6,王太子との出会い
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私の放った言葉で、爆笑している人と苛々と尻尾を振っているものに分かれた。
「ちょ、ちょ、ブフッ」
ツボにハマったらしい人をゲジゲジと踏みつける奴は、シェーナ王国王太子ナバル・シェーナの護衛騎士として雇われているグルーネイという獣人らしい。
主人を踏み付ける護衛騎士を初めて見た……。
まあ、王太子をツボにハマらせた私が言う事ではないのかもしれない。
数秒前、ナバル殿下に、グルーネイと抱きついている理由を問われた際、混乱した私はこう答えた。
「調教……?」
いやまさか令嬢が抹殺しようとしていたなんて言えるはずがない。
そして、現在。
そういや一応異性同士が抱き合っていたし、入学式をすっぽかしていたのだからお互い惹かれあって仲を深めていた、という答え方もあったか、と今更ながら気付く。
「一応グルーネイは美形ワイルドって人気だけどねえ、調教、ってククク」
サラサラとした金髪からチラチラ覗く瞳は燃えるように紅い。瞳から滲む涙は金色だ。
「すみません、てっきり実家近くによく出る人食いかと思いまして」
そう弁解するともっと笑ってしまった。ツボを深くしてしまったらしい。
「人間、もっと言えば異性は苦手な可愛いうちの手下を人食いって、面白い、いや面白いどころじゃない、滑稽……!」
立場からか、ゲラゲラ笑うのではなく体の中で笑いを堪えている。さらにグルーネイが踏みつける力を強くしていた。
「さっきから俺に失礼な事を吠えやがって。どこのどいつだ、お前は」
よく見れば王室騎士の服を着ている。短刀を持った時の私って恐ろしく視野が狭くなるからなあ。
「服より耳に目がいったし、変な言動ばっかりしていたからねえ」
「……聞いていたのか」
ナバル殿下を踏みつけていたグルーネイはこちらに目を向け、ボソリと聞いてきた。
「あ、れ、もしかしてさっきの言葉口に出していました……?」
他人に失礼なことは言わない主義の私は心の中で言っていたつもりだったのだが。
「うん、言っちゃっていたね。服より耳、って」
「すみません……」
「良いよ、大丈夫。それにグルーネイも、こんな態度をとってくる令嬢に初めて会ってびっくりしていると思うしね」
ナバル殿下は服についたグルーネイの踏み跡を手で払って立ち上がる。
「名前はなんていうのかな」
ぶわっ、と風が吹く。
ナバル殿下は紅い瞳を私から離さずにいる。金の髪がさらさらと音を立てている。
さらりと問われて一瞬言ってしまいそうになった。でも、兄達に言われている。
知らない相手に名前を気軽に教えるな、と。身分が高かろうが美形だろうが。
「……そろそろ戻られたほうが良いのではないのでしょうか。私のようなものは居なくても問題ございませんが殿下はそうはいかないでしょう。グルーネイ様、先程の事をお許しくださいませ。決して殺めようなど考えていなかったとは言い切れませんが、お許し下さいますと幸いです」
風で聞こえなかったことにした。殿下は口の端を優雅にあげて笑った。
「そうですね。仮面を被って、苦しい人の中で笑いましょう。グルーネイ、申し訳ないが護衛を頼めるな」
口調がよそ行きに変わっていた。グルーネイもそんな空気を感じ取ってか、私に色々言いたそうな顔をしていたが、「勿論です」と跪いた。
「では、失礼致します。また、お会いできる事を、貴女のお名前を聞くことができる事を願って」
金の貴公子、聖なる神と悪魔に愛されているといわれる我が国の王太子は私に一礼して去っていった。
私は木の上に置きっぱなしだった伊達眼鏡とカツラを取りに行って、そのまま自室に戻った。
夕刻、兄達に何をしていたのかを聴取され、王太子が入学式で私の素性を聞いて回っていた事を知る。その事を知って、王太子が自分の護衛騎士へ非礼をしまくった私の事を意外と怒っていた事に気付き、姿を変えて生きていかないといけないな、と強く思った。
次回、本格的に授業開始です。