4,入学式当日
「本日、この学校に入学された、紳士淑女よ」
お口を開くと残念な美青年代表、兄のリュートが司会進行の様だ。オルナーはそんなリュートの補佐をしている。
「存分に楽しみたまえ! ははは!」
悪役の様な高笑いをして挨拶を終えたリュートは優雅にお辞儀をした。そして、ウインク。
周りの女子達は頬を赤らめ、リュートをちらちら見ている。
「兄の、きちんとしていない挨拶をお許し下さい。伝えきれていない事をこの場をお借りしてお伝え致します」
ビュッフェ形式で用意されたご馳走を早速食べ始めるリュートをため息混じりに見ながらオルナーは話す。
「この度、多くの方が入学された事、大変嬉しく思います。既にご存知の方が多いと思いますが、この度シェーナ王室ナバル・シェーナ殿下、レイナハルン皇室ザーク・レイナハルン殿下が入学されました。ナバル殿下、ザーク殿下、出来ましたらこちらで挨拶をして頂きたいのですが」
私はホールの端っこで壁に徹していた。
つまらない。美味しいご飯食べたい。
兄上達はホールの真ん中で、リュートなど美味しい料理を食べ放題だというのに。
そんな事を考えながら昨日の事を思い出していた。
「で、ザーク皇太子と話したと?」
「はい」
「素顔で?」
「……はい」
リュートの膝がつってきたらしく、一旦椅子に座ることになった。
目の前からの圧が凄くて私はゆっくりと目を逸らした。
「あれですね、一生忘れられない顔をお見せしてしまったという罪悪感でいっぱいです」
「本当だよ! あーもう絶対に追いかけて来る」
無言で髪を梳いてくるオルナーが頷く気配がした。
「それって、ザーク皇太子の眼球を汚してしまった罪に問われる、って事ですか……?」
「ああ、もう頑固な油汚れ以上にへばり付いてしまった、網膜にフューネの姿が焼き付き、忘れられないだろうな。罪深い妹だ」
「その罪に問われたら……」
「あー、騎士になれないだろうね」
「それは困りますね……」
騎士になれない=将来の職を失う=死。これはまずい。
あわあわする私に、髪を梳くのをやめて頭を撫で撫でし出したオルナーが囁く。
「じゃあ、変装したらどう?」
耳元で囁かれ、キャッ、と声を上げるとオルナーが耳朶を噛んできた。むず痒いからやめてほしい。
「元の姿からかけ離れていればザーク皇太子も見つけられないよ、きっと」
せっかく兄が用意してくれたターコイズブルーのドレスを着れなくなったのは残念だ。
そうぼやくと兄二人に凄い目で見られた。
はい、自分のせいです。私が勝手に外に出てやらかさなければ着れていましたね。ごめんなさい。
ザーク皇太子にバレない様、伊達眼鏡、カツラは勿論、体格も変えることにした。
体にタオルをぐるぐる巻きにし、頬には脱脂綿を含ませ。
ぽっちゃり系女子の完成である。
脱脂綿のせいでうまく話せないし、美味しい料理も堪能できない。
辛いが、将来のためだ。美味しい料理は諦めよう。
でも。
友人は作りたい!
という事で私同様壁に追いやられている、話し下手そうな女子を物色することにする。
えーと。
全員可愛くて決められない。どうしよう。
とりあえず一番近くにいた絶世の美女に声を掛けた。
「もしもし、こんにちは。お一人で?」
可憐な美少女は首をこてんと傾げ、ふんわりと笑った。
「ええ、一人ですが、間に合っております」
振られた。
ガーン、という効果音の聞こえそうな空気だ。
「そう、ですか」
「ええ」
では、と言ってその場を去っていった美少女は挨拶を終えた王太子に駆け寄り、親しげに話し始めた。
あー成る程。
その美貌で王太子のハートをキャッチ出来るから有象無象がいなくても良いと。
ショートカットの、キャラメル色の髪を持つ少女。
何処かで見た覚えがある。思い出せないのが腹立たしい。
その後、何度か令嬢にアタックしてみたものの、誰も友達になってくれなかった。
なんだか悲しくなって、華やかな舞踏会から抜け出し、誰もいないであろう場所へ行こうと決めた。
次回、王太子が主人公と話します。
因みに、途中出てくる美少女より主人公の方が可愛いです。