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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

無能だとパーティから追放されたポーター、S級冒険者に拾われてもだいたい無能(上)

「お前使えないからクビな。顛末はギルドにも報告しといた。お前がパーティに迷惑かけたぶんで報酬は相殺っていうかマイナスだ。そこの支払いは勘弁してやるからとっとと失せろ」


 何を言われているのかわからなかったけど、またか、とは思った。

 僕なりにこのパーティの人たちに貢献して、素材剥ぎだって頑張ったし、僕のことをまったく考えずに狩りまくってくれた大量の素材も、がんばって担いで持ち帰ってきたのに。


 冒険者たちはいつもこうだ。僕らポーター(荷物持ち)がどれほどパーティに尽くし、パーティの一員として支えようとしても、身勝手な事情であっさりクビにするし、隙あらばこうやって報酬をかすめ取る。


 だからって文句は言えない。戦闘能力が皆無なポーターが冒険者に逆らったところで、力づくで解決されてしまうのがオチだ。


「……お世話になりました」


 こんな惨めな思いをするのは、もう何度目だろう。

 僕にだって戦う力があれば、こんなことを繰り返さないでいいのに。

 戦えなくても、パーティの力にはなれる。ポーターだって冒険者の一員だ。そんな当たり前のことを理解してほしいだけなのに、いつもこうやって便利に使い捨てられる。



「ふうん、なるほど。そいつは悔しいねえ」


 安酒場で相席になったのを縁に、愚痴に付き合ってくれた女性が、トロンとした目でそう言う。

 愚痴でもなんでもいいから酒肴になる話をしてくれれば呑み代は持つというので、目先の欲に釣られた僕は今日の話をぶっちゃけた。

 美味しそうに杯を重ねていたので、本当に話題はなんでも良かったんだろう。


「同情してくれなくてもいいんですよ、賢者さん。最上級のS級職のあなたたちにしてみれば、僕ら最底辺のポーターなんてパーティにいないのも同然でしょ?」


 つい不遜なことを言ってしまったが、酔いが回ってきているので口の滑りが止まらない。

 怒りを買ったところで、なるようになれだ。

 どうせ数日は仕事探しに苦労するんだし、ここで叩きのめされたからって誰に迷惑をかけるわけでもない。


「いや同情はするさ。あたしらみたいな魔法職はとくに、ポーターの気が利くかどうかがダンジョン攻略のパフォーマンスに直結するんだから。勘違いしてる奴らが多いけどさ、ポーターってのは、パーティに欠かせない大切な役割じゃないか」

「え……?」


 この人は……? この人はあいつらとは違うんだろうか。僕らの価値をちゃんとわかってくれて、同じ冒険者なのだと敬意を払ってくれるんだろうか。


「もしあんたがまだ折れてないならさ、あたしとパーティを組んでみないかい? もちろん支度金は渡すからさ」


 酔いの勢いも手伝って、僕はその話に一も二もなく飛びついた。

 この人とならまともな冒険ができる。そんな確信があった。



 迷宮に入ってすぐ、僕は呆然としていた。


「ここが、10階層……」

「来るのは初めてかい? まあ、あたしに任せとけば問題ないよ。瞬間蘇生だって使えるからね」

「な、なるべく蘇生しなくてもいいようにお願いします……」


 いくら最上級職の賢者だからといって、ソロで10階層なんてのは正気の沙汰じゃない――と思う。

 ポーターは戦闘の邪魔にならないように後方に控えているが、こちらにまでモンスターの攻撃が流れてくることはある。

 そういった攻撃はすべて自力で回避することになるのだが、10階層のモンスターを目にするのは今日が初めてなんだから、どんな攻撃が飛んでくるのか、どう避ければいいのかがさっぱりわからない。


 しかし、女賢者――タチバナさんは強かった。

 風の刃だという魔法でモンスターの手足や首をすぱんすぱん飛ばして、あっという間に戦闘が終わる。

 初見のモンスターなのでどこの素材を剥げばいいのかわからないと訊いても、すぐに答えてくれるので僕の仕事もはかどった。


 持ち込んだポーション類が底を突きそうになったところで、そろそろ帰還しようという話になった。

 これほど順調に探索が進むなら、支度金でもう少し多めにポーションを仕込んでおけば良かった。こういうところの反省はしっかりやって、次に繋げなきゃいけない。


 しかし、帰還の転送陣まであと少しというところで、そいつは現れた。


「あー、こりゃあ運が無いね。手持ちの魔力じゃきつい相手だ」


 そいつは通路を塞ぐほどに巨大な、一つ目の巨人。酒場やギルドで噂だけは耳にしたことがある。遭遇すればパーティの崩壊は必至と言われる、10階層で最強のレアモンスターだ。

 こちらにはまだ気がついていないが、転送陣の前に立ちはだかり、獲物が来るのを待ち構えている。


「あんたさ、ちょっとあたしの前に出て、盾になってくんない?」

「は?」


 この人はポーターに何を言っているんだろう。前に出るだけならともかく、盾になれって。


「あいつさ、魔法を反射してくるのよ。でも反射のシールドは再生に時間がかかるから、中威力の魔法を続けざまに撃ち込めば、現状の魔力でも倒せるはず。ただ、あたしが反射を受けて致命傷を負うと、シールドがなくなった隙にあいつを倒せるやつがいなくなるだろ? だからあんたが盾やって」

「いや、それってポーターの仕事じゃないですよね!?」


 パーティには役割がある。前衛が体を張って、後衛が支援や決定打を受け持って、ポーターはポーションや武器を渡したり素材を剥いだりだ。

 ポーターが前衛をやるなんて、聞いたことがない。


「ポーターの仕事とかじゃなくて、あんた冒険者の一員だって、自分で言ってたじゃないか」

「それはそうですけど、だからって僕が盾をやる理由になります!?」

「戦えって言ってるんじゃないよ? パーティの力になるために、前に出て体を張ってくれって言ってるだけ。中威力の魔法数発とあんたを蘇生するぶんの魔力はあるから、それがベストなんだけど?」

「いや、そんなの無理ですよ。あそこ転送陣だしそのうち他のパーティの人たちが来るから、そいつらに任せましょうよ」



「……ぐだぐだうっさいねえ――」



 どん、という衝撃に驚いて首を後ろに回せば、女賢者に蹴り飛ばされたのだとわかった。


 頭をかばいつつ受け身をとって、顔を上げたところで一つ目の巨人と目が合った。


「ったく、なんでこうもあんたらみたいなのは、口ばっかり偉そうなこと言って覚悟がないんだい?」


 後ろからは苛立ちを隠すことなく吐かれるタチバナさんの言葉。前からはゆっくりと巨人が迫ってくる。


 足が――竦んで、動けない。


「ポーター以外の連中だけが痛い目をしろってかい? それのどこがパーティの一員だって言うのさ」


 動けないはずなのに、身体がふわりと持ち上がる。これは――風魔法!?


「仕事を請け負ったのにあたしに何ができるのかを聞きやしないし、賢者がどれほどの魔力を必要とするのも分かってない。どの階層を探索するのか、そんな当たり前のことだって聞きやしない」


 どんどん浮かび上がっていく身体がようやく止まり、僕は空中に固定された。


 巨人の目線と、女賢者とを結ぶ線上で。


「素材剥ぎの勉強だってしてないし、手際も悪い。浅層のモンスターの素材だって、ろくに剥げずに無駄にしてるのが丸わかりだ。あんたが下手くそなせいでパーティがどれだけの儲けをフイにしてるのか、想像しただけで同情するよ」


 前方から迫ってくる巨人と、後ろから囁かれる魔法の詠唱。

 タチバナさんは本当に、僕を盾にして魔法を撃つ気だ。


「あたしが渡した支度金を、どうして余らせた? 1回の探索でパーティがベストを尽くせるように、最大の備えをしておくのがあんたらの仕事じゃないのかい?――爆ぜよ獄炎(ブレイズ)


 後ろから猛烈な熱気が襲いかかってきたかと思ったら、僕の左右を炎の川が流れていく。

 その川は巨人の目の前でひとつになり――僕に向かって跳ね返ってきた。


 熱い、と思う間もなく呼吸ができなくなった。

 僕という存在が残っていることだけがわかるけど、もう何も見えないし、何も聞こえない。


「……どうしてこうどいつもこいつもハズレなんだろうね。やれ役割だのやれジョブだのって、冒険者としていちばん大事なものを持ってるやつってのは、もうどこにもいないのかい?」


 2発目の獄炎で巨人を倒したらしいタチバナさんがそう言って舌打ちするのを、僕は消し炭のようになった自分の死体と一緒に眺めていた。死ぬと魂になるって、本当なんだな。


「まあ、あんたら風に言うなら、仕事はこなすよ(・・・・・・・)蘇生レイズ


 足元からどこかに吸い込まれる感覚があったあと、しばらくして僕は蘇生した。


 迷宮から出たあと、素材の入ったリュックを乱暴に僕から引き剥がし、タチバナさんはこう言った。


「あんたはポーターにだって向いてないし、そもそも冒険者じゃない。他の仕事を探したほうがいいよ」


 そんなことを言われても、もう悔しいと思える感情は残っていなかった。


「だけどさ、あんたがそれでも冒険者を続けたいんなら、あたしは止めないよ。これ、餞別」


 そういって女賢者が無造作に放り投げた袋は、唖然としている僕の目の前でゆっくりと放物線を描いて地面に落ちて、じゃらん、と少なくない金の音をさせた。



 冒険者としての覚悟――それはポーターに甘んじていた僕に、決定的に欠けていたものだった。


 同じような境遇のポーター仲間たちと何度も安酒場で愚痴を言い合ったが、僕がタチバナさんに言われたようなことを気にしてたやつは、誰ひとりとしていなかった。


 自分がちゃんとやっていないことを棚に上げ、自分だけは正当化して、戦闘職の粗探しばっかりやっていた。


 今は、そんなクソみたいな自分に気づくことができた僕が、あいつらより遥かに恵まれてるという実感がある。


 装備を整え、今日も仕事場に向かう。


「おう、冒険者。今日は収穫か?」

「そのあだ名はホントに勘弁してよ。もう冒険者なんかこりごりだ」


 人には向き不向きがある。僕はこうやって田舎に帰って農夫になって、リンゴの世話をしたりするのがいちばん性に合ってたみたいだ。


 冒険者としての覚悟なんてものに命を賭けてたら、命がいくつあっても足りないよ。

そのうち同じ設定でもう1本ぐらい書きたいので、(上)ということにしてあります。

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