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【小さな願い 艦隊戦】

 ――トイフェルラント生活一五四二日目。




 惑星オディリアと衛星ナディアのほぼ中間地点、それぞれの重力と公転による遠心力が釣り合う地点において、連合艦隊とオメガ残党軍は会敵した。二〇一艦からなる第一艦隊の前に、先頭集団だけで数千万体にものぼるバグの群が、大海嘯だいかいしょうのように殺到してきた。

 こうして恭一郎のわがままから始まった未来を賭けた最後の戦いの火蓋が、恭一郎の号令によって始まろうとしていた。




     ◇◆◇◆




 アンダースーツの上に式典用装飾を外したネイビーのダブルコートを着て、ヘルメットの代わりに艦長用の制帽を被った恭一郎は、ケーニギン艦橋の艦長席に腰掛けていた。総司令官である恭一郎が機動戦力としてヒュッケバイン改に乗り込むのは、デヴァステーターのような有人機を相手にするような状況になるまで、この艦隊戦においては考えられていない。

 今はこうして全軍の指揮を執る立場に収まり、バグを殲滅することに集中することになっている。

「第一艦隊、データリンク良好。戦闘準備完了しています」

 ハナがオペレーターシートに着座して、前衛打撃艦隊の状況を伝えてくる。

 人手の少ないトイフェルラント近衛軍は、ケーニギンを高度に自動化したシステムで運用している。最低でも一人で操艦と戦闘が可能なため、本来ならばハナのように報告を上げてくる必要はない。

「敵先頭集団、友軍艦隊の最大射程圏内に入りました」

「全艦、特殊弾頭ミサイル、発射準備完了」

 ハナの報告に続き、マナとラナが報告を上げてくる。それぞれがレーダーと火器管制シートに着座している。

 報告を受けた恭一郎は、艦長席から立ち上がって命令を下す。

「第一艦隊全艦、雷撃開始! 魔力榴弾だけが我々の切り札ではないことを、敵に思い知らせてやれ!」

 恭一郎の命令は、通信管制シートに着座するミリーによって第一艦隊へと伝えられ、第一艦隊の全ての艦から、同時に多数のミサイルが発射された。推進剤の航跡をきながら、特殊弾頭を備えたミサイルが敵の大集団へと殺到する。

「特殊弾頭ミサイル、再装填完了」

「第二射、放て!」

 第一射の着弾を待たず、再び一斉にミサイルが発射される。壁のように突き進むミサイル群が、敵の先頭集団に到達した。敵はカメムシのようなバグで、一年前の花火戦役で戦ったモノと同型である。そのバグにミサイルが命中して、特殊弾頭から液体が撒き散らされた。

 連合艦隊の放った特殊弾頭ミサイルには、液体状の爆薬が詰まっていた。本来ならば信管が起爆して大爆発を起こすのだが、信管が切られていて爆発は起こらない。着弾によって撒き散らされた液体爆薬は、宇宙空間に拡散して極小の粒となって周囲の空間に止まった。

 第二射の特殊弾頭ミサイルも敵集団の中に、爆薬の雲を形成して役目を終えた。

 バグの大集団が圧倒的な数の暴力で、第一艦隊に迫る。

「第三射、放て! しかる後、ミサイル着弾と同時に一斉砲撃を開始する!」

 迫り来る物量に対して、三度の一斉雷撃が加えられる。敵集団はミサイルの不発を不審がることもせず、ただひたすらに憎悪のまま破壊を振りまこうと迫ってくる。

 彼我の距離が近付いたことで、ミサイルの着弾は早く訪れた。そして爆薬の雲が敵集団の中に取り残されていく。そこで、恭一郎が下命した。

「全艦、プラズマキャノン発射!」

 ケーニギンの大型シリンダー及びドッペル級の艦首プラズマキャノンが、一斉に超高エネルギーの塊を敵の先頭集団へと発射した。絶大な破壊力を秘めたプラズマの豪雨が、先頭集団の無数のバグを一撃のもとに蒸発させる。その勢いのまま敵集団を蹂躙して、爆薬の雲がプラズマを火種として連鎖爆発した。第二射と第一射の形成した爆薬の雲にも引火して、前方の空間が魔力榴弾の炸裂にも引けを取らない爆炎の地獄と化した。

 時の声優を大量投入した一大叙事詩アニメで使われた、可燃性粒子を使用した戦法を真似た、宇宙空間での燃料気化爆発戦術である。この一撃で、敵の先頭集団はほぼ壊滅させることができた。バグの推定撃破数は、一億体程度となるだろう。

「全艦、レーザーキャノンに切り替え、遠距離からの斬滅戦闘を開始せよ!」

 ドッペル級が焦点距離を最大まで伸ばした大口径レーザー砲で間断の無い砲撃を行い、第一艦隊は敵の接近を妨害する。ケーニギンは大型シリンダーを回転させ、武装をレーザーキャノンに切り替えて攻撃に加わる。

 先の花火戦役の教訓として、敵に大損害を与える攻撃を行うと、直後にその攻撃に対する対抗手段が講じられることが予想されている。先の戦役で第三射の魔力榴弾が弾かれたように、燃料気化爆発戦術が無効化される可能性があるからだ。そのため、敢えて同じ戦術を繰り返さず、通常攻撃にて敵の出方を窺っているのだ。

 その判断は正しかったようで、ナディア宙域から突出している敵集団の中程から、異常な数値の空間の歪みが観測された。

「ボム・アーチン出現時と同様の歪曲反応が、複数観測されています! 敵集団の一部が融合合体を開始している模様!」

 レーダーを担当しているマナが、敵の動きの変化を捉えた。外部カメラの光学映像をズームインさせ、歪曲反応の発生地点を観測する。迫り来る無数のバグの向こう側で、巨大な何かが生まれ出ようとしていた。

「第二艦隊へ下命! 敵集団の側面へ偵察機を派遣し、情報収集させろ! 同時に、機動部隊の予備待機を徹底! 場合によっては、第一艦隊の直援に当たらせる!」

 すぐさま編成された偵察機部隊が第二艦隊から離れ、高速でバグの集団を迂回しながら偵察に向かう。非戦闘用に改造されている支援戦闘機は、推力と観測機器を強化された偵察機として作戦に投入されていた。普段は次元潜航するデヴァステーターを警戒する任務に当たっているが、今回は敵集団の陰に隠れて融合合体したバグの正体を探るため、多角的に観測が行なえるように複数の飛行隊が分散して敵に接近を試みている。

 第一艦隊は偵察機の援護のため、レーザーに加えて通常弾頭のミサイルを織り交ぜた砲雷撃を加え、敵の注意を引き付けることに専念した。




 やがて、敵の偵察を開始した複数の飛行隊から、同様の報告がもたらされた。

「推定二億前後のバグが融合合体を行い、五つの巨大な物体を形成している模様! 一〇〇〇メートル級の球形三つ。二〇〇〇メートル級の楕円形二つ。例のさなぎのような状態だと考えられます」

 ミリーから、偵察結果の情報と映像が送られてきた。艦橋に設置されている情報パネルに、偵察機から転送されてきた映像が映し出される。

 巨大な球形の塊が三つ、これがさらに巨大な楕円形の塊の前に並ぶように出現している。あたかも後方の巨大な楕円の中身を守るような布陣である。

「全艦連動し、レーザーの一斉発射を行う! 目標、中央の球形物体!」

「照準、連動! いつでも撃てます!」

 ハナがデータリンクで照準を合わせ、攻撃のタイミングを恭一郎に委ねた。焦点距離を敵の先頭から奥まった位置にしてあるため、その一点へ目掛けて艦隊のレーザー光線が照射されるようになっている。

「撃て!」

 第一艦隊より放たれたレーザーが、扇状に収束しながら中央に位置する球体に突き刺さる。射線上に位置していたバグが攻撃の巻き添えで蒸発し、一点の集中砲火によって異常高温に曝された巨大な球体の外殻が溶解、数秒後に爆発を伴って内部から崩壊した。

 艦隊による一斉攻撃によって、巨大物体の一つを撃破することができた。だが、艦隊が次の攻撃に移る前に、敵が早くも動き出した。巨大な外殻が内部から突き破られ、蛹の中身が羽化した。球形の中からは、巨大な雲丹。楕円の中からは、巨大な船が現れる。

「アーチンタイプより、空間歪曲反応! 後方の艦艇型より、高エネルギー反応!」

「攻撃、来ます!」

「全艦、防御態勢!」

 マナとラナが警告を発する。すぐさま指示を出した恭一郎は、敵の攻撃を目の当たりにした。

 ボム・アーチンよりも一回り大きなアーチンタイプの後方、ツァオバーラントよりも巨大な戦闘艦が、ゆっくりと動き出す。鋭角的なフォルムにエピタフのような捻じれた砲身を持つ大砲が、艦体の至る所から突き出した。その砲身が、前方のアーチンタイプに向けられる。そのまま敵艦はアーチンタイプに向かって砲撃を開始した。

 二隻の敵艦から放たれた多数のエネルギー流が、アーチンタイプの展開する歪曲場に捕らえられ、射線が不規則に歪められた。アーチンタイプによって拡散放射された敵艦の攻撃が、第一艦隊に降り注ぐ。

 ケーニギンにも複数の敵弾が飛来し、防御用の多重魔力障壁を突き破って着弾した。幸いにしてケーニギンの装甲はびくともしなかったが、ドッペル級には深刻な一撃となった。単発で被弾した三六隻のドッペル級は、被弾カ所の爆発だけで持ち堪えることができたが、複数発の直撃を受けた一七隻が、ダメージコントロールを行う時間もなく、次々と爆沈してしまった。

 連合艦隊にとって、初めての損害であり、初めての犠牲だった。




 友軍の損害報告を艦長席に座って聞く恭一郎は、表情を変えずに受け答えを行う。冷静に指示を出しながら、敵の攻撃を分析する。

 敵艦はアーチンタイプの空間歪曲場を利用して、広範囲の敵に向けて予測の困難な攻撃を行ってきた。恐らく巨大な敵同士で、データリンクのようなシステムが構築されているのだろう。それにより、空間歪曲場で攻防一体の布陣を敷いているようだ。

 この布陣を早急に破らねば、第一艦隊は数回の攻撃で簡単に瓦解してしまう危機的な状況だった。

「損傷艦は、全て後退! 生存者の救助に全力を注げ! 残りの第一艦隊は、総旗艦ケーニギンの突撃を援護せよ!」

 恭一郎は自らケーニギンを突出させることで、味方への被害を抑える戦術に打って出た。防御力に優れるケーニギンならば、数発程度であれば装甲板で攻撃を受け切ることができる。例え直撃を受けても、無人区画の防御性能は外板装甲並みである。そう簡単に沈むような造りではない。しかも推進装置の魔力融合ロケットとプラズマ・パルスロケットを全開にして高速航行を行うことで、回避能力も格段に向上する。

「ケーニギン突撃! 高速戦闘モードへ移行! 敵の注意をこちらに引き付けつつ、邪魔なアーチンタイプを先に撃破する! 大型シリンダー、レールキャノン、スタンバイ! 中型シリンダーは引き続き、レーザーで敵にプレッシャーを与え、小型シリンダーは接近する標的を迎撃せよ!」

 マナがケーニギンの操舵を始め、速やかに高速戦闘に移行させる。

 ケーニギンが推進装置から膨大な反動を生み出し、秘められている機動力を解き放って加速を始めた。科学と魔法の技術を用いたケーニギンは、人工重力により慣性が制御されている。一気に秒速一五キロメートルを超える加速を行えば、強烈な加速度で身体が座席に押し付けられて窒息してもおかしくない状態となるが、ケーニギンは加速を感じる程度の大幅な重力加速度の軽減効果を発揮している。

「レールキャノン、時限式魔力榴弾装填! 魔力注入開始!」

 矢継ぎ早に指示を出し、魔力榴弾に魔力を充填させる。今回は時限炸裂式に改良を加えたモノを弾体として射出することで、万が一攻撃が歪曲場に弾かれたとしても、敵の至近で爆発するように設定されている。

 今はリオが後方に待機しているため、魔力榴弾に充填する魔力はケーニギンのM‐コンバーターから送り込まれている。リオのような速さで魔力を充填できないが、長時間に渡って安定した魔力を供給する能力は、リオにもまねできない優れた性能を誇っている。

 着々と攻撃の準備を進めている間に、敵艦のエネルギー反応が上昇した。そして、攻撃の第二射が放たれる。敵艦からの砲撃がアーチンの歪曲場で軌道を歪められ、半数がケーニギンへ、残り半数が第一艦隊へと襲い掛かった。

「全艦、回避運動!」

「艦を振ります! 総員、何かに掴まって!」

 警告と同時に、マナがケーニギンを戦闘機のようにロールさせ、強引な軌道変更を行う。激しい操艦により艦体が軋みを上げ、砲火の飛び交う空間が激しく回転する。ケーニギンを指向した砲火がケーニギンの通り過ぎた空間を撃ち抜く。ケーニギンの性能をもってこそ可能な曲芸飛行のような操艦によって、敵の攻撃は恭一郎達に届くことはなかった。

 一方、第一艦隊は回避運動の指示に従い、どうにか全艦が生き残った。それでも被弾した艦は二〇隻もあり、戦闘継続が困難なために後退せざるを得なかった。これにより、第一艦隊は総戦力の三分の一を超える被害を被ってしまった。

 第一艦隊が回避運動を行った一瞬の隙を突いて、大量のバグがケーニギンに群がってきた。CAとは違い、艦艇は小型の敵に取り付かれると、反撃の手段が限られてしまう。本来ならば近接戦闘時に艦載機で対応するのだが、高速戦闘状態では発進させた艦載機をその場に置いて行ってしまうことになる。それではまったく意味がない。

「対空迎撃!」

「ミサイル発射! 対空射撃開始!」

 ラナによって中型シリンダーからミサイルが次々と撃ち出され、小型シリンダーのガトリングガンが猛然と弾幕を張る。ケーニギンは水上艦の流れを汲んで武装が艦の上方に集中しているため、艦の下方に対しては火力が乏しい。しかし高い機動性によって火力の方向が任意に変えられるため、群がるバグはケーニギンに取り付く前に次々と撃破されていく。

 だが、数の暴力には抗いきれず、数体のバグの接近を許してしまう。そのバグがケーニギンの艦体に体当たりをして、自ら自爆して神風攻撃を仕掛けてきた。

 ケーニギンの装甲は何とか多重魔力障壁によって神風に耐えたが、尽きることなく押し寄せてくるバグに次々と特攻をされては、いかに堅牢なケーニギンでも撃沈は避けられない。

 バグの攻撃に抗うケーニギンに対して、第一艦隊から支援砲撃が加えられた。レーザーとミサイルの雨霰あめあられが、ケーニギンへ向かおうとするバグの集団の側面から降り注ぐ。投入されている火力は幾分衰えてはいるが、バグの相手ならば十分な殲滅能力を維持していた。

 バグの脅威度が下がったケーニギンは、時を同じくして魔力榴弾への魔力の充填が終了した。反撃開始である。

「レールキャノン! 目標、アーチンタイプ! どちらを撃ち抜いても構わない! 確実に当てろ!」

「了解! マナ! 操艦を一時的に貰うわよ!」

「分かったわ! ユーハブ・コントロール!」

「アイハブ・コントロール!」

 ラナがケーニギンの操艦を引き継ぎ、レールキャノンの攻撃態勢に入る。大型シリンダーを回転させ、発射準備の整ったレールキャノンを展開する。一二〇センチメートルの巨大な砲口は、距離の近いアーチンに狙いが定められた。砲身内に大電力が注ぎ込まれ、強力な磁界が発生する。

「照準完了! 時限信管設定終了! レールキャノン、発射します!」

 ラナのタイミングで放たれたレールキャノンは、亜光速に迫る秒速二八キロメートルで時限式魔力榴弾を発射した。実に音速の八〇倍以上の弾速である。このレールキャノンには魔導具による強化が施されているため、磁力による反発力と物理的抵抗値が既存のモノとは雲泥の差となっている。もっとも、魔導具による強化補助がなくとも音速の六〇倍で弾丸が安全に発射できるかどうかという高性能である。元から規格外の性能であることに間違いはない。

 そんなケーニギンの必殺の一撃を受けたアーチンタイプは、歪曲場など意味を成さずに巨体を撃ち抜かれ、内部で炸裂した魔力榴弾によって爆発四散した。魔力榴弾の威力はそれだけに止まらず、近くにいたバグの大群を巻き込み、隣のアーチンタイプの突起の一部を消し去った。これにより、残ったアーチンタイプの一部に歪曲場の消滅した場所が出来上がった。

「レールキャノン、通常弾装填! 残るアーチンタイプを撃ち貫け!」

「了解! レールキャノン、連続発射!」

 間発を入れず、ケーニギンからレールキャノンが連続して放たれた。一部とはいえ、歪曲場を消失させたアーチンタイプなど、恭一郎達の敵ではない。恐るべき速度の巨大な弾丸を次々と歪曲場の穴に撃ち込まれ、残りのアーチンタイプも程なく行動を停止した。




 次は、敵の融合合体した戦艦との戦闘である。恭一郎の切り札であるツァオバーラントよりも巨大な敵艦は、ケーニギンを意識した艦体を持ちながらも、完全に宇宙戦闘用として上下に幾つもの武装を備えていた。この武装の威力は、先の二回の攻撃からでも想像ができるように、非常に高い火力を有した恐るべき威力である。

 しかも億単位のバグが戦闘宙域へ殺到し続けているため、いつまでも敵艦にだけかかずらわっている訳にもいかない。そこで、恭一郎は新たな命令を下した。

「正面右側の敵艦は、ケーニギンが受け持つ! 第一艦隊は、左側の敵艦に集中砲火を浴びせろ! 第二艦隊は左右に分かれて、後続のバグの迎撃! 第二艦隊所属の機動部隊は、母艦の直援に当たれ!」

 敵艦からの濃密な砲火をマナが巧みな操艦で避けながら、ラナが反撃でレールキャノンを撃ち込む。敵艦は巨大な的であるため、レールキャノンが面白いように命中する。だが、見た目以上に敵艦の防御能力が高く、攻撃の命中した箇所の区画にしか損害を与えられない。

 そこで、貫通力に優れるレールキャノンの『点』の攻撃ではなく、プラズマキャノンやミサイルでの『面』の攻撃に切り替える。弾速は遅くなるが、火力はこちらも折り紙つきだ。

 高速戦闘のまま周囲のバグを蹴散らし、右側の敵艦と熾烈な艦砲射撃を交わす。ケーニギンが攻撃を行うごとに、その一〇倍以上の砲撃が返ってくる。火力は敵艦の方がケーニギンの遥か上を行くが、敵艦よりも小型なケーニギンには、快速による回避能力がある。総合的に判断して、ケーニギンの火力が先に尽きるか、敵艦がケーニギンの攻撃に耐えきれるかの勝負となってきている。




 左側の敵艦に集中攻撃を行う第一艦隊は、被害を出しながらも圧倒的な手数で攻め立てることで、ケーニギンよりも優位な戦況となっていた。オディリア統合軍の十八番おはこである飽和攻撃は、巨大な敵艦に対して非常に有効だ。

 第二艦隊は恭一郎達の戦闘宙域に後続のバグが侵入しないように、遠距離からの砲撃で遅滞戦闘に従事している。ドッペル級のような火力を有していないが、改ドルヒ級とて数を揃えれば侮れない火力となる。直援に当たる機動部隊の一部も遠距離攻撃用の武装で支援攻撃を行い、投下される火力の底上げに寄与している。

 第二艦隊に含まれているメサイア部隊は、デヴァステーターに対応するため、この戦闘には参加していない。彼等は部隊を三つに分け、ドートレス達ベテラン組が後方の第三艦隊から第五艦隊の防衛を受け持っている。シン達のルー兄妹弟が第二艦隊左翼分艦隊、レイア達の四姉妹が第二艦隊右翼分艦隊に同行している。




 友軍の優勢を確認した恭一郎は、自らが受け持った右側の敵艦との戦闘に集中した。水上艦型のケーニギンと宇宙船型の敵艦との一騎打ちである。

 ケーニギンが武装を上部に集中配備している理由は、第一にコア・シップとしてツァオベリンとドッキングする構造上、ツァオベリンに収納される部分の武装が使えなくなってしまうことを考慮しているからである。ケーニギンは独立して運用が可能な万能航宙艦である前に、超戦艦ツァオバーラントの艦橋兼非常脱出用艦艇である。それゆえに、搭載火力はツァオバーラントと比較すると最低限となっている。

 それでもオディリア統合軍の新鋭艦を遥かに凌駕する性能を持っているのは、恭一郎の大切な存在を守り抜くという強い意志の具現化である。

 幾つもの奇跡の上に愛すべき存在を得ることができた恭一郎には、独占欲にも通じる強い愛情を持つに至った。そのため、幾度も地球の危機を救った某宇宙戦艦のように、不条理な暴力を退しりぞける力を欲した。極端な話であるが、トイフェルラント近衛軍の戦力は、そのためだけに存在していると言っても過言ではない。

 例え世界が恭一郎達に牙を剥いてきたとしても、それをねじ伏せて生き残るためには、恒星系を消滅させる程度の攻撃力では不足ではないかとすら、恭一郎は考えることがあった。

 そんな恭一郎の想いを、全長四〇〇メートルのサイズに落とし込んで生まれたのが、連合艦隊の総旗艦となっているケーニギンである。たかだか敵艦一隻に、後れを取ることなど有り得ない。

 ケーニギンと砲火を交える敵艦は、艦体のフォルムこそ木の葉型で共通しているが、武装が上下に多数配されている宇宙用の戦闘艦であった。レールキャノンの攻撃にも耐える構造を持ち、圧倒的な火力はほとんど死角が無い。

 悪い意味で恭一郎の理想に叶う姿をしている敵艦に、ケーニギンは単艦で挑む。これは全てを破壊する力と、大切なモノを護る力の戦いなのだ。

「魔力弾頭ミサイル、発射準備! 敵艦の武装を破壊して、丸裸にする!」

 小型の魔力榴弾を搭載したミサイルへ、魔力が充填される。大型の魔力榴弾のような威力は望めないが、充填速度と使い勝手はこちらのサイズに軍配が上がる。しかも一度に複数の目標に攻撃が可能なため、運用次第で加害範囲は大型の魔力榴弾にも匹敵する、つまり、広範囲の殲滅に使用することも可能である。

 猛烈な敵艦の砲火が、ケーニギンを襲う。いくらケーニギンの快速をもってしても、全ての攻撃を回避することは叶わない。それでも艦体を巧みに操って、急所となる艦橋周辺及び機関部と推進装置への直撃は、艦底部や側舷の装甲で敢えて受けることで肩代わりした。

 そんな中、予測を外した直撃弾が、ケーニギンの艦首を貫いた。被弾カ所の内部構造が爆発し、艦体が激しく振動する。

「艦首大破! しかし、戦闘に支障無し!」

「ダメージコントロール! 非常隔壁、全閉鎖! 消火剤散布!」

「被害区画への回路遮断! エネルギーの流出停止しました!」

 ハナ、マナ、ラナが協力して、ケーニギンの受けたダメージを最小限に抑え込む。損傷した区画を隔離して、周囲の区画にも消火剤を散布する。損傷した配線から漏れ出るエネルギーによって二次被害が出ないよう、不要となった回路を切り離していく。これにより、ケーニギン内部へダメージの伝播を阻止した。

「ケーニギンはこの程度では、沈みはしない!」

 艦体の装甲に幾つもの穴が開いたケーニギンは、傷付きながらも力強く戦場を駆けた。大型シリンダーのプラズマキャノンに被弾して使用不能に陥ったが、すぐさまレーザーキャノンに切り替えて応戦する。

 そして、魔力弾頭ミサイルに、魔力が充填された。

「魔力弾頭ミサイル、発射準備完了!」

「目標設定、敵艦武装群!」

「魔力弾頭ミサイル、連続発射!」

 ミサイルが発射直後に迎撃されないよう、装甲の厚い艦底部を敵に曝しながら、連続してミサイルが発射する。ケーニギンから一定の距離まで離れたミサイルはその軌道を変え、敵艦目掛けて殺到する。回避運動を組み込んで不規則に進むミサイルが、敵艦の迎撃の間隙を縫って次々と着弾した。巨大な艦の至る所で大規模な爆発が起こり、剥き出しの武装が爆発の閃光の中に沈んで行く。

 やがて敵艦を包む輝きが消え去ると、攻撃手段を失った敵艦だけが残った。

「敵艦の動力部に対して、集中砲火を浴びせる! これで決めるぞ!」

 ケーニギンが敵艦の後背に回り込み、推進装置から動力部に向けて全ての火力を一点に叩き付けた。さしもの敵艦もこの猛攻には耐えきれず、動力部を破壊されて内部から爆発した。




 ケーニギン同様、第一艦隊も左側の敵艦の撃沈に成功した。戦闘に参加した多数の艦に被害を出したが、幸いにして致命傷に至る損傷を受けた艦は出なかった。

 こうして連合艦隊による敵艦との艦隊戦は、連合艦隊の勝利で幕を閉じた。


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