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【その名はブレセスト】

――トイフェルラント生活一六九二日目。




 緯度の高いトイフェルラントは厳冬期に入り、冬籠りをしていない人々でも、あまり外出をしなくなっていた。さすがに寒さが厳しいため、この時期は少し長めの冬休みといった感じで、トイフェルラントには静かでゆっくりとした時間が流れている。

 リオはそんな厳冬期でも、ウルカ譲りの環境適応能力を発揮して、元気にほぼ毎日ノイエ・トイフェリンに出勤している。恭一郎の部屋に引っ越して同棲生活を始めてから、心身共にますます調子が良いようだ。吹雪だろうが寒雷かんらいだろうが、お構いなしでお空の通勤である。

 近衛軍の増強によって支出の増えた恭一郎は、金策のために魔導具の開発を試みたり、今後の販売を睨んだお酒造りに精を出したり、冬場の保存食として凍り豆腐を売り込んだり、休む暇のない忙しい毎日を送っていた。

 この日はペルフェクトバインを用いて、恭一郎だけでも金属に魔力強化処理を施して、アマルガム化させることが可能かどうか実験をしていた。

 物質によっては、アマルガム化に膨大な魔力が必要となるため、その加工にはリオの協力が不可欠だった。現在は魔力だけはほぼ無限のペルフェクトバインがあるため、解析した魔法コードを使っての実験だ。

 実験場所は、ウルカバレー南方沖の水平線近く。陸地から約六キロメートル付近の海上である。ヴィシュヌの羽根の一枚に一種類の試料サンプルを取り付け、さらに南方へ飛ばしてから、膨大な魔力をサンプルに放射することを繰り返す。

 果たして実験の結果は、失敗もするし成功もするという、あまり安定した結果が得られなかった。アマルガム化させた試料の中には、白金、金、鉄などで、意外にもアマルガム化が容易とされている銀や銅のような試料が、ペルフェクトバインの魔力に反応しなかったことに驚きを禁じ得なかった。

 まだまだリオのように上手にできる技術レベルに達していないことが証明されてしまったが、千里の道も一歩からである。今回は白金と金のアマルガム化に成功しただけでも、結婚指輪作りにとって嬉しい結果であった。




     ◇◆◇◆




 自分一人で結婚指輪の制作が可能となったことに上機嫌な恭一郎が基地に戻ると、久しく見ていなかったパイロットスーツ姿の遥歌の姿があった。

 オールド・レギオンタイプの規格で造られているパイロットスーツは、肌に密着するアンダースーツの上に、耐G機能などの機能性を持たせたアウタースーツを着込む方式となっている。そしてヘルメットを被ることで、宇宙空間でも呼吸の可能な機密性が保たれる。

 遥歌の身に纏っているパイロットスーツは、自分専用機を持つに至った遥歌のために、恭一郎の使用している規格で新たに制作された代物だ。これまで使用してきた、オディリア製の一般兵士用のモノではない。

 久々の戦闘服姿が凛々しい遥歌が、帰還した恭一郎のペルフェクトバインに手を振って挨拶をしてくれている。これから自分の専用機に乗り込み、機体性能のテストを行う予定なのだ。

 恭一郎は急ぎペルフェクトバインを専用ハンガーに固定して、コクピットに掛けられたタラップを降りて遥歌に合流する。

「パイロットスーツ姿も似合うな、遥歌は。ダブルコートに制帽サングラスの艦長スタイルも格好良かったが、こちらも凛々しくて素敵だ」

「当然よ。元々私は、こっちが専門なんだから。それにメサイアとは違って、今度の機体は操者の適性に性能が左右されないのだから、本当の実力がモノを言うことになる。いやうえにも緊張するわ」

 そう言いつつも、遥歌は平然とした顔をしている。自らパラーデクライトをベースにして、胴体モジュールを中心にカスタムチューンした小型機だ。今まで慣れ親しんだメサイアの半分程度の大きさしかない機体となる。その操縦感覚はこれまでのモノと大きく異なるだろう。

 遥歌の専用機開発には、恭一郎は一切手を貸していない。カスタマイズに使用されている技術など、恭一郎由来のモノが含まれているが、基本的に遥歌がミズキ達と相談して製作している。

義兄あにとしては、義妹いもうとには平和に暮らしていてほしい所なんだがな。国防院の仕事を手伝ってもらっている時点で、今更だよな」

 せっかく死後も人権を無視され続ける悲惨な運命をまぬがれ、普通の女の子として人生を送れるようになったのだ。遥歌には、CAの血塗られた操縦桿ではなく、芳香漂う花束を手にしていてもらいたいところだ。

 とはいえ、それは恭一郎の勝手な願望の押し付けであって、遥歌の意志はそこには存在していない。遥歌がCAに搭乗することを求めるのであれば、その意思は尊重されるべきなのだ。

「それを言うなら私だって、恭兄さんには戦場に出てほしくないわ。聞いてるわよ、治癒魔法のこと。今度無茶したら、確実に寿命が縮まるんでしょ?」

「リオの奴め、余計なことを……」

 遥歌が握った拳を恭一郎の腹に触れさせ、整った顔で睨みながら圧力を掛けてきた。美少女の怒り顔は、秘めている迫力が凄まじい。だが、こんな相手になら怒られてもいいかな、などと僅かに感じてしまった恭一郎は、何気にマゾヒズムの素養を備えているのかもしれない。

 リオの使う治癒魔法は、人体の欠損部位まで再生させる能力がある。それが瀕死の状態であったとしても、効果はしっかりと現れる。

 しかし治癒魔法は、再生における対価として、治癒部分の生命力を消費していた。恭一郎の場合、リオに張り倒された際に、頭部と腹部を再生。暗殺未遂の際に、手足と腹部を再生。ヒュッケバイン改の墜落時に、腹部を再生。紅星軍とのアロイジア決戦の時に、内臓中心にほぼ全身を再生している。

 このように、恭一郎の身体は魔法による再生を繰り返しており、相当量の生命力を失っていた。生命力とは体細胞の正常な再生力であり、正常な再生のできなくなった細胞は腫瘍となる。それが悪性であれば生体を著しく消耗させ、死に至らしめる。

 つまり、恭一郎は生命力を失ったことで、寿命が失った生命力に比例して短くなっている。恭一郎はまだ二〇代で若いから実感できないが、歳を重ねると同時に失われた生命力の影響を受けて行くことになるだろう。

 この事実は恭一郎とリオだけの秘密だと考えていたが、どうやら遥歌を含めた家族の秘密となっているようだ。

「大切な家族を護りたいという想いは、私達も一緒。だから、切った張ったは私達に任せて、司令官は後方で堂々としていなさい」

 最後に特定の誰かを連想させる悪戯っぽい笑顔を見せて、遥歌は専用機へと向かって移動した。




     ◇◆◇◆




 遥歌の専用機は、正式名称を有人仕様パラーデクライト改修型機。と言う。かつての愛機であった蒼凰よりも明るく淡い色のこの機体には、その見た目から『ブレセスト(淡い蒼)』の愛称が与えられている。

 機体の構成は、蒼凰と同じくミドルレッグだが、そのラインはライトレッグのように細い。その他のパーツも一見しただけでは軽量型の機体と誤認してしまうような、細い線と女性的な曲線を再現した美しい機体だ。

 ベースとなったパラーデクライトは、アンドロイド姉妹達の専用機であり、儀仗用として造られたために有人用のコクピットを廃して、胴体に女性的な造形を持たせている。

 その女性的なシルエットを維持しつつ、ペルフェクトバイン製造で余った廃材を資材として組み込んで、パラーデクライトの製造ラインで構成パーツを共有することで、製造コストが従来機の半分程度に抑えられていた。

 しかし、そこに投入された技術は最高のモノばかりで、機体性能が劣っていることはない。高性能な廃材を使用しているため、見た目に反してフレームの強度が、ベース機よりもかなり向上している。

 それでもパラーデクライト単体では、戦闘に耐えられるギリギリの性能でしかない。強化パーツである特殊攻撃戦闘機と合体することで、場所を選ばない高い戦闘能力を得ることになる。

 遥歌のブレセストもまた、特殊攻撃戦闘機を装備することで、機体性能が向上する機能を継承していた。現在は空中戦用のルフトシュピーゲルング、宇宙戦用のラオム・ファールトの二機種に対応している。今回は単体でのテストに加え、ルフトシュピーゲルングとの合体テストも行う予定だ。




     ◇◆◇◆




 冬の晴れ間で陽光の煌めくマイン・トイフェル空港の脇で、ブレセストはその存在をオディリア側にも知らしめるように、機体の性能テストを行った。

 多少騒がしくなることが事前に通達されていたらしく、空港の建物の中には仮設の退避壕たいひごうが設けられていて、エアステンブルクの住人やオディリアの駐在員からも見学希望者が集まっていた。

 そんな見学者達の見守る中で、淡い蒼色の機体が動き始める。




 遥歌の操縦するブレセストが主脚での走行を開始した直後、その姿を見守っていた全員が、その動きに対して同時に唖然とした。

 ブレセストが軽快に雪上を走りながら、両肘を曲げて上体を左右に振り、テンポよく左右の腕を前方に突き出したのだ。その姿は正に、走り込みをしながらのシャドウボクシング姿である。

 二脚型で人と同じ動きを可能としているCAではあるが、それはあくまでも機械としての範囲であって、ここまで複雑な動きを柔軟に再現することは想定されていない。

 例外として、ペルフェクトバインという変形機構を組み込んだ機体も存在しているが、人体の動きをここまで再現できる柔軟な運動性を持たされた機体は、これまで存在していない。

 初めて見るCAの動きに驚く人々の前で、ブレセストが回し蹴りからのアンカーボルトによるインパクトキックまで絡めた、非常に激しい動きを始めた。

 それからは、ブースターを一切使用しない跳躍からの宙返り、手足を使った連続バック転、積もっている雪を蹴散らすスライディング、果ては体操競技のような片手や片足でのバランス姿勢まで、中に本物の人が入っているのではないかと疑いたくなるような動きが続いた。

 最初のうちは驚きのあまり唖然としていた見学者達であったが、ブレセストの魅せるダンサーの曲芸じみた滑らかな動きに対して、いつしか歓声を上げて興奮していた。

 遥歌も見学者達の反応に気を良くしたのか、装備していないドレス状のスカートアーマーを持ち上げるような仕草をして、貴婦人の真似をして優雅に挨拶を返した。




 驚異的な機体の運動性能を見せ付けたブレセストは、ブースターを使用してのテストを開始した。

 パラーデクライトタイプは、メイン・ブースターを胴体背部下方に装備していて、肩や腰などの機体各所にサブ・ブースターが分散配置されている。この方式は、前進する能力に秀でている代わりに、後進する性能は胴体下方に四基のブースターを装備しているオールド・レギオンタイプより劣る。

 特殊攻撃戦闘機と合体することでこの欠点は克服されるので、この点をパラーデクライトは敢えて注視していない。

 ところが、ブレセストは違っていた。噴射砲口を調整する可動機構を持つメイン・ブースターだけではなく、機体各部のサブ・ブースターにも可動機構を組み入れて、後進時の推力を複数のサブ・ブースターを束ねることで底上げしたのだ。

 しかもブースターは新型プラズマ・パルスロケットで、それまでのモノと比べて同量の燃料からでも、より多くの推進力を得られるようになっている。

 ブースターにはアクセルやクルーズの性能も担保されていて、しかもブレセスト単独でも長時間の跳躍移動を可能としていた。基本的に陸戦用であるオールド・レギオン系統のCAでは、初となる擬似飛行能力だった。

 刷新されたブースターの推力を得て、ブレセストが雪上をフィギュアスケーターのように滑走する。跳躍して、回転して、急制動からの方向転換を行い、天高く舞って宙返りをする。

 アクセルブーストやオーバークルーズで緩急を付けた機体の舞い踊るような姿に、見学者達の興奮の度合いはさらに上がる。

 人々の関心を集めた遥歌はオーバークルーズから跳躍と同時にアクセルブーストで上空へと飛び上がり、重心移動で三回転半捻りの曲芸操作を行って、見事に雪上へと着地した。

 再び沸き起こった歓声と拍手に、遥歌は今回も貴婦人のように礼を返した。そして、ブレセストは一旦基地へと戻った。ルフトシュピーゲルングを装備するためである。




 特殊攻撃戦闘機は、パラーデクライト専用の強化装備である。胴体に存在する腰、両腕、両背の合計五カ所のアルファコネクターと接続することで、その能力が最大にまで引き出される。

 ルフトシュピーゲルングには、パワーパックが三基とM‐コンバーター、多重魔力障壁の魔導具にヘルテンの追加装甲を装備している。パラーデクライトの飛行能力と防御力を飛躍的に高める仕様だ。

 両背の武装を外して合体装備する必要があるため、低下する火力分のコネクター二基と、追加武装用のコネクターが別に二基装備されている。

 合体後はルフト・アングリフと呼ばれる状態となり、その性能はオディリアの切り札であるメサイアタイプに匹敵する。パワーパックのリミッターを解除すれば、短時間であるがメサイアを凌駕する戦闘能力を持つに至る。

 この点は、宇宙戦用のラオム・ファールトも共通である。使用する環境に合わせた、最も効果的な装備の選択というわけだ。

 見学者達の間で期待が高まる中、果たして現れた遥歌のブレセストは、一同の予想を裏切らないルフト・アングリフ形態であった。

 装備している武装の全てが、射撃戦を捨てた格闘戦用の武装で統一されていたからだ。装備しているルフトシュピーゲルングは、リナからの貸与機であったが、それでも遥歌専用機としての存在感を失っていない。

 淡い蒼色にシルバーグレーの追加装甲で覆われた遥歌のブレセストには、両腕にハンドガード付きの打撃用ナックルショット、両肩の補助アームに恭一郎も愛用しているソニックブレード、両背用にヒートパイルを結束させたリボルビングハンマー、追加武装に多数のレーザーカッターが連続で斬撃を行うレーザーチェーンソーが装備されていた。

 どの武装も近距離の格闘戦では無類の強さを発揮するモノばかりで、標的に用意された氷の柱を次々と砕き、切り裂き、粉砕し、蒸発させた。それは見事な攻撃で、一瞬にして間合いに入り込んだ遥歌が、流れるような動作で攻撃を加えていた。

 射撃武装の優位性を霞ませるような動きの連続に、武装が使われる度に大きな歓声が上がった。特にリボルビングハンマーの全力攻撃とレーザーチェーンソーのド派手な斬撃は、砕け散る氷の柱の姿に圧倒された。

 どこまでも遥歌の得意な戦闘スタイルを取り入れたブレセストの性能は、これまでのCAの常識を塗り替えるものだった。その苛烈な戦闘スタイルと反比例する洗練された機体の挙動は、戦闘機械であるCAの持つ美しさの限界を極めているかのようであった。

 こうして、遥歌専用機ブレセストの性能テストは、多くの見学者に認められる形で終了した。この光景を司令室のモニターで見届けた恭一郎は、基地へと戻ってきた遥歌の出迎えに、司令室を後にした。




     ◇◆◇◆




 貸与されていたリナのルフトシュピーゲルングが除装されたブレセストの腹部にタラップを掛け、恭一郎が機体テストを終えた遥歌を出迎える。

「良い機体じゃないか、ブレセスト。パラーデクライトとは別物だな」

 ブレセストのコクピット内でヘルメットを外した遥歌が、アンダースーツのフードを脱いで一息吐く。

「胴体以外の基本構造は、ほぼパラーデクライトのまま。ただし、胴体だけはかなりいじったわ」

 額に浮いた汗を拭いた遥歌が、狭いコクピットから抜け出してきた。恭一郎はそっと手を差し伸べて、その補助を行う。

「どんなところを弄ったんだ?」

「まずは、このコクピットね。ペルフェクトバインの球形構造を参考に、どんなに機体を傾けてもパイロットシートの水平を保つFG(エフジー)シート。フローティング・グラビコン・シート、浮遊型重力制御操縦席とでも訳せば解り易いかしら?」

 狭い入口の奥にある、コクピットの中を覗き込む。小さな球形の空間の中に、パイロットシートが完全に宙に浮いた状態で水平を保っていた。

「恭兄さんの使っていたショックアブゾーバーの代わりに、重力制御でパイロットシートを浮かせて水平を保ち、シート自体にイナーシャルキャンセラーを単独で作用させているの。だから、どんなに機体がひっくり返っても、中身は全く問題ない。ただ、コクピットが狭くてモニターを取り付けられくなったから、|ヘッドマウントディスプレー《HMD》でしか外の様子が見えないのよね」

 遥歌は脱いでいたヘルメットを恭一郎に見せ、付属していたフェイスシールドを覆うモニターを見せ付けてきた。ペルフェクトバインと同じ方式で映っている全方向の映像を、HMDで再現したコクピットのモニターで映し出す方式のようだ。

「それから、胴体のコネクター部分ね。ここはフレームに直結する方式から、より人間らしい半球状関節にしてあるの。だから各関節の可動域が大きく広がって、滑らかな人間の動きを再現できるようになったわ」

 驚異の運動性の正体は、人体構造を再現した関節にあったようだ。通常の素材では強度に不安があって難しいが、使用した廃材はこの世界で高性能な部類に入る物ばかりだった。複雑な構造を支えるだけのコネクター造りには、この上ない素材だ。

「とんでもない関節機構を作ったもんだ。ペルフェクトバインとエアストEXにも欲しいな」

『ペルフェクトバインは、強度的に無理ですよ』

 恭一郎の呟きに反応して、ブレセストの中からミズキの声がした。

「そうそう、並列量子コンピューターも搭載してあるから、あの挙動が可能なの。さすがにあの動きを再現するには、恭兄さんの使っていたブラックボックスのような補助が必要でしょうからね」

 ミズキまで常駐してくれているとは、さすがは遥歌専用機である。小型機に分類される一〇メートル以下のCAの中で、ブレセストは間違いなく最高の機体だ。

「ペルフェクトバインには、無理なのか?」

『機体のサイズに合わせて大型化すると、胴体がかなり出っ張ります。例えるなら、胴体だけ重量級のライトレッグですね。空力的にも不恰好でバランスが悪くなります』

「それだけじゃなくて、衝撃時の瞬間的な圧力を分散して受け流しているから、変形機構と組み合わせるのは相当に難しいわ。それにね、ブレセストには射撃用のFCSがオミットされているの。半球関節は射撃と相性が悪くて、狙い撃つ度に関節を固定しないといけないの。せっかく関節を柔らかくしたのに、それじゃ意味が無いでしょ?」

 遥歌が射撃を捨てた理由は、驚異の運動性を実現させた関節構造に理由があったようだ。いくら革新的な関節の構造でも、一長一短があるらしい。

『その代り、FCS処理のリソースをレーダーとコミュニケーションに振り分けましたので、前線での指揮管制能力が高められています』

 ということは、遥歌のブレセストは、ドートレスのオーバー・レイのような指揮官機として、運用が可能ということになる。それを示す証拠として、胴体後方に突き出している通信アンテナが、通常のモノより大型化され、左右に増設されていた。

「格闘型の指揮官機ということは、友軍機からの統制射撃戦術が使えるな」

「ああ、マグ――」

「皆まで言うな。変なところだけ、リオとハナに毒されやがって……」

 危うく逆シスター〇リンセ〇のお坊ちゃまが、勝利を提示するシステムで抗議に来るところだった。確かあれも、量子コンピューターに関連した機能を持っていたような記憶がある。

 そんな量子コンピューターを自在に操るミズキとは、もしかしたらゼ〇システムと同じことができる存在なのかもしれない。システムに捕り込まれて暴走しないように、もっと自我と意志を強く持っていた方がよいのかもしれない。

『何はともあれ、親衛隊の隊員全てに、機体が揃えられたわけです。結婚式ではパラーデクライト全機が整列して、その名の如くパレードドレスとして儀仗できますね』

 まあ、式典の儀仗用として使えるように、見た目重視で設計したのだから、結婚式でも使用されるのは当然だ。当然なのだが、些か演出過剰ではないかとも思える今日この頃の恭一郎であった。

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