【彼方からの来訪者】
所属不明の勢力と戦闘状態に陥り、恭一郎はゼルドナとヒュッケバイン改を同時に失った。戦線を支えているメサイアを中心とした機動戦力も、連戦による疲弊と圧倒的な数の差によって、絶え間ない遅滞戦闘を繰り広げていた。
ゼルドナの遺体を彼の自室へと運び、戦う力を失った恭一郎は、撤退戦の指揮に復帰すべく、ケーニギンの艦橋へと戻った。
「友軍の撤退状況は?」
艦長席に腰を掛け、静かに状況を訊ねる。
「現在、最後の保護対象者を収容中。あと一〇分程度で、離脱を開始します」
合流を果たした支援戦闘機などに護衛され、統合軍の艦艇がオディリア方面へと離脱を行っている。港湾施設に接舷している三隻の艦艇へ、亜人達が分乗している最中とのことだ。
ようやくはっきりした最低限の勝利条件に、恭一郎は特に思うことはなかった。恭一郎個人としては、ゼルドナを失った時点で敗北と同義であったためだ。いわばこの撤退戦の指揮は、より良い負け方を得るための戦いなのだ。
「マクシミリアン達は、戦線を支えられそうか?」
「ぎりぎり、とだけしかお答えできません。我々の作戦行動は、限界点に達しています。それに加え、精神的支柱のヒュッケバイン改を失い、味方の士気は明らかに低下しています」
「ゼルドナの死亡は、伝わっているのか?」
「……いえ。わたしも、初めて知りました……」
マナの消沈する姿を見ただけで、味方にゼルドナの死を伝えることは、かなりの悪手であることが分かった。ゼルドナの死は、いましばらくの間、身内だけの秘密とするしかないようだ。
「俺達を墜とした、四つ星の機動兵器は?」
「エヴァンジェリンさんが、単機で相手をしてくれています」
メサイア操者の中でもトップクラスの腕前を誇るエヴァンジェリンでなければ、あの四つ星の相手ができなかったようだ。肩に収納されていた長い腕によって、かなりの広範囲に格闘攻撃を行うことができる相手に対して、オラキュリアは高い機動性で対抗しているようだ。
『味方を支援攻撃します! 大型シリンダーに入りますよ!』
艦内放送で、リオが恭一郎の許可を求めてきた。武装の配備されていない大型シリンダーの中で真龍化して、中の空気を抜いてケーニギンの外に出てから、ドラグーン・ノヴァを放つつもりらしい。
「了解した。準備ができ次第、空気を抜いてシリンダーを回す。こちらの合図と同時に、奴らを一気に薙ぎ払え」
『了解!』『……と言うことで、これからは統一言語で生中継します!』
いつものように軽いノリで、リオが恭一郎と浅く繋がる。あまり深く繋がってしまうと、互いの心の哀しみが共鳴して増幅されてしまうため、聴覚だけの共有に止めている。
リオがゲノムシフトで真龍化を始めた。その体躯が質量を伴って巨大化する。
『恭一郎さん、お願いします!』
「エア・ロック、排気開始! シリンダー、回せ!」
「シリンダー内、真空状態へ! 回転完了と同時に、装甲シャッターを解放!」
真龍に変身したリオを内包する大型シリンダーが、内部の空気を抜きながら回転を始める。巨大な龍の姿にならなければ真空状態で活動できないため、この大型シリンダーの一区画だけは武装を搭載せずにいた。いわば、リオ専用の超大型エア・ロックなのだ。
やがて回転が終り、装甲シャッターが開放されて、龍となったリオの姿が露わになる。美しい銀色の鱗に覆われたリオは、金龍よりも少し小振りの全長四〇メートル、体高一五メートルの巨体となっていた。
『究極解放形態、銀龍モード!』
二対四枚の銀翼を広げたリオが、その美しい勇姿を衆目に曝した。金龍よりも全体的に線が細くなっている銀龍は、素早く動けるように形態が進化していたようだ。
「前方の友軍機に通達! これより、支援攻撃を行う! 各機は直ちに射線上より退避!」
『その必要はありません! 私が識別して、敵だけを攻撃します!』
そうリオが言うや否や、リオが攻撃態勢に突入した。マナが慌てて友軍機に敵味方識別攻撃を伝えると同時に、リオの四枚の銀翼が輝きを放ち始めた。どうやら、エネルギーをチャージすることで、翼が輝く仕様らしい。
『私の翼が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ!』
某必殺技の掛け声を捩りながら、口腔内に銀色の輝きが膨れ上がって行く。
『必殺! クラスター・ドラグーン・ノヴァ!』
眩い銀色の輝きがリオの口から放たれ、しばらく前進した後に枝分かれを開始した。やがて無数に枝分かれした銀色の雨が、友軍機の展開している戦線を飲み込んだ。
純粋な破壊の雨に打たれ、戦線に殺到していた機動兵器が次々と撃墜された。銀の雨の範囲攻撃が去った後には、限界を迎えつつあった友軍機と、一握りの敵の機動兵器しか残っていなかった。
『友軍機の陰に隠れていたので、多少の撃ち漏らしが出てしまいました』
残念そうに語るリオだが、相変わらずのチート能力である。恭一郎達が苦戦した相手をたったの一撃で、加害範囲内を丸ごとほぼ掃討してしまったからだ。敵味方識別の可能な広域攻撃の有用性は、戦略的な観点で攻撃の常識をひっくり返すモノだ。
『続けて行きます! 哀と怒りと悲しみの! 超必殺! ロングレンジ・ドラグーン・ノヴァ!』
収束させた銀の流星が宇宙空間を貫き、深紅の巨艦に突き刺さる。装甲板を貫き、内部から爆発が発生した。しかし、巨艦を沈めるまでの致命傷には至らない。艦首付近の一部に穴が開いただけだった。
『射程の限界ギリギリですね。これ以上収束を緩めると、威力は上がりますが、攻撃が届きません』
悔しそうに語るリオの発言を受け、恭一郎はレーダー画面に視線を送る。ケーニギンから所属不明艦までの距離は、およそ一九〇〇〇キロメートルほどある。惑星オディリアは地球と限りなく同じ大きさで、赤道半径が六四〇〇キロメートル近くある。つまりオディリア全体が、リオの有効射程内にすっぽりと収まっているということになる。
リオの攻撃は魔導砲のように、宇宙空間での使用が想定されていない。それでもこれほどの射程を持っているのは、一個の生命体としては驚くべきことだ。
「残存する機動兵器が、撤退を開始! 所属不明艦、制動を掛けつつ進路変更を開始した模様!」
ケーニギンのカメラ映像を望遠にすると、艦首に穴の開いた所属不明艦が、巨艦に似合わぬ速度で旋回を始めていた。その巨艦に向かい、機動兵器が一斉に戻って行く。その機体の中には、肩に黄色の四つ星を付けた機体らしきシルエットが含まれている。
『もう一撃! 全力全開! ロングレンジ・ドラグーン・ノヴァ!』
先程の一撃よりもチャージ時間を長くしたリオが、威力を増した銀の彗星を放って、所属不明艦左舷の艦尾付近に命中させた。先程よりも巨大な爆発が起こり、巨艦に大穴が空く。その直後、艦尾の左舷側の輝きが途絶えた。どうやら、推進装置に損傷を与えたようだ。
しかし、リオの追撃もここまでだった。旋回を終えてこちらに艦尾を向けた所属不明艦が、機動兵器の着艦直後に猛烈な加速を掛け、急速にアロイジア方面へと飛び去って行く。
恭一郎達に、所属不明艦を追撃する余裕はなかった。無防備な背中を曝して宇宙の闇へと消えて行く深紅の巨艦を、指を咥えて見逃すことしかできなかった。
◇◆◇◆
やがて所属不明艦の姿が遠い星の輝きと見分けが付かなくなった頃、次元境界レーダーが、再び異常な反応を感知した。深紅の所属不明艦が出現したマイナスの数値よりも僅かに小さいが、大きな質量を持つ存在が、この次元に出現しようとしている。
その場所は奇しくも、深紅の所属不明艦が出現した宙域であった。
今やリオを除く連合艦隊の全戦力が、所属不明艦との交戦で失われている。ケーニギンは友軍艦の盾となったことで中破しており、メサイアも被弾や損傷で実質的な戦闘能力は失われているに等しい。そして何より、ヴェルヌ渓谷基地を防衛する理由がなくなっていた。
「友軍艦艇、宙域を離脱。損害無し」
保護対象者を誰一人欠けることなく収容した艦艇が、オディリア方面へと離脱を完了した。もはやこの基地の中には、動かなくなったオメガの機動戦力しか残っていない。
「全軍に撤退を指示。当艦は殿を務める……」
この次元へと繋がる穴が開き、中から何者かが出現しようとしていた。その存在を警戒するため、ケーニギンは銀龍のまま大型シリンダーに陣取るリオと共に、撤退する連合艦隊の最後尾に布陣した。
ナディアの裏側に残っていた残存艦隊も離脱を完了したため、ツァオベリンにナディア越しの魔導砲の発射準備をさせる。もし、これから出現するモノがこちらに敵対的な存在であるならば、今度は容赦なく魔導砲で宇宙の塵に変えるつもりだ。その結果、オディリアが衛星を永遠に失うことになったとしても。
「空間歪曲、マイナス値の増加率が鈍化! アンノウン、出現します!」
どこか別の空間から、再び何かが出現を始めた。白を基調として赤と青のカラーリングの施された、トリコロールカラーの大型艦である。全長は六〇〇メートル、最大幅が一五〇メートルほどで、中央とその左右に艦体を連結させた、多胴船体構造を持っている。だが、先程の深紅の巨艦とは違い、トリコロール艦は艦体の各部に激しい損傷を受けていた。端的に言えば、ボロ船状態だった。
「新たに出現した所属不明艦へ、通信を送れ。先程と同じ手順で構わない」
「了解。――こちら、トイフェルラント近衛軍所属、連合艦隊総旗艦ケーニギン。ナディア近海に出現した所属不明艦に告げる。貴艦の所属と姓名及び、来訪の目的を答えられたし。繰り返す。こちら、トイフェルラント近衛軍所属――」
傷付いた大型艦に向け、マナが交信を試みる。事と次第によっては、リオの攻撃だけで撃沈が可能かもしれない相手だ。果たして相手の出方は、一方的な暴力ではなかった。
『――こちらは、シラヌイ宇宙開発学校所属、演習艦カガリビ。紅星軍に追われ、無差別跳躍により現宙域に到着しました』
大型艦から、なぜか日本語で返答が返ってきた。それもさることながら、日本由来の単語も含まれているため、日本と某かの関係を持つ存在のようだ。もし相手がメンタル面も日本人に準じているのだとしたら、幾分か平和的な接触が可能かもしれない。
恭一郎がマナに代わり、カガリビに対して問い掛けを行う。
「私は、トイフェルラント近衛軍司令、烏丸恭一郎である。我々に、戦闘の意思はない。詳しい状況を知るため、貴艦の責任者と話がしたい」
カガリビはしばしの沈黙の後、返答してきた。
『演習艦カガリビ艦長代理、ツバサ=ハートランドです。現在は私が、当艦の責任者となります』
返答は、年若い女性の声だった。どうやら艦長代理が応対している先方も、かなり訳有りの状況に立たされているようだ。
「ツバサ=ハートランド艦長代理に訊ねる。貴艦の所属するシラヌイ宇宙開発学校とは、どこにある?」
『我々の母校は、シラヌイ恒星系の第四惑星にあります。現在当艦は空間座標を失っているため、これ以上の詳しい情報はお伝えできません』
「では、次の質問だ。君達の言うところの紅星軍とは、どのような集団で、君達とはどのような関係に当たる?」
『紅星軍とは、全宇宙資源の独占を企む、正体不明の略奪集団です。紅に染められた兵器群を使用して、暴力による恐怖で服従を強いる非道な存在です』
「その紅星軍とは、深紅に黄色の超大型艦で、腕が大きく足が小さい機動兵器を搭載しているか?」
『その通りです。トライアングラー型船体に多数の砲塔を備えた戦闘艦に、星機と呼ばれる多数の格闘型機動兵器を搭載しています。我々はシラヌイ恒星系外縁での実技演習中、紅星軍の大艦隊の襲撃を受け、星系軍基地へと退避する途中で追い付かれてしまい、無差別跳躍で現宙域に逃れて参りました』
彼女の話を聞く限り、かなり危険な状況から、やむなくこの場所まで逃れて来たらしい。しかも彼女達よりも先に、その紅星軍とやらがここへとやって来て、恭一郎達に問答無用で襲い掛かってきた。許し難い蛮行を是とする相手のようだ。
「どうやら君達を追って来た紅星軍の一隻と、我々は先程交戦したようだ。機動兵器の中に、肩に黄色の星が意匠されているモノがあった。奴等は隣の惑星の方向に逃走している」
『その星機は特別仕様で、星の数が多くなるほど性能が高くなっています。現在確認されている最高の星の数は、七つ星の戦闘艦と、八つ星の特別仕様機です。一隻だけだったとはいえ、紅星軍の部隊を撤退に追い込むとは、かなりの実力をお持ちですね』
「そうでもない。出撃した私も味方機共々、四つ星機に墜されて死に掛けた。どうにか撃退できたのも、反則級の味方が来てくれたお蔭だ」
『どうも、反則級の味方です』
『頭の中に声が!? まさか、未確認の跳躍症候群!?』
いきなり会話に割り込んできたリオの魔法のせいで、ツバサが酷く混乱してしまった。ここは、フォローしておかなければならない場面だ。
「今のは、当艦の上に陣取っている銀色の龍の仕業だ。紹介が遅れたが、トイフェルラントの統治者である魔王、私の婚約者だ」
『いきなり魔法で繋がって、ごめんなさいね。リオニー・ミンダ・ヒュアツィンテ・アルベルタ・レイチェル・ウンべカントです。トイフェルラントで魔王をやっています。よろしくね』
『魔法!? 魔王!? ここはリアル路線のファンタジー世界ですか!?』
フォローが逆効果となり、ツバサが更に混乱してしまった。しかもツバサ以外にはリオの声が届いていないので、そのことが混乱に拍車を掛けている。
「落ち着きたまえ、ツバサ=ハートランド艦長代理。その魔法は、じきに慣れる。それよりも、カガリビは酷い損傷を受けているようだが、艦内は大丈夫なのか?」
『かなり深刻な被害が出ておりますが、航行に支障はありません。ですが、手持ちの資材だけでは、損傷個所の修理が厳しい状況です』
カガリビの損害状況は一目見ただけでも、穴だらけになったケーニギンよりも痛手を受けている事が解る。外板装甲のほとんどが何らかの攻撃で失われているのだから、ドック入りして大規模な改修工事が必要だろう。
「魔法で驚かせてしまった詫びに、ある程度の物資をこちらから提供したい。もうすぐ我が軍の大型艦が合流するので、連絡用人員を当方まで派遣してもらいたい」
『ご厚意、有り難く頂戴させていただきます。派遣メンバーの準備が済み次第、ハバキリにてそちらへお伺いします』
こうして恭一郎は、カガリビとの平和的な接触を成功させた。彼女達の詳しい素性など、不明な点が多く残っていたが、殺し合いをしなくて済んだことは非常に喜ばしいことだった。
◇◆◇◆
ヴェルヌ渓谷基地上空で待機していたケーニギンの下に、亜人の保護対象者を乗せてくれた艦艇を引き連れて、バトル・モジュールのツァオベリンが合流を果たした。中破していたケーニギンはツァオベリンの管制用ブロックとドッキングを行い、超戦艦ツァオバーラントにクラスアップした。
そのツァオバーラントに友軍艦艇が接舷し、繋げられたエア・チューブから、亜人達の移乗が開始された。亜人達と行動を共にしていた、ハナとラナも一緒に帰還する。
恭一郎は無傷のパラーデクライトを所持するヒナ、ミナ、リナの三名に、ヴェルヌ渓谷基地からの指定物の回収を依頼した。トラップとして仕掛けていた魔力榴弾、巨人機のデスパイア、デヴァステーターを一機だ。魔力榴弾は純粋に危険物であり、デスパイアは鹵獲して解析に回す。デヴァステーターは、オディリア共和国への配慮だ。
各種の手配が終わった恭一郎の下へ、通常モードに戻ったリオが合流する。いつまでも龍のままでは、さすがのリオも体力や精神力もそうだが、魔力の消費が激しくなるので大きな負担となる。やはりいつもの姿でいることが、最も楽な状態となるからだ。
そうこうしているうちに、カガリビから艦載機と思われる航空機が発艦した。ハバキリと呼ばれている機体が、この航空機なのだろう。全長は二〇メートル、翼端までの幅が一三メートル程の大型攻撃機のようだ。カラーリングは白銀で、刃のような印象を受けるシャープなシルエットをしている。
ハバキリは、マナの誘導でケーニギンの格納庫へと収容された。格納庫の装甲シャッターを閉め、内部に空気を送り込んでから、恭一郎達が出迎えに格納庫の中へと入る。ハバキリは近くで観察すると、妙な継ぎ目のある装甲で覆われていることが分かった。
恭一郎達の到着に合わせ、ハバキリのコクピット部分と思われるハッチが開き、搭乗者が機外へと姿を現した。そして互いの姿を目の当たりにして、驚愕の声を上げることになった。
両者は同じ人間でありながら、身体のサイズが一〇倍も違っていたのだ。恭一郎の視点から見ると、ハバキリに乗ってきた人間が、ミニサイズであった。
一同が小人や巨人と声を上げる中、リオだけが『〇イクローン』と叫んでいて、ハナが『〇ック、デ〇ルチャー』と合いの手を入れていた。叫びたい気持ちは分かるが、説明を求められたら面倒なので、まじめにやってほしい。
気を取り直し、改めて自己紹介を行う。
「ようこそ、我が艦へ。私が近衛軍司令の烏丸恭一郎です」
相手のサイズが小さいため、文字道り平身低頭する勢いで背を屈める恭一郎。それに応対したのは、最初に機外へと出てきた人物の後ろに隠れていた。
「演習艦カガリビ艦長代理、ツバサ=ハートランドです。厳正な人選の結果、私がま――選ばれて罷り越しました」
『今の、『負けて』って、言いそうになってませんでしたか?』
どうやらリオも、ツバサの発しようとしていた本音を聞き取っていたようだ。どうにも、誰かとイメージが被る。
『私ですか? 私ですね? こりゃまた失礼いたしました~!』
敢えてリオに対してリアクションを返さず、恭一郎はツバサと向き合う。
「艦長代理自らお越しになるとは、なかなか興味深い人選方法ですね。参考までに、その人選方法を詳しくお伺いしてもよろしいですか?」
「母校伝統の門外不出の方法ですので、ご容赦願います」
『嘘だぁ!』
(いちいち突っ込むな!)
リオが恭一郎のメンタルを気にして、明るく振舞ってくれているようだが、正直やり過ぎだった。少しでも生きた情報を得るためにも、いつも通りにしてほしい。
『お願いだから、無理はしないでくださいね』
「分かりました。そういうことにしておきましょう」
リオとツバサに対して同時に答え、本題に入る。が、その前に、客人に対してはおもてなしが必要だ。
「取り敢えず、食事でもしながら落ち着いて話そう」
「ご飯だ、ヤッフゥー!」
ご飯と聞き、腹ペコ魔王様が狂喜乱舞し始めた。
「あ、これがさっきの龍の正体ね」
「扱い酷!?」
こちらのペースで、一気に相手の空気を飲み込む。
「こちらの方が、魔王様ぁ!?」
「どうも、後ろに控える魔王です」
軽いノリとは対照的に、リオは優雅に一礼する。翻弄されっ放しのツバサが、どう反応すればいいのか狼狽している。
「パイロットの方も一緒に、こちらへどうぞ」
恭一郎がツバサ達に手を差し出し、掌に乗るように促す。格納庫内は無重力のままで移動に不自由はないのだが、身体のサイズ差からくる移動速度の差が決定的に違っている。ハッチを開けるのも一苦労だろう。
ハバキリを操縦していたタクミ=ヤマザキと共に、ツバサを食堂へと案内する。人口重力区画では歩幅が違い過ぎるため、リオが二人を掌に載せて運んでくれた。
恭一郎は作り置きしておいた食パンを使い、サンドイッチを手早く大量に製造した。具材は牛肉や豚肉、鶏肉に卵、トマトに千切りキャベツ、具材を変えたポテトサラダ、果てはジャムやフルーツまでクリームで挟んで提供する。
体格差の大きな客人用に、それらのサンドイッチを細かく切った。それを食堂へ持って行き、リオの魔力で客人用のミニサイズの食器とカトラリーを用意して盛り付ける。
飲み物はオディリア産の紅茶にする。こちらもミニサイズのカップに注ぎ、砂糖とミルクを好みで加えられるようにした。
これらの食材は全て、ささやかな戦勝記念パーティー用に準備していたモノである。紅星軍の襲撃によって、それどころではなくなってしまったモノだ。




