【会議は踊るか?】
恭一郎は国防大臣のマチルダと共に、総理官邸へと向かった。総理官邸はオディリア製の建築モジュールではなく、一年近くの時間を掛けてトイフェルラントの職人が作り上げた、石造りの重厚な建物であった。デザインは二階建ての大きなバルコニー付の邸宅型で、アメリカのホワイトハウスの規模を小さくして装飾を省いたような質素な雰囲気となっている。
白黒の斑模様の花崗岩で造られた総理官邸の正面エントランスに魔導車が横付けして、護衛の魔導車からマチルダの部下達が周囲の警戒に当たる。
恭一郎としては徹底して警護される必要性を感じていないが、ハナ達姉妹に普段から護衛されることに慣れてしまっている影響か、実は恭一郎を狙う新たな脅威が出現しているのではないかと、不安に思わせる警戒態勢に不満を覚えた。
そんな状態で総理官邸の中へと足を踏み入れた恭一郎は、そのまま二階の会議室まで通された。
官邸内の造りは、外観と同様に質素だった。しかし遠くからは、石工が花崗岩を削って装飾を施しているノミの音が聞こえている。総理官邸は建物自体の建設は完成しているが、装飾などの作業を後回しにして、工期を大幅に調整していた。現在は後回しにしていた装飾の削り出し作業を、専門の石工に頼んで行わせている。
◇◆◇◆
総理官邸の会議室は、魔王臨席の御前会議のような状態だった。先程まで顔を突き合わせていたバーレットとレスリー、厚生大臣のアレッサを除く、ほぼ全ての閣僚が一堂に会している。
どうやら、相当重要な案件で、この場に恭一郎が召喚されたようだ。思い当たる節は、無い訳でもない。私怨に駆られてペルフェクトバインを建造して、国庫に大きな負担を掛けたばかりである。その件で糾弾されるのだとしたら、恭一郎は甘んじて法の裁きを受けるつもりだ。しかし、事後法による遡及処罰には断固抵抗する権利までは、手放すつもりはない。
「魔王陛下、烏丸恭一郎閣下をお連れしました」
恭一郎に対して行った礼を、一段高い場所に置かれた椅子に腰かけているリオに向けて行うマチルダ。
「任務、大儀です。会議を再開します。国防大臣は着席しなさい」
リオの指示に従い、マチルダが空いていた席に着席した。
「近衛軍基地司令は、私の隣の席へ」
リオが座る一段高い場所に、もう一脚の席が用意された。どうやら、恭一郎の散財を糾弾する場ではないらしい。
恭一郎がリオの右隣に着席し、セナがその右斜め後方に控えるのを待ち、リオが会議の再開を告げる。
「これより、会議を再開する。基地司令にも内容が分かるように、本会議の目的を始めから説明しなさい」
白い体毛の兎人族女性が席を立ち、リオに一礼を向けてから、良く通る声で説明を始めた。トイフェルラント議会の美魔女議長、年齢不詳のレニアである。
「本会議の議題は、新設された国防隊の装備に関して、どの程度までが適当であるかを話し合うことであります。今回は魔王陛下及び近衛軍基地司令閣下のご臨席で行われますが、この場における発言は法で罰せられることはありません。トイフェルラントの防衛に関する法整備を進めるため、自由闊達な意見の交換を推奨しております」
会議の趣旨を聞き、恭一郎が隣に座るリオへと視線を送る。普段ならば嬉しそうに微笑むリオが、真剣な眼差しを恭一郎へと向けてきた。
「では早速、私から発言させていただきたい」
会議の開始早々、国防大臣のマチルダが挙手をした。
「会議に参加している全員が理解していると思いますが、現政権の成立までには、幾つもの未曾有の戦いが発生しております。その結果として、邪なる神は葬り去られ、その手勢も過日に一掃されました。その全てに、魔王陛下と近衛軍基地司令閣下が関わっておられます。その戦いのいずれにも、鋼の巨人――コネクティブ・アルファの存在がありました。私は国防を預かる立場として、この機械の騎士を国防隊の戦力として組み込みたいと考えております」
そう発言したマチルダが、強い意志の籠った視線を魔王のリオではなく、その隣に座る恭一郎へと向けてきた。
「恭一郎閣下にお訊ねします。トイフェルラントにおけるコネクティブ・アルファの全ての権限を握っておられる閣下は、我が国の国防に関しまして、どのようなお考えをお持ちでおられるのでしょうか?」
マチルダは恭一郎が、CAの運用に慎重な立場であることを理解しているようだ。純粋な戦闘機械を運用してきた恭一郎は、一貫して亜人達に正当な理由なく銃口を向けたことはない。CAで戦闘を行ったのは、自らの身に降りかかる火の粉を払い除けるためだけであり、理不尽な暴力から無辜の人々を助けたことさえある。
圧倒的な武力を背景にトイフェルラントを支配しようとも考えず、リオのヒュアツィンテ商隊を陰から支援して、斜陽のトイフェルラントを再生する手伝いを行ってきている。
オメガによる一連の災禍の後にはリオを前面に押し出して、トイフェルラントの復興と発展に尽力している恭一郎が、亜人達のCAによる重武装化に反対していることが、マチルダには理解に苦しむ考えらしい。
答弁を求められ、その場の視線が集中した恭一郎は、勤めて冷静に言葉を紡ぐ。
「トイフェルラントは、諸君達亜人の国である。それと同時に、私の愛する者の住まう世界である。私の国を護るという言葉の範囲には、国の内外の脅威に対して、それと拮抗しうるだけの力があればよいと考えている」
「では、その内外の脅威とは、どのようなモノなのでしょうか?」
「内なる脅威とは、私の家族を害そうとする存在の全て。外からの脅威とは、私の家族の世界を犯そうとする存在の全て。これを指している」
「もう少し、具体的な対象をお伺いたいのですが、よろしいですか?」
マチルダが恭一郎の真意を聞き出そうと、かなり深く追及をする構えのようだ。オディリア共和国のシズマ大統領とは、この手の話しは十分に済ませてきている。それでいて友好に付き合えているので、恭一郎は自分の考えを包み隠さず開陳することにした。
「そうだな……、法を破り、罪を犯す者。世を乱し、国民に塗炭の苦しみを味あわせる者。そして、私の手の届く範囲から、私の大切なモノを理不尽に奪い去ろうとするモノ。このような存在に対して、私は武力の行使を微塵も厭わない」
敢えて名指しはしなかったが、会議に出席している閣僚の全員が、ほぼ同時に息を呑んだ。恭一郎は公然と、全ての喧嘩を買う用意があると宣言したに等しいからだ。その対象は亜人や人間だけではなく、神や異世界からの侵略者までも包括している。
先日も実際に、家族となる可能性を持っていた仲間を殺され、私怨から単独で仇の大艦隊を撃滅したばかりである。恭一郎は善良な部類に含まれる存在であるが、決して聖人君子ではなく、感情で動く生き物なのだ。
「私からも一つ、お聞きしてもよろしいですか?」
全員が恭一郎の発言で押し黙ったタイミングで、法務大臣の白い虎の男性のマンフリードが、質問の許可を求めてきた。拒否する理由のない恭一郎は、首肯してマンフリードに許可を与える。
「新憲法においては、個人による自力救済が違法となっておりますが、閣下は理由さえあれば、法を破るというお考えなのですか?」
「それは、武力という言葉の認識の違いによる誤解だ。私の言う武力の中には、当然相手の命を奪う実力行使が含まれている。それと同時に、そのような流血の事態を回避するための知識という力も、立派な武力であると解釈している。こうして他者と言葉を交わしているのも、場合によっては利害の対立による戦いとなる場合があるだろう。自らの意見と異なる存在を片端から排除してしまうというのは、ただの封殺者と同じだ。私は皆が平和で安全に暮らせる世界で、大切な家族と静かに暮らしていたい。そのために現行法の制定にも協力してきた」
トイフェルラントの現行法は、性善説に基づいて罪を裁き、犯罪者の更生を第一に考えている。罪を憎んで人を憎まずの精神が根底にあるため、犯罪の抑止にも力を入れている。これは独善的で自己の利益のみを追求して他者を顧みない、身勝手極まる人物がほぼ一掃されたトイフェルラントだから導入の叶った法体系である。
自己の権利ばかりを主張して他者を虐げるような人物の多い国であったのなら、もっと強権的な独裁体制で国民を徹底的に管理して、思想信条の段階から弾圧と洗脳や刷り込み教育で根本から作り変えていたところだ。手順こそ地球の独裁国家と同じだが、方向性は真逆であることを強調したい。
恭一郎の行動は一貫して、家族と共に平穏に暮らすことを目的としている。そのためには自分達家族だけではなく、社会全体の幸福度が一定水準を超える必要があった。衣食足りて礼節を知る、である。そのために社会全体の幸福度を上げ、犯罪に手を染めなくても生きて行ける安定した社会を目指している。
しかし残念ながら、反社会性を持つ人物は一定数存在してしまう。現行法で厳しく裁くのはそんな人物が主であり、恭一郎が自ら武力を用いるのも、そのような存在に限っている。
「では、閣下の想定する国防に必要な装備とは、どの程度のモノなのでしょうか?」
ここでようやく、豚の耳と鼻を持つ内閣総理大臣のコーエンが、この場で初めて口を開いた。現在も存続する貴族の中でも穏健派であり、行動様式も恭一郎に近い、造形の整った男だ。その甘いマスクに当てられて、幾人ものご婦人方を勘違いさせた罪作りなナイスミドルである。
「国内に対しては、警備隊と同程度の非致死性装備を基本とし、危険な武器を所持している相手に対しては、同程度以上の装備を使用させる。国外に対しては、領有圏内への不正な侵入を阻む警戒装備を基本とし、防衛に専念して無理をせず、場合によっては撤退を可能とし、相手を上回る戦力の反攻投入を基本戦略と考えている」
「それはつまり、抑止力の範囲内に収まる装備であればよい。そういうことでしょうか?」
恭一郎の言わんとしているところを読み取ったコーエンが、抑止力という単語を持ち出した。コーエンの見解に同意を示し、恭一郎は無言で頷く。
抑止力とは読んで字の如く、相手に行動を思い止まらせるモノを指す単語である。
恭一郎が目指しているのは、日本のように治安の良い平和な世界だ。トイフェルラント国内は、剣も魔法も存在するファンタジーな世界であるが、基本的にどちらも使い手を選ぶ武器となる。この二つに対抗するのであれば、剣や魔法の熟達者を養成することで十分な抑止力となる。
一方のトイフェルラントの国外は、強大な軍事力を保有しているオディリア共和国が存在している。多数の戦闘艦艇の他にも巨大な移動要塞を複数保有しており、CAや航空機の配備数も圧倒的である。疲弊している宇宙戦力まで加えると、トイフェルラントを何度も壊滅させられるだけの戦力を有する強大な軍事国家だ。
現在は恭一郎を繋ぎとした強固な友好関係にあり、軍事的にも恭一郎と同盟関係に等しい友軍となっている。少なくとも恭一郎が存命である限り、オディリアとの間に緊張関係は起こり難い情勢だ。
よってトイフェルラントは武力を背景とはせず、外交で両国の関係を維持して行くことが現実的である。保有する抑止力は、不正に物品や人身を移動させる不届き者に対する備えだけで十分であり、国防隊の戦力は国力に即した規模に止め、長い時間を掛けて充実を図るのが妥当だ。
圧倒的な差のある戦力に関しては、近衛軍の保有戦力だけで十分に対処可能である。配備されているパラーデクライトにゲシュペンストは、オディリアの切り札であるメサイアと同等以上の性能を有しており、ペルフェクトバインに至っては比較不能だ。保有する超戦艦のツァオバーラントは現在唯一の恒星間航行能力を有する戦略級の指揮戦艦であり、コア・シップの万能航宙艦ケーニギンですら、惑星間航行能力を有する超高性能艦である。
強大な戦力を有するオディリア共和国を惑星ごと無限に壊滅させられる能力を有している時点で、トイフェルラントに手を出せば明日が来ないという十分な抑止効果となっている。それゆえに、恭一郎はこれ以上の戦力強化には消極的だった。
恭一郎の考えが全員に伝わったところで、隣に座るリオが満を持して口を開く。
「皆も聞いての通り、司令は独自の戦略に基づいて、トイフェルラントの未来を見据えている。私も司令の考えに賛同している。だが敢えて、ここに宣言する。トイフェルラント国防隊に、CAを運用する特務部隊を創設せよ」
リオの口から飛び出したのは、予想外の軍備増強路線だった。その真意を確かめるため、リオのハチミツ色の瞳を真っ直ぐ見詰める。
「先程も司令が仰った通り、トイフェルラントは我々亜人の国。その我々亜人がいつまでも、司令と近衛軍にのみ国防の負担を強いるのは、健全な状態ではありません。現に先日も、異世界からの略奪者である紅星軍に対して、実質的に司令お一人で全てを解決されました。その結果、司令だけが重傷を負われました」
それはあくまでも個人的な復讐の結果であって、ある意味自業自得の負傷であった。だが、そう訂正しようとした恭一郎の発言を封じるように、リオが不機嫌オーラを垂れ流して閣僚達を震え上がらせる。
「いずれ私の夫となる殿方とはいえ、司令は普通の人間。本来ならば我々亜人が共に戦場に立ち、国の明日のために血を流さなければならない。これは種族差別ではない。我々の仁義の問題だ。我々亜人は司令によって滅亡の危機を何度も救われているにも拘らず、その恩を全く返さない厚顔の徒ではない。いつまでも司令の庇護下にあることを良しとはしない、対等の友でいたいのだ」
リオの不機嫌の正体は、結果的に世界の命運に首を突っ込んで、誰よりも傷付いてしまう恭一郎の負担を減らせることができないでいる、自身への苛立ちだった。
思い返せば、リオとは共に戦ったことはあったが、その他の亜人とは戦場を共にした記憶が無い。マクシミリアンは特別で、彼はデヴァステーターの操縦訓練を受けた復活者である。一般の亜人と同列に扱うことはできない。
リオは個人として、恭一郎が傷付くことを良しとしていない。それと同時に、共に戦える他の亜人が存在していないことに憤りを感じていた。無用な人死にを出すつもりは毛頭ないが、国防の負担を恭一郎だけに押し付けることも良しとしていない。
だからといって今のリオは、自由に動くことができない。国家存亡の危機でもなければ、直接戦場に玉体を運ぶことがまかりならない。誕生したばかりの新生トイフェルラントが安定するまでは、国の象徴である魔王に万が一にも何かがあってはならないからだ。
「いずれは、そうなるだろう。だがそれは、今ではないはずだ。もっと堅実に段階を踏んで、着実に実績を積むべきだ」
恭一郎が国防隊へのCA導入に消極的な理由の一つに、亜人社会の成熟度を測りかねている問題がある。政府が欲するCAとは、存在しているだけで凶器と変わらない機動兵器である。現状で国内のCAを全て管理している恭一郎は、十重二十重の安全策を施してCAを運用している。
そのCAが恭一郎の手を離れ、亜人達だけで安全に運用できるのか、恭一郎は判断を下すに足る確証がない。
考えてみてほしい。急速な科学の発展が技術の進化を促し、人型作業機械の登場した作品の話しだ。誰でも扱える人型作業機械の普及によって、それを犯罪に使用する事態が発生するようになる。そこでこの犯罪に対応するために、警察も取締り用の人型の特務警邏機械を導入したという物語だ。
別の例えをするならば、手続きさえ完了すれば、誰でも銃器の購入可能な某国のように、銃器による犯罪が頻発するような社会になってしまうのではないか、という危惧である。
たった数年だけとはいえ、最近は多種多様な亜人と関わってきた恭一郎の心情として、人間も亜人も精神に未熟を抱えた不完全な生き物であることに代わりはない。地球のように未熟なまま簡単に人を殺せる力を手に入れた亜人達が、同族同士で殺し合いを演じてしまう可能性を恐れているのだ。
「閣下は、大変お優しくて、情け深い方なのですね。しかし、過保護でもいらっしゃる」
そう発言したのは、学務大臣を務める白い獅子の男性、根っからの教育者であるレオポルドだ。武門の家柄であるマクシミリアンとは違い、レオポルドは学問専攻で、腕っ節は恭一郎より少し強い程度だ。
「相手を大切にするあまり、なんでもかんでも世話を焼いてしまっていては、相手の自立をいたずらに阻害するだけです。時には厳しく突き放すことで、相手の大きな成長を促すことも必要かと存じます」
過保護な行為に対して自覚のある恭一郎は、レオポルドの言葉に抗する言葉が出ない。これまでもリオに対し、恭一郎はあれこれと世話を焼いてきた。記憶を失って幼稚化した遥歌に対しては、過保護の方向性がシスコンという形で顕在化している。
単に世話好きと言い換えることも可能であるが、相手に対して過干渉な部分もあるだろう。リオと遥歌に関しては、心の飢えを満たすという行為として成立したが、家族以外の存在にとっては、余計なお世話であることが多いのも確かだ。
「何でも一人で背負い込むのは、司令の悪い癖です。もう少し我々亜人のことを信頼して、何もせず見守っていてはくれないだろうか?」
いつまでも、恭一郎に守られてばかりの子供ではないと、リオが強い意志を宿した眼差しを向けてくる。まだ数え年で一四歳の少女であるが、公称年齢は一九歳である。肉体年齢も公称年齢に近い大人の女性なので、誰もがリオを子供だとは認識していない。唯一の例外が恭一郎だけなので、この場合は恭一郎が行動を改める必要があった。
「CAを配備すると言っても、現行の機体をそのまま使うことはできるのか? コクピットは人間用に造られているんだぞ?」
猫人族型アンドロイドであるハナは除外しても、リオがCAに搭乗する場合、邪魔になる種族的特徴を消すために人間に変身している。狭いコクピットのパイロットシートに着座するには、背中の翼と腰の尻尾は邪魔になるからだ。パイロットスーツを着てヘルメットを被るにも、種族的特徴は邪魔でしかない。
「それに関しては、我々魔法院に秘策があります」
恭一郎の問いに答えるのは、魔法大臣である森狼族のウルリカだ。手負いのタイグレスによってウルリカの夫は食い殺されてしまっていたが、その遺品をリオから行商組合を通じて返還されたため、その恩を返しに来ている義理堅い女性だ。
「国防隊に配備予定の機体は、魔導具技術の粋を集めた仕様となります。基本とする体高は八メートル以下で、コクピットは搭乗者の特徴に合わせた専用型とします。司令の保有するオールド・レギオンタイプの機体を、トイフェルラントの技術で魔導具化したモノだとご想像ください」
トイフェルラントの製造能力に疑問譜が尽きないが、魔法院に集約された魔法と魔導具の技術を結集することで、完全な魔力稼働型のCAを完成させることは可能だろう。
主機は魔導鉄道のような高出力型の魔導エンジンで、補助として魔力電池を搭載すれば確実に機体を動かせるだろう。操縦は魔力操作によって機械的な部分の代替が可能であり、センサー類も魔導具で代用が可能だろう。推力は魔力融合ロケット一基で、十分お釣りが出る。コクピットは種族によって身体の作りに違いがあるため、搭乗者に合わせた改造を施すことで、誰にでもCAを扱えるようにするようだ。
すでにCAの配備は既定路線で、この会議は恭一郎の裁可を得るための場であるらしい。些か請求な嫌いも感じるが、リオとリオの判断を信じて委ねてみるのも手であるかもしれない。
「CAの運用について、どのように考えている?」
CA部隊を運用することになる、国防大臣に話を振る。それに対して、マチルダは即答した。
「特務部隊を養成する学校を設立し、開発・製造から保守・運用に至るまでの包括的な人材を育成します。また、近衛軍だけではなく、オディリア統合軍とも積極的に合同訓練を行い、練度の向上を図ります」
国防院と学務院が協力して、兵学校や士官学校のようなモノを用意するようだ。そうすることによって、CA部隊を持続的に運用する態勢を整えるという。
新設されるCA部隊は国内外のCA運用部隊と積極的に交流することで、友軍としての立場を明確にすることに加え、練度の向上で多様な局面での運用能力を担保する狙いがあるようだ。
「聞いた限り、大丈夫そうではあるが、財源は厳しいのではないか? 私が言うのもアレだが、相当に国庫に負担を掛けてしまった気がするのだが……?」
会議の末席に座る財務大臣、軟質の甲羅を持った丸い輪郭の亀人族で鼈人種のカスパーに視線を送る。
「治安回復に伴う押収品などからの財源が潤沢ですし、閣下の魔導具の売り上げも上々で、税収も安定しています。国債を乱発せずとも、なんとかできるでしょう」
金勘定に関しては並ぶ者のないカスパーが、最新の財務報告書を片手に太鼓判を押す。大金が動くことで金勘定ができるのを、仕事として愉しんでいるのかもしれない。
「仕方ない。しっかり管理してくれ」
こうまで計画が進んでいてしまっていては、恭一郎も折れるしかなかった。まだまだ不安で一杯だが、リオを支える閣僚達の言葉を信じて任せることにする。
「それでは、CA部隊の創設に向け、各自の働きに期待する」
リオが恭一郎が心変わりする前に会議を締め括った。そして総理のコーエンが犬人族の国務大臣ゲアハートを呼び、これからの段取りを詰め始めた。
恭一郎はリオに促されるように、一緒に会議室を辞した。




