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【デザイア】

 ――トイフェルラント生活一五四〇日目。




 ダンデライオン基地の近傍宙域に、オメガとの最終決着を付けるために編成された、大戦力が集結した。オディリア統合軍の戦艦や母艦を中心とする戦闘用艦艇、補給艦や工作艦を中心とする支援用艦艇が、今回の大作戦のために集っている。そこへトイフェルラント近衛軍からはケーニギンが加わり、ケーニギンを総旗艦とした、対オメガ連合艦隊が結成された。

 連合艦隊の構成は、総旗艦の万能航宙艦ケーニギン以下、ドッペル級宇宙戦艦二〇〇、改ドルヒ級宇宙戦艦二〇〇、ドルヒ級宇宙戦艦一〇〇、エルターン級宇宙母艦二〇〇、小型護衛艦四〇からなる、過去最大規模の機動艦隊だ。

 支援用艦艇として、大型補給艦二〇、改ドルヒ級装甲輸送艦六〇、工作艦一〇、船渠せんきょ艦一〇、医療艦一〇が随行する。

 ケーニギンを除いた艦艇数は、実に八五〇隻となる。これはオディリア統合軍の保有する宇宙用艦艇の八割に相当し、待機する残りの約二割の艦艇が、宇宙基地のダンデライオンの宙域を中心に、惑星オディリアの防備を固めている。

 連合艦隊の機動戦力は、トイフェルラント近衛軍からヴァンガード一、ゲシュペンスト二、パラーデクライト四。オディリア統合軍からメサイア一一、次世代型インベーダー三〇〇〇、インベーダー四〇〇〇、宇宙用支援機七〇〇〇となっている。これもオディリア統合軍の宇宙用機動戦力の八割であり、切り札のメサイアも数機を銃後の守りに残して、稼働可能な全機を投入してきている。

 なお、恭一郎達の切り札となるバトル・モジュールのツァオベリンはトイフェルラントで後詰として待機しており、残り三機のパラーデクライトと共に進発の準備を整えている。




 総旗艦となるケーニギンには、総指揮官の恭一郎を始め、マクシミリアンとゼルドナのチームゲシュペンスト、ハナとマナとラナの戦闘用アンドロイド三人娘、セナと遥歌が特殊戦力枠で乗艦している。

 それに加え、オディリア統合軍から通信連絡将校として、ミリー・ギャレット大尉他三名が同乗している。ミリーは、恭一郎の密着取材で担当の記者を務めた、マリーの姉であった。元々ダンデライオンの艦隊司令部でオペレーターを務めており、総旗艦からの命令がミリー達によって友軍艦隊へと送られるようになっている。

 格納庫にはヒュッケバイン改、ゲシュペンストが二機、パラーデクライト・ラオム・アングリフが四機搭載されている。そしてシズマから、万が一の予備機として、乗り手を失った蒼凰が搬入されていた。

 生身の人間に生まれ変わった遥歌には、メサイアを動かすことは叶わない。ケーニギンでメサイアを操縦できる人物は、元メサイア操者であったゼルドナだけだ。彼はマインによって蘇えらされた際、強化処置された人工物の部分まで完全な形で復元されていた。そのため、多少の違和感に目を瞑れば、蒼凰を予備機として扱うことが可能だった。




 ケーニギンと共に陣形を組むのが、ドッペル級宇宙戦艦である。純粋な戦闘用艦艇として高い砲雷撃戦能力を有しており、第一艦隊となる前衛打撃艦隊の主力となっている。ケーニギンを中心に上下左右へ壁面のように等間隔に展開しており、真正面から敵と撃ち合う火力重視の隊列となっている。

 前衛打撃艦隊の後方に、改ドルヒ級宇宙戦艦からなる第二艦隊の機動打撃艦隊が控えている。ドルヒ級に追加装甲を施し、大口径レーザー砲を連装化した改良艦となる。楔型の陣形を組み、前衛打撃艦隊を突破した敵に対して、艦砲と機動戦力によるピンポイント攻撃を行うことになる。

 改ドルヒ級の楔型陣形の後方に、エルターン級宇宙母艦からなる第三艦隊となる機動艦隊が展開している。エルターン級はCAと支援機の機動戦力の運用を最優先した母艦として造られ、艦内設備の大半が格納庫となっている。そのため、ドルヒ級の二倍の機動戦力を運用する能力と引き換えに、武装は近接防御用の小型の武装しか装備していない。

 エルターン級の後方に、補給艦や輸送艦、工作艦を中心とした第四艦隊となる支援艦隊が続き、その周囲をドルヒ級宇宙戦艦と小型護衛艦から成る第五艦隊が直援艦隊として、支援艦隊を護るように全方向を覆う陣形で展開している。

 最大時には約三八万キロメートルという長さとなる補給線を支えるには、補給艦を絶えず前線と基地の間で往還させなければならない。この補給線を遮断されてしまうと、いかに強力な連合艦隊であっても戦闘継続は不可能だ。そのため、必要となるであろう補給物資を満載した補給艦と輸送艦を支援艦隊に組み込み、護送船団方式で部隊後方に随伴させているのだ。




 ケーニギンの搭載機を除き、全ての機動戦力は改ドルヒ級、ドルヒ級、エルターン級、小型護衛艦に搭載されている。そのうちの五隻の改ドルヒ級に、メサイアが分散配備されている。

 オディリアの切り札であるメサイアは、歴戦のベテランから初陣の新兵までを含む、総勢一〇名の操者によって構成されている。

 今回は恭一郎との共闘経験があるドートレス、シン、カレン、カリムの四名に加え、エヴァンジェリン、ペイン、レイア、マイア、セレイア、ネレイアの六名が、戦列に加わっている。

 シリウスを筆頭に、残りの操者はダンデライオン宇宙基地に詰めており、敵の奇襲に備えて待機している。アリッサに関しては、地上に残ってトイフェルラントに待機させた。彼女の場合は特別で、冬の間に妊娠したことが判明したため、母体とお腹の子供に著しい負担を強いるメサイアへの搭乗を、シズマとリオの連名で発した命令で禁じていた。

 機動戦力の主力となる量産型機は、全ての改ドルヒ級と一部のエルターン級に次世代型インベーダーが、残りのエルターン級と全てのドルヒ級と小型護衛艦にインベーダーが配備されている。

 宇宙用支援機は各支援艦を除く、全ての戦闘用艦艇に配備されている。今回は戦闘ではなく索敵が主な任務であるため、これまでのような量産型機に倍する数を配備されていない。




 連合艦隊は総艦艇数八五一隻、搭載CA数七〇一八機、搭載支援機数七〇〇〇機。五個艦隊、八個機動師団、三個偵察連隊から成る、およそ二八万名の将兵が動員されている。

 短期間でこれほどの戦力を配備したオディリアの生産力は、底の知れない驚異的なモノだ。動員された将兵も脅威的だが、これには先年廃止された生殖義務が深く関わっており、素直には称賛できないモノだ。恭一郎からしてみれば、人の命を戦争のための駒としか見ていないようで、嫌悪感しか抱けなかったからだ。

 そんな大戦力の総指揮官となった恭一郎は、これが人生で初めて、自らの意思で起こした戦いに臨むことになる。今までの恭一郎は基本的に、目の前の問題に対処をする受け身の行動によって行動を起こしてきた。これまで恭一郎が経験してきた戦いは全て、敵が恭一郎に牙を剥いてきたことで発生している。治安維持目的の戦闘も、その場に遭遇してしまったから発生してしまったに過ぎない。

 そして総指揮官となった恭一郎は、これから多くの命を奪うことになる。それは、これからの戦闘で犠牲となる、多くの将兵達の命だ。その命を散らせることになる恭一郎は、その罪で地獄に落ちることも厭わない覚悟で戦いに臨んでいる。

 この世界を歪ませた全ての原因であるオメガは、すでに消滅している。にもかかわらず、オメガの残した悪意の炎だけは、未だに不気味な燻りを続けている。この悪意の炎が存在している限り、この世界に安寧は訪れることはない。この悪意の炎を消し去ることでしか、この世界は永遠に救われず、いては恭一郎の幸せな未来にも繋がらない。

 そんな極めて小さな個人的な幸福の追求のために、これから支払うことになる犠牲は、あまりにも釣り合わない大きさだ。次の世代のためだと綺麗なお題目を奉ろうとも、英雄の英断だと誉めそやされようとも、恭一郎の名前は多くの人命を死地へと向かわせた人物として、この世界の歴史に刻み付けられることになる。

 これまで、一人でも人死にが出ることを忌避してきた恭一郎にとって、自らのわがままで人死にを出す戦いを起こすことは、正気を保てなくなるほどの痛みを、己の心身に刻み付けることと同義である。ならばせめて、人々からの英雄としての期待に応えるべく、全ての責任を被ることに決めていた。

 その覚悟と姿勢が、さらに恭一郎の英雄としての株を上げたことは、本人にとっては皮肉なことでしかない。




     ◇◆◇◆




 連合艦隊はダンデライオン近傍宙域を進発して、艦隊ごとに所定の艦列を組みながら、オメガ残党軍に自らの存在を誇示するように、堂々とした布陣で衛星ナディアへと進撃を開始した。

 間もなく惑星ナディアの全域から、夥しい数のバグが湧き出してきた。その数は天井知らずのように増え続け、ナディアの姿が霞んで見えなくなっても増え続けた。目視可能な範囲で、推定一〇億から一二億の敵がいる。敵の陰になっている個体とナディアの裏側に隠れている敵の数を加えると、最低でもこの数の倍以上となるだろう。こちらの想定を上回る数となっているだろうことは事前に想定済みなため、連合艦隊に大きな衝撃はない。

 ナディアから溢れ出したバグの群は、巨大な一つのうねりとなって、連合艦隊を迎え撃ちに動いた。両者の接触は、四八時間後。惑星オディリアと衛星ナディアのほぼ中間宙域と予測された。そこで各艦隊から艦隊司令官と機動部隊の指揮官、メサイア操者をケーニギンに集め、戦闘開始直前の最終作戦会議を行うことになった。

 ケーニギンの艦後方にある格納庫の扉が全開にされ、先に到着した一〇機のメサイアが、すし詰め状態で格納されることになる。各艦隊からの連絡用舟艇は、艦橋に近いエア・ロックに横付けにされる。




 科学と魔法で人工重力を実装したケーニギンに降り立ったメサイアの操者達は、噂に聞いた人工重力の自然さに驚きを禁じ得なかった。オディリアの有する人工重力環境は、ダンデライオン基地に導入された遠心力方式だけだ。基地の両端に設けられた回転する筒の中で、遠心力を用いて内壁に立てるようになっている。回転する筒の中心からリフトで降りねばならず、無重力環境から扉一枚を隔てて重力環境に移行できる手軽さはないからだ。

 最も早くケーニギンに到着したのは、ドートレスとエヴァンジェリンとペインの三名だった。彼等はベテランや適性の高い実力者で、メサイア部隊の中核を担う人物ばかりだ。部隊指揮の巧者であるドートレス、オディリアの最高戦力と噂される女帝エヴァンジェリン、その最高戦力の対抗馬と目される大酒飲みのペインだ。

「ずるいですな。自分達だけ、こんな快適な環境で過ごしているなんて」

 出迎えにエア・ロックの前で待機していた恭一郎へ、開口一番に文句を言い放ったのは、ドートレスだった。それでもヘルメットを小脇に抱え、完璧な敬礼を総指揮官へ送る姿は、ある意味さすがである。

「ようこそ、万能航宙艦ケーニギンへ。よろしかったら、人工重力装置をお譲りしましょうか? 色んな意味で破産してもよろしければ、ですが」

 ドートレスの言葉に応じた恭一郎が、艦内服で敬礼に応じる。先日の式典で着ていたような堅苦しい装いではなく、脱ぎ着の容易な繋ぎの服だ。一応トイフェルラントの国旗と八咫烏のエンブレムも付いているので、近衛軍の軍装の一種となっている。

 後ろに控えているハナ達姉妹も、同じ繋ぎの艦内服を身に纏っている。こちらにも国旗とエンブレムが付けられており、パーソナルカラーのラインが追加されていた。

「養育費が払えなくなるのは困るので、装置の購入は諦めます。それよりも、こちらがエヴァンジェリン上級特佐。その隣がペイン特佐です」

 恭一郎と面識のあるドートレスが、同僚の自己紹介の切っ掛けを作った。恭一郎は改めて、エヴァンジェリンとペインに向き合う。

「お初にお目に掛かります、恭一郎殿。私がエヴァンジェリンです。愛機オラキュリアにて参集致しました。共に戦場を駆けることができること、大変光栄に思っております」

 言葉使いは少々堅苦しいのだが、どうにも立ち居振る舞いが尊大で慇懃無礼な女性が、女帝と謳われる実力を持つエヴァンジェリンだ。ドートレスと同じく過去に幾つもの地獄を潜り抜けてきた経験を持ち、オディリアで最もオメガの近くまで迫れたのがエヴァンジェリンだ。

 愛機オラキュリアは、オディリアでは大変希少なフロートタイプの深紅の高機動型機だ。装弾数よりも一撃の威力を重視した武装を好み、リニアライフルとパイルバンカーを腕に装備し、自律型ミサイルの詰まった特殊弾倉を射出するコンテナミサイルを左右の肩に一基ずつ、左右の背中に二基ずつの計六基を搭載している。

 優雅に敬礼をするエヴァンジェリンに続き、ペインが恭一郎に挨拶をする。

素面しらふのままで、失礼します。オディリア一の大酒のみこと、ペインであります。軍医に酒とタバコと食べ過ぎを禁じられている、不健康の塊であります」

 いわゆる高度肥満と分類される見事なポヨポヨボディーを揺らしながら、ペインが重たそうな腕で敬礼をする。秘孔を突いたらヒデブウしそうなペインは、秘孔を突くまでもなくヒデブウしそうな不健康体のオヤジだった。不健康極まる生活習慣が祟って全身がボロボロで、全身の鈍痛を忘れるために酒を飲んで状態を悪化させているという残念極まる人物だ。

 愛機アナスタシアは、オディリアでは大変不人気なタンクタイプのダークブラウンの重装甲型機だ。一撃の威力よりも装弾数を重視した武装を好み、ガトリングガンを左右の腕に装備し、多連装ロケットコンテナを左右の肩に一基ずつ、ガトリングキャノンを左右の背に搭載している。

 オラキュリアと対極をなすアナスタシアは、操者であるエヴァンジェリンとペインの実力が拮抗していることもあり、同じ物差しでは測れない強さを持っている。階級の差は単に、健康不安のあるペインがエヴァンジェリンよりも出撃回数が少ないことに起因する、戦功の数の違いでしかない。

「初めまして、烏丸恭一郎です。エヴァンジェリンさんとペインさんの乗艦を、トイフェルラント近衛軍を代表して歓迎いたします」

 恭一郎も返礼を行い、共に戦場に立つことになった操者達を歓迎した。




 ドートレス達の到着からしばらくして、新兵操者がケーニギンに到着した。レイア、マイア、セレイア、ネレイアの四名である。

「報告します。レイア特尉、マイア特尉、セレイア特尉、ネレイア特尉、以上四名。乗機のメサイアと共に出頭いたしました」

 緊張気味に整列する四名を代表して、レイアが出迎えの恭一郎へと挨拶を行なった。全員がまだ幼さの残る少女ばかりで、遥か上の立場にいる人物に対して、どのように接して良いのかという不安が、雰囲気にまで滲み出ている。

「よく来てくれた、レイア君、マイア君、セレイア君、ネレイア君。そんなに緊張することはない。トイフェルラント近衛軍は、全員が家族として最低限の礼節を守ってさえいれば、基本的に対等な立場で活動する特異な組織だ。ケーニギンの艦内にいる間は、友人の家に遊びに来ているとでも思っていれば十分だ」

「はい。ありがとうございます、恭一郎様」

 一応緊張は少し解れたようだが、新兵四人娘の敬礼する姿は一様に硬いままだ。他国の軍艦の艦内で、最も偉い人物と会話をしているのだから、こればかりは仕方がないのかもしれない。もっと経験を積めば、もう少しラフな感じで接しても大丈夫だと理解できるようになってくれるだろう。

 このレイア達新兵は、全員が似たような雰囲気を持っていた。その原因は、あの生殖義務の裏条項にある。彼女達全員が、全員が異父か異母の姉妹関係にあるのだ。過去に死亡した操者や優れた能力を示した人物の遺伝子をその死後に掛け合わせ、人工子宮で生み出された、親の顔を知らない子供達だ。その中でメサイアへの適性を持っていたこの四名を統合軍の養育施設が引き取り、メサイアの操者となるべく英才教育を施してきたのだ。

 同じ環境で実際の姉妹と同様に育ってきたため、それぞれの個性は別にしても、それぞれの行動様式などは共通する点が多い。当人達も自分達の出自の特殊性を認識しているので、強い絆で結ばれた本物の家族のように振舞っている。

 四姉妹の相関関係は、マイアを除いた三名が、同じ父親の遺伝子から生み出されている。そのマイアとレイアは母親の遺伝子が同じで、セレイアとネレイアは別々の母親の遺伝子から生み出されている。二つの種と三つの腹の遺伝子から誕生した、これまでのオディリアではたまに見られる姉妹関係だ。

 姉妹達の愛機は、武装以外が全く同じフォーレッグタイプの砲撃戦型機だ。四機が連携して有機的に立ち位置を変えることによって、武装が完全に砲撃戦仕様でありながら、近接格闘距離でも戦えるようになっている。

 レイアの搭乗するユニコーンは、腕にグレネードランチャー、肩にバンカーバスターミサイル、背にスナイパーキャノンを装備している。

 マイアの搭乗するペガソスは、腕にロングレンジライフル、肩にロケットランチャー、背にレールキャノンを装備している。

 セレイアの搭乗するケルピーは、腕にロングレーザーライフル、肩にマーキングミサイル、背にレーザーハープーン・ランチャーを装備している。

 ネレイアの搭乗するスレイプニルは、腕にサーカス・ソード、肩にサーカス・シールド、背にサーカス・ビットを装備している。

 この四機の装備は、オールド・レギオンの武装データを参考にしてオディリア統合軍が作り上げた、最新の試作兵器である。たった四機の小型機で、惜しくもウルカに惜敗した武装の有用性が高く評価されていたため、こうしてメサイア用となって戦場に帰ってきたのだ。特にサーカスと名付けられている武装のシリーズは、恭一郎が魔導具で挑戦するも失敗に終わった、自律遠隔型の装備だ。スマートの対極にあるバ火力機に搭乗している恭一郎にとっては、かなり食指の反応するモノである。

 四機のカラーリングもハナ達アンドロイド姉妹を参考に、ホワイトの機体に差し色のラインが入っていて、レイアのユニコーンがパステルブルー、マイアのペガソスがパステルグリーン、セレイアのケルピーがパステルイエロー、ネレイアのスレイプニルがパステルピンクとなっている。

 どれも四姉妹が新兵として初陣を飾るべく、オディリア統合軍から与えられた最新型メサイアだ。来たるべき戦場では、その秘められた力を大いに発揮してもらいたいものである。

「作戦会議まで時間があるから、操者専用の部屋で少し休んでいると良い」

 緊張気味の四姉妹をリラックスさせようと、恭一郎はお菓子を用意しておいた控室へと案内した。




 四姉妹達の後に到着したのは、シン、カレン、カリムのルー兄妹弟だった。彼等はこの一年近く、宇宙で活動を続けていた。兄のシンは新兵の訓練で、多くの兵士達に技術指導を行っている。カレンとカリムはダンデライオン基地建設の直援部隊として、何度も敵部隊を撃退した実績を残している。カレンとカリムの二人はこの功績により、上級特尉へと昇進を果たしていた。

「噂以上に良い艦ですね。戦闘艦にしておくのは、もったいないです」

「兄様。ケーニギンを、そこらの戦艦と一緒にしないでください」

「ケーニギンはトイフェルラント近衛軍の旗艦であり、宇宙空間から水中まで活動が可能な万能航宙艦です」

 この兄妹弟はあいも変わらず、メサイア操者としての腕は兄がまだまだ上なのだが、家庭内ヒエラルヒーは双子の姉弟の方が高いままだ。階級に差が有ろうが無かろうが、仲良しなことには変わりがない。たぶん。

「一応の正式名称は、トイフェルラント近衛軍総旗艦ツァオバーラント級超戦艦コア・シップ型万能航宙艦ケーニギン。です。長期間の宇宙滞在を想定した、惑星間航行能力を持たせてあります。ツァオバーラントに至っては、恒星間航行能力を理論上では備えています」

 ケーニギンの建造目的は、オメガ残党軍殲滅のためだけではない。惑星オディリアのみならず、ソンネファルナ恒星系全体の開発のためだ。オメガ残党との決着後、戦うべき敵の消失したオディリア共和国に対して、持て余している力を宇宙開発へ向けさせることが目的だ。まかり間違って侵略などされては、堪ったモノではない。

 人間の身体は長期間の無重力状態で過ごすことで、筋肉と骨が衰えてしまう。これは絶えず重力が人体への負荷となって、筋肉を適度に動かし、骨の細胞の破壊と再生のサイクルを安定させているためだ。専門家の予想によると、低重力の環境で人間が世代を重ねて進化すると、頭と目が大きく細い手足を持った、グレイと呼ばれるタイプの宇宙人のような姿になるらしい。

 それ以前に、重力環境下で生まれた生物にとって、やはり無重力環境は居心地の悪い世界なのだ。何より、宇宙酔いには慣れが必要で、訓練を受けた宇宙飛行士も難儀する宇宙空間の洗礼だ。

 耐性のあった恭一郎やチートなリオはともかく、普通の人間には宇宙空間での環境適応期間が必要になる。その間も筋力と骨密度維持のため、負荷を掛けた運動をする必要がある。グロッキー状態での運動は、想像もしたくない辛さだ。

 それならいっそのこと、生活空間をそのまま艦内に再現してしまえ。というのが、人工重力を導入した理由だ。健康の維持できる環境を確保することで、惑星や衛星の長期開発に必要な住環境を整えることが可能となる。

 ケーニギンやツァオバーラントの開発には、恭一郎にとってもう一つの目的があった。それは誰にも伝えていないが、自分達家族の将来のためである。

 人間である恭一郎は定命であるが、エルフの因子を受け継いだリオの寿命は、少なくとも数百年以上はあると恭一郎は予想している。その容姿もイメージ通りなら、不老である可能性が高い。その子孫であれば、高確率で不老長命となるだろう。

 そんな異質な存在は、世の常で排斥される傾向にある。いくら不老長命であっても、害する方法は必ず存在する。この超戦艦建造計画には、恭一郎のいなくなった後の家族のために、緊急時の避難脱出用としての役割を期待している。

 不老長命であれば、通常航行での移動でも、寿命が尽きる前に移住先を見付ける可能性があるからだ。あまり考えたくはないが、想定しておくに越したことはない。

 表向きは一般人でも宇宙旅行ができるようにする計画のため、ということにしてあるので、今までこの想定に気が付いた者はいないはずだ。魔法で繋がる察しの良いリオだけは、薄々気付いているかもしれないが、何も言及しないということは、まあそういうことなのだろう。

 思考の脱線した恭一郎は、ルー兄妹弟を歓待した。今の恭一郎には、やるべき別の仕事が山積みなのだ。




 第一から第五艦隊の艦隊司令と機動部隊の指揮官も続々とケーニギンに集まり、会議室で最終作戦会議が行われた。とはいえ、会議ですることといえば、事前の協議で練られた作戦行動についての最終確認である。いよいよ迫ったオメガとの最後の戦いの前に、士気の統一を行なったに過ぎない。

 むしろメインは、会議後に供される軽食の方だろう。この場に集まった将兵達は、一応に高級な階級の者ばかりだ。そんな彼等でも、やはり軍の食事は美味しくない。基地には高級士官用の食堂も存在するが、味に関してはどこで食べてもドングリの背比べらしい。

 それがケーニギンではおいしい食べ物が、地上と同じように食べられるのだから、軽食であってもご馳走である。控室に用意されたお菓子で食欲を刺激されていた彼等に、振る舞われた軽食に手を付けないという選択肢は存在しなかった。

 このような食事がまた口に入れられるように、例え俗っぽい理由であったとしても、一人でも多くの味方を生還させる原動力になればと、恭一郎は切に願うのだった。

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