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【色々と優しくない装備】

――トイフェルラント生活一七一六日目。




 リオの妊娠が判明した翌日。恭一郎がペルフェクトバインを安全に操縦できるように、リオの鱗から造られた新型の専用パイロットスーツのテストを行うことになった。

 龍のうろこで造られているアウタースーツに目が行きがちだが、アンダースーツにも例の特殊素材が使われていた。真龍化したリオのうろこの下にある、真皮と皮下組織及び筋肉を培養して加工した、龍の体組織の構造を再現しているバイオテックスーツだったのだ。

 その仕様は、恭一郎の想像の斜め上を行っている。

 元が龍の体組織であるため、アンダースーツには強力な環境変化耐性、耐衝撃や耐弾に耐刃性能が付加されていた。そのため、そう簡単には破損しない強度を持っている。

 また、恭一郎以外の存在を拒絶する安全装置が取り付けられていて、しかも拒絶する方法が常軌を逸していた。恭一郎以外が身に纏うと、アンダースーツが着用者を捕食してしまう、というのだから猟奇的だ。

 捕食されると生きたままアンダースーツに身体を侵蝕され、想像を絶する痛みが死ぬ瞬間まで続くという。無機物も有機物も分け隔てなく喰らい尽くすということなので、文字通り骨すら残らない消滅を迎えることになるだろう。

 恭一郎がペルフェクトバインの殺人的な性能に耐えられるように、身体強化の魔法が付与されていることは、昨夜の時点で聞いていた。だが、その魔法を発動するための方法までは明かされていなかった。

 アンダースーツには、リオの魔力収奪能力が盛り込まれていた。周囲の魔力を奪うことで、アウタースーツの身体強化の魔法が発動する仕様だったのだ。

 つまり、魔力が無限湧きするペルフェクトバインから魔力を得て、恭一郎が強化される仕組みだったのだ。しかしこの機能には問題点もあり、ペルフェクトバイン搭乗時以外に魔法を使用すると、周囲の魔力を無差別に収奪してしまうのだ。

 幸いなことに、魔力収奪能力は任意の制御が可能なので、存在するだけで周囲の魔力を奪うような、呪われたアイテムにはならないで済んでいる。

 このアンダースーツの仕様は、前述の程度では収まらない。

 唯一着用が認められている恭一郎がアンダースーツを身に着けると、安全装置が別の働きを行う。それはカウンターショックのような、生命維持機能だけではない。

 アンダースーツの活動エネルギーを補給するため、恭一郎の身体の老廃物のみを捕食するのだ。詰まる話が、身体の汚れである。余分な皮脂や新陳代謝で剥がれ落ちた皮膚などが、着用している間は絶えず捕食によって洗浄され続ける。

 それだけならば話が簡単だったのだが、排泄物までもが捕食の対象となっている。アンダースーツには長時間の作戦行動を可能とするため、局部にトイレパックが付属している。それを捕食機能が代行しているため、理論上は装備中に生理現象を気にしなくてよくなる。

 だが、心情的には、完全にアウトだ。リオの組織細胞が処理をするということは、どうしても糞尿・排泄行為趣向(スカトロジー)を連想してしまうのだ。恭一郎には、そのような性癖がないのだから気が引ける。




 アウタースーツにもアンダースーツと同じ素材が使われており、アウタースーツ本体と各部の鱗板を繋ぐ構造がそれだった。これにより、アンダースーツの魔力がアウタースーツにまで伝達される仕組みになっていた。

 アウタースーツのプロテクターやアタッチメントに使用されている鱗板は、リオから剥がしたうろこを裁断して加工したモノで、その一枚一枚が身体強化のための魔導具となっている。

 その目的は、恭一郎の身体をペルフェクトバインの殺人的な能力に耐えられるようにすることである。しかし、ペルフェクトバインの性能が常識の埒外にまで及んでしまうため、完全に乗りこなせるようになったわけではなかった。

 その目安として、通常時の全力操作で、最大一〇分。リミッター解除時の全力操作で、最大五分。ここまでしか、恭一郎の安全を確保することが叶わなかったのだ。それでも、これまでのパイロットスーツで操縦するより、安全性が高まったのは紛れもない事実だ。

 それとは別に、身体強化の副次的効果によって、恭一郎自身の戦闘能力が増幅されている。リオのようなデタラメなパワーは無理だが、ハナ達と全力の組手が可能なレベルに強化されている。

 魔導具化された鱗板であるが、元々が特殊合金並みの性能を持つ素材であるだけに、魔導具化する際に併せて魔力強化処理を受けたことで、初期のヘルテン装甲に迫る防御力を持つに至っていた。

 そのため、実質的な特殊装備搭載型の戦闘服であり、幻の九機目と呼ばれたハナに次ぐ、人間サイズの戦闘兵器にも当てはまる代物だった。




     ◇◆◇◆




 肌触りが従来品よりも向上した、ある意味でリオの身体に包まれるアンダースーツを身に纏う。恭一郎が着用したことでシステムが起動して、アンダースーツがタイトに密着する。

 イメージとしては、一代ムーブメントを巻き起こして新劇場版が製作された作品に登場する、プラ〇スーツだろう。主な目的の方向性が同じなので、到達点も似たような仕様になったのだと推測される。

 防御面に関しては、一部で熱狂的な支持を得て、本編よりも外伝ばかりが映像化された作品に登場する、衛〇強化装備を思わせる。あちらも拳銃弾程度では、特殊保護被膜を貫けない仕様だったはずだ。

 そちらはレスキューパッチに内蔵されている分解溶液を使用することで、素手でも特殊保護被膜を破くことができるという設定だった。

 こちらにはその機能が盛り込まれていないが、パイロットスーツには元々緊急排除の容易な構造で製作されているため、第三者による除装は簡単だ。

 胴体及び手足に固定されているプロテクター以外を全て取り除き、身軽になったアウタースーツを着る。これまで以上にスーツ同士が密着して、パイロットスーツが恭一郎の身体の延長となったかのように、とても身軽に感じられた。

 この状態でも身体強化の魔法が十分に効果を発揮するので、ペルフェクトバインの操縦に差し支えない。

 アンダースーツのフードを被り、ヘルメットを着用する。こちらも前立てや首回りを護るしころを外してあるため、見た目は普通のヘルメットになっている。

 とはいえ、ヘルメット本体もリオ由来の特殊素材で製作されているので、プロテクター部分は鱗板で覆われている。フェイスシールドは龍の細胞組織を加工して造られた保護フィルムが張られており、これまでの物と比べて耐久性が大きく向上している。

 今回は顔を護る目の下頬や喉元を護る鱗板製の喉輪は、操作の邪魔になるため取り外されている。なお、目の下頬が採用されている理由は、ヘルメットに内蔵されている目を護る視覚防御スクリーンが、フェイスシールドの外側に展開するからであった。それに加えて、視界が狭まることを制作に参加していた遥歌が、徹底して嫌ったことも関係しているという。

 首元にある固定具でヘルメットをパーロットスーツと一体化させると、フードとヘルメットも密着状態となった。すると首から上の圧迫感が大きく緩和され、感覚も素顔を曝している状態に近付いた。

 ペルフェクトバインの球形コクピットに入り、パイロットシートに着座した。すると――。

『めっせーじ。ぺるふぇくとばいんトノ接続ヲ確認シマシタ。しすてむヲ起動シマス』

 パイロットスーツからシステム音声が発せられた。その音声はリオの声が素材として使用されていて、感情の起伏を廃してボー〇ロイドのように淡々と喋っている。

『ヨウコソ、私ノ龍騎士王陛下ケーニヒ・デア・ドラッヘンリッター。ドコマデモ御供致シマス』

「どういう仕様だ、これは?」

 すぐさま通信回線を開き、ミズキに背中のむず痒くなるようなセリフの真意を問い質した。このパイロットスーツを使用する度に、このような恥ずかしい名称で呼ばれるのだとしたら、恭一郎のモチベーション維持にあまり優しくない。

『説明します。その特別製スーツを制作に当たり、リオを乗りこなす者専用という意味を込めまして、開発コードに竜騎士王ことケーニヒ・デア・ドラッヘンリッター、略して「KDD」という符丁を採用しておりました。正式名称が未定でしたので、開発段階のままになっています』

 何とも意味深な符丁を採用していたモノである。性的描写で乗るとか乗られるとかの意味ではないと思いたいが、そのように受け止められかねないネーミングは勘弁してほしい。

「――リオさんの素材で作られたスーツを着る。という意味も含まれています……」

 ミズキの台詞を引き継いで、オペレーターシートに着くセナが補足する。

 ある意味でリオの身体の中に乗り込んでいるような状態となるので、直喩的表現ではそうなるだろう。しかし、リオと一心同体のような状態は、しばしば性的な目合(まぐわい)にも使われる表現と同じだ。

「もっと安全安心な、言い易い名前を考えないといけないな……」

 取り敢えず専用スーツのネーミングは後回しにして、恭一郎はペルフェクトバインを発進させることにした。




     ◇◆◇◆




 トイフェルラント南方の海上から、フォーゲルフォルムで大気圏外へと上昇する。身体強化の魔法が作用している恭一郎は、オディリアの重力から逃れるための加速が数値でしか体感できないほど、身体に圧し掛かる負担に抵抗できていることに驚いた。

「海上から垂直上昇して約三〇秒で、もう周回軌道まで上がったのか? 結構荒っぽい手段で飛んでみたが、これほど快適だとは……!?」

『ただ上昇するだけですから、慣性質量を制御すればこの程度ですよ』

 ケーニギンやツァオバーラントのように角度を付けた飛行での大気圏突破とは違い、ペルフェクトバインは打ち上げシャトルよりも急な海面に対する直角で、一気に大気圏を突破した。

 本来ならば機体や搭乗者に対して、強烈な重力加速度(G)が生じて然るべきなのだ。それをペルフェクトバインのイナーシャルキャンセラーが打ち消してくれている。

「――ダンデライオンコントロールより、『周囲に友軍の反応を認めず。ロイヤルバードのテストの無事を祈る』との通信。ミリー・ギャレット大尉からです……」

『これはまた、注目されていますね。テスト当日の通告だったのに、お膳立てまでしてくれるのですから』

 あまり参考になるようなデータではないが、ペルフェクトバインの性能には興味があるのだろう。何しろこの化け物機体は、この世界では一機しか存在しないのだから。

「セナ、返信を頼む。統合軍の心遣いに感謝する。以上だ」

『随分と短いですね。それでいいんですか?』

「最低限の礼儀で十分だ。そんなこと言ってられないぐらい驚くことになるからな」

 セナがダンデライオンに返信を送るのを待ち、衛星ナディア方向へと機首を向ける。それからカウントダウンの終了と同時に、最大推力で移動を開始する。

「ぐっ……!」

 機体各部の魔力融合ロケットが一気に吹き上がる。ペルフェクトバインが猛烈な加速で、ナディアへと移動を開始した。イナーシャルキャンセラーでも相殺できなかった慣性質量を魔法で強化された身体で受け止める。

 惑星アロイジア近傍での戦闘では内臓に損傷を受けたモノと同等の加速であったが、受けるダメージが許容範囲内に収まっている。これが身体強化による耐久力が向上した結果だろう。これなら一時間ぐらいなら我慢できそうだ。

 オメガ残党軍と艦隊戦を行った、オディリアとナディアの中間地点となるラグランジュポイントを五分弱で通過して、一〇分のフラットでナディアのジェイルの海に降り立った。




『目的地に到着しました。お身体の具合は大丈夫ですか?』

「加減速の時だけ身体にこたえたが、全く問題が無い。移動するだけなら、特に負傷することは無さそうだ」

 加速及び減速の時にだけ、強い慣性質量が発生した。だが、耐えられないような圧力ではなかった。やはり戦闘時のような不規則な動きと急激な加減速の連続でなければ、身体への負担はかなり違うのだろう。

「――バイタル確認。全て問題なし。戦闘機動のテストに問題なし……」

 セナも恭一郎のコンディションに、お墨付きを与えてくれた。

『それでは、仮想敵との戦闘機動テストへ移ります。テストプログラムを実行。ホログラム表示開始』

 統合軍が回収を断念した友軍の残骸が眠るジェイルの海の景色に、ホログラムの仮想敵が重ね合わされた。全周囲を埋め尽くす、仮想バグの大群である。

「ナディア降下戦の再現か……」

 空と陸を埋め尽くすバグの黒い津波が、ミドルレッグフォルムに戻ったペルフェクトバインに迫ってくる。

「武装は実際に使用されないんだよな?」

「――テストモード、確認。攻撃はデジタル処理です……」

「そういうことなら、遠慮なく行くぞ!」

 実際に攻撃をしてしまうと周囲への被害が心配になるので、テストモードであれば遠慮する必要はない。恭一郎は先の降下戦のように受け身に回らず、仮想バグの中に突っ込んで行った。

 一分もしないうちに、一〇億体を超える仮想バグは殲滅された。あまりにも敵が脆いので、次の仮想敵が表示される。

『テストプログラム、セカンドフェーズ。コードD&D(ディーディー)スタート』

 続いてホログラム再生された仮想敵は、オメガとアレクサンダーの使用したデスパイアが二機と、一〇〇〇体のデヴァステーターだった。かつて相手にしてきた敵の中では強い部類に入るが、改型でも相手をすることができた機体ばかりだ。

「予想はしていたが、嫌な相手を出してきたな。だが、ペルフェクトバインの敵ではない!」

 この世界における諸悪の根源を模した仮想敵に向かって、情け容赦のない攻撃が加えられた。

 高々一〇〇〇体程度のデヴァステーターは、ミズキの操るヴィシュヌによって秒殺された。

 因縁のあるデスパイア二機に対しても、その連携すら無視して魔導剣で切り伏せた。

 今までの苦労が何だったのか、非常に空しくなる呆気なさだった。

『テストプログラム、サードフェーズ。コードR・P(アールピー)スタート』

 次なる仮想敵は、紅星軍の大艦隊だった。アロイジアでは恭一郎の身体が限界に達してしまったため、最後の一撃は遥歌に譲った相手だ。しかし今回は、単独で撃滅することができるようになっているはずだ。

「――特別機部隊急速接近……!」

 敵艦隊の砲撃開始と共に、一五星の機体が先陣を切って突貫してくる。その後方には、星付きの大部隊が続いていた。

「リミッター解除! カウントは前回と同じ!」

『了解。カウント、一二〇秒』

 魔力縮退炉のリミッターを外し、実際に機体を蒼く輝かせたペルフェクトバインが、両腕のシヴァより魔導砲を途切れることなく放つ。巨大な二条の輝く剣を薙ぎ払い、一瞬にして敵艦隊と多数の星機を血祭りに上げた。

 しかし、加害範囲が読みやすい攻撃であったため、星の数の多い敵は生き残っていた。だが今回は、それも織り込み済みだ。

 ヴィシュヌが敵の侵攻を妨害して足止めを行い、ヴィシュヌ諸共に魔導砲で薙ぎ払う。最後に残った一五星の敵に対しては、相手の土俵に上がって機動格闘戦を仕掛けた。

 敵の波状攻撃を受け流し、逆に相手の武器を破壊して、最後にはヴィシュヌによるホールドからのゼロ距離発射の魔導砲で撃破する。恭一郎の身体が万全であれば、今回のような勝利は確実だった。

『リミッター解除終了。六〇秒で片が付きましたね』

「――手の内は解っていた。勝って当然……」

 なかなか厳しいセナの評価はともかく、主だった敵は全て倒すことができた。恭一郎としては、まずまずの結果である。

『テストプログラム、フォースフェーズ。コードTRG(ティーアールジー)スタート』

「まだやるのか!?」

 ミズキが引き続き、新たなテストを開始した。そして、予想外の相手と対峙することになった。

「――後期型ヒュッケバイン改、ゲシュペンスト二機、パラーデクライト七機、ブレセスト確認……」

 そこには仮想敵として蘇ったヒュッケバイン改を筆頭に、最新鋭のブレセストを含めた、通常戦力の全てが集結していた。ブレセストは本来は専用の特殊攻撃戦闘機を持っていないため、ホログラムでは他のパラーデクライトと同じ、ラオム・アングリフ形態となっていた。

「改型やゲシュペンストはともかく、家族の機体と戦うのは、かなりやり辛いな……」

 自分自身と戦うことになるヒュッケバイン改と、演習で散々相手をしたゲシュペンストであれば、恭一郎は気兼ねなく戦うことができた。しかし、愛する家族の乗る機体と戦うことになるのは、かなり気が引けてしまう。なにしろ家族を護るために戦い続けてきた恭一郎なので、その家族に銃口を向けられるのは精神的にかなり堪えた。

『そこは敢えて、恭一郎さんの弱点を突かせていただきました』

「――通称、鬼畜きちくモード……」

 ミズキとセナが示し合わせていた所業は、鬼畜の名に相応しい精神的ダメージを恭一郎に与えた。家族に手を挙げるということは、恭一郎にとって禁忌に等しい。それが心の準備ができていない状態であれば、初動に大きな遅延をもたらす。

 ブレセストを先頭に、ハナ達のパラーデクライトが、ラオム・アングリフで接近してくる。それを援護するように、ヒュッケバイン改とゲシュペンストが、火力を集中させて狙い撃ってきた。

「俺達の戦い方って、こんなに容赦しなかったのか!?」

 蛇蝎視だかつしされているかのように激しく攻め立てられ、恭一郎は反射的にペルフェクトバインを後退させた。近衛軍の機動戦力は、攻防に重きを置いている傾向の機体ばかりだ。それでもペルフェクトバインの護りを抜くことは難しいが、いざ攻撃を受けてみると、攻撃力以上の迫力があった。

『珍しいですね、恭一郎さんが一矢も報いず逃げるなんて』

「テストだからって、遥歌やハナ達とは戦いたくないんだよ!」

「――敵のデータが少ないから、特別ゲストということで……」

「ゲストだろうがインスペクターだろうが、戦いにくいことには変わりはないだろ!?」

 後退から反転して攻めに転じ、前衛の小型機を突破する。まずは最高戦力の改型に狙いを絞って排除に当たる。

「その機体の癖なら、俺が一番知っている!」

 魔導剣を振り抜いて、ヒュッケバイン改に切り掛かる。だが、魔導剣は不可視の何かを切り裂いたことで剣速が落ち、改型の安全圏への離脱を許してしまった。

「やっぱり、リオと一緒だったか!」

 魔導剣を受け止めて時間稼ぎをしたのは、改型に同乗しているという設定のリオの張った魔力障壁だった。ホログラムの仮想敵なだけあって、魔力の感知が全くできない。これでは魔力による奇襲に対応ができない。

 改型のカバーに、ゲシュペンスト二機がコンビネーションを組んで攻撃してくる。マクシミリアンとゼルドナのデータを使っている機体だ。こちらもこちらで、心情的に戦い難い。

「ヴィシュヌで、肩関節を狙え!」

 改型との間に入り込んだゲシュペンストに向けて、副腕から切り離された複数の羽根が、回避機動を行いながら襲い掛かる。ゲシュペンストはそれに反応し、接近する羽根の迎撃を開始した。そこへ――。

「足元がお留守だ!」

 急接近したペルフェクトバインが、交差時にゲシュペンスト二機の両膝を魔導剣で切り落とした。バランスを崩したところへヴィシュヌが突撃して、二機のゲシュペンストは両肩を破壊されて達磨となった。

「――小型機接近……!」

 急速反転して追い駆けてきたブレセストが、単機で果敢に格闘攻撃を仕掛けてきた。瞬間火力の高いリボルビングハンマーを、容赦なく振り下ろしてくる。

「許せ……!」

 小型機はペルフェクトバインとの機体の大きさが三倍近くあるため、格闘時の手足のリーチも必然的に差が大きい。手の爪でリボルビングハンマーごとブレセストの上腕を破砕して、振り抜いた手の勢いを乗せた蹴りで下半身を蹴り砕く。同時にヴィシュヌの羽根を数枚背中のラオム・ファールトに突き刺して、戦闘能力を完全に奪った。

 しかしここで、ブレセスト気を取られていた恭一郎は、複数の衝撃に襲われた。

「――機体に取り付かれました。自爆攻撃です……!?」

 リミッターを解除した七機のパラーデクライトが、ペルフェクトバインにしがみ付いていた。どの機体も真っ赤に燃え上っており、すぐには振り解くことのできない力で密着している。

「容赦無さ過ぎだろ!?」

 七機の自爆が、ペルフェクトバインを包み込んだ。ラオム・アングリフ形態では四基のパワーパックが連動しているため、それが七機分で二八発分の核爆発である。周囲は閃光の中にすべて消えた。

「……危なかった!」

 七機の自爆の瞬間、恭一郎は機体周囲のゲージ粒子を転化させ、イロード・バーストによってパラーデクライトを核爆発ごと機体から弾き飛ばしていた。周囲に張った空間歪曲場の効果で、核爆発の威力も大きく減衰させることに成功した。

『味方が全滅したことで、データの方の恭一郎さんが、お怒りになられました』

「――ヒュッケバイン改、リミッター解除。突貫してきます……!」

 怒り心頭のデータ恭一郎が、形振り構わず攻撃を仕掛けてきた。そのあまりの気迫に、オリジナルの恭一郎も戦意が後退してしまう。

「改型のリミッター解除時よりも、機体の性能が上がっていないか!?」

『私の持つデータによると、恭一郎さんは特定の場面において、本来のポテンシャルを上回る力を発揮するようです。今回のように家族の危機や犠牲が出た時は、最低でも三〇パーセント以上の能力向上が発現しています』

「――心のリミッター解除。火事場の馬鹿力……」

 恭一郎には自覚が無かったが、こうして改めて指摘されると、結構ピンチの時に普段よりもことが上手く運ぶことがあった。それがこの、怒った恭一郎の能力向上のお蔭だったのかもしれない。

「さながら、怒りのスーパーモードだな。ならこっちは、明鏡止水のハイパーモードで行く! リミッター解除! 縮退炉、オーバードライブ!」

 赤く燃えるヒュッケバイン改に対抗するように、ペルフェクトバインが蒼い輝きを放つ。それは両機が示す、全力の証である。

 ヒュッケバイン改がグライフからプラズマソードを発生させ、果敢に切り込んでくる。しかしペルフェクトバインのシヴァから生み出されている魔導剣の前には力及ばず、小さな虫を払うかのようにあしらわれてしまう。

 そんな勝ち目のない相手に対し、恭一郎には手加減する必要性を感じなかった。その手足を切り落とし、首を撥ね、最後に腰を切り裂く。

「お前の魂は、このペルフェクトバインが受け継いだ。ヒュッケバイン改、お前はもう休め……」

 五体を解体したヒュッケバイン改を魔導砲で完全消滅させ、戦闘機動のテストは終了した。

「このまま、トイフェルラントまで一足飛びに帰ろう。やはりここは、静寂であるべき場所だ」

 青く輝くペルフェクトバインをフォーゲルフォルムに変形させ、恭一郎はジェイルの海を発った。




 青く輝く彗星となったペルフェクトバインが、トイフェルラント上空までの到達に要した時間は、驚異の一二〇秒であったことを記しておく。

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