5,入学式を抜け出して
王太子と会うには会うのですが……状況がカオスですね
ぼっち。
人気のない庭園にて。
アンナが持たせてくれたサンドウィッチを広げ、口の中の脱脂綿を吐き出し、体に巻きついているタオルを取り、伊達眼鏡を外した。あと、蒸れて痒いのでカツラも取る。
「友達ゼロ人って悲しいなあ」
入学式に女子は仲良しを見つけてしまう。
完全に出遅れた。
一応人に見つからない様に木に登り、そこで食べている。
「あ、美味しい」
私の好きなサンドウィッチだ。パクパクと一瞬で平らげ、ふう、と息をついた。
「面倒だな。チッ。だから女は嫌いなんだよ」
ぼっちはつらいからなあ。一人で良いから友達欲しい。
「ベタベタ触りやがって、俺をなんだと思ってるんだ」
ん? こんなところにメモが。
「俺は誇り高き狼の血を引く者!」
王太子には近づくな。ねえ。これはリュートの文字かな。
「アオーン!」
遠吠えだ。
……って遠吠えはまずい。
父に何度も言われた事を思い出す。
『人の言葉を操る獣は人を襲う。遠吠えをする時は空腹時。もし見かけたら成敗しなさい』
言葉を話していた。
そして、遠吠え。
つまり、成敗する時だ。
どこにいる。
殺意を感じさせない様に辺りを窺えば、少し離れた場所でふさふさした尻尾を振りながら何やら呟くものを発見。
次の瞬間にはドレスに仕込んである短剣を手に持ち、そのものの背後から首に短剣を押し付けていた。
「なっ」
「何をしているのだ、人を食おうとしているのか」
私は苛立たしげに揺れる尻尾を股に挟み、更に強く短刀を押し付ける。
「さっさと、答えろ」
1、2、3……と数を数えれば、その相手ははは、と鼻で笑う。
「俺様に勝てると思ってんの、かあっ」
そう言って私のスネを蹴る。しかし、腕を緩めない。スネは急所ではあるが、幼い頃からスネに何をやられても微動だにしないよう、訓練されているので何ともない。
「無駄な足掻きはやめたらどうだ。なぜここにいるのかを教えてくれれば解放してやらんでもないぞ」
「クウーン……」
「可愛こぶるな、しゃくに触る」
「ケッ」
「おら。毛玉を吐くな」
ムカついてきたので首を切り落としてやろう。
そんな、令嬢とは思えない思考回路で首をちょん切ろうとした瞬間。
「楽しそうな事をしているね、グルーネイ」
声に聞き覚えがあったが、誰だったか思い出せない。
「おい、助けろ」
「ん、この僕にこんな事を言って良いのかな」
随分高飛車なやつだなあ、と思いながらチラリとそちらを見て、思わず腕を緩めてしまった。
その隙にそいつは腕から逃げてしまった。
不覚。
でも、それより。
「ナバル殿下……」
兄のメモを思い出し、ずらかる……のではなく、その場を離れようとした。
が、当然ながら呼び止められた。
「ところで、さっきうちのグルーネイを抱っこしていたけど、どういう状況だったのかな」
とにかく突っ走る令嬢。
思考回路ぶっ飛んでます