん、俺は敵じゃないから大丈夫だよぉ。ね、ヒナ。説明は城でノアがするから、待ってるって言ってたよ」


「ねえ……キーラン。ジゼルが気付いているって、知っていたの?」


「んん〜。初めてこの部屋に迎えに来た日に、何となく?」

 

 何それ、最初からじゃん!!

 しかも、ノアが待っているって……みんなもかっ!


「はあぁぁぁぁぁっ。ジゼル、説明は体験した方が早いわ。キーランお願い」


「はぁい、任せてっ」


 意味が分からないままのジゼルを連れて、魔王城へ転移した。



 ◇◇◇◇◇



「信じられませんが、信じます」


 ジゼルの語彙力が、キーランみたいになってしまった。

 私とノアからの説明を聞き、ジゼルは納得してくれた。

 

 ノアが言うには、ジゼルにはまだ選択肢が残っていた。

 全ての話を聞いて無理だと思ったら、この件だけジゼルの記憶を消す事が出来るのだそうだ。そうすれば、何も変わらず今まで通りに生きていける。


 でも……。


「本当に、いいのね?」


 再度尋ねたが、ジゼルはそれを望まなかった。


「はい。ヒナタ様でも、ベアトリーチェ様でも、私の主人はお一人ですから」と、笑って答える。

 

 信頼できる仲間が増えて、心強い。


「あの、ロラン様。お願いがあります」


「……お願いとは何だ?」


 突然話しかけられて、ロランは少し戸惑っている。

 アリスの時もそうだが、ロランはグイグイ来る女性が苦手なのかもしれない。


「私にも、剣を教えて下さい! 私ももっと強くならなければ、ベアトリーチェ様の盾にもなれません」


 ジゼルの言葉にロランは瞠目し、快諾した。


「任せろ、ジゼル。最強の侍女に俺が鍛えてやろう!」

「はい! お願いいたします!」


 ちょっと待って、最強の侍女って何?

 意気投合した二人のやり取りは、剣士そのものだった。

 ジゼルには、平穏に嫁ぐ姿より、ロランと剣を交える方が似合って見えるのは……私だけだろうか?


 まだ、巻き込んでしまった事にちょっぴり迷いはある。

 だからこそ、ジゼルを悲しませないように私も強くならないとね。


 あれ? なんだ、私もジゼルと同類だった。


 




おまけ


「ひとつ、腑に落ちない点がございます」

 説明を聞き終えたジゼルは、魔族の三人に向かってそう言った。


「それは何でしょう?」と、ノア。


「先程、キーラン様は私を「お姉さん」と呼ばれました。どう考えも、私の方が皆様より年下ですよね? 老けて見えるという事ですか?」

 

 気になるの、そこ? 

 

「ちっ、違うよぉ! 名前知らなかったしっ! 老けてないよ、可愛いお姉さんて意味だからっ」


 いや、絶対知ってたでしょキーラン。慌てるキーランが面白い。あ、ジゼルったらワザとね。ノアとロランも笑ってる。


「では、皆様。私のことはジゼルとお呼び下さいませ」


 少し嬉しそうに、ジゼルそう言った。


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