13.トラブル勃発
何回かのクラブ活動を経て、女生徒の髪型が日に日に可愛くなって行った。
やり方さえ覚えてしまえば、小物を組み合わせる事で幾らでもアレンジが出来る。ドレスと違い、みんな同じ制服だからこそ、髪でお洒落ができるのは楽しいのだ。
あまり華美になり過ぎなければ、教師から注意されることもない。
初回の参加者は少なかったのだが、キーラン効果は絶大だった。
そこは予想していたので、最初から回数を限定しておき、試験前までと期間も決めて申請したのだ。
後は、やり方を覚えた子が広めてくれるだろう。
でないと、私自身の時間が無くなってしまう。学生だから、勉強もしないといけない。
――そして、いよいよ試験期間に入るという頃。
「ベアトリーチェ嬢。何故、アリス嬢を仲間外れにするのだっ。可哀想ではないか!」
朝、教室へ入った途端に浴びせられた言葉。
いつもなら、私よりも遅くやって来るアリスが先に来てエルネストの隣にいた。
チラッとアリスを見ると目が充血している。まるで、さっきまで泣いていたかの様に。
「エルネスト殿下。お言葉ですが……私には、殿下が何を仰っていらっしゃるのか分かりかねます」
「其方は、女生徒を集めてコッソリお茶会をしているらしいな。アリス嬢を仲間はずれにするなど、公爵令嬢として恥ずかしくないのか!」
はい? コッソリお茶会?
どうしてそうなったのだろうか。
「そもそも、お茶会などしておりません。もしかして、クラブ活動の事ではありませんか? 私達は、初めにちゃんとアリス様もお誘いしました。そうでしたよね、アリス様?」
そこはしっかり確認済みだ。
けれど、火に油を注ぐつもりはないので、それには触れず優しく問いかけた。
「……いいえ。ベアトリーチェ様からはお誘いいただておりませんっ!」
「ほら、アリス嬢はこう言っている。嘘をつくな!」
何も確認せずに、アリスの言った事だけを鵜呑みにするのね。……呆れるわ。
「誤解があるようですね。クラブ活動の件でしたら、参加のお誘いは私以外の方がして下さいました。私が直接お誘いしたら、参加したくなくとも断れないかと思いまして」
エルネストも立場のある人間なのだから、言っている意味は分かるだろう。上の人間の言葉は、ほぼ命令になってしまうのだから。いくら学園が平等と言っても難しい問題なのだ。
「……アリス嬢、どうなのだ?」
エルネストは、アリスを気遣うように尋ねた。
「い、いえ……ベアトリーチェ様からのお誘いだとは、知らなかったのです!」
「ええ、開催数限定のクラブ活動ですので。私とオレリア様、その他の方々と立ち上げましたから、お誘いは皆同じ方にお願いしたのです。これが、皆様にお見せした案内状です」
ノアの提案で、言った言わないが起こらないように、内容を記した書面を用意しておいたのだ。これを見せながら勧誘はしてもらった。
アリスは、声を掛けてくれた令嬢を見下し、ろくに読みもせず断ったのだろう。入学してからずっと、エルネストを中心としたノア達のグループにいるせいか、他の女生徒には目もくれない。
誘ったのは子爵令嬢ミレーヌ・オスマンで、とても丁寧な対応ができる人物なのだから。
そんな彼女に対して、アリスは『私、エルネスト様やノア様方と色々と約束があり、忙しいのです』と言ったそうだ。
エルネストは、私から受け取った書面に視線を落とすと、グッと言葉に詰まる。
仕方なさそうに、それをアリスに見せた。
「……これを見たことは?」
エルネストの問いかけに、アリスはカッと赤くなる。思い当たる節があったみたいだ。
「しっ、知りません! ベアトリーチェ様は、私がお嫌いなのですっ」
ポロポロと涙を零すと、ダッと教室から出て行った。
は? 何でそうなる? ……聖女なのに嘘もつくのか。
けれど、考えれば聖女は特別な能力があるだけで、唯の人間なのだから当たり前なのかもしれない。自分を守りたいのだろう。
いや、こっちは大迷惑ですけどね!
「アリス嬢は、まだ友人が出来ていないのだ。可哀想だとは思わないのか!」と、アリスを追いかけて行った。
また、可哀想って……何だ、この悲劇っぽい茶番。
「ベアトリーチェ様! 大丈夫ですかっ?」
オレリアが心配そうに、声を掛けてきた。やり取りを見ていた、他の女生徒も不安そうな顔をしている。
「大丈夫ですわ。私達は、ちゃんとアリス様をお誘いしましたし。きっと勘違いなさったのでしょう。何かあっても私が責任取りますから、皆様は心配なさらないでくださいね」
ニッコリと優美に微笑むと、クラスメイト達は恍惚とした表情になる。
「ベアトリーチェ嬢、私達がお二人を探して来ますので」
一部始終を静観していたノアは、満足そうな表情でロランとキーランと共にエルネストを追った。
取り巻き役は大変だね。
――数分後。
何事も無かったかのように、全員が戻ってきた。
そして、その日からエルネストとアリスは、私を完全に無視するようになった。
全く、アホだな。周囲が見えていない。
その後、二人に無視され続け快適な日々を送った。
お陰で試験も満足いく結果が出せたし、オレリアやミレーヌとも、かなり仲良くなれた。
◇◇◇◇◇
学園生活にもすっかり慣れ、初めての長期連休がやって来た。
「お嬢様、やっとお邸が見えて来ました!」
馬車の中でジゼルが言った。
「ふふっ。何だか私よりジゼルの方が嬉しそうね」
「そんな事ありませんよっ。ところで……その猫、本当に連れて来て良かったのですか?」
私の膝の上で、気持ち良さそうに眠っている赤茶色の猫を見ながら、ジゼルは言った。
「ええ、学園で拾って可愛がっているのよ。休み中、誰も居なくなってしまうから連れてきたの」
なんてね。
お父様に、私が魔法を使えるようになった事は連絡済み。相当喜んでいたと、オリヴィエからの手紙に書いてあった。
だから絶対に、お父様はあの魔道具で私の魔力測定をしたがる筈……。そうなると、きっとまた無反応になってしまう。
だから、ケリーにはお父様対策の為に来てもらったのだ。
屋敷の門が見えてくると、使用人達が皆揃って待っていてくれた。




