【八九〇〇万キロメートルの彼方へ】
――トイフェルラント生活一五七九日目。
翌日に控えた選挙には、我こそはと名乗りを上げた人物が、三〇〇名近くも議会議員に立候補していた。この中から国民の投票で五〇名が選出され、この五〇名の議会議員の投票で、議会議長が決まることになる。
今回に限り、トイフェルラント近衛軍に所属する者には、投票に参加する権利が与えられていない。統治者である魔王のリオとその婚約者である恭一郎には、一定の拒否権が法律によって与えられている。だがそれは、トイフェルラントが間違った方向へと進む流れを阻む力であり、あくまでも国民主権を維持するための非常手段と位置付けられている。
そのため、圧倒的な武力を誇る近衛軍が、武力による圧政を望んでいないことを体現すべく、投票には干渉しない姿勢を貫いている。唯一の例外は、この選挙を脅かそうとする存在を排除することだけだ。
トイフェルラント国内一〇〇カ所に設けられた投票所には、オディリア共和国政府から選挙監視団が派遣され、公平な選挙が行われるように監督と指導を行ってくれている。
トイフェルラントが本当の意味でトイフェルラント人のモノとなる記念すべき日を前にして、恭一郎は紅星軍を討つためにトイフェルラントを発ち、彼等が傷を癒しているであろう惑星アロイジアへ向かおうとしていた。
◇◆◇◆
まだ夜も明けきらない早朝のマイン・トイフェル空港に、近衛軍の誇る超戦艦ツァオバーラント、船体修理を終えたシラヌイ宇宙開発学校の演習艦カガリビが、静かに発進の時を待っていた。
夜明け前の空より暗い蒼鼠色のツァオバーラントと、演習艦ゆえに視認性の高い赤白青のトリコロールカラーのカガリビの勇姿を背景にして、ささやかな壮行式が執り行われた。
トイフェルラント近衛軍からは、司令官の恭一郎を筆頭に、ハナ、マナ、ラナ、セナのアンドロイド姉妹四名、過去の記憶を取り戻して今だけはハリエットに戻っている遥歌、並列量子コンピューターによって科学忍法分身の術が使えるようになったミズキが出撃する。
近衛軍に同行してアロイジアへと向かうオディリア義勇軍は、アレクサンダー率いるルー一家、レイア達異父母四姉妹とその専用機、先のジェイルの海での戦闘で無事に生き残ったミリー大尉以下の下士官と兵士達七〇〇名が加わっていた。
オディリア統合軍が義勇軍部隊を送り込んできた理由は、統合軍の戦力の消耗が著しかったことに原因がある。オメガ残党軍との熾烈を極めた最終決戦によって、保有していた機動戦力は人的にも物的にも甚大な損失を出していた。
保有する艦艇もオディリア近傍の宇宙空間しか航行できないため、惑星間航行能力を持たない残存艦隊を派遣することができない。
そこで有志を募る形で義勇軍を組織し、ツァオバーラントに同乗させることにしたのだ。義勇兵の応募は万単位に膨れ上がり、その中から最精鋭の兵士達が選抜されている。
壮行式には、協力関係にあるカガリビからツバサ艦長代理と、ハバキリパイロットのタクミが代表して参加している。彼等シラヌイ宇宙開発学校の学生達は、アロイジアへ逃れた紅星軍の討伐後、魔導砲の特異点を利用した跳躍航法によって、元いた宇宙への帰還を試みることになっている。
日の出と共に壮行式が終り、義勇軍部隊がツァオバーラントに乗艦する。
その光景を確認してから、恭一郎は見送りのリオ達に向き合った。
「それじゃあ、借りを返しに行ってくる」
日の出に映える金色のドレスを着たリオを優しく抱き締め、数日とはいえ触れ合えない分の温もりを感じる恭一郎。
「私達で造り上げた完全なる凶鳥の力、存分に発揮してきてください」
新型機の魔力強化処置を一手に引き受けてくれたリオが、恭一郎の勝利を信じて抱擁に身を委ねる。
明日の選挙から続く国事のため、トイフェルラントを離れることが叶わないリオは、基本設計から規格外な新型機に対して膨大な魔力を投下して、戦場で隣に立てないせめてもの代わりとして、アマルガム化の強化措置を施した。
トイフェルラント、オディリア、オメガの素材に加え、白金、金、銀の魔力親和性の高い素材がふんだんに使用された新型機は、理論上では惑星すら軽く破壊してしまう次元の怪物と成ってしまった。
「俺達の新型機があれば、この世に恐れるモノは何もない。それに、リオの魔力機関と紐付けしてあるから、リオが無事な限り敗北は有り得ないさ」
恭一郎は新型機の魔力供給機能の一部に、リオの魔力機関からの非常用出力経路を組み込んでいた。元々超高出力の魔力縮退炉にリオからの膨大な魔力の一部を流し込むことによって、一時的にツァオバーラントの縮退炉よりも膨大なエネルギーを生み出せるようにしておいたのだ。
これは機体全体が魔力強化処置されているからこそ可能となった奥の手であり、この機能が使われるということは、絶対の勝利を恭一郎にもたらしてくれることを意味している。
リオへの抱擁を解き、見詰め合い、軽く接吻を交わす。そして、見送りに来ている残留メンバーに声を掛けた。
「ヒナ、ミナ、リナ、そしてマクシミリアン卿。トイフェルラントを、リオを頼みます」
「「「承知いたしました」」」
「魔王陛下に対しては逆に足手まといになってしまうが、銃後の守りは任せてもらおう」
ヒナ達姉妹は自身のパラーデクライトをハナ達に預け、トイフェルラントに残留することを選択していた。本音では共に出撃したかったのだが、恭一郎専用の新型機製造のため、大破したパラーデクライトの修理が見送られていたため、使える機体を全て、戦闘用姉妹に貸与していた。
マクシミリアンの残留は、万が一のための保険である。愛機のゲシュペンストは、恭一郎達不在の惑星オディリアにおいて最強の機体となる。新たな脅威が出現した場合などには、恭一郎達が戻るまで時間稼ぎをしてもらうことになる。
「私がお婆さんになっちゃう前に、早く帰ってきてくださいね……」
エルフの不老長命の因子を得たリオが老化することは、魔法以外では有り得ないことだろう。恐らくは、一日会わないと三年もの間会えていないように思うという意味の一日三秋と、宇宙モノのサイエンスフィクションに付き物のウラシマ効果を掛けているのだろう。
「心配するな。すぐに帰ってくるさ」
リオの頭を優しく撫で、恭一郎はツァオバーラントへと歩みを進めた。その隣には、ツァオバーラントの艦長として参加するハリエットが合流した。少し伸びた銀髪を纏め上げて艦長用の制帽の中に入れ、ダブルのジャケットにスラックスと軍靴、ジェラルドの遺品のサングラスを身に着けている。
「別れの挨拶は、もう済んだのか?」
「必要ない。例え何万光年の距離に互いが離れ離れになったとしても、俺とリオの絆は繋がり続けている」
「そうだったな……。私もそれなりの絆で、繋がっているからな」
ハリエットがいつの間に上達したのやら、褐色化した右の人差し指の先端に小さな神気の球を生み出し、恭一郎との絆の証を確かめていた。人間の尺度では認識の難しい距離まで離れ離れとなる今回は、トイフェルラントに残らざるを得ない家族の心情に理解を示していた。
「この戦いが終われば、俺達に戦うべき敵は存在しなくなるはずだ。だから今回だけは、俺は一人の修羅になる。もう誰とも殺し合いをしないで済むように、敵を完全に消滅させる」
「私も、共に行こう。果てなき闘いの日々がやっと終わるのだから、人並みの幸せを謳歌して、恋というのも経験したいからな」
遠い目をしているハリエットの瞳には、亡き実兄ジェラルドの再び奪われた未来が映っているのだろう。後世で場合によっては、ジェラルドとティファニアは良縁で結ばれていたかもしれなかったからだ。
だが、恭一郎はハリエットの恋の部分が、琴線に触れていた。
「どこの馬の骨とも知れない男に、俺の大切な義妹はやらん! 俺が認めた相手以外は、付き合う資格すら無いからな!」
「この重度のシスコンめ。私に恋人が一人もできなかったら、責任は取ってもらうからな?」
「任せろ。必ず俺のメガネに叶う男を見付けてきてやるからな」
「……やれやれ、この朴念仁が」
義兄馬鹿全開の恭一郎に対して、ハリエットが深く長い溜息を吐いた。そして、誰にも聞こえないように呟く。
「恭兄さん以上の男が、この世にいる訳がないだろう……馬鹿者め!」
可愛い義妹のために興奮状態に陥った恭一郎は、復讐戦のことを一時的に忘却してしまった。今の恭一郎は死んだジェラルドの分まで、ハリエットを大切にする使命を己に課している。こんなに可愛い義妹には、自分とリオのような、幸せになれる相手との縁こそが相応しいと確信していたからだ。
◇◆◇◆
トイフェルラントを発ったツァオバーラントとカガリビは、自前の推力のみで大気圏を突破した。科学と魔法の融合技術によってこの世界の水準から逸脱しているツァオバーラントは、純粋な科学力で何世代も先を行くカガリビとほぼ同じ推力性能を誇っていた。
本来ならば、先端技術に興味を示していた恭一郎だったのだが、高度に進んだカガリビの科学技術を得ようとはしなかった。それと同時に、魔法技術も彼等に提供をすることはなかった。
なぜなら、偶然が重なったことで接触した、異文明同士であったからだ。これが必然であったのならば、恭一郎はオディリアに対しての扱いと同様に、管理された情報のみを伝えていたことだろう。
そもそも、彼等の住んでいる世界において魔力機関が存在していなければ、魔法やその知識は何の役にも立ってはくれない。魔導具に関しては、動かないオーパーツと同列の扱いになってしまうからだ。
その逆もまた然りで、高度に発達した技術がトイフェルラントとオディリアの間に争いの種を産まないように、恭一郎とシズマが歩調を合わせていた。
恭一郎は個人的にカガリビの跳躍機関に大変興味を覚えていたが、リオの空間跳躍という同系統の技術が存在していたこともあり、サイエンスフィクションの花形であるワープは、リオの能力を解明することで自らの力で手に入れる方針を固めていた。
◇◆◇◆
オディリアの一つ外側に位置する惑星のアロイジアは、約八九〇〇万キロメートルの彼方にあった。太陽系では地球と火星の位置関係にあり、地球の直径の約半分しかない火星とは違い、アロイジアは金星とほぼ同じ直径と質量を持っていた。衛星は大小の二つがあり、それらの衛星とアロイジアを足し算すると、オディリアとほぼ同じ質量の値を持つ惑星となる。
アロイジアの大気は二酸化炭素が主成分となっていて、温室効果ガスの影響で、外惑星ではあるが平均気温がオディリアよりも高くなっている。アロイジアには水を湛える海のような液体は見付かっておらず、極冠部分の地下に大量の凍った二酸化炭素が確認されているのみだ。
いわゆる岩石惑星であるアロイジアの従える二つの衛星は、大きな方が氷、小さな方が金属で構成されていた。恐らく惑星の形成段階に起きた天体衝突が原因で、アロイジアの核の部分が飛び出して金属の衛星となったものと考えられている。氷の衛星に関しては、ゾンネファルナ恒星系の外縁部から飛来した彗星などを捉えているものと推測されている。
この二つの衛星は、氷の衛星をイゾルダ、金属の衛星をオリンダ、と呼ばれている。どちらも天然の資源衛星として、アロイジアでの活動に有用な天体であると目されている。
宇宙空間での通常推力での移動において、出発地点から目標地点までの距離が離れる程、有人で移動する際に必要な糧食や燃料が大量に必要となる。地球の技術水準であれば、片道だけでも数カ月を要する道程だ。
しかし、恭一郎達が誇るツァオバーラントは、莫大な推力を生み出す魔力融合ロケットを搭載していることもあり、跳躍機関を備えたツバサ達のカガリビと同程度の惑星間航行能力を有している。
両艦は並んでアロイジア方向へと加速を行い、減速を含めた約三日でアロイジアへと到着する軌道を突き進む。跳躍機関を持つカガリビ単艦であれば、数秒でアロイジアへとワープが可能だ。しかしツァオバーラントを一緒に跳躍させる出力を持っていないため、ツァオバーラントの移動能力に合わせて、通常推力による艦隊行動で移動を共にしてくれていた。
最大で秒速一〇〇〇キロメートルにまで加速するツァオバーラントの艦内は、加速をほとんど感じさせない快適な環境を整えている。恭一郎達はコア・シップのケーニギンの区画、オディリア義勇軍はツァオベリンのコア・シップ後方の接続区画に活動拠点を置いている。
通常推力による片道二泊三日の行程となった理由は、加速と減速に必要な時間の確保の他に、紅星軍の迎撃を警戒しているためだ。リオの一撃によって推進系に被害を受けている大型艦の修理には、数カ月の時間を要するという分析だ。
その間は大型艦の移動がままならなくなるため、修理用資材の豊富なアロイジア近傍から移動することはありえない。そこで恭一郎達の襲撃を警戒する紅星軍が、何らかの罠や対抗策を用意している可能性が非常に高い。
現にツバサより、ワープアウト地点の空間を不安定化させるという、跳躍妨害の反応が報告されている。もしもカガリビがワープによる強襲を仕掛けたとすると、惑星アロイジア近傍の何処かへと跳躍することになると言う話だ。
まかり間違って紅星軍の罠の中にワープアウトしようものなら、即座にカガリビは沈められてしまうだろう。そうでなくても、強襲に最適な座標へと確実に狙って跳躍できず、敵の迎撃準備が整った状態での戦闘となることは確実だった。
ツバサ達の持つ超高性能なレーダーや光学的な観測機器でも、互いの状況は大まかではあるが把握できてしまっている距離のため、結局は正面から紅星軍とぶつからなければならない。
とはいえ、馬鹿正直に紅星軍の待ち構えているアロイジアへと向かう訳ではない。最大速度へと到達した時点で、恭一郎が新型機に乗って威力偵察に先行することになっている。
恭一郎の新たな専用機は、走攻守のパラメーターがリオのように飛び抜けている。この機体を用いれば、紅星軍の張る罠や対抗策を確実に突破して、その効果を大幅に低下させることが期待できる。あわよくば、単機で紅星軍に大打撃が与えられるほどだ。
――トイフェルラント生活一五八〇日目。
「――システム、オールグリーン……」
『電磁カタパルト、機能正常』
加速を終えたツァオバーラントから、アロイジアへの威力偵察を行うべく、新型機に搭乗した恭一郎が電磁カタパルトで射出されようとしていた。恭一郎の発進後、ツァオバーラントとカガリビは準戦闘態勢へと移行し、予定通り減速を開始することになる。
「いよいよ、完全なる凶鳥の初陣だな」
脱出ポットを兼ねた小さな球形コクピットの中で、恭一郎が操縦桿の感覚を確かめる。これから単機でアロイジアへと先行し、強行偵察に向かうことになる。
だがそれは、オディリア義勇軍とカガリビに対する偽装である。今回の戦いは、ジェラルドを奪われた恭一郎達の私闘となる。つまり、恭一郎達が売られた喧嘩を買って、紅星軍へ反撃に出ているのだ。
強行偵察はあくまでも方便であり、やることはいつも通りの独断専行による報復攻撃だ。それに加え、新型機の戦闘能力が常軌を逸してしまっているため、オディリア統合軍の切り札であるメサイアですら、同じ戦場にいては邪魔でしかない。
ツァオバーラントに搭載しているパラーデクライト三機は、戦闘に参加するためではなく、ツァオバーラントの直援機として運用するためのモノだ。
『ロイヤルフラッグより、ロイヤルバード。出撃を許可する。存分に暴れてこい』
艦橋に詰めているハリエットから、発進の許可が下りた。ハリエットは表向きの予定通りに行動し、恭一郎が暴れ回った後のアロイジア宙域に残敵掃討のための後詰として参戦してくることになる。
「ロイヤルバード、了解。ペルフェクトバイン、出るぞ!」
電磁カタパルトの射出アームに脚部を固定されていたミッドナイトブルーの機体が加速して、高速で宇宙空間に射出された。ペルフェクトバインの姿は、背中に大きな翼を持つ鳥人族のシルエットに近い。
「――フォーゲルフォルム、移行……」
セナによって、ペルフェクトバインが飛行形態へと変形を始める。大型化されたフロントのスカートアーマーが胴体前方に移動して、嘴に当たる機首部分となる。
背骨にあたるフレームが後方へと九〇度稼働し、機首から脚部までが直線的になる。同時に頭部が胴体に半格納され、腰部がサイドとリアのスカートアーマーの移動と共に胴体後方の空間に折り畳まれ、サイドアーマーが機体の腹部を防御する。リアアーマーが機体の側面を防御して、足を山折りに畳んだ脚部が後方へと伸ばされる。
主腕は機体に沿わせるように伸ばされ、上部副腕が主翼として左右に展開。下部副腕が装甲板を尾羽として後方へと移動した。
巨大な鳥の姿になったペルフェクトバインが、主翼を始めとした機体各部の魔力融合エンジンを噴射して、更なる加速を掛ける。その圧倒的な推力にモノを言わせ、数秒で光速の約半分にまで速度を上げた。
そしてペルフェクトバインは、ツァオバーラントとカガリビを置き去りにして、アロイジアへと突貫を開始した。
◇◆◇◆
ここで改めて、恭一郎の新型専用機、ペルフェクトバインのスペックを紹介する。
約一月という短期間で建造されたペルフェクトバインは、損傷したゲシュペンスト、譲り受けた蒼凰、アレクサンダーが搭乗させられていたデスパイアの部品と素材によって構成されている、紅星軍に対する復讐機である。
ペルフェクトバインの通常形態であるミドルレッグフォルムは、ヴァンガードやメサイアよりも大型となる、全高二〇メートルの準大型機となる。
前方三本、後方一本指の鳥型の接地脚を持ち、膝関節は人型から逆関節型へ移行できる特殊な構造となっている。また、腰部には五本の副腕が備わっていて、腰部のスカートアーマーを独自に動かすことが可能となっている。
脚部と胴体を接続する骨格は機外へと露出しており、腰部のコネクター部分から緩やかな弧を描いて胴体後方下部のコネクターを繋いでいる。モジュールによる装甲防御が望めないため、特殊な関節構造を保護するために、その構造の強度は各種アマルガムによって非常に高くなっている。
進行方向へ向けて流線型のデザインとなっている胴体には、主腕と副腕用の合計六基のコネクターがあり、胴体左右の攻撃用主腕、胴体後部上方の推進翼用副腕、同下方の可動式装甲用副腕を取り付けた、三対六本の腕を持つ特別仕様である。
胴体同様に流線型を基調とする頭部は、汎用型のデュアルアイタイプを搭載しているが、内部に収められているセンサーは高性能型であり、装甲厚は防御型よりも厚いという、こちらも特別仕様となっている。
また、通常のメインカメラの取り付け位置が地面と水平に配置されているのに対して、ペルフェクトバインは目尻が吊り上った睨み目となっており、変形時に半格納されてもメインカメラが機能するように改良されている。
変形機構を備えたことで機体の死角が増えたため、機体の各所に追加のセンサー類が配置され、全方位の情報が把握できるようになった。
主機には最小サイズの魔力縮退炉を搭載し、二種類のコンバーターとの間でエネルギーを増幅循環させるペルフェクトバインは、惑星オディリア最凶の機動兵器となった。
物理と魔法による分厚いヘルテン装甲に加え、機体表面を多重魔力障壁が覆い、機体の周囲をゲージ・アブゾーバーと空間歪曲場の複合力場が神聖不可侵な領域を展開している。
機体の構造材は全て魔力によって強化処理が施され、ミスリル、オリハルコン、アダマンタイトが、機体各部の装備にふんだんに使用されている。これにより、機体自体が一種の魔導具として機能している。
推進力は全て魔力融合ロケットを採用しているため、いかなる状況でも姿勢制御が可能で、その推力は天井知らずとなっている。
コクピットは正面及び左右のディスプレー方式から、ほぼ全方位を映し出す全天型を初めて採用した。このコクピットは例の国民的リアルロボットアニメの機能を再現したモノであり、オリジナルよりも規模が小さくなっているものの、脱出ポットとしての機能もしっかりと再現されている。
武装は全て機体に内蔵される形となっており、主腕の前腕部に特殊魔導具型ガンブレード『シヴァ』、上下副腕に多数の特殊自律兵器『ヴィシュヌ』が搭載されている。また、主腕のマニュピレータ―と主脚の鳥足には、斬撃用の爪としてバイブレーションクロウ『カーリー』が近接戦闘用に追加された。
ガンブレードの基本構造は改型のグライフと同じであるが、攻撃の全てに魔力を使用している。これまで開発してきた魔導具のように、純粋に魔力を発射したり、剣として斬撃に使用することも可能だ。それに加えて、リオの魔力の物質化を再現する魔導具『ブラフマー』を搭載したことで、実体攻撃武装としても応用の利くコンポジット・ウェポンとなった。
特殊自律兵器は、蒼凰のRecS・レイの機能を取り入れ、ミズキによる量子通信の遠隔操作で、多数の目標を同時に攻撃・防御できるようになっている。全身に配置されたFCSによってほぼ全方位への展開が可能であり、その精度は距離と場所を選ばない。こちらはブラフマーによる再装備が可能であり、魔力によって無限に使い捨てが可能となっている。
強化されたハード面を支えるため、並列量子コンピューターの搭載でミズキによる支援を受けられるようになり、ソフト面の強化も完璧である。新たに搭載された機体制御用の制御中枢に関しても、恭一郎の動きと同期が完了している。
ペルフェクトバインの飛行形態であるフォーゲルは、腰部の装甲が移動することによって巨大な烏を想わせる形状となる。可変戦闘攻撃機のハバキリに着想を得て採用された形態であるが、ペルフェクトバインはより生物的な変形機構を備えている。
飛行形態時でも各種武装の使用が可能であり、格闘攻撃時では脚部を逆関節化させ、鳥の足と同じように標的を掴んでカーリーによる破砕攻撃が可能である。
さらに、どの形態においても次元潜航が可能となっており、姿を隠したまま一方的に攻撃することは造作も無い。弱点であった質量反応も空間歪曲によって分散偽装させることが可能となったため、限りなくステルス状態を実現させた機体となっている。
このように常軌を逸した性能を誇るペルフェクトバインには、これまでの機体と同様に、リミッターの解除も搭載されている。事実上の無限エネルギーの半永久機関から無尽蔵に引き出される途方もない力は、魔王であるリオからの魔力供給を受けることで、想像を絶する破壊の化身へとペルフェクトバインを昇華させることになる。
このペルフェクトバインの唯一の弱点は、操縦する恭一郎が生身の人間であることだ。生物的に虚弱貧弱な人間である恭一郎では、いくらイナーシャルキャンセラーなどで慣性質量を制御していても、長時間の激しい戦闘には身体が耐えられないのだ。
もしも搭乗者が人知を越えた存在であれば、宇宙の破壊も思うがままの神器となりうる、真の意味で完全なる凶鳥となるであろう機体だ。
邪神すら裸足で逃げ出す性能の前に、紅星軍など鎧袖一触となることは、覆し難い確定路線であった。




