14,正体
ナバル視線での話になります
王室専用の防音室にラレンス達を連れてきた。
げんなりした顔で真向かいの椅子に座るラレンスと名乗る令嬢。こげ茶の短髪カツラで何とか髪を隠していたが時折日に照らされて金糸のような目映い髪が見えていたなんて知らなかっただろう。まあ、見えていたのは僕とニューウェーストの令息達とグルーネイの四人だけだろう。ザークとフローラ嬢には見えていないはずだ。コンマ一秒にも満たない時間だったから、動体視力の優れているものにしか見えない。
「さて」
謎解きをする探偵はこの言葉からよく始めると聞く。でも、僕がするのは謎解きじゃない。拷問のようなものだ。
「君は,一体誰なんだ?」
ゴクリと唾を飲み込むラレンス。名前が分からないので便宜上ここではラレンスという名を与えておくことにする。
「私の母はもともとメイドでした。そして、母に目をつけたどこかの貴族によって無理に子を孕ませられ、そのまま市井に逃げ込みました。私を産んでしばらくは母と一緒に住んでいましたがある日伝染病で無くなってしまい、孤児になりました」
震える声で言葉を紡ぐラレンス。ラレンス以外は立って話を聞いている。
「森の中を彷徨い、獣を狩って食べているところにこの方々がやって来ました」
ニューウェーストの令息を見ている。二人とも頷いているが、目が据わっていて怖いのだが。『こいつを虐めたら殿下でも容赦せんぞ』といった感じか。ラレンスを大変可愛がっているようだ。
「ニューウェーストの方々は私の剣の腕前を認めてくださり、自ら指導役となって私を育ててくださった。貴族の血が流れているとはいえ、貴族の名を書き記した書類に私の名はない。剣の腕を磨いていくうちに私は騎士になってこの国を守りたい、ニューウェーストの方々に恩返しをしたいと感じるようになりました。でも、女で騎士になったものは伝説にある方しかおられない。ならば、私は男の面を持って表で生きていけば良いのだ、と気付き、こうなっているのです」
一気に捲し立てたラレンスは肩で息をついている。す、とグルーネイが紅茶をラレンスに渡し、ラレンスは礼を言ってその紅茶を一気に飲む。
「殿下、隠していたわけではありませんが、言う必要はないと考え……グルーネイ、君はこの子は騎士になれると思うか」
リュートが横から言う。
これ以上詮索するな、と言っているようにも感じる。
「はっきりと申し上げまして、騎士になれるどころか、王室お抱えの騎士にだってなれます。もし、戦いが起きてラレンスが捕虜になれば優遇され、寝返らないか、と声をかけられるほど、殺さずに生かすほどの魅力がある騎士になるでしょう」
グルーネイが尻尾を揺らしながら答えた。ちらとラレンスを見れば期待に輝かせた目をしている。でも、グルーネイの言葉には続きがある。
「しかし、それは男であった際の話。ラレンスは女です。日頃男の格好をしていようと、獣人には匂いで分かってしまいますし、鼻の効かない人間であってもひょんな事から女であるとバレてしまう。騎士は基本礼儀正しく、をモットーに生きています。しかし、酒が入るとただの欲望に忠実な人間。なにか過ちを犯してしまう事だってあり得ます」
ラレンスは顔を強張らせて唇を噛んだ。ようやく塞がっていた傷が開き、鮮血が滴っている。
「ラレンスが騎士になる事は不可能です」
だん、と音を立ててラレンスは立ち上がる。いつも無表情な顔には絶望と怒りをごちゃ混ぜにした色が浮かんでいた。
「では、ラレンス。僕の国に来ませんか」
今まで口を挟まずに青い顔をしたり赤い顔をしたりと百面相をしていたザークが口を挟んだ。
「僕と、こん、こん、こん」
狐になっているザークを不思議そうな顔で見るラレンス。怒りやらは吹っ飛んでいったらしい。
「こん?」
ラレンスが追い討ちをかけると顔を真っ赤にしてザークは言い切った。表ではクールで通っているザークらしかぬ顔にフローラ嬢が驚いている。
「婚約をしてくれれば、皇太子の婚約者に手を出すなんてアホな輩は出てこないだろう」
「つまり、婚約をしないか、と言っておられるのですか? 市井育ちの私に。何処の馬の骨か分からない私に」
「そうだ」
天使がいた、可愛い、好き、結婚したいとうわ言のように言っていたがその相手はやはりこの人だったか。
プロポーズをしたザークにどう言葉を返すのか、僕はワクワクしながらラレンスが口を動かすのを待った。
フューネ、どう返すのでしょうか




