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【最凶の凶鳥 前篇】

 味方を置き去りにしてアロイジア宙域へと侵入を果たした恭一郎のペルフェクトバインは、さっそく紅星軍の苛烈な迎撃の洗礼を受けた。

「――正面宙域に高熱量反応多数検知……! 熱核機雷と推定……!」

『やはり、我々の予測進路上に罠を仕掛けていましたね』

 セナとミズキが紅星軍の張り巡らせた罠に対して無駄なことをと、相手を鼻で嘲笑している。紅星軍への復讐のために生み出されたペルフェクトバインに対して、もはや核兵器程度では足止めにすらならない。

「このまま、フォーゲルフォルムで突っ込む。俺達が報復に来たことを派手に教えてやる」

 飛行形態のままペルフェクトバインが、機雷源の中に高速で突入する。すぐさま標的を検知した熱核機雷がペルフェクトバインへと殺到し、周囲を恒星のように熱く燃え上がらせた。

 だが、それだけだった。全てを破壊する熱と放射線と衝撃波の地獄から、ゲージ・アブゾーバーと空間歪曲場によって守られた巨大な鳥が飛び出して、何事もなくアロイジア近傍宙域に到達した。

 ミドルレッグフォルムに変形をしてから制動を掛け、アロイジア宙域を通り過ぎないように減速する。推進翼から魔力融合ロケットを逆噴射させ、ペルフェクトバインは氷の衛星イゾルダの軌道内に到着した。

 ミドルレッグ形態となったペルフェクトバインの姿は、流線型を基本としたシャープなフォルムとなっている。その機体表面の一部に羽根型の追加装甲が重ねられているため、兵器としての無骨さも加わっている。

「イナーシャルキャンセラーを使っても、これだけの慣性質量()を受けるのか!? 造っておいて言うのも変だが、とんだ化け物機体だな!」

 臓腑を抉るような制動の衝撃で、恭一郎の体力が一気に削られた。気合いを入れて防御姿勢を執っていなかったら、今の制動時に内蔵を損傷して戦闘どころではなくなっていただろう。

『全天走査……。衛星オリンダより、多数の動体反応を検知! 星機しんきです! 二万体を越えて、現在も増加中!』

「――敵機、加速しつつ接近中……! 接触まで六九分……!」

「敵艦の反応は?」

『妙ですね。あれだけの巨大目標であれば、ペルフェクトバインのセンサーで拾えないはずはないのですが……』

 敵との接触までかなり余裕があったため、敵の配備状況を確認した。しかし、敵反応は全て星機ばかりであり、リオによって手負いとなった超大型艦の反応が見当たらない。

「――惑星アロイジアより、上昇してくる反応あり……。パターン照合、星付きの特別機を確認……! その数、三〇〇、五〇〇、一〇〇〇、なおも増加中……!」

「どこからこれだけの戦力が、大量に湧いて出て来るのやら……? まあ、俺達がることは、何も変わらないが……」

 ジェラルドの仇と狙っていた星付きの星機が、想定外に大量に存在していたことには多少驚きを感じたが、高性能機の数が戦力の決定的な差ではない。ペルフェクトバインを敵に回すには、雑魚の数を際限なく増やしたところで、どう転んでも焼け石に水である。

「――敵機総数、一〇万を越えました……!」

『これだけの数を、あの巨艦の中に収容はできないはず。艦の損傷を回復させる作業と並行して、我々への備えとして艦載機を増産していたのでしょうか?』

「案外、艦の修理を諦めて、味方の救援を待っているのかもしれないな」

『ツバサさん達は、自分達は座標を見失っているから、救援は望めないと言っていましたが?』

「それはツバサ達がそう思い込んでいるだけで、実際は広大な宇宙で艦隊間の通信が可能なのかもしれない。俺達やオディリアの間にも、重要機密がたくさんあるように……」

 この仮説に思い当たった時点で恭一郎は、敵の殲滅を急ぐ必要性を感じた。もしも敵が恭一郎の立てた仮説に従って行動を起こしているのだとしたら、手付かずの資源が残るゾンネファルナ恒星系を発見した時点で、味方へと連絡を出しているはずである。その先に待っている事態は、紅星軍の艦隊による略奪行為だ。

 当然その食指はオディリアへと向けられ、トイフェルラントも無事では済まなくなる。最悪、惑星を破壊した後で、ゆっくりと資源を略奪してもいいのだ。

 さすがに惑星の消滅に巻き込まれてしまっては、宇宙空間で生存の可能なリオですら、生き残れる保証がない。もし生き残れたとしても、真龍化していられる時間は限られている。どの道、リオは冷たい宇宙空間で窒息してしまう。

 悪い予測ばかりが脳裏を過り、恭一郎がペルフェクトバインを前進させる。

「いずれにせよ、あれだけの数に対抗できる戦力は、このペルフェクトバインだけだ。ハティー達が到着する前に、敵を全て撃滅するぞ!」

『「了解!」』

 恭一郎は再びペルフェクトバインをフォーゲルフォルムに変形させ、最大加速で敵の大群へと接近した。




     ◇◆◇◆




 わずか数分で敵集団のど真ん中に突っ込んだペルフェクトバインに向けて、全方位から無数の矢が殺到した。先の戦いでは、防御力に注力していた改型の装甲を容易く射貫いた、貫通力の高い実弾攻撃である。

 しかし今度は、ペルフェクトバインの防御を突破できなかった。空間歪曲場によって射撃が明後日の方向に反らされ、運良く歪曲場を通り抜けた矢もゲージ・アブゾーバーによって威力が大幅に減衰してしまう。

 矢の届かなかったペルフェクトバインの装甲表面には、まだ多重魔力障壁という見えざる盾が控えており、物理と魔法の特殊複合装甲からなるヘルテン装甲も、改型よりも高性能且つ重厚である。

「その程度の豆鉄砲で、俺達を止められると思うな!」

 前腕部に内蔵されている特殊魔導具型ガンブレードを起動させ、魔力剣ブロード・ソードの上位互換となる魔導剣バスター・ソードを形成する。刃渡り一〇メートルほどの魔導剣を水平に構え、左腕と右腕を交互に横薙ぎにする。

 虚空を薙いだ魔導剣が斬撃となって射出され、多数の星機を切り裂いて戦場を突き抜けた。

 インドのヒンドゥー教における三大神の一柱、破壊神シヴァの名を与えられたガンブレードは、立ち塞がるモノ総てを破壊するためのコンポジット・ウェポンである。基本的な扱い方はグライフと同じであるが、魔力操作によって近距離から遠距離まで死角はなく、尽きることない魔力によって、最大射程は限りなく長大である。

 魔導剣の出力を引き上げ、ペルフェクトバインが狙いも付けずに腕を振るう。そのたった一薙ぎで、四ケタ以上の敵機が消滅した。

 常識外のペルフェクトバインの攻撃力に恐れをなして、敵集団が大きく周囲へ散開する。シヴァによる点や線、面での攻撃では、殲滅効率が少々悪い。

「――ヴィシュヌ、アクティブ……! オールレンジ、アタック……!」

『自律兵器射出! サーカス・モーション!』

 ペルフェクトバインの推進翼及び可動式装甲に追加装甲として取り付けられている一〇〇基の有機的な羽根型装甲板が分離され、ミズキによる量子通信によってそれぞれが独立して周囲の敵機へと襲い掛かる。

 敵機と衝突した羽根型装甲が機体を貫く。そのまま複数の敵を貫いて、最後には限界を迎えて敵機と共に爆発した。

 シヴァと並ぶ三大神の一柱、慈愛神ヴィシュヌの名を与えられた特殊自律兵器は、攻防一体の広域迎撃用スマート・ウェポンである。二対四本の副腕の防御力向上のために装備されているが、分離し遠隔操作をすることで、強力な自爆用無人機スーサイド・ドローンとなる。

「――ブラフマー、アクティブ……! ヴィシュヌ、リロード……!」

『パージ、からのアターック!』

 一瞬にして再生した羽根型装甲が再び分離され、周囲の敵機へと殺到する。

 シヴァ、ヴィシュヌと並ぶ三大神最後の一柱、創造神ブラフマーの名を与えられた魔導具は、魔力から全てを生み出す再生装置である。リオの持つ魔力を物質変換させる能力を再現した魔導具であり、素材から解析された完璧な設計図のあるモノであれば、魔力を消費して何でも生み出すことができる打出の小槌だ。

 無限に湧き出る力によって、永遠に戦い続けることを可能としたペルフェクトバインは、紅星軍の通常型星機の大群を単機で圧倒し尽くした。一度の交戦で蹂躙され尽くした敵は、一機の漏れもなく撃滅された。

「次は、星付きの集団だ」

 アロイジアから飛び立ってきた高性能な特別機の大部隊に対して、最凶の凶鳥が狙いを定めた。この大部隊の中に、ジェラルドの命を奪った、腕が長く伸びる特別機が含まれているはずである。そいつだけは何としてでも見付け出し、恭一郎達の恨みと恐怖がその骨髄に入るまで、じわじわといたぶって恭一郎達に牙を剥いた愚かさを刻み付けなければならない。

 恭一郎達にはそうする権利があり、簡単に楽に終らせてはいけない義務があった。




     ◇◆◇◆




 星付きの特別機達は、通常の星機が手も足も出ずに撃滅された戦闘を目の当たりにしていたため、高速格闘戦の波状攻撃を選択して挑んできた。機体に一つ星を付けた通常型に近い星機が、単機で乗り込んできた殲滅者に殺到する。

 迎え撃つ形となった恭一郎は、ペルフェクトバインに魔導剣を構えさせた。そして、速度と重量の乗った大鉈で切り掛かってくる敵機と交錯する。

 魔導剣の一閃により、敵機は得物の大鉈ごと両断されて撃破された。しかし、それは囮だった。撃破した敵機の真後ろに、別の敵機が控えていた。似たような得物で襲い掛かってくる敵機に対して、再び魔導剣を振り抜く。先の敵機と同様に、両断された敵が爆発四散する。

 その爆炎の中を突き抜けて、新たな敵機が肉薄してきた。魔導剣を振り抜いた腕での迎撃は、とても間に合いそうにない。だが、慌てるような事態ではない。迎撃時の勢いに合わせて身を捩り、脚部による回し蹴りをお見舞いする。爪先と踵の指に装備されたバイブレーションクロウが敵機の装甲を飴細工のように切り裂き、バラバラに解体して破壊した。

 シヴァの娘である女神カーリーの名を与えられた破壊の鉤爪は、破砕できぬモノの無いソニックウェポンである。主腕の手にも装備されているカーリーは、至近距離での斬撃の他にも、格闘戦における振動破砕、実弾攻撃の切払いにも使用できる。

 その攻撃モーションは、恭一郎の軍隊式格闘術の師であるハナと、CAによる格闘戦の得意なハリエットによって組み上げられている。そのため、格闘戦の苦手な恭一郎でも、ペルフェクトバインの格闘性能を十全に引き出すことが可能となっていた。

 途切れることのない敵機の猛攻を打ち破る恭一郎の目の前に、二つ星の機体が出現した。どうやら、下っ端の一つ星は品切れのようだ。

 星の数が増えたこともあってか、機体の構成が通常機よりも凶悪になってきている。機体の一部や武装が目に見えて大型化され、格闘や射撃の攻撃力が底上げされているようだ。

 しかし、その程度で恭一郎達の相手は務まらない。これまでの敵機と同様に、紅星軍の得意な格闘戦を全て返り討ちにする。多少連携して多方面より攻撃を仕掛けて来るが、ペルフェクトバインの機体に迫ることはできない。

 シヴァが閃き、ヴィシュヌが舞う度に、敵機が次々と復讐の餌食となる。両者の間に圧倒的な機体の性能差があるとはいえ、それを操る恭一郎には限界がある。戦闘時間はそれほど長いモノではなかったが、恭一郎の身体は全身に戦闘機動によるダメージが出始めていた。

 今まで搭乗していた改型を遥かに上回る機体の運動性能は、搭乗する恭一郎に圧倒的な勝利と代償を与えている。パイロットスーツに保護されている恭一郎の下肢は、絶え間ない加圧によって血流が滞り始め、感覚がしびれ始めている。

 激しく揺さぶられている内臓は鈍痛を訴え始めており、致命傷は受けていないが、毛細血管は何カ所も破裂して内出血を起こしている。このまま戦い続ければ、着実にリオの治癒魔法が必要な損傷を受けることになるだろう。

 恭一郎の全身の筋肉は凄まじい圧力に耐えながら、次々と筋肉繊維が断裂して行っている。軽度の打撲が四肢を中心に複数個所発生しており、操縦桿を握る力もいつまで保持していられるか、心配しなくてはならなくなっている。

 今はこれらのダメージを精神力で凌駕しているが、恭一郎の精神力も有限であることに代わりはない。あまり長い時間を雑魚の相手に割り裂いておくわけにもいかない。

「四つ星機、出てきやがれ!」

 シヴァに魔力を集め、低出力の魔導砲を発射する。多数の二つ星と三ツ星機の一部を薙ぎ払い、戦闘宙域を光芒が貫いた。間発入れず、ブラフマーに魔力を注ぎ込み、コンテナミサイルを次々と生成する。 ヴィシュヌによって残敵の至近まで運ばれた多数のコンテナミサイルが無数のミサイルを吐き出し、戦闘宙域全体が爆炎の花で満たされた。

「――交戦中の敵機、全機の破壊を確認……!」

『ワタシ達を、阻むモノ無し。これは当然の結果です』

 戦闘によって疲弊している恭一郎に代わり、セナとミズキが残敵の掃討を確認してくれた。戦闘宙域にはおびただしい数の星機の残骸がデブリとして浮遊しており、視界は小惑星帯の中にいるようにかなり悪くなっている。

「四つ星機の反応は?」

『交戦中の敵機の中には、確認できませんでした。恐らく、母艦の直援に当たっているモノと考えられます』

「――索敵行動を推奨……」

 現宙域は障害物が無数に浮遊しているため、別の晴れている宙域へ移動して索敵をする必要があった。恭一郎はその意見を採用し、フォーゲルフォルムに変形して、星機達の墓場となった宙域を離れた。




     ◇◆◇◆




 アロイジアとイゾルダ、そしてオリンダの重力均衡点に移動した恭一郎達。化け物機体の操縦で消耗している恭一郎を除き、全てが完全な状態で稼働しているペルフェクトバインが、周囲の空間を精密に走査する。

 先程の戦いで姿を現さなかった巨大艦の姿と、ジェラルドの仇である四つ星機の反応をセンサーで探る。その結果、敵の星機部隊の出現した衛星オリンダと惑星アロイジアの表面に、大きな熱源を伴う金属反応が確認できた。

 そして光学的に捉えた反応の正体は、驚くべきモノだった。

『アロイジアの地表にて、墜落している敵艦を確認しました。墜落した艦の構造材を再利用して、特別機の量産を行っているようです』

「――オリンダも同様に、星機の製造プラントのようです……。その設備の中心に、四つ星の特別機の反応があります……」

 紅星軍の行動は、恭一郎達の想定していた損傷艦の修理ではなく、侵攻用の星機を量産することを選択していた。惑星と衛星の一つにそれぞれ拠点を設けていて、それぞれの動力源に損傷艦と特別機を充てていた。

「徹底抗戦、と言う雰囲気ではなさそうだな。むしろ、俺の立てた仮説みたいに、味方の到着を待っていて、その間に手駒の星機を増産していたと見るべきか……?」

 手付かずの資源を我が物として、その欲望を肥大化させている紅星軍の飽くなき貪欲さに、恭一郎は寒気を催した。その寒気が次第に大きくなり、やがてコクピット内に警報が鳴りだす。

『次元境界レーダー、大規模マイナス値観測! 敵艦出現時と同規模の反応が複数!? さらに大規模なマイナス反応も検知!?』

「――まさか、紅星軍の艦隊……!?」

 事態は抜き差しならない状況へと移行しているようだ。どうやら恭一郎達は、情報不足によって根本的な部分を読み違えていたのかもしれない。

 リオの参戦で損傷した敵艦があっさりと引き上げたのは、こちらの戦力を評価して、いつでも潰せると判断していたのかもしれない。カガリビのような優秀なレーダーで資源の豊富なアロイジアを見付け、こちらの手の届かない安全な場所で侵攻の準備を整えていたと考えるのが自然だ。

 同時にこのアロイジアに味方の艦隊を招き寄せ、ゾンネファルナ恒星系の侵略のための橋頭保としていた可能性がある。そうでなければ、広大な宇宙空間を移動するための母艦を墜落させ、星機の製造プラントに作り変えた理由に説明が付かない。

「敵の戦力評価を誤っていたのは、俺達の方だったのかもしれないな……!」

 気持ちが若干揺らいだ瞬間、恭一郎は激しい吐き気に襲われ、口内に鉄の味が広がった。無茶な戦闘の代償として、内臓に損傷が出ているようだ。この程度では命の危険までは至らないだろうが、長時間の戦闘には耐えられそうにない。

 だが、そんな弱音を吐いている余裕はない。なぜなら、艦隊規模の紅星軍に対抗できる味方の戦力が、ペルフェクトバインとツァオバーラントしか存在しないからだ。それはつまり、恭一郎達の敗北が、トイフェルラントで帰りを待っているリオ達の命運と直結しているということに他ならない。

 事ここに至っては、手段を選んでいる余裕は完全に失われていた。

「ミズキ! ツァオバーラント、魔導砲発射準備! セナ! ペルフェクトバインも魔導砲を発射する!」

『了解! ツァオバーラント、魔導砲発射準備開始!』

「――縮退炉、出力最大……! シヴァ、魔力充填開始……!」

 出現直後の敵艦隊に対して、ツァオバーラントとペルフェクトバインによる、魔導砲の殲滅攻撃を準備する。ツァオバーラントの艦首超大型魔導砲の照準は、最も巨大なマイナス反応を示している宙域へ向けられた。ペルフェクトバインの左右の前腕に搭載されている二基のシヴァは、小型の魔導砲を正面方向左右の反応に指向する。

 やがて紅の略奪艦隊が、アロイジア近傍宙域へワープアウトした。見る人が見たら『エ〇〇キューター』と表現しそうな超巨大戦艦を中心とした、一〇隻を下らない巨大艦の大艦隊である。

 旗艦と考えられる超巨大戦艦は、全長一〇キロメートルを超える威容を誇り、深紅の艦体には堂々たる金色の星が九個も描かれている、紅星軍の特別艦である。星の数が強さのバロメーターであることから推測すると、この超巨大戦艦は恐ろしいまでの能力を秘めているはずである。

 取り巻きの巨大艦にも星が描かれているモノが含まれているため、艦隊規模で尋常ではない能力を有しているようだ。正面からまともに戦っては、勝機の薄い戦いになることは明白である。

「ツァオバーラント、魔導砲発射! ペルフェクトバインも、続いて魔導砲発射!」

 先手必勝。恭一郎の号令一下、大小三本の魔導砲の光芒が、宇宙の闇を貫いた。しかし――。

『イレギュラーです! 目標の座標から外れました!』

 ツァオバーラントの魔導砲が照準を外れ、超巨大戦艦の隣の巨大艦を消滅させた。ペルフェクトバインから放たれた魔導砲は、二本共に個別の巨大艦を貫いて爆沈させることに成功する。

「照準の誤差修正を急がせろ!」

「――敵艦隊、艦載機発艦開始……!」

「ヴィシュヌ、連続射出! 敵機を一機も逃すな!」

『ツァオバーラント、照準システムに異常発生! 現在、原因調査中!』

「ええい、こんな時に!?」

「――敵艦載機、五つ星以上の特別機多数確認……!」

「艦載機部隊も特別編成かよ!?」

 次々と報告される情報が、恭一郎にとって戦況の不利を伝えてくる。切り札であるツァオバーラントの魔導砲は、謎の照準トラブルによって遠距離からの攻撃が不可能となり、恭一郎を巻き込みかねないため、発射そのものができなくなってしまった。

 さらに敵艦隊より発進した艦載機部隊は、星五つ以上の特別機から成るエリート戦闘軍団のようだ。その数も五ケタに届いた現在でも増え続けているため、その脅威度はこれまでの雑魚とは比較にならない。ペルフェクトバインの基本性能に迫る敵は存在しないだろうが、それでも数で押し込まれてしまうと、殲滅速度に限界のある恭一郎に土が付く可能性が高くなる。

 目の前まで迫る破滅の足音に、恭一郎は覚悟を決めた。命を捨てる覚悟で、死中に活路を見出す。

「ペルフェクトバイン、リミッター解除! リオの魔力機関へ、回路接続!」

『敵艦隊の砲門が、当機を指向しました! 攻撃、来ます!』

 敵艦隊から無数の超高速弾が発射され、ペルフェクトバインの存在する宙域を物量の嵐が吹き荒れる。

「――全力防御……!」

 機体正面に空間歪曲場とゲージ・アブゾーバーを集中展開し、可動式装甲を正面に構えて身を護る。直撃弾を空間を捻じ曲げて受け流し、貫通しようとする弾をゲージ粒子が威力を減衰させ、突破した攻撃を多重魔力障壁で覆われた可動式装甲が弾く。

 有効な一撃は受けていないものの、防御に徹していては身動きが取れない。ペルフェクトバインをアロイジアに釘付けにしている間に、紅星軍は好き放題に略奪行為を働けてしまう状況だ。

「リミッター解除急げ! ここで奴等を抑えられなければ、これまでの全てがご破算になるぞ!」

『しかしそれでは、恭一郎さんの身体が持ちません! すでにダメージを受けている状態でリミッター解除などしたら、数分で身体がミンチになってしまいます!』

 恭一郎の催促に、ミズキが反対する。恭一郎のバイタル・サインを見ていれば、リミッター解除は自殺行為に等しいからだ。しかし、セナは覚悟を決めていた。

「――でも、それしかない……!」

「いつまでも家族の復讐に拘泥している程、俺は向こう見ずの考え無しではない。要は、俺の身体がミンチになる前に、ペルフェクトバインの全力で、紅星軍の大艦隊をどうにかすればいいだけのことだ」

『だからって、命の危険を許容するわけには――』

「――愛する家族のために命を賭けることは、罪ですか……?」

「これが、最後の戦いになるんだ。勝って、皆の所に帰ろう。ペルフェクトバインは、そのための力だ」

『近衛軍基地とツァオバーラントのミズキは、ペルフェクトバインのリミッター解除を支持します。トイフェルラントでは、選挙が無事に終了。開票作業が間もなく完了します。ですから、恭一郎さんは必ず生きて帰ってきて、トイフェルラントの行く末を見守ってくれることを信じております』

『もう二人の私まで!? これでは私だけが、悪者じゃないですか!?』

「だから、ミズキ。俺達の明日のために、力を貸してくれ」

 恭一郎の身を案じていたミズキだったが、自身を含めた説得に折れることになった。

『では、リミッター解除は、一二〇秒間だけとします。それ以上の戦闘は、恭一郎さんの身体が持ちません。この一二〇秒を使って、勝利を掴み取ってください』

 ペルフェクトバインの封印が解かれ、魔力縮退炉がリオからの魔力供給を受ける。膨大な魔力を内包した縮退炉内で魔力縮退現象を起こし、膨れ上がった力がペルフェクトバインの全身を駆け巡る。

「――リミッター解除確認……! 縮退炉、臨界状態……!」

『ペルフェクトバイン、オーバードライブ! カウント、スタート!』

 縮退炉から溢れ出るエネルギーが、ミッドナイトブルーの機体を蒼い輝きで包み込む。その姿はまるで、蒼き炎の不死鳥である。

「完全なる凶鳥、お前の真の力を見せてやれ!」

 ゾンネファルナ恒星系の惑星アロイジア宙域において、紅星軍の災厄となる蒼き凶鳥が目を覚ました。これから、恭一郎の魂を削る戦いが始まる。

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