表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/114

96.独白

 寮を出て、どのくらいの距離を飛んだのだろうか?


 この世界を上から眺める景色は、また格別だった。

 日向として過ごした世界とは全く違う。夜まで煌々と輝く灯りはないが、自然豊かで特徴的な街並みは美しい。月明かりに照らされて、おとぎの国に迷いこんだみたいだ。

 

「ビーチェ、人間界では話せそうもない」


 スピードを緩めて宙で止まったカルロスは、夜空を軽く睨み小さく溜め息を吐く。


 天界からの監視が強まっているのだろうか?


 繋いでいない方の手で、私の頬を撫でた。光を背にしていたせいか、表情がよく見えないが……少し緊張しているのか飄々とした感じはなく、何処と無くぎこちない。


「二人きりで話せる場所なら、どこでも構いませんよ」


 どうせなら、誰にも干渉されたくない。

 なぜカルロスが、魔王城や異空間を選ばなかったのか、理由はわからないが。

 

「うむ」とカルロスの呟きが聞こえると、次の瞬間には場所は魔界になっていた。

 ただ……城の中ではなく、やはり外。


「ここって、魔王像の……上?」

「そうだ。眺めが良いだろう?」

「……ええ、まあ」


 カルロス(像だけど)の頭を踏んでいるみたいな状態だが。当の本人が良いのだから、私が何か言うこともない。

 言葉を探していると……魔界でも風は吹くらしく、ワンピースのスカートが靡いた。


「人間界と似ていますよね」

「そうだ。そのように創ったからな」

 

 ん?


「カルロスが創ったのですか?」

「ああ。この世界は、私の生命で保たれている」


 魔王が復活して、魔石となった魔族の核が、肉体を取り戻した時のことを思い出した。


「……もし、カルロスに何かあったら?」

「私も魔界も、消滅するだけだ。まあ、その前に魔王を継ぐ者が現れたら別だがな。残念ながら、私には後継者はいない」


 いとも簡単にそう答えた。

 バスチアンなどが魔王になんて、論外のレベルの話だったのだ。

 

「ついでに言ってしまえば、魔界が消滅すれば人間界も消滅する。この世界は、人間界と魔界が表裏一体なのだ。地の無い世界に生は宿らない」


 この世界は、地球のように丸くないのかもしれない。

 表に人間界があり、その裏に魔界が存在しているのだとカルロスは言った。


「どちらかが消えれば、道連れって事ですか?」

「そうなるな」


 もはやカルロスの存在意義は、神の領域に近いのではないだろうか?


「じゃあ、天界は?」

「……何も。人間界が消滅すれば魂を回収し、新たな世界を創るだけだ」

「え、魔界は?」

「さてな。創造主が必要と考えれば、また新たな魔王が生まれるだろう」


 ズシリッと胸に、鉛のような物が落ちた気がした。

 まるで、魔王の命が……ゲームのリセットボタンであるかの様な話に、憤りを覚える。だからと言って、この気持ちをどう表現したらいいのか分からない。

 言葉の詰まった私を、カルロスは目を細めて切なげに見た。



 ――そこから先は、カルロスの独白が始まる。



 カルロスが物心がついた時には、もう……魔王という存在だったそうだ。

 世界を消滅させず、魔王を終えるには後継者ができればいい。後継者に、自身の力を全て注げば、魔王としての生から解放されるのだと。

 つまり、カルロスは後継者と言う名の生贄だった。


 完全に覚醒するまでは、前魔王の創り上げた物を引き継ぎ、魔界を統べてきた。信頼も裏切りも入り混じり、他者とは違う永遠ともいえる生命の時間は、どれ程の孤独だったのか想像もできない。


 時には全てを終わらせたくなり、臣下に唆されて自害する為の魔剣も作ったそうだ。だが、魔王の力は膨大すぎて、意味を成さない代物だったのだと。

 結局、それは臣下に処分させたそうだ。


 ――それがあの魔剣で、臣下がバスチアンだったのかもしれない。


 そして、ちょうどその頃……。

 カルロスは、私の魂を持つ先祖を見かけたそうだ。詳しくは言わなかったが、私が生まれ変わる度ずっと見守っていたらしい。

 その中で、カルロスが身分を偽り接触したのが『ビーチェ』で、魔王城でたまたま育てられる事になったのが『姫』だった。

 

 私が異世界で転生し、日向になる前が『姫』だったのだ。

『姫』の死因となったのは、双子の姉と魔剣の存在。光の魔力を全て奪われ、魔剣の負の力で魂は消滅の危機だった。魔王の魔力でかろうじて命を繋いだが、神の加護持ちの『姫』には相反する力でどうにも出来なかったそうだ。


 ――魂が消滅したら、もう二度と生まれ変われない。


 そこで、カルロスとノアは一か八かの賭けに出た。この世界の加護なら、異世界に転生すれば無効化されるのではないかと。その魂に魔王の力の一部を込めて、膨大な魔力を使い異世界に送ったのだ。

 賭けは成功し、私は地球のある世界に転生した。


 そして、そこからは日向とベアトリーチェである私が知っている話だった。


 唯一、知らなかったのは……。


 カルロスは魔王の力を使い過ぎた自分のせいで、魔界と人間界を消滅させないよう、自らを封じ異空間に籠ったのだ。魔族の民は魔王と共にあることを望み、一緒に籠ることを選んだのだと。

 少しでも早く、魔王の魔力が回復するよう願いつつ。


 カルロスは細い望みの糸を離さず……私の目醒めを信じ、ノアとロランとキーランに後を託して眠りについた。


「だから、そなたが帰ってきて……どれほど嬉しかったことか」

 

 ポロポロと涙が止まらなかった。

 カルロスの綺麗な顔が……涙で歪んでしまってよく見えない。そんな私の涙をカルロスは、優しく拭ってくれる。


「……ビーチェ。いや、今はベアトリーチェだったな。どんな姿であっても……私には、お前だけなのだ」


 ビーチェでも、日向でも、ベアトリーチェでも……カルロスは()を愛してくれている。それが嘘偽りのない事実なのだ。


 カルロスに引き寄せられる前に、私は自分からその胸に飛び込んでいた。




お読み下さり、ありがとうございました!

閑話等含め、本日やっと100部まできました٩(^‿^)۶

これも、読んで下さる皆様のおかげです!


ブクマ、評価、感想、誤字脱字報告、全てが励みになっています。

完結までもう暫くかかりそうですが、これからもよろしくお願い致しますm(__)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 110話達成、おめでとうございます! 記念すべき回に相応しい壮大なお話でしたね。そして、特に「私」の魂についての説明がとても分かり易かったです。 >ビーチェでも、日向でも、ベアトリーチェで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ