【トイフェルラント魔導鉄道 バーン・ホーフ編】
――トイフェルラント生活一六六〇日目。
降り積もった雪で、すっかり白一色の世界となったトイフェルラントでは、来たるべき春に行われることになった恭一郎とリオの結婚式の準備が、着々と進められていた。
春の結婚式に連動した形で、トイフェルラント近衛軍の人材募集が開始された。希望者は国防院への登録を行い、ノイエ・トイフェリン郊外に新設されたばかりの近衛軍ノイエ・トイフェリン駐屯地において、厳しい選抜試験を行うことになっている。
通称ノイエ基地と呼ばれている駐屯地は、ノイエ・トイフェリンの南側、ウルカバレーへと至る街道の真横に設置された。現在はまだ事務所が一棟しか建っておらず、ただ森が切り開かれた空き地でしかない。
いずれは近衛軍仕様の各種装備を駐屯させる予定だが、まずは人員の確保が最優先された形だ。
選抜試験はハナ達アンドロイド姉妹が中心となって行い、遥歌がそのサポートに当たることになる。その試験を通過した人物は適性に応じた所属に振り分けられ、近衛隊員としての専門的な訓練を行うことになる。
その新入隊員達を纏めて統括するのが、現在は全身骨折で入院中のマクシミリアンとなる。まだ何もない駐屯地にぽつんと建てられている事務所の一部が、マクシミリアンの新しい住居と決まっていた。
表向きには、新設した駐屯地の責任者という形で、マクシミリアンには近衛隊員の統括を任せることになっている。だがその裏には、怪我をさせたことへの詫びと、所属する特殊部隊チームゲシュペンストの解散を含む、近衛軍の内部の体制改革に伴う人事異動となっている。
新たな近衛軍の体制は、副司令の下へ新たに参謀総長の役職を設け、正式に近衛軍の隊員となった遥歌が務めることになった。司令部直下の参謀総長となった遥歌の役割りは、恭一郎やミズキの補佐である。メサイア操者時代の経験が活かせるため、遥歌には打って付けの采配といえよう。
ハナ達アンドロイド七姉妹は、新入隊員の所属することになる近衛隊とは別に、新たに親衛隊へと所属が改められた。読んで字の如く、親衛隊は恭一郎とリオに遥歌を加えた、君主とその家族を護ることに特化した特務部隊だ。
親衛隊は参謀本部直属となっており、遥歌の指揮下で幕僚としての職務を兼任することになる。所属や肩書に多少の変更はあるが、その内容は今までとそれほど変わらない。優先度が今までより恭一郎達の方へと、大きく重心を移動させたに過ぎなかった。
◇◆◇◆
近衛軍選抜試験を七日後に控え、恭一郎も独自の仕事を開始している。
トイフェルラントとオディリアの政府間で行われた会合の結果、春に行われる結婚式の会場が即位式と同様に、マイン・トイフェル空港の滑走路と決まった。結婚式までにあまり時間が残されていないことから、過去に大規模式典の実績がある会場として、マイン・トイフェル空港が選ばれたようだ。
確かにあそこならば、五〇〇〇メートル級の滑走路を二本も有する敷地は広大であり、その東側には手付かずの草原が続いている。大規模式典を行うには、都合の良い場所だった。
それに加え、ノイエ・トイフェリンの周囲を囲んている、遭難の恐れがある大樹の森に分け入らずに済むため、オディリア側としても負担の軽減となっている。
さて、結婚式の会場が決まったことにより、そこまでの移動手段を確保しなければならなくなった。オディリア側は空路と海路の両方が使えるため、マイン・トイフェル空港へのアクセスは非常に楽だ。
一方のトイフェルラント側は、徒歩圏内のエアステンブルクを除いて、マイン・トイフェル空港までは、基本的に陸路を移動しなければならない。その場合、ノイエ・トイフェリンからウルカバレーへ至る街道に人々が集中してしまい、渋滞や事故、果ては混雑する街道から側道へと逃げて、そのまま迷子になってしまうことも考えられた。
それだけではなく、国内に普及している魔導車で人々が押し掛けて来ることになるため、それを受け入れる広大な駐車場を用意しなければならなくなってしまう。結婚式場周辺に駐車車両が溢れ返っている光景は、あまり景観的によろしくない。
かといって、ノイエ・トイフェリンとエアステンブルクを結ぶ交通機関は、民間の乗合魔導車が最大でも一〇台に満たない規模で運行しているだけだ。運べる乗客の数も平均して一〇名程度であるため、とても魔導車での車両削減効果は期待できない。
そこで、魔導鉄道の線路を春までに最低でもエアステンブルクまで延長して、ノイエ・トイフェリンから列車での大量移送の確保を急ぐことになったのである。すでにテスト用の線路が敷設されている区間があるため、まもなくベルクドルフから繋がる線路を経由して、線路用の資材が安定供給される体制が整うこともあって、アッカーバーデン方面への工事よりも優先してもらえるように、関係各所への根回しが完了していた。
そして恭一郎は、線路の延長に先立って、魔導鉄道用の駅舎の制作に取り掛かっている。その駅舎をエアステンブルクに一棟、ノイエ・トイフェリンに一棟建てる。線路がマイン・トイフェル空港まで届くような場合は、さらにもう一棟を建設する予定だ。
建設予定の駅舎であるが、今後の使用状況を鑑みて、複線化にも即時対応が可能なように、二つの乗り場を有する構造となる。使用する主な素材は毎度の如くアルトアイヒェの巨木で、その伐採から裁断と加工に至るまで、恭一郎に全て一任されている。
もちろん、指定された規格の中に納まるように寸法が細かく指定されているため、あまり奇抜なデザインにならないように手は打たれている。
昨年のアルトアイヒェ伐採時にローザから苦情を受けた反省を生かし、今回の伐採作業には、ペルフェクトバインを使用することにした。
生身の恭一郎の命を奪うほどの殺人的な機動力と運動性能を宿すペルフェクトバインであるが、それはあくまでも戦闘時における激しい操縦におけるリスクだ。普通に機体を動かす程度であれば、エアストEXの操縦と大差はない。
今回はオペレーターシートに志願してきたラナを乗せ、ミズキのサポートを得ての作業である。普段から勝気で好戦的な性格のラナであるが、実は手先がかなり器用な一面を持っている。昨年の合同結婚式でのウェディングドレス制作の折には、途中離脱したリナの空けた穴を見事に埋め、完成度を落すことなく危機を乗り越えた功労者の一人だ。
また、日常で必要性を感じたツールを自主的に制作していて、CAの加工にも積極的に参加するクリエーターでもある。正確な精度を要求する作業において、ラナは基地内で最も優れた腕前を持っていた。作業のサポートを受けるのに、ラナ以上の適任はいないだろう。
万全の態勢で臨む恭一郎は、戦闘以外でペルフェクトバインを初めて起動させた。当然戦闘目的ではないため、パイロットスーツは身に着けていない。
ほとんど見せたことのないペルフェクトバインの姿を人々に珍しがられながら、主脚による徒歩移動で大樹の森を目指す。フォーゲルフォルムに変形すれば一瞬であるが、高速移動形態であるため、初期の加速だけで周囲の雪を豪快に舞い上げることになってしまう。そのため、今回は自重しているのだ。
谷を抜け、森の中へと入る。街道沿いに移動しているため、ノイエ・トイフェリンからの魔導車とすれ違うこともある。今度の冬はこれまでのように冬籠りする亜人の数が少なくなっているため、活動中の彼等との遭遇率は高くなっていた。
恭一郎が目指している場所は、線路を敷設する予定地で、街道沿いに面した場所となっている。そこには周囲のアルトアイヒェに比べても一回り立派な巨木が立っていて、それが線路の行く手を遮るような場所に生えていた。
そんな邪魔な巨木を取り除き、駅舎の材料にしてしまおうという考えだ。
「改めて見ると、立派な木だ」
『幹の直径が三〇メートル、樹冠までがおよそ二〇〇メートル。全高二七〇メートルオーバーの見事なモノですね』
「駅舎にするには、贅沢すぎる気がします」
ペルフェクトバインのコクピットから巨大な幹を見上げ、一同がそれぞれ感嘆する。通常のアルトアイヒェの直径が二〇メートル、樹冠までだいたい一六〇メートル前後であるのと比較すると、エアストEXでは伐採に難儀しそうな巨大さだった。
これからこの巨木を伐採するのだが、今回は少々いつもと勝手が違う。この木を切り倒すことに変わりはないが、その跡に線路を通すため、ある程度の深さにある根まで排除することになっている。
先ずはこれまでと同じように、巨木を伐採する。これまでは倒したい方向の幹に楔を入れ、幹の周囲に切り込みを入れた後、機体の重量を乗せた蹴りによって自重による倒木をさせている。
今回はペルフェクトバインでの作業であるため、これまでの機体では成し得なかった方法で、この巨木と向き合うことになった。
「周囲に誰もいないうちに、さっさと切り倒すとしよう」
「了解。縮退炉、出力ちょい上げ。魔導剣生成」
『システム、リンケージ。パージ開始』
ペルフェクトバインの右腕に内蔵されているガンブレードのシヴァから、薄刃の魔導剣が生み出された。同時に推進翼と可動式装甲から、ヴィシュヌの一〇〇枚の羽根が分離される。宙を舞う羽根が、アルトアイヒェの巨木に張り付いた。
『目標固定、完了しました』
今回の伐採は、自重での倒木を行なわない。ペルフェクトバインの類まれな能力を活かした、倒木を伴わない伐採なのだ。
魔導剣が一閃され、巨木の幹と付け根が完全に分かたれた。一〇〇枚の羽根によって固定された幹がゆっくりと持ち上がり、静かにその場から移動を開始する。
『目標の移動を開始。全て順調』
「幹の移動を確認。これより、切り株の排除に移ります」
魔導剣を解除して、シヴァを巨大な切り株の手前から地面に向けて、細い魔力砲を撃ち込む。魔力融合反応を用いた魔導砲とは違い、魔力砲は純粋な魔力のみを発射する、魔力銃と同じ方式となる。当然その威力は限定的で、トイフェルラントを吹き飛ばすような威力には遠く及ばない。
切り株の周囲を一周しながら、切り株の真下に向かって、魔力砲を連続で発射する。その攻撃は、切り株の周囲を円錐形になるように撃ち抜いた。
「よし、切り株を持ち上げるぞ」
切り株の上に乗り、両腕のシヴァからトラクタービームのように魔力の銛を切り株の周りの土に撃ち込む。銛が固定されたことを確認してから、推進翼の魔力融合ロケットを噴射する。
切り株の重みで機体が一瞬だけ衝撃を受けたが、諸々を度外視で製造しているペルフェクトバインは、矢印状に大地から切り取られた重量物を空中へと吊り上げた。
大樹の中でも大きな巨木の立っていた場所には、円錐形の巨大な窪みができていた。このままでは巨大な落とし穴となってしまうため、この窪みを埋め戻さなければならない。
『ブラフマーへ、データを転送』
「データ、受け取りました。ブラフマー、アクティブ」
ペルフェクトバインから放たれた魔力が、巨大な窪みの上に集まる。その魔力をブラフマーが物質に変換して、大量の茶色い粒が降り積もる。
それは、何の変哲もない土だった。それも、大樹の森の中にある土と、寸分たがわない成分の枯れた土だ。
「兵装の無限使用のために造ったブラフマーに、陸地の再生能力があるとは、誰も思わないよな、普通」
生み出した本人が言うことは今更以外の何者でもないが、ペルフェクトバインは全てを滅ぼす破壊の化身であると同時に、恭一郎の大切なモノを護るための強固な盾であり、万物を生み出す再生能力を有している。
まさにヒンドゥー教の三大神の名を持つ魔導具をその身に宿した、神器に相応しい出鱈目な機体である。さすがに生命の創造を試す気にはならないが、構成要素の解析可能な物質であれば、魔力次第でいくらでも生み出すことができる。
心無い者が扱えば、富や名声はおろか、理想の小宇宙を想像することも可能だ。働かなくとも金目のモノを生み出して、それで必要経費を賄うことも可能だったりする。当然、人間が腐って行くだけの、そんな使い方はしない。
「地面を平らに均します」
大きな魔力障壁を生み出し、埋め戻した土の上から均等に圧力を掛ける。周囲の地面と同じ硬さまで固められた土は、そこに巨大なアルトアイヒェが生えていたとは、誰も思えないようになっていた。
『伐採工程の全てを終了しました。これより、地下ドックへと帰還します』
ヴィシュヌの羽根によって浮遊する巨木と共に、巨大な切り株を吊り下げたペルフェクトバインが、ゆっくりと低空飛行しながら大樹の間を移動する。
そして大樹の森を抜けた先で高度を上げ、空港脇の地下ドックへの入り口から、巨木と切り株を内部へと運び込んだ。
◇◆◇◆
地下ドックに巨木を搬入し、ヴィシュヌを回収したペルフェクトバインで、切り株に付着している土を振い落す。切り株を粉砕しないように振動を与えて、頑丈な根に絡み付いている土を分離した。
回収した土はウルカバレーの中に運ばれ、有機物と混ぜ合わされて滋養豊かな土の材料となる。それを谷の畑に撒くも良し、袋詰めして販売しても良し、使い道に無駄のない農業用資材となる。
さて、土を綺麗に落された切り株であるが、このままでは根が邪魔で使い物にならない。そこでペルフェクトバインの鉤爪であるカーリーで、邪魔な根を切り落としていく。
両手両足に装備されたカーリーは、切断能力の非常に高いソニックウェポンだ。震動させた鉤爪で軽く一撫でするだけで、たちまち根が切株から断ち切られていく。
邪魔な根を切り落とされた切り株は、支柱となる太い根の上に立つようなテーブルの形となった。この切り株は、駅舎の建物の基礎となる予定だ。
続いて、巨木の幹から駅舎の乗り場を作る。直径三五メートル程もある根元の部分から、樹冠でも二五メートルもある。その先は徐々に細くなっているが、列車に合わせた長さである二四〇メートルのプラットホームを作るのに、この巨木一本で事足りる大きさだった。
プラットホームの形状は、頭端式と呼ばれるターミナル駅の仕様となる。幹の中央に線路を奥の行き止まりまで引き込み、その両側に乗降用の乗り場を設けるのだ。
樹冠の枝を選定してから、根元より二五〇メートル付近で幹を切断する。この先端に近い部分でも直径が一五メートルもあるため、こちらから線路を二本分引き入れても、左右に乗り場を確保できる余裕があった。
まずは乗り場の高さを決めてから、接地時に水平となる断面に印を打つ。今回は幹の先端から根元に向けて内部を掘削するため、根元側の断面に印となるビーコンを設置した。
そして先端部分の印から根元のビーコンに向かって、魔導剣を杭のように撃ち込む。それを繰り返して中身を繰り抜けるようにしてから、根元の部分に鉤爪を食い込ませて一気に中身を引き抜いた。
先端方面から放射状に広がる四角柱が抜き取られ、乗り場の床面から天井までの空間が出来上がった。繰り抜いた部分は駅舎用の素材となるため、裁断するまで一時保管しておく。
プラットホームが頭端式の造りであるため、引き込む線路の部分を削り出さなければならない。それには運行する車両への乗り降りに合わせた高さの床になるように、線路部分を正確な低さまで均す必要がある。
客車の製造を行っているバーニーから受け取った寸法から、線路の道床から客車の床までの高さは、一一二〇センチメートルということになっていた。これは高床と呼ばれる乗り場の高さで、乗り降りの際に段差が少なくなる方式だ。線路への転落の危険があるが、可動式のホームドアでも設置すれば安全性は高まるだろう。
根元付近に車両止めを設置する行き止まり部分を決めたら、そこにビーコンを打ち込む。このビーコンを目指して、先程と同じ要領で魔導剣を打ち込む。
線路部分は二本分の線路が平行に引き入れられるため、横幅を七メートル分確保した。最後にビーコンを打った部分をカーリーを使って慎重に掘削したら、先端部分から先程と同じように線路部分を引き摺り出す。
これで、駅舎の乗り場部分の大まかな形が完成した。一本の巨大なアルトアイヒェから削り出した、繋ぎ目の無い一本造りのプラットホームだ。
――トイフェルラント生活一六七〇日目。
エアステンブルク用、またはマイン・トイフェル空港用の駅舎が完成し、後は屋外へ設置してから線路を敷設して、内部設備の最終点検を残すのみとなった。
現在は地下ドックに安置され、近衛軍の選抜試験を無事に終えたハナ達によって、エアステンブルクの住人向け近衛軍基地見学ツアーの目玉の一つとなっていた。
彼等は、とうとう鉄道がエアステンブルクにもやってくるのか、などと駅舎を見て興奮しているという話だ。
そんなこんながあって、今度はノイエ・トイフェリンでの駅舎の製作に取り掛かる。こちらはその先の線路へすでに接続されているため、乗り場を二つ平行に備えた相対式の造りとする。複線化を見越しての造りであることは、言うまでもない。
ノイエ・トイフェリンでは、駐屯地に近い街の中で設置工事をするため、素材の加工は駐屯地の広い空き地で行い、分割してモジュール化したパーツをエアストEXで現地まで運び、駅の設置場所で組み立て作業を行う方式となった。
ペルフェクトバインとラナのログから作成した、加工支援プログラムをインストールしたエアストEXに搭乗して、加工作業に入る。素材となるアルトアイヒェは、駐屯地の用地確保で伐採した分がほぼ手付かずであったため、改めて伐採する必要はなかった。
乗り場となるプラットホームは可能な限り平らとなるように、モジュールの連結の機構は側面部分に施す。雨避け天井の骨組みはプラットホームの外側同士を繋ぐアーチ状にして、その上に雪下ろし用の急勾配となる屋根を設置する。
改札は屋根の下の空間を利用していて、階段で駅のどちら側からでも改札を通って、二つある乗り場に向かえるようになる。それを乗り場の両端付近に設置することで、利用客の混雑の分散化を図っている。
こちらも寸法さえ合っていれば恭一郎にお任せとなっているため、早々に作業に取り掛かる。
駐屯地の端に集積されていたアルトアイヒェを五メートル間隔で輪切りにする。その輪切り一個に付き、乗り場一個の五メートル分の材料となる。
輪切りにした素材を二等分に切り分け、プラットホーム部分の寸法に合わせて裁断する。線路と水平方向となる側面の左右と両面に台形の彫り込みを施し、天井を支える骨組みとなる支柱を削り出す。側面の壁となる板材も切り出して、モジュール同士の固定用に鼓型の固定具を削り出す。
これを二四〇メートルプラットホーム二本分となる、九六個のモジュールを量産する。これで乗り場となる一階部分の構成素材となる。
二階の改札階と屋根、それから八基の階段を制作する。
こちらは乗り場の支柱に通す梁を四八本用意して、改札階となる床板、天井を支える柱、長さの求められる部材を切り出していく。階段は側面の一枚板に足場用の板材を填め込んだものを制作した。
天井は急勾配かつ板を瓦のように重ね合わせたうろこ状にして、屋根に一工夫を加えたお洒落仕様とした。こちらの屋根は破損した部分だけを交換できるため、メンテナンスは比較的簡単だ。
――トイフェルラント生活一六八四日目。
細かい作業の連続で、少々加工に時間が掛かってしまったが、駅舎のパーツが全て完成した。これを運んでは組み立てて、運んでは組み立ててから連結してという作業を繰り返し、仮称で近衛軍駐屯地駅の建設作業に入った。
それから七日の時間を要して、駅舎は完成した。線路の上に改札階のある二階建ての駅舎で、ホームドアも取り付け可能だ。内部設備はバーニー達が引き継いでくれることになっているので、恭一郎の駅舎の製造は、ひとまずお役御免という運びとなった。
余談であるが、恭一郎の設置したホームドアに使われていた、複数の魔導具を連動して動かす魔法コードが普及して、乗合魔導車や店舗の扉など、遠隔操作型の自動ドアが普及することになる。




