【南極海海戦】
スキュラの解剖を終え、会議室へと戻った恭一郎達は、ジェニス達との協議に入った。
「俄かには信じられないが、これが現実というモノなのでしょうね。鋼鉄すらも噛み砕き、船を沈めて乗員を喰らう海の怪物スキュラ。我々の持つ対潜装備で、どこまで対抗できるのか……」
恭一郎からスキュラに関する見解を聞き、ジェニスが渋面を作って唸る。南部方面第六軍第二師団、通称ナウシカ学校は、実戦形式で兵士の練度を向上させる教育部隊としての側面を持っていた。
ドートレスを始めとする少数の精鋭教導人員の下に、新兵や能力向上を目指す教育課程の兵士達ばかりで構成されている。早い話が兵士の質に斑があり、大規模な作戦を展開できるほどの連携が難しい部隊構成なのだ。
しかも貴重な精鋭の一部を救助隊として海底基地へ差し向けて失っていたため、ナウシカ学校の指揮統制能力が低下してしまっている。連携の取れない大規模な部隊など、身動きが鈍くなって本来持つ力を発揮できない。
「水中用の『ディープダイバー』は、半数が未帰還。新兵用の『ディープトレーナー』も予算削減で、半数が保存処理済み。後は艦艇と艦載機の対潜噴進誘導魚雷と対潜噴進爆雷、誘導魚雷だけだからな。取り付かれたら為す術がない」
ドートレスが指折り数えて、水中用CAの数を計算している。どうやら現在使用可能な機体の数は、五〇機程度しかないらしい。それで急遽、メサイア用の水中用モジュールをネレウスに運搬させていたようだ。
しかしなぜ、そのような重要な装備を空輸でもメサイアでの直接回収でもなく、大型輸送艦を使用したのだろうか。
「ドートレスさんは、戦力に含まれていないのですか?」
恭一郎の疑問に、ドートレスが頭を掻いて応える。
「実はオーバー・レイにガタが来てしまって、お偉いさんに接収されてしまっているのです。それで後進の指導に当たっている次第で……」
「現場での指揮に定評がありますからね。その知識を学べるのは貴重な機会ですよ」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、指導する相手に少々問題がありまして……」
ドートレスがそう言い淀んでいるところへ、伝令の訓練兵が会議室への入室を求めてきた。すぐさまジェニスが許可を与え、女性訓練兵が入室してきた。
「准将へ報告します。定刻通り、往還シャトル四機が間もなく到着します。続きまして、教官に報告します。訓練機の艤装が完了しました。教官機共々、全機出撃可能です」
どことなく笑みを堪えているような女性訓練兵が、恭一郎とハナの存在を見て、表情を瞬時に平静を装って整えた。
「恭一郎殿。紹介しよう。彼女は私が担当している訓練部隊『フェアリーズ』の隊長を務めているダリア准尉。私達の娘だ」
「まったく、誰に似たのか、CAにご執心なのです」
ドートレスとジェニスが、揃って親の顔になっていた。ドートレスが娘にCAの訓練を行っていることを、元夫婦が揃って難色を示している。本来ならば統合軍の人事で、家族が同じ場所に集まらないようにするのだが、訓練課程ならば問題ないだろうと判断を下してしまったようだ。
この場に集った家族関係を踏まえてダリアを観察すると、外見はジェニスに似て真面目そうだが、性格はドートレスに似て不真面目そうだ。
「ドートレスさんとジェニスさんのお嬢さんでしたか。初めまして、ダリアさん。烏丸恭一郎です」
「お初にお目に掛かります。ダリアと申します。父からお噂は予予伺っておりました。幾度も父が世話になっていたようで、娘としてお礼の挨拶をしたいと常々思っておりました」
さり気無くダリアが握手を求めてきたので、恭一郎は気安く握手に応じた。恭一郎と握手できたことに興奮気味のダリアが、興味津々とでも書いてありそうな笑顔を近付けてくる。
「ダリア准尉。他国の要人に対して、失礼です。立場を弁えなさい」
娘の機先を制して、ジェニスがダリアの接近を中断させた。
「その方は、止めておきなさい。いくら私でも、恋人以上の存在がいる相手には、決して手は出さなかったんだからな」
女性遍歴にも定評のあるドートレスが、その過去の片鱗を見せることで、娘の愚行を窘めている。
「承知しております。ただ、英雄と名高い方と浮名を流してみたかっただけであります」
どうやらダリアという女性訓練兵は、性癖も父譲りの奔放さを持っているようだ。さり気無くヒナが、ダリアの接近を阻止する位置へ移動していたところから見ても、割と本気で狙われていたようだ。
なかなかの食わせ者である。両親が止めなければ、普段は温厚なヒナが実力行使に訴えていたところだ。
「往還シャトルが来るということは、宇宙から誰か降りてくるのですか?」
とりあえず、場の空気を流す恭一郎。
「実戦経験の少ないレイア特尉達の『フィリーズ』を預かることになっていまして……」
レイアといえば、抒情戦役で初陣を飾り、続く紅星軍との戦闘である惑星アロイジア遠征戦、シズマ大統領命名の『星屑戦役』では全く出番のなかった、異父母の四人姉妹操者のリーダー格である。
オールド・レギオンの武装を参考にした試作兵器を装備したフォーレッグ機体を駆り、砲撃戦に特化した編制でありながら、互いにカバーし合うことで近接戦闘にも対応した、珍しい戦闘スタイルを確立している。
「あのお嬢さん達が訓練ですか。それで水中用装備を海路で輸送していたのですね」
「スキュラの一報を受けるしばらく前でしたので、他の物資と一緒に運ばれてくる予定だったのです。スキュラ出現の報告を受けて、急遽護衛艦を派遣したのですが、その後は閣下もご存じの通りでございます」
これでようやく、メサイア用の水中用装備が海路にて運ばれていた事情が分かった。スキュラという怪物が確認される前の行動であったため、スキュラへ対抗するためにも、物資の輸送が強行されたようだ。
◇◆◇◆
およそ半年振りに再会したレイア達異父母四人姉妹は、訓練課程が実戦に代わったことに緊張していた。それもそのはず。水中では得意の砲撃戦が行なえないため、魚雷のような遠距離攻撃か、格闘武器による近接戦闘しかできないからだ。
遠距離攻撃用の魚雷には携行弾数に限界があるため、基本的にCAでの水中戦は、近接戦闘の比重が高くなっている。本来ならばその弱点を克服するための実践訓練だったのだ。
水中ではメサイア自慢のゲージ・アブゾーバーが粒子の拡散によって使用不能となるため、防御力が低下してしまっている点も不安材料となっている。
その点で言えば、全地形対応のペルフェクトバインは、非常に恵まれた機体だ。メサイアのような機体モジュールの換装も無しで、魔力融合ロケットによる場所を選ばない推進装置で水中でも活動できる。
しかも空間歪曲場で周囲の水に働きかけを行うことによって、音速を超える速度での高速戦闘が可能となる。
だがそれを実際に行ってしまうと、周囲の水が派手に攪拌されることになるため、敵も味方も大迷惑な大災害となってしまうので注意が必要だ。
宇宙から降りて早々に、水中用装備への換装作業を始めたメサイアは、機体各部のブースターを水流を噴射するハイドロジェットに換装。ゲージ・アブゾーバーの代わりに、フラクタル・アーマーと呼ばれる、微小な六角形のフラクタル構造体を積層して構成された、衝撃を受けると身代わりとなって剥離する増加装甲が装備された。
武装は両腕に水中用突撃銃、両肩に補助アームでパイルバンカー、両背に対潜ロケットランチャーを装備した。そして可能な限り水中用突撃銃の予備弾倉を脚部に装着する。フォーレッグの機体を使っているだけに、脚部には他の機体よりも多くの予備弾倉を携行することが可能だった。
なお、この水中用突撃銃は、細長いダーツのような弾体を発射する銃で、銃身は内部にライフリングの溝の彫られたモノではなく、内部が滑らかな滑空銃身を使用している。
これは水中で、弾体の回転により弾道の安定するジャイロ効果が得られないためだ。ダーツのような細長い弾体は水の抵抗を極力抑え、水中での弾体の直進性を用いて射程距離を伸ばす工夫だ。
発射される専用弾は、戦車砲で採用されている離脱装弾筒付徹甲弾の構造と同じで、発射された弾体は銃身内を移動している間は装弾筒と呼ばれるケースに固定されていて、銃身から水中に飛び出した抵抗で装弾筒が弾体から離脱する。そうすることによって、銃身内で受けた圧力を確保した状態で、弾体が水中を長く直進することができるようになる。
水中用突撃銃は水中での取り回しを考慮して、非常にコンパクトなデザインになっている。銃の前方に持ち手のグリップがあり、後方に弾倉と発射機構を配置した、ブルパップ方式となっている。このことで、銃身や銃床の水中での抵抗を大幅に削減している。
しかし残念ながら、水中で使用するため射程距離そもそもが短く、水の抵抗によって水深の浅い条件でも一〇〇メートル以上の距離では、威力と命中精度が格段に低くなってしまう。水深が深くなるほど、有効射程は短くなってしまうことになる。
また、発射時に高い圧力に曝される銃身の寿命は非常に短く、三〇〇発も発射すると金属疲労を起こすとされている。そのため、予備弾倉に加え、交換用の銃身も数本装備されている。
ドートレスやダリアの使用する水中用CAのディープシリーズは、基本的にヘヴィーレッグタイプの重量級機体である。その理由は耐水圧構造を取り入れているため、水圧に耐えやすい球体構造を意識したデザインで統一されているからだ。
実戦用のディープダイバーと訓練用のディープトレーナーの見た目には、カラーリング以外に違いはない。その差異は内部の構造にあり、訓練用のディープトレーナーは主機や推力が訓練用に低めに抑えられていて、機体の構造も幾分簡素になっている。
武装は両腕にソニック・クロー・アンカー、両肩に対潜魚雷発射機、両背に対潜誘導魚雷発射機を装備している。基本的にソニック・クロー・アンカーが主兵装となるため、各魚雷は牽制の意味合いが強い。
◇◆◇◆
スキュラに対抗する戦闘態勢が整いつつあるナウシカの移動要塞守備艦隊へ、偵察機から一報がもたらされた。海底資源基地へと向かう移動要塞の進路上に、多数のスキュラの群が確認されたのだ。
直ちにジェニスが戦闘態勢を敷き、遠距離から海面下を群で移動するスキュラに対して、航空機による空爆が行われた。海上の航空基地たるナウシカから、爆装した攻撃機や爆撃機が次々と発艦して行く。
航空機用の爆雷や魚雷が雨霰と海面下のスキュラの群へと降り注ぎ、着弾地点の海面が沸き立つように水柱を生み出した。容赦のない航空爆撃によって、海がスキュラの血で赤く染まっていく。
遠く離れているスキュラの群を一方的に攻撃していた統合軍の艦隊は、目標を全滅させ事ができた。味方には一切の損害が無く、爆弾を掃出し尽くした航空戦力が、次々と帰還してくる。
だがこの時、スキュラの別の群が水中爆発音に紛れて、真下の深海から急浮上してきた。敵の発見が遅れた無防備な艦隊に、スキュラの群が迫る。
◇◆◇◆
各艦艇から大量の対潜武装が放たれ、周囲の海が騒がしくなった。その光景をナウシカの飛行甲板から観察していた恭一郎は、統合軍の迎撃を邪魔しないように待機を続けていた。
「船での対潜戦闘は、敵の姿が見えないから厄介だな。攻撃が当たったのかも静かにならないと解らないし、撃ち漏らしていたら接近に気が付き難い」
「少数の敵でしたら、多少は余裕を持って対処できますが、さすがにこの数の多さは怖いですね」
『混戦状態での水中では、近接戦闘による撃破確認が最も有効となるでしょう。水中用レーダーがあれば敵の状態が把握できるのですが、電波は水と相性が悪いですからね』
恭一郎の呟きに、ヒナとミズキが答えてくれた。
水中では電波が激しく減衰してしまうため、音による索敵が一般的だ。音波は水中で遠くまで伝わる特性を持っているため、自ら超音波を発して反響から水中の様子を捉えるアクティブ、相手の出す音を分析して水中の様子を捉えるパッシブのソナーを使用している。
しかし水面下で爆発や海流、気泡や塩分濃度の違う海水の境界などに影響を受けるため、どうしても正確性に難がある。目視でも確認できる距離がほとんどないため、水中戦は耳の良い方が有利となる。
だがスキュラは、臭いを嗅ぎ取る鼻と水流や水圧を検知する側線を持っているため、耳しか持たない統合軍は不利な戦況だった。そこで――。
『ミラージュよりフェアリーズ、全機スタンバイ!』
教官機仕様のディープダイバーに登場したドートレスが、これから出撃する訓練兵たちに声を掛ける。
『ヴィヴィアンリーダー。スタンバイ・レディ!』
『ニンフリーダー。スタンバイ・レディ!』
『シルフリーダー。スタンバイ・レディ!』
『ピクシーリーダー。スタンバイ・レディ!』
『サラマンダーリーダー。スタンバイ・レディ!』
一〇機前後で構成された五つの訓練中隊の隊長から、準備完了の返事が届いた。
「全員、女性のようですね。しかも、ダリアさんと同年代のようです」
通信から得た声紋を分析したヒナが、開示されていたナウシカのファイルから、訓練大隊の名簿を確認した。その全員が、二十歳前の女性ばかりだった。
「なるほどね。自分の娘と同年代のお嬢さんばかりが相手だから、さすがのドートレスさんも手出しができないからやりにくいのか?」
『いくら恭一郎殿でも、そこまで色欲に塗れているような誤解を与えることを言わないでくださいな』
独り言が友軍機に筒抜けだったようで、訓練兵たちの押し殺した笑いが漏れ聞こえてくる中、ドートレスが恥ずかしそうに抗議してきた。
恭一郎は素直に詫びて、ドートレスの体面を保つようにフォローしておく。
「こちらロイヤルバード。フェアリーズの諸君、作戦行動中はミラージュの指示に従い、落ち着いて行動するように」
『『『『『はい!』』』』』
「機体を失ったり怪我をした者は、作戦終了後に教官殿から手取り足取り個人指導してもらうように要請しておきます」
『『『『『えぇ~っ!?』』』』』
『勘弁してくださいよ!?』
「無事に帰ってこられたら、春のトイフェルラントに招待します。もちろん、私の結婚式へも出席できるようにしておこう」
『『『『『きゃぁ~!』』』』』
訓練兵のドートレスへの興味を結婚式への参加に移したことで、彼女達の士気は見るからに上昇した。ただ一名を除いて。
『こちらヴィヴィアンリーダー。私の場合、教官殿から個人指導を受けてしまうと、ただの親子の近親相姦になってしまうのですが?』
ダリアが恭一郎を挑発するように、父への誤解を助長する発言を行ってきた。
「ならば、君には私から、特別訓練プログラムを提供しよう。近衛軍の訓練に参加してもらって、父親に個人指導してもらえばよかった、と後悔させてあげます」
『トイフェルラントへは、結婚式への出席でお願いいたします!』
訓練兵たちへの激励を終えて、通信回線を切る。
「相変わらず、味方の士気を鼓舞することがお上手ですね」
『戦友のお嬢さんを死なせたくないだけでしょう?』
なにやらヒナとミズキが騒いでいたが、恭一郎は二人の発言を無視した。
やがて、ドートレスのディープダイバーが海中へと身を投げ、フェアリーズのディープトレーナーがそれに続いて入水を開始した。
要塞守備艦隊からの迎撃から逃れたスキュラの一部が、友軍艦艇に接触した。船体に手を掛け、頭部の口で装備品を壊し、腹部の口で船体を食い破る。
スキュラに取りつかれた艦艇は反撃することができず、致命的な損傷を受けて沈み始める。本来ならば乗組員は海上へ脱出して、艦艇の沈没に巻き込まれないように離脱することになる。
しかし海中には人間を喰らうスキュラが潜んでいるため、例え脱出艇を使用しても海上で餌食になる危険があった。そのため、多くの乗組員が退艦を躊躇った。そこへ――。
『乗組員の脱出を支援しろ!』
ドートレスの指示によって中隊規模のディープトレーナーが駆け付け、艦艇に取り付いたスキュラをソニック・クロー・アンカーで排除。他のスキュラが近付かないように周囲を固めつつ、救助に来た別の艦艇を護衛した。
守勢に回っている統合軍だが、反撃に出ている部隊があった。ダリア率いるヴィヴィアン中隊だ。彼女達は溺者救助の支援に回っている他の中隊のために、海中でスキュラの注意を引いて奮戦していた。
水中で目立つように陣形を組みながら攻撃を仕掛け、スキュラの攻撃を誘いながら、その死角にいる味方機からの攻撃で敵を屠る、互いを援護しながらの善戦を繰り広げている。
教官として各中隊を統率しているドートレスは、自身もヴィヴィアン中隊の近くでスキュラと対峙していた。愛機であるメサイアを上層部に召し上げられてはいるが、CA乗りとしての実力は折り紙付きだ。
ソニック・クロー・アンカーをスキュラの胴体に打ち込み、アンカーのワイヤーを巻き取りながら距離を詰め、対潜魚雷を直撃させてから、ソニック・クローで胴体を引き裂いた。
確実にスキュラを斃すための連続攻撃を見舞うドートレスは、水中用量産機でも堅実な戦果を挙げていた。
しかしながら、視界の悪い海中で敵味方の判別が難しい混戦である。死角からの接近を許してしまったディープトレーナーがスキュラに組み付かれ、機体を噛み砕かれてしまう。いかに耐水圧構造の重装甲の機体であっても、スキュラの鋭利な歯と強靭な顎の前では為す術が無かった。
そこへ海上から、一条の矢が降り注ぐ。海中を高速で突き抜けた矢が、機体を食い破ろうとしていたスキュラを脳天から貫いた。ペルフェクトバインから放たれた、ヴィシュヌの羽根だ。
「損傷機は後退しろ!」
実戦に臨む訓練兵を護るように、ヴィシュヌの羽根を上空に展開していた恭一郎が、戦闘の継続が困難になったディープトレーナーを帰還させる。これは統合軍に対する明らかな越権行為なのだが、指揮官が恭一郎の人命尊重の意図を理解しているため、戦闘指揮に専念して何も口を挟まない。
「フェアリーズの各中隊、損害が増えつつあります。そろそろ私達が本格的に介入しても良い頃合いではありませんか?」
水中用への装備交換が済んでいないメサイアを欠いたCA部隊の損耗状況を加味して、ヒナがペルフェクトバインの参戦を提案する。
「いいや、まだだ。訓練兵達の戦意は、全く衰えていない。貴重な実戦経験を俺達が横から掻っ攫ってしまっては、彼女達の今後に悪影響を与えてしまう。ここ間もうしばらく、援護だけに止めておく」
対する恭一郎は、勇敢にスキュラと対峙している彼女達の活躍を見守り、無駄にその命を散らさないように安全の確保に徹していた。
『接近してくるスキュラの密度が低下してきました。味方機の損耗も高いですが、現有戦力だけでも撃退が可能でしょう』
ミズキが一部のヴィシュヌを索敵に回し、敵の後続が途絶えたことを確認してくれた。その情報は、ナウシカのジェニスへも転送されている。
『敵の数が少なくなったからと言って、気を抜くな! 戦場での油断は、死に直結するということを忘れるな!』
ドートレスが脱落機の多いダリアの中隊と合流して、手薄になっている戦線を補強する。そこへ――。
『フィリーズよりミラージュ。これより我々も戦闘に参加する。作戦指揮をお願いしたい』
出撃準備の整った四機のメサイアが、援軍として参戦を求めてきた。
『フィリーズ各機は、ヴィヴィアン中隊と合流せよ。戦力を集中し、残敵を掃討する』
水中で活動可能となったメサイアが加わったことで、襲撃を仕掛けてきたスキュラの群は、程なくして全滅した。
この海戦において、統合軍は五隻の艦艇を失い、五〇名を超える戦死者を出した。水中用CAの中隊が救助に向かわなければ、犠牲はもっと増えていたことだろう。
善戦したCA部隊は半数が損傷して戦線を離脱していたが、幸いにして訓練兵から死傷者は出さなかった。危険な場面では恭一郎が手を貸していたことで成し得た、奇跡的な大勝利だった。




