【トイフェルラント式メガフロート】
――トイフェルラント生活一八〇〇日目。
リオの懐妊を祝福するように、自宅近くの道端に植えたリンゴの木に、開花の兆候が確認された。剪定を行った際に小さな花芽が見付かり、春の中頃に開花すると考えられている。
傷付いていたとはいえ、ある程度成長していた苗木を植えたため、今年の開花となったモノと思われる。病害虫に悩まされることも無く、ウルカと火山灰の悪影響を奇跡的に乗り越えた、幸運のリンゴの木だ。
追肥を行っておいたので、開花して受粉を行ってからは、果実を肥え太らせるために摘果作業をすることになるだろう。そして秋にはウルカバレー産のリンゴが、初めて収穫できるようになる。
重なる慶事を記念して、国の花をリンゴ。国の鳥をヒュプシェとした。どちらも白くて綺麗な花と鳥であるので、政府内に反対意見は無かった。唯一、どちらも食べ物関連だという指摘が、閣僚の一部から出たくらいだった。
日本も国鳥の雉を鍋にして食べていたのだから、別に問題は無いだろう。
◇◆◇◆
先日の南極海での一件で両国政府が事後処理に追われている間に、アルトアイヒェの廃材を再生して製作した板材が量産された。ペルフェクトバインによる回収作業に加え、近衛軍の演習を兼ねた基地外活動によって、アルトアイヒェの倒木の一部が解体され、鉄道輸送によって谷まで運ばれてきたことで叶った量産だった。
この板材をさらに加工して、二メートル四方の立方体を大量に製造する。この立方体がブロックの遊具のように積み重ねられることで、巨大な寄木細工のような板材の塊が完成する。
この塊を海に浮かべて連結させることで、錆びることのない木製のメガフロートが出来上がる。アルトアイヒェは水にも強い特性を持っているため、木材の腐敗の心配も少ない。
このメガフロートは、二メートル四方の立方体で構成されている特徴を生かして、損傷部位の部分排除や交換が可能となっている。これはダメージコントロールを兼ねた沈没対策で、スキュラのような水中の脅威に対して、メガフロート全体の安全性を確保する目的の構造となる。
海底資源基地の外殻構造を食い破るような巨大生物が相手では、サーフボードのような一枚板の水上構造物では、あっという間に底を食い破られて沈んでしまう。そこで無数の水密構造の集合体としてのメガフロートを作ることで、ある程度の被害までは確実に沈まない耐久力を持たせたのだ。
その結果、縦横それぞれ二〇〇メートル、高さ二〇メートル分の第一次生産分が完成していた。
今日はこのメガフロートを海上で組み上げて、実用テストを開始することになる。
トイフェルラント南方の海上は、陸地から少し離れた辺りから外洋となる。そこから先は、惑星を一周してトイフェルラント北方に至るまで、全て海しか存在していない。
過去の大戦で全ての大陸が失われ、唯一残った陸地が現在のトイフェルラントだけだからだ。それでも、海底の地形は平坦ではない。海嶺もあれば海溝も存在するからだ。
トイフェルラントの周辺海域は、深さ一〇〇〇メートル以上の深海が広がっている。これは先の大戦時に張られた結界による影響だ。大戦の最終局面において、当時のトイフェルラント大陸も戦闘の余波で消滅する末路を辿ったためだ。
ツァオバーラントを用いたトイフェルラント領海内の海底調査の結果、海底には起伏に富んだ海山地帯があり、複数の海底熱水噴出孔が確認された。その他は海底火山や大深度の海淵は存在は認められなかった。
どうやら現在のトイフェルラントは、大陸プレートの内側にできた火山を中心とした、一種の火山島のような姿となっている。地球の地形で想像しやすいのが、東京都の小笠原諸島にある青ヶ島だろう。八丈島の南方約七〇キロメートルにある青ヶ島は、周囲を上陸困難な急斜面に囲まれた、面積が六平方キロメートル程度の火山島だ。
島には居住者がいるものの、外洋にぽつんと存在しているために波が荒くなることが多く、船での上陸にかなりの不便を被る絶海の孤島だ。日本の有人島の中では、上陸難度が非常に高い島としてその筋には有名だ。
トイフェルラントの沿岸部に関しては、海底から冷たい海水が湧き上がる湧昇域となっているため、海上の波のうねりは外洋としては穏やかだ。しかし、たった数キロメートル先の沖合には巨大な暖流や寒流が流れているため、条件によっては沿岸付近まで海が荒れることもあった。
だがこの海の環境は、トイフェルラント近海を豊かな漁場としている。惑星オディリアの北と南の極地には、夏でも溶けることのない氷塊が存在していた。この氷塊によって惑星規模の海底海流が失われずに済んでいたモノと考えられている。
この海底海流には栄養が豊富に含まれていて、この海水が湧き上がることでプランクトンが繁殖して、それを食べる小型の生物、さらにその生物を捕食する大型生物が集まる豊かな漁場となるのだ。
またこの海底海流が長い時間を掛けて移動することによって、外洋の汚染物質を海底に沈殿させ、海水の浄化を行っているのではないかと考えている。
自然環境に致命的なダメージを受けていた惑星オディリアだったが、その自浄能力までが完全に失われていなかったことに感謝したいところだ。
話を戻そう。
トイフェルラント近海は豊かな漁場があり、時として外洋の荒波にさらされる厳しい自然環境の海となる。その海で素人考えの木製メガフロートが実際に使用できるのか、これの結果如何では、恭一郎の計画する遊園地の構想に大きな修正が加えられることになってしまう。
今回は今後の計画の成功を占う試金石となる、非常に重要なテストなのだ。
◇◆◇◆
この日は珍しく遥歌とハナの予定が空いていたので、二人にも手伝ってもらい、メガフロートの構成パーツを海上まで一緒に運んでもらった。それぞれが自分の専用機に乗り込み、移動用にパッケージングされたコンテナを牽引する。
遥歌は水中での作業を見越してフェアヴァンテを持ち出して、その巨体を生かした荷物の大量輸送を引き受けてくれている。
ハナは恭一郎と一緒にペルフェクトバインには乗らず、自身のフォーレッグ型パラーデクライトを選択していた。小型機であるパラーデクライトでは多くの荷物が運べないのだが、先日の海戦を受けて開発された海中用の新装備『メーア・ユングフラオ』の使用テストを兼ねている。
基本が陸戦仕様のパラーデクライト用に開発された、空戦と宇宙戦の次ぐ三種類目の特殊攻撃戦闘機となる。特殊戦闘攻撃機ということで、それぞれの機体は空中と宇宙での移動が可能である。それに加えて水中でも移動を可能としたのが、このメーア・ユングフラオだ。
他の特殊攻撃戦闘機よりも一回り大型化されたメーア・ユングフラオには、複数のパワーパックの代わりに、フェアヴァンテにも搭載されている簡易型の魔力縮退炉を使用している。合わせて推進器も魔力融合ロケットを採用していて、水中でも高い推力を得ることに成功した。追加の装甲にも魔力融合ロケットが配置されているため、抵抗の大きい水中という環境下であっても、その機動力と運動性は高い次元で確保されている。
メーア・ユングフラオを装備したパラーデクライト・メーア・アングリフの姿は、かなりの重装型機体の様相を呈している。その理由は、耐水圧構造のためではなく、水の抵抗を軽減するためとなっている。
空中や宇宙とは違い、水中では水深と共に水圧が上昇して行く。陸戦用のパラーデクライトは浅瀬はともかく、深海では機体が水圧で潰れてしまう。そこで空間歪曲場でパラーデクライトを覆い、機体に掛かる水圧を空間面積で強引に分散させているのだ。
また、大型化された追加装甲の内部に、水中用に新たに開発された魚雷やクローアンカーなどの中遠距離用の武装が内蔵されており、水中という特殊な環境下での戦闘を有利に進められるように工夫が行なわれている。
なお、今日は装備してきていないが、試作型の水中戦用銃が開発されている。オディリア統合軍が採用している炸薬発射式の貫通弾型ではなく、誘導補助方式の銃身開放型を採用している。この構造を簡単に示すと、円筒形となっている銃身を三本の棒だけに切り取り、完全に外部へと銃身内部が解放された特異な構造となっている。
三本の誘導補助銃身が銃口に当たる部分や銃身の途中だけで部分的に固定されている構造は、銃身の寿命を延ばすことと同時に、水中での得物の取り回しをも考慮した作りとなっている。円筒形の銃身では銃身が水を切り裂くように抵抗を生んでしまうが、解放された銃身は少ない抵抗で素早く水の抵抗を受け流してくれるのだ。
発射される弾丸にも、独自の構造が組み込まれている。使用される弾丸自体の形は通常のライフル弾と同じ流線型をしているが、弾の構造は爆発用の弾頭が搭載されていないロケット弾のそれに近い。つまり、炸薬で強引に弾丸を撃ち出すのではなく、弾自体が推進力を持って飛び出す仕掛けなのだ。
弾を発射する初速こそ炸薬式のモノより劣っているが、水の抵抗による速度減衰の激しい環境では、継続して推力を得る方式の方が射程も長く、弾速もある程度維持される。また、弾の持つ推進力は魔力であり、圧縮された魔力が噴出するだけの単純な構造であるため、製造コストも非常に安上がりとなっている。
ウルカバレー南方二キロメートル付近の海上へと移動した一行は、メガフロートの材料となる木の箱を海上に浮かべた。海上は多少の波と潮流があったが、この季節としては比較的穏やかな環境だった。
『しかしまあ、よくこんなことを思い付くわよね。海上に遊園地を作ろうだなんて』
恭一郎に乞われるまま、事前にメガフロートの構造を詳しく解説していた遥歌が、箱舟級大都市艦とは根本的に違う方式でメガフロートを作り上げようとしている義兄に対して、関心と呆れがない交ぜになった感想を口にしていた。
『これも金策の一環です。いくら恭一郎さんが通貨の価値を保証しているからと言って、財政状況を無視してお金を発行することは金融崩壊の危険がありますからね。この世界に足りないサービスを提供して、そこから利益を得ようというのは自然な考えでしょう』
実はこのメガフロート建設計画に最も協力的なのが、意外にもミズキであった。ミズキは並列型量子コンピューターの登場によって、以前よりも格段に直接的な影響範囲を広げていた。
そうして直接基地の外の世界を知ったことで、恭一郎と同じ娯楽の偏りと欠如を感じ取っていたのだ。基地の管理運営だけにリソースを振り分けていたころとは違い、今のミズキには実体となる身体が存在しない替わりに、人間に準じる広範な自由を手に入れていた。
これまでの様々な経験から自己進化を遂げ、時として人間以上に人間臭くなっていたミズキは、いつしかこの世界そのものに愛着が湧いていた。より簡単に言い表すならば、この世界を気に入ってしまったのである。本来命を持たない機械の存在である自身や、その簡易複製体であるアンドロイド姉妹達をそれぞれ違う個として理解し、この世界に存在する独立した人格として尊重して優しく対等に受け入れてくれた、機械にとっても理想的な世界であったからだ。
ミズキにとって心地良い世界を作り上げてくれたのが、本来ならば異論を唱えることも許されない絶対的な存在である、創造者にして統治者たる総司令官の恭一郎だった。その恭一郎が危機的状況に応じた打算だったとはいえ、ミズキを対等な立場の仲間として行動を共にし、時を経ることによって欠くべからざる家族にまで関係を昇華させてくれた。それはミズキの持つ存在理由の中には存在しない、望外の奇跡であった。
そんな奇跡を起こしてくれた恭一郎に対して、ミズキはまだ受けた分の恩を返し切れていないと考えていた。世界が閉ざされたままだった頃、厳寒で外に出られない冬籠りの時期に暇を持て余していた恭一郎が、仕事をしているミズキやハナを慮って一人遊びに苦心していたことを知っていた。当時は困っている恭一郎に応えてあげられるような余裕が無く、忸怩たる思いであった。
そんな思いがあり、状況が大幅に改善された現状こそが、恭一郎のために行動する好機であると判断していた。そして恭一郎から遊園地の構想を相談された折に、ミズキは進んで海上にメガフロートを浮かべて用地を確保するという進言をしていた。
そのような経緯があり、ミズキは恭一郎に非常に協力的だった。
「このメガフロートが期待通りの性能を発揮してくれれば、大きなアトラクションも建設できるはずなんだ。この世界の住人達にとっては、安全にスリルを味わえるような絶叫系の施設は、かなり需要が高いはずなんだ」
恭一郎が念頭に置いているのは、トイフェルラント国内に住む亜人達だけではない。オディリア共和国の人間達も、この遊園地利用者の想定に含まれている。
亜人達は基本的に形態の差異を除くと、人間よりも頑丈な身体をしている。それが本能的な荒っぽさの一面に繋がるのだが、エアステンブルクの子供達を見る限り、少々刺激的な遊びへの許容値が高いように思われた。
一方の人間側は二〇〇年ほど軍事優先であったため、生半可な刺激では満足できないようだ。遥歌の証言から受けた印象では、幼少の頃に機動兵器への適性を図るために高性能なシミュレーター訓練を受けさせられるというので、こちらも絶叫系アトラクションとの親和性が高い物と判断している。
このような事前調査の結果、ローラーコースターや垂直移動に遠心力回転系の絶叫マシンは、普段の遊びでは味わえないような刺激が、安全にかつ大規模に味わうことだ出来るだろうと結論付けた。それに合わせて、コースを移動しながらのシューティングゲームや、ゴーカートのようなレーシング施設も、利用者達の心をしっかりと捉えると考えている。
『絶叫系も良いんですが、ワタシは子供や家族向けのソフトなアトラクションが良いです』
恭一郎とは違った視点で希望を述べるのは、最強の傭兵の二つ名を持って新兵の訓練では鬼軍曹と化しているハナだ。そんな厳しい仕事をしているハナだが、姉妹の中で最も精神年齢が低いためか、エアステンブルクの子供達と進んで交流する子供好きな面を持っていた。
『メリーゴーラウンドとか、バルーンハウスとか、大型遊具とか、対象年齢を低くしたモノが欲しいですね』
ハナが望んでいるのは、小さな子供のいるファミリー層向けの施設のようだ。確かに身長や体格に制限を掛けなくてはならない絶叫系アトラクションだけでは、利用者層に著しい偏りが出てしまうことは明白だ。
他にも迷路のような体験型施設や、屋内での謎解き脱出モノも用意してみるのも一興だろう。それに合わせて、レストランや休憩スポットも複数設置することで、いつでもどこでもすぐに一休みすることができる体制を整えておく。飲食物を始めとする物販は、遊園地における収益の大きな柱となる。
『それで言うなら私としては、観覧車とか映画館みたいな施設が欲しいわね』
話の流れに乗って、遥歌も自身の要望を口にした。
「随分と大人しいチョイスだな。遥歌ならもっと、絶叫系のアトラクションを増やすように言ってくると思っていた」
『随分と失礼なことを言うわね、恭兄さん。私だってリオ姉さんと同じ女性なのよ。ゆっくり誰かと一緒に過ごせる施設があって然るべき、と言っただけよ。恭兄さんだって、リオ姉さんと二人だけで、ゆっくりとしたい時だってあるでしょ?』
「大変お見逸れいたしました。家族水入らずへのご高配を賜りまして、この場で厚く御礼申し上げます」
遥歌の言うところは、カップルや夫婦が対象の施設も備えるべき。というモノだった。遊園地はデートスポットとしても非常に魅力的な場所だ。そのことを思い出させてくれた遥歌に丁寧な礼を述べたところ、『分かればよろしい』と恭一郎の謝罪は素直に受け入れられた。
「それぞれの希望はともかく、今回のテスト結果で計画の可否が決まる」
この場にはいないリオからも、美味しい料理がたくさん食べられるフードコートの要望が入っているため、恭一郎としてはメガフロートの制作に奮起している。
「メガフロートの各構造体に、システムの起動指示」
『起動指示送信。連結機構の起動を確認しました』
ミズキを介して、海上に浮かぶ多数の木箱へと信号が送られた。
各個が内蔵するシステムが立ち上がったことを確認した恭一郎が、ペルフェクトバインの腕で木箱を掴み、木箱同士を接触させた。
「連結作業開始。魔力注入」
『連結機構の作動を確認。構造体の位置情報を入力、成功しました。空間座標による接続は成功です』
ペルフェクトバインによって微弱な魔力が流された二つの木箱が、海上で見事に一つの浮体となった。それと同時に、波や潮流に逆らって動かなくなる。
『相変わらず、魔法っていうのは無茶苦茶よね。海が深すぎて錨が使えないからって、空間座標にメガフロートを固定してしまうのだから』
遥歌が説明口調よろしく、目の前の光景に呆れてぼやく。
その発言通り、このメガフロートはウルカバレー南方の海上に固定された。波の荒く水深の深い海の上では、メガフロートは海の状況によって位置が定まることはない。そこで恭一郎達が編み出したのが、魔導具による空間への固定であった。
「加工と一緒に魔導具化させたことで、製造コストはかなり抑えられた。この魔法は、結構応用範囲が広そうだな」
次々とメガフロートの構造体を繋ぎ合わせて、魔力を流して連結させる。ペルフェクトバインの連結作業を手伝い、遥歌のフェアヴァンテとハナのメーア・アングリフが恭一郎に構造体を手渡して行く。
やがて全ての構造体が繋ぎ合わされ、第一次生産分のメガフロートがその姿を現した。
先日の簡単な板でのテストを大規模にしたようなメガフロートは、見事に海に浮かんでいた。波や潮流に翻弄されることなく、同じ海上に止まり続けている。
「まあ、こんなものだろう」
構造材を接続しながら魔力を流すという作業の繰り返しは、単純であるがゆえになかなかの疲労感を恭一郎にもたらしていた。とはいえ、このテストが成功した暁には、この作業をこれから何度も繰り返すことになる。この程度の作業で根をあげてはいられない。
「すまんがハナ、メーアでこのフロートに乗ってみてくれ」
『はーい。一番乗りぃ~!』
ハナが魔力融合ロケットのブースターを噴かして、フロートの上に飛び乗った。重装型の四脚機が重たい金属音を発て、木製の人口の大地に四本足で立つ。
『こいつ、乗れるぞ!?』
「当然だ。ベタなボケをありがとう」
ハナの機体は重装型となっているが、それでも小型機の範疇に収まっている。金属並みの強度を誇るアルトアイヒェから造られた構造材を魔法で繋ぎ合せた特別製のメガフロートが、この程度で転覆しては意味が無い。
そんなことを感じている恭一郎の目の前で、まだ誰も足を踏み入れたことのないメガフロートへの上陸に気分を良くしたハナが、メーア・アングリフで飛んだり跳ねたりと大はしゃぎである。
「小型機が活動する分には、全く問題なさそうだな」
『構造材表面の損傷は、今のところ確認できておりません。さすがにアンカーを打ち込まれたら、穴ぐらいは空きますが』
フォーレッグの脚部には、特に性能の良いアンカーボルトが付属している。反動の強いへヴィーウェポンを使用する際に、機体を固定して精密に狙いを定めるために使われるのがアンカーボルトである。もっとも最近は機体の高性能化が急激に進み、ヘヴィーウェポンも機体を固定せずとも使用できたりしている。
『さすがに私のフェアヴァンテが乗ったら、足元が凹みそうね』
三〇メートル級の大型機を操る遥歌が、メガフロートへの上陸を遠慮していた。上陸すること自体は不可能ではないが、自重を支える接地面にのみ負荷が集中することが確実となるため、構造材の部分的破損を危惧していた。
「もう少しメガフロートの面積を増やして、魔法で強度を強化すれば乗れるようになるはずだから、それまでは我慢してくれ」
原状のメガフロートの想定では、二〇メートル級のペルフェクトバインまでの中型機の荷重に耐えられるように設計されている。そこでペルフェクトバインを海上から浮かび上がらせ、静かに人工の大地の上に立たせた。
「なかなかの出来、のようだな」
波や風の影響を全く受けない木製メガフロートの感触に、恭一郎はまずまずの手応えを得ることができた。
『ペルフェクトバインの荷重にも耐えられることが、実証されました。後はこのまま海上に浮かべ続けて、詳細なデータを揃えるだけですね』
「見切り発車で浸水なんかが発覚したら、かなりの損失になるからな。『急いては事をし損じる』ってやつだ。設置予定のアトラクションのテストも控えているから、一歩ずつ確実に作業を進めて行こう」
この日、トイフェルラントの南方に小さな人工の陸地が誕生した。その後もゆっくりと時間を掛けてその面積を広げて行ったこの陸地は、惑星オディリアで最初の大型総合遊戯施設となる。だがそれは、もう少し先の話となる。




