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【小さな願い 絶望の果て】

【小さな願い 絶望の果て】




 衛星ナディアの地表を這うように、超低高度をケーニギンは高速航行した。もはや連合艦隊でまともに戦闘が行なえる戦力は、ケーニギンとその腹に抱えている機動戦力のみである。総数二〇億体以上のバグを完全に排除したことで、ナディア周辺は遮るものの存在しないクリアな状態となっていた。

 偵察機からの最新情報で、ヴェルヌ渓谷には根拠地となるオメガ残党軍の基地が渓谷の中に建造されていて、見晴らしの良い高台の上に、防衛施設のエピタフが建設されていた。その数、驚異の三〇基。いくら強固な防御力を有するケーニギンであっても、この数の前では数秒で穴だらけになってしまう。

 そこで、ケーニギンはエピタフを一基ずつ撃破することで囮になってもらい、その戦闘の余波に隠れて、機動戦力が渓谷内へと侵入することになった。




 そして、強襲部隊の参加者にだけ、ゼルドナとマクシミリアンの正体が、オメガ残党軍からの亡命者であることを明かした。それに合わせて、アビスのコードネームで呼ばれているデヴァステーターに関しても情報開示を行い、今回の作戦のもう一つの目的が、オメガの尖兵として戦わされている犠牲者達の解放であることも打ち明けた。

 ゼルドナの正体は遥歌の手前、元メサイアの操者であることだけに止め置かれた。それでも殆どの操者達が彼の素性に気付き、敢えてその部分をぼかしたことで、遥歌の正体まで気付く者すら現れた。

 大統領命令で配備された乗り手を失った蒼凰が、ケーニギンの格納庫に存在することで、記憶を失っている遥歌を取り巻く環境の複雑さを推察したからだ。

 この恭一郎の行動は、これから命懸けで最後まで付き合わせる戦友に対して、これ以上の隠し立ては士気の低下に繋がると判断したからだ。この場に集う者だけではなく、惑星オディリアに生きる多くの者から、オメガは大切な存在を奪い取ってきた。その負債を少しでも取り戻せる可能性がある以上、例え最後の瞬間となるまで、微かな希望でも手放さないでもらいたかったからだ。

 基本的に争いを好まない恭一郎が、一転してオメガ残党軍の討伐に拘っていた理由を知った操者達は、未だかつてない高さの士気を己の中に自覚した。仮にも救世主の名を冠する切り札に乗る戦士として、本物の救世主となることを求められる戦場が待ち受けているのだ。ここで昂らなければ、今後は何が起きても昂ることができないのではないかと感じたからだ。

 結果的にではあるが、味方の士気を限界突破させた恭一郎は、この時に本物の総司令官となったのかもしれない。




     ◇◆◇◆




 ヴェルヌ渓谷の接続区域に到着したケーニギンは、長距離からの砲雷撃を行なった。レールキャノンがエピタフを貫き、魔力弾頭ミサイルを混在させたミサイル群で、エピタフの破壊を優先する。

 近隣のエピタフからの迎撃が始まり、ケーニギンが回避行動を行いつつ、別のエピタフに向けて破壊行動に移る。そのままヴェルヌ渓谷の外縁を遊弋ゆうよくし、敵の注意を強襲部隊から反らし続けた。




 ケーニギンが破壊したエピタフの防衛圏内を陸路で移動した強襲部隊は、抵抗を受けないままヴェルヌ渓谷への突入ポイントまで到達した。

 ここから先は、完全にオメガ残党軍の領域となる。偵察機や偵察衛星での調査でも、ヴェルヌ渓谷の敵基地内部の構造は殆ど判明していない。現時点で判明している数少ない情報は、渓谷内に露出している施設は、バグの製造プラントやデヴァステーターの格納庫などで、動力炉と推定される非常に高いエネルギー反応が、基地の地下深くに存在していることだけだ。

 どれほどの戦力がこの根拠地に残っているのか不明な以上、速やかに最奥の動力炉を破壊して、敵の活動エネルギーを断つ必要があった。




 強襲部隊は渓谷内へと潜入を果たし、基地施設の中へと潜り込んだ。そこは、数百機ものデヴァステーターが保管されていた格納庫だった。格納庫内は完全に無人で、一機もスクランブル発進を行う気配がない。不審に思いながらも、基地の内部へと潜入を続けた。




 連絡通路と思われる回廊を抜けると、開けた地下空間へと突き当たった。所狭しと並んでいる異形の機械から、カメムシ型のバグが吐き出されている。どうやらここは、バグの製造プラントのようだ。ヴェルヌ渓谷に広がる基地施設から推測すると、同様の製造プラントが他にも複数存在していると推定される。

 定石ならば無防備な製造プラントは発見次第、速やかに破壊することになっている。しかし今回は戦力が限られているため、潜入行動に徹している。不要な戦闘で消耗するわけにはいかないのだ。

 しかし、こうしている間にも新品のバグが製造されているのは看過できない。万が一の事態に備えて、魔力を充填した魔力榴弾をトラップとして仕掛けておく。敵が魔力榴弾を破壊すると、その瞬間に大爆発するという仕掛けだ。こうしておけば目の前の製造プラントは、確実に消し飛ばすことができる。




 最奥の動力炉を目指して基地の奥へと潜入を続ける恭一郎達は、地下深くの巨大な空間に出た。空港地下に広がる秘密ドックなど比較にならない、箱舟級大都市艦が数隻収まる規模の空間だ。そこには製造プラントのような異形の機械は全く設置されておらず、その代わりとなるように、大量のデヴァステーターが強襲部隊の到着を待ち構えていた。

「どうやらここが、地獄の一丁目と言うヤツのようだな……!?」

 恭一郎達を圧倒する数のデヴァステーターの群の奥に、見覚えのある巨体が控えていた。フォルムに違いがあるが、オメガが直接操っていた巨人機の兄弟機だろう。

「奥のあの機体、何処かで見覚えが……?」

「――敵機九九九九。大型機一。彼我戦力差は……」

「それが、どうした……!」

 もはや後戻りのできない状況で、戦力差など産出しても意味はない。今やるべきは、いかにして動力炉に辿り着き、これを破壊して、この悲しみの連鎖に終止符を打つことだけだ。

 空間のスキャンを行うと、巨人機の後ろに地下へと通じる通路の反応があった。どうやら、あの先にゴールがあるらしい。

「目指す動力炉は、あの巨人機の向こうにある。ここを誰か一人でも突破できたら、その時点でこちらの勝利だ。だからと言って、誰かが捨て石になることは許さない」

 コントロールパネルを操り、友軍機へとデヴァステーターの機体構造のデータを再送信する。次元潜航のような危険なデータは削除してあるため、機体のコクピットの位置や動力炉の場所、急所となる胴体奥の制御中枢を記した、元機密のデータだ。

「デヴァステーターの弱点は、コクピットと動力炉に挟まれた場所に存在する。正面からでは厳しいが、上下左右で四五度以上の角度からなら、制御中枢を狙える。後方からも動力炉を避けるため、六〇度以上の角度からの攻撃が有効だ。また、四肢を繋ぐ関節部は強度が高いため、四肢の先端や頭部のような末端部分を破壊することで、機体性能の一部を奪うことができる。次元潜航は姿が見えないだけで、その場に存在しているから、面での攻撃で対処が可能だ」

 デヴァステーター捕縛用に考案した、手加減モーションのデータも併せて送信しておく。恭一郎の駆るヒュッケバイン改ならば、デヴァステーターを容易く手足をいで達磨にすることが可能だ。ゲシュペンストに乗るゼルドナとマクシミリアンは心得を持っているが、恭一郎と訓練を行っていないメサイア操者達はそうもいかない。このモーションデータは、あくまで動きの見本として、それぞれの攻撃に合った動きに取り入れてもらいたい。

「ここまで来て、死ぬことは許さん。大怪我までなら許す……かもしれないが、保証はしないからな。総員、覚悟を決めろ!」

 敵の正体さえ理解してしまえば、対処の仕方は幾らでもある。ベテラン勢には当然のことであり、成長著しい双子の技量ならば実行は可能だ。

『どうにも私のオラキュリアでは、敵機との相手が悪いようですね。私はあの巨人機の相手を専門に勤めさせていただきます』

『ではその穴は、こちらで受け持ちましょう』

 一撃の威力を重視するエヴァンジェリンのオラキュリアでは、相性のせいでデヴァステーターを勢い余って破壊しかねない。エヴァンジェリンの抜けた穴は、ペインの駆るアナスタシアが手数でもってカバーしてくれるらしい。非常に頼もしいコンビネーションだ。

『それじゃあ俺達は、支援攻撃に徹するとしよう』

『花火戦役の再現ですか? それなら、指示は任せます』

 ドートレスが味方全体の把握に努め、シンがその鉾として援護に入る。一見すると地味な役回りだが、確かな経験と技量があるからこそ務まる重要なポジションだ。

『私達のやることは、今までと何も変わりません』

『コンビネーションによる、確実な勝利です』

 カレンとカリムの双子にとって、息の合ったコンビネーションこそが、最大の武器である。一年前の新兵だった頃に比べ、宇宙で実戦経験を積んだ今の二人は、格上のベテランでさえも凌駕するコンビネーションを幾つも習得している。背中を預けるに値する、オディリア統合軍の次代を担う存在だ。

『帰ってきてよかった……。若い輝きに会えて……』

『この戦いで。全てに決着を付けましょう』

 末裔に毒されているようなマクシミリアンの発言は別にしても、その想いはゼルドナと一緒である。自由を奪われたままで蘇らされ、罪もない人々を殺戮するなど、今生こんじょうの地獄でしかない。この悲劇に幕を下ろすため、愛する身内の平和な明日のために、二人は影に潜って戦い続けてきた。

「ゲームの縛りプレイよりもハードで、サポートレスで、デッドリーな状況ですが、私達にならできますよね、恭兄さん?」

「――戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始……!」

 気合十分な遥歌とセナが、恭一郎の合図を待つ。二人とも性格は、戦闘に不向きな優しい人物だ。特に生身の人間として生まれ変わった遥歌には、アイリスの下で再び医学の道を目指してほしかった。しかし、恭一郎がオメガとの最終決着を付けると決めたことで、トイフェルラントを離れることが難しくなったリオの代わりを買って出てくれている。

 リオとは違う方向性ではあるが、遥歌も創世神の加護を受けた奇跡の代行者である。まだリオのように自由自在とはいかないが、輝きの弱い破邪聖浄の神気を放つことができる。今回の戦闘の切り札となる力のため、遥歌の参戦する意味は、格闘戦の得意なパイロットという認識でいるオディリア統合軍には計り知れない意味を持つ。

「総員、死ぬ気で生き残れ!」

 ヒュッケバイン改が二機のゲシュペンストを従えて突撃を開始した瞬間、衛星ナディアのヴェルヌ峡谷地下において、オメガ残党軍との最後の戦いの火蓋が切って落とされた。遥歌の言うところの、ハードでサポートレスでデッドリーな戦いの幕開けであった。




 進路に立ち塞がるデヴァステーターの一団に対し、恭一郎はグライフのプラズマライフルを収束させずに撃ち出した。放射状に広がったプラズマの奔流が敵機の一団を飲み込む。威力の抑えられたプラズマは、デヴァステーターの装甲を飴細工のように溶解させた。溶けた装甲の温度はすぐに冷え、機体の変形してしまったデヴァステーターが行動不能に陥った。

「――ターゲット、ロック。ミサイル発射……!」

 進路を塞ぐように接近してくる敵機に対して、セナが背部のミサイルランチャーを発射した。高い回避マニューバで迎撃の網を掻い潜り、ミサイルが次々と敵機の頭部を破壊して行く。各種センサー類の詰まった頭部を破壊されたことで、デヴァステーターの動きが目に見えて悪くなる。

 そこへ後続のゲシュペンストがソニックグレイブを突き立て、ガトリングライフルで四肢を破壊する。デヴァステーターから戦闘能力を奪うための戦闘訓練は、この一年の間に夢に見る程に繰り返してきた。ゼルドナとマクシミリアンは、ミナからも個別で厳しい訓練を課せられていて、前記の訓練以外にも実技や座学でみっちりと能力の底上げが成されている。その努力の積み重ねがなければ、とても恭一郎の後に付いて行くことはできなかっただろう。

 そんな恐ろしいまでの貫通力を発揮する近衛軍の三機の真後ろに、エヴァンジェリンのオラキュリアが追従している。一撃の威力に重点を置く武装を装備しているため、敵の後方に控える巨人機まで戦闘には積極的に参加しない。精々が進路を妨害しようとする敵機の頭部や脚部を、リニアライフルで狙い撃ちにする程度だ。パイルバンカーとコンテナミサイルは、最後まで温存する作戦である。

 その後方に、ドートレスのオーバー・レイが続く。高性能レーダーによる戦況把握に重きを置いて、スタンダードライフルや三連装レーザーキャノンで敵機の部位破壊に専念する。

 そのすぐ後方を追走するシンのアースラが、ドートレスの指示する方向に向けて、スプレット・レーザーキャノンを発射する。散弾銃のようにレーザーの子弾がデヴァステーターの機体に穴を開け、破壊するギリギリのダメージを与えて行動不能に追い込む。

 最後尾には、双子の守護騎士に護られたペインのアナスタシアが、手加減しているのか疑わしいほどの豪快な火力を放ち続けている。放たれた火線の先には、硝煙弾雨に撫でられたデヴァステーターの穴だらけの機体が量産されていて、どれもが行動不能に追い込まれているだけになっていた。

 恐ろしいまでの技量を披露する友軍機を、カレンのレジェンドラとカリムのフォークロアが鉄壁の守りでエスコートする。タンクタイプは格闘距離での戦闘に不向きなため、クロスレンジに侵入してきた敵機は、双子がリニアガンで撃ち抜き、場合によってはカイトシールドで受け止めてから、レーザースピアで串刺しにした。

 群がる敵の只中を、たった九機の寡兵で突き進む様は、一騎当千の猛将か、はたまた風車に戦いを挑むドン=キホーテか。一度のミスが即座に死へと繋がる戦場では、そのようなことを考える余裕はない。




     ◇◆◇◆




 圧倒的な数の差は、それだけで戦況を有利に運ぶことが可能となる。敵に対して同程度の戦力をぶつけ、残りの戦力を同程度の部隊に編制して順番に戦闘させることで、敵を休ませることなく波状攻撃を仕掛けられるからだ。

 だが、時として数の有利があだとなることがある。今回のように、圧倒的寡兵の敵を磨り潰そうとして、自陣の深くまで取り込んで包囲する状況だ。この場合、敵へと攻撃できる数に制限ができてしまう。敵を攻撃したくても、戦闘中の味方が邪魔になってしまうからだ。しかも敵個体の戦闘能力が味方よりも高いため、下手に味方ごと磨り潰そうとしても、敵だけが味方を盾にして逃げおおせてしまう。

 オメガ残党軍は恭一郎達が戦場に到達した時点で、半包囲からの殲滅攻撃で決着を付けるべきであった。しかし、恭一郎達の異常な突進力、特にヒュッケバイン改とゲシュペンストの攻撃を受けながらも突撃速度の衰えない飛び抜けた機体性能の前に、好機をみすみす逃してしまっていた。

 しかも味方を破壊せずに行動不能に追い込むことで、包囲の完成を妨げながら、奥の動力炉へと進撃を続けているのである。同時に戦闘を行う数を制限する突撃戦法の前に、オメガ残党軍は持てる火力を十全に発揮できないまま、敵の侵攻を許していた。




     ◇◆◇◆




 地下空間の中央付近まで進出した恭一郎達の目の前に、奥で控えていた巨人機が立ち塞がった。オメガの使用していたヘヴィーレッグタイプではなく、ミドルレッグで線が幾分か細くなった大型機だ。

 この機体との戦闘に火力を温存していたエヴァンジェリンが、オラキュリアを突出させる。リニアライフルで牽制を加えながら、彼我の距離を一気に詰めた。

 敵巨人機は、バンプレートと呼ばれる円錐状の持ち手を保護する機能を持つランスと、鋭利な逆三角形のカイトシールドを装備していた。その巨人機が、オラキュリアのリニアライフルの弾をカイトシールドで弾きながら、猛然と前進を開始した。

『一騎打ち? 騎士を気取っているのかしら?』

 エヴァンジェリンは眼前に迫ってくる巨人機に向けて、コンテナミサイル六基を全て叩き付けた。発射前の束になっている状態のミサイルの塊が、カイトシールドに直撃して連鎖爆発する。コンテナ一つに付き一二発のミサイルが収納されており、それが六基分も一度に直撃したため、立ち込めた爆煙が敵の姿を覆い隠した。

 追撃のパイルバンカーを叩き込むため、オラキュリアが爆煙の中へ突撃する。金属をブレードが貫通する耳障りな擦過音が響き渡り、確かな手応えにエヴァンジェリンが敵機から距離を取ろうと後退を開始した。

 その瞬間、爆煙の中からランスの先端が飛び出してきて、オラキュリアの胴体を掠めた。軽量化のために最低限に止まっている装甲が、浅く広く抉り取られた。

『カウンター攻撃とは、なかなかやりますね……!』

 爆煙の晴れた敵巨人機は、装甲の一部に穴の開いたカイトシールドを構えながら、巨大なランスでオラキュリアに追撃を仕掛けてきた。ランスの穂先を突き付け、薙ぎ払い、カイトシールドでのシールドバッシュを繰り出す。巨体から繰り出される流れるような連撃に、エヴァンジェリンは大きく後退を余儀なくされた。

『私を捉えるなんて、いい腕をしていますね。乗っているのは、誰かしら?』

 火力の大半を失い、機体も損傷したエヴァンジェリンが強がる。オラキュリアは、圧倒的な瞬間火力で短期決着を旨とする機体である。コンテナミサイル直撃からのパイルバンカー追撃で倒せなかったため、オラキュリアには有効な攻撃手段が残っていない。

『一度下がれ! メサイアの火力で、どうこうできる相手じゃない!』

 ドートレスが巨人機に対して牽制射撃を加えながら、エヴァンジェリンを味方機の傍まで下がらせる。自身が発言している通り、ライフルもレーザーもカイトシールドに阻まれ、一撃も有効打になっていない。

『ならば我々が!』

『大型機の相手をしましょう!』

 二機のゲシュペンストがバスターライフルを構え、同時に射撃を加えた。二本の重金属粒子ビームが敵のカイトシールドに直撃し、周囲に飛び散った重金属が破壊の暴風雨となる。バスターライフルの直撃を耐え抜いたカイトシールドは、装甲の一部が溶融して赤熱化していた。

 バスターライフルを連続で発射し、全てのカートリッジを空にして、カイトシールドがようやくその機能を失って崩壊した。しかし、未だに敵機本体は無傷である。

 ゲシュペンストが撃ち尽くしたバスターライフルを投棄して、ソニックグレイブに持ち替える。

『この相手は、なかなかの使い手のようだな』

『そのようですね。どの世代のランカーだったのか、正体に興味がありますね』

 マクシミリアンとゼルドナが、二手に分かれて敵機に迫る。その二機の攻撃を体捌きだけであしらい、ランスによる反撃に転じる。激しい長物の応酬は、敵の方が上手だった。リーチの差もあるが、やはり質量のあるランスを苦もなく扱う敵機の膂力りょりょくは驚異的だ。

 ゼルドナの振るったソニックグレイブが巨大なランスによって受け止められ、そのまま横薙ぎに払い除けられてしまう。ソニックグレイブの柄が半ばから折れ、胴体を打ち据えられた機体が大きく後方へ吹き飛ぶ。

「――ゲシュペンスト一号機、フレームに深刻なダメージ……!」

「ゼルドナさん!?」

 セナが損害状況を伝え、遥歌がゼルドナの身を案じる。

『問題ない! 戦闘の継続は可能だ!』

 ダメージを負った機体を立て直し、ガトリングライフルを装備し直す。無事だったとはいえ、一撃でゲシュペンストを弾き飛ばす敵機の出力は驚異だ。

 不意に、敵巨人機の様子を窺っていた恭一郎に対して、敵機のカメラアイが真っ直ぐ見詰めてきた。攻撃する素振りを見せず、高々と掲げたランスを逆手に持ち替え、穂先を床面に突き立てる。激しい振動が空間全体を揺らした。

『敵の動きが』

『止まった!?』

 それに最も早く気付いたのは、カレンとカリムの双子だった。強襲部隊を完全包囲せんとしていた全てのデヴァステーターの動きが、巨人機のランスの一撃によって静止したのだ。

 強襲部隊の面々が敵の意図を探るように陣形を構え直すと、巨人機が床面に突き立てたランスを引き抜き、穂先を強襲部隊へと指向した。その穂先の先にいたのは、ヒュッケバイン改。恭一郎達だった。

「大将同士による一騎打ちのつもりか? 圧倒的に有利な状況だからって、敵に情けでも掛けているつもりか?」

 これまでに戦いには無かった不思議な感覚が、恭一郎の第六感に敵意以外の何かを語り掛けてきた。殺気のようなこちらを害しようとする意図の感覚に鋭敏になっている恭一郎は、多くの初見殺しを第六感によって免れてきた過去がある。今回の戦闘中も多数のデヴァステーターから殺気を感じていたのだが、巨人機の不可解な行動から一転して、敵の殺気が雲散霧消していた。

「恐らく、違います。敵もこちらの意図に気付いたのかもしれません。この圧倒的な彼我の戦力差にあって、殺さずを貫くなんて狂気の戦法で戦う我々の目的が、彼等のオメガの呪縛からの解放を意図していることに」

 遥歌がランスを正面で構えて待つ巨人機の姿を見て、グライフからプラズマソードを発生させる。それを機体の正面でクロスさせ、突撃の構えを執る。

 勝負を受けて立つ素振りを見せたヒュッケバイン改に、巨人機が律儀に一礼をくべてきた。どうやら本当に、ヒュッケバイン改を相手に、戦いを望んでいたようだ。周囲のデヴァステーターは、戦闘態勢まで解いて、巨人機の行動に介入しない構えだ。

「――受けて立ちましょう。敵の巨人機と専念して戦える機会を逃すべきではありません……」

 珍しく長文でセナも言葉を発し、敵からの挑戦に乗り気であることを告げる。

「時代錯誤な騎士道精神だが、この挑戦を受けて立とう。これで本当に、最後の戦いにするぞ!」

 覚悟を決めた恭一郎に対して、強烈な気迫が巨人機から放たれてきた。どうやら敵は、恭一郎が本気になるのを待っていてくれたようだ。このような妙な人間臭さは、今まで戦ってきたオメガ残党軍には無かった行動だ。

 オメガが消滅して時間が経過したことにより、その呪縛のくびきほころんできているのかもしれない。あるいは、恭一郎達と直接戦ったことで、以前のゼルドナやマクシミリアンのように、自由を取り戻しつつある可能性もある。

「全機、この一騎打ちには、手出し無用だ。こちらも本気を出すから、巻き込まれないように距離を取っておいてくれ」

 遥歌が発生させた、プラズマソードの出力を引き上げる。改良されたグライフの生み出す光の剣が、大きさをそのまま維持しつつ、輝きを大きく増した。プラズマの収束率を引き上げ、刀身を形成するプラズマの密度を実体剣レベルまで昇華させたのだ。このことにより、プラズマソードでの切り結びが可能となった。

 ヒュッケバイン改の戦闘態勢が整ったと判断した巨人機が、ランスの穂先を下げて突貫してくる。対するヒュッケバイン改は、プラズマソードの二刀流である。機体の大きさ、武器のリーチの差によって、ヒュッケバイン改は不利な条件が揃っている。しかし、唯一有利な点がある。格闘戦に強い遥歌が、恭一郎と共に戦っていることだ。

「はあぁぁぁっ!」

 迫り来る巨大なランスの穂先の中心に、プラズマソードを叩き込む。巨大な質量のぶつかる衝撃で、ヒュッケバイン改のフレームが悲鳴を上げる。だが、衝撃を態勢を反らして受け流すことで、隙を与えずに反撃を撃ち込む。敵も巨大なランスを軽々と扱い、反撃を相殺して攻撃に転じる。その攻撃を刀身で受け流し、密着状態へ持ち込んで一撃を見舞う。敵の膝蹴りがグライフを弾き、攻撃は不発に終わった。

 オメガと蒼凰単機で渡り合った時のハリエットを上回る遥歌の剣技が、敵と激しくぶつかり合う。両者一歩も引かない格闘戦の攻防は、機体と武器の差を埋めて拮抗状態を生み出していた。

 この時、遥歌は戦闘の高揚の中で、破邪聖浄の神気が微量ながら漏れ出していた。その神気が遥歌の格闘能力を底上げしており、ヒュッケバイン改の機体能力も若干向上させていた。そうでなければ、ヒュッケバイン改は敵の圧倒的な質量の前に、機体が衝撃に耐えられず甚大な損傷を受けていたことだろう。

 とはいえ、巨大な敵と不利な武装で行われている格闘戦である。いくら神気でバフが掛かっていても、限界を迎えるのはヒュッケバイン改の方が早い。巨大なランスと激しく切り結んだことで、腕周りの関節を中心に、ヒュッケバイン改の機体構造に不具合が発生して行く。

「――機体各部、アラート発生……!」

「このままだと、フレームが持たないぞ!」

「さすがに、汎用機と格闘機では、耐久力勝負は無謀でしたか……!?」

 敵の巨人機は、ランスと盾以外の装備を一切持たない、完全な格闘機として造られているようだ。対するヒュッケバイン改は、強化されているとはいえ、元々が統合軍の量産機をベースに造り上げた急造の汎用機だ。用途に合わない運用方法では、どうしても機体への負担に差が出てきてしまう。

「こうなったら、必殺技を出します! リミッターの解除を!」

「――了解。リミッター解除……!」

 遥歌の指示により、セナがヒュッケバイン改のリミッターを解除する。量子エンジンが近衛軍基地からエネルギーを一気に吸い出し、小型プラズマエンジンからも莫大なエネルギーが生み出される。機体が放出する熱量で赤熱化を始め、機体の周囲にゲージ粒子が激しく環流する。やがて環流していた粒子が、プラズマソードと一体化して行く。そして、ゲージ粒子を纏ったプラズマソードが完成した。

「おいおい、これって……!」

 恭一郎の知らないヒュッケバイン改の機能に、機体の持ち主が驚いてしまう。プラズマソードに高濃度ゲージ粒子で攻撃を行うゲージブリンガーの特性が融合した光り輝く剣に、とうとう破邪聖浄の神気まで加わり、七色に輝く無双の双剣が誕生した。神気の濃度はハイパーレールガン発射時よりも薄いが、神気が剣の周囲で環流しているため、威力に遜色そんしょくは全く無い。

「ハイパー・プラズマ・ブリンガー!」

 熱による残像を纏いながら、ヒュッケバイン改が巨人機に切り掛かる。カウンターのランスが機体の残像を貫き、同時に七色に輝くの剣によってランスが根元から断ち切られ、光の粒となって蒸発する。

 そして、巨人機の胴体に刃を突き付け、一騎打ちの勝負は決した。

「私達の勝ちです!」

 遥歌の宣言によって、巨人機は敗北を認め、機能を停止させた。それと呼応するように、無傷のデヴァステーターまでが一斉に、武装を解除して機能を停止させた。

 こうして恭一郎達は、圧倒的寡兵での戦闘に勝利した。だが、敵部隊の機能停止と同時に、基地全体が振動を始めた。

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