【四年目の終わりに】
――トイフェルラント生活一三〇〇日目。
結婚と婚約のバーゲンセールから始まった一連のドタバタ劇は、無事に結婚式当日を迎えるに至った。
ミナとリナに任せきりだった新郎新婦の準備は、リナのティファニア看護のための戦線離脱というハプニングもあったが、リオを始めとした多くの人々の協力で、難局を乗り越えることができた。
この日のトイフェルラントの天候は、結婚式に花を添えるような晴天だった。先日のリオの即位式もそうであったが、トイフェルラントでの祝い事に、天候が晴天であることが多い。きっと、誰かの日頃の行いが良いのだろう。恭一郎としては、ローザやレナードあたりではないかと感じている。
それはさておき、結婚式は午前中から始まり、昼食を以ってお開きとなる式次第となっている。式への参列は、結婚する当人達の家族と、その親しい友人。なぜか見届け人として、ティファニアとアスカまで参加していた。しかもティファニアに至っては、先の密着取材チームを再結成して、結婚式の撮影まで行っている。
合同とはいえ、結婚式はプライベートな催しだ。実際はエアステンブルクのほぼ全員が参加しているため、ある種のお祭り騒ぎの様相であるものの、それでも内輪の祝祭だ。内外の衆目に曝されることは、いかがなものだろうか。
それでも、オブライエンのような夜行性の住人や、外へ仕事に行っている住人達のために撮影をしていると言われてしまっては、恭一郎には強く抗議するための立脚点が揺らいでしまう。結局、新郎新婦の全員が許可してしまったので、恭一郎は彼等の意見を尊重することに決めた。
さて、彼等の合同結婚式に参列しているのは、恭一郎達の中からは、リオとミズキだけだ。といっても、ミズキは例の如く移動用端末のスマートフォンでの参加である。一応、恭一郎の代理として出席してくれている。
その恭一郎であるが、アンドロイド姉妹達に加え、今日もアントニーの協力を得て、大聖堂の外で料理の仕上げに取り掛かっている。結婚式の最後を締め括る、ここは最後の戦場なのだ。
大聖堂の敷地内の広場にテーブルとイスを設置して、テーブルクロスと装飾の花を置いておく。テーブルメイクは、セナが買って出てくれた。支援にハナを付けたので、二人でてきぱきと披露宴会場が設営されていく。その近くでは、気分を崩した者が出ても大丈夫なように、リナが救護所を作って待機してくれている。他のメンバーは、恭一郎の指揮で料理に当たっている。
すでに前菜の葉物野菜とトマトのサラダは人数分が仕上がり、鮮度が落ちないようにチルドボックスの中に収められている。コンソメスープは温め直され、時間の掛かる揚げ物が次々と完成している。その横ではうどんを茹でる大釜が煮え始め、汁も温められている。各種煮豆の入った茶碗蒸しモドキが蒸し上げられていて、ウェディングケーキ代わりのバウムクーヘンは、長いままのモノが一〇本用意されており、ケーキへの入刀が待たれている状態だ。そこに添えるアイスクリームも、フリーザーボックスの中に小分けにされている。
◇◆◇◆
合同結婚式の式次第通り、神前での結婚の報告の儀式は全て終了した。ここからが、恭一郎達の本当の闘いである。
特設の調理場に恭一郎とアントニーだけを残し、アンドロイド姉妹達は配膳に従事する。結婚式の参加者には事前に席の場所を伝えてあるため、誘導をする必要はない。
参列者達が席に着いたタイミングで、新郎新婦達が大聖堂の中から姿を現した。全員がとても晴れやかな表情をしており、その左手の薬指には、恭一郎謹製の結婚指輪が陽光を浴びて輝きを放っている。
新郎新婦達の装いは、煩雑な作業工程を省くために同じデザインで作り上げられていた。しかし、着る者によって追加の装飾が成されているため、差別化は十分にされている。唯一の共通点と言えば、全員が良く似合っていることだけだろう。
席に全員が着席した頃合いを見計らい、参列者全員の前に乾杯のためのグラスが置かれた。その中には赤ワインが入っていて、子供達にはコップに入っているブドウジュースが用意されている。
準備万端整った披露宴の会場で、リオが乾杯の挨拶を送る。
「それでは、ご列席の皆様。この良き日に、夫婦の誓いを立てられた新しい家族達の前途を祝して……乾杯!」
リオがグラスを目の前に掲げ、皆がそれに応じてから一気にグラスの中身を呷った。それを合図に、全員が飲み物を一気に飲み干した。続いて拍手が起こり、次々と祝福の言葉が飛び交い始める。そこへ前菜が配膳され、披露宴の会食がスタートした。
ちなみにリオが飲んだのは、ワインではない。リオは乾杯でワインを飲む気満々でいたのだが、今まで酒類をほとんど飲んだことのないというリオを説き伏せ、子供用のブドウジュースにしておいた。
一応リオには、この後の仕事に支障が出ないようにと言ってある。しかし実際は、未成年の子供に酒を飲ませられるか。という、恭一郎の常識的な判断によるものだった。
新鮮な野菜を使用した前菜が終わるタイミングで、一旦皿が下げられた。そして野菜のエキスが凝縮された、コンソメスープが配膳される。熱過ぎず温過ぎない、絶妙な温度での提供だ。少し低めの外気温が、スープの温かみを引き立ててくれる。
コンソメスープの次は、揚げ物だ。基本的に豆やトウモロコシと根菜で作られたかき揚は、塩と天つゆモドキで食べられた。油を大量に使用する料理は、トイフェルラントではまだまだ贅沢な料理だ。その食感もさることながら、濃厚な旨味が好評のようだ。
次に提供されたのは、茹でたてのうどんに関西風の汁を垂らしただけの釜揚げうどんだ。長く太く濃くお付き合いができるようにとの願いの込められたうどんは、十分に参列者達の心も満たしてくれたようだ。
最大の山場であるうどんの提供に成功した恭一郎達は、余熱でしっかりと中まで火の通った茶碗蒸しモドキを配膳した。赤や黄色に緑と色とりどりの煮豆を豆乳の中に入れ、出し汁と混ぜてから蒸気で蒸しておいたものだ。マメに生きるや魔を滅するなどの縁起物であるため、植物性たんぱく質をこれでもかと入れてある。
そして披露宴の最大の見せ場、ケーキ入刀が始まる。新郎新婦達の前には、それぞれ一本ずつのバウムクーヘンが用意された。その手前には切り分ける目安の書かれた長紙が備わっていて、一番最初のケーキ入刀と、切り分けたケーキにアイスクリームを乗せる作業を二人の共同作業とするように指示が掛かれている。二回目以降はケーキを切り分ける担当とアイスクリームを盛り付ける担当を分担して行うようになっている。
ここまで済んでしまえば、恭一郎達にするべき仕事はほとんどない。披露宴が終わった後に、自分達の食事を用意する位である。それまでは、人目の付かない場所で使い終わった食器の片付けをして時間を有効利用する。
新郎新婦に切り分けられたバウムクーヘンは、多くの参列者がその場で食べて昇天した。日頃味わえない糖分の暴力に、大人も子供も分け隔てなく極楽気分を味わうことになったからだ。
◇◆◇◆
宴も酣でお開きとなり、ティファニアの部下達がそれぞれの新郎新婦に記念撮影やらインタビューをしている裏で、恭一郎とアントニーはようやく食事となった。少数精鋭で戦い抜いた戦士達の昼餉の席には、当然の如くリオが同席していた。
今回披露宴で提供したコース料理とは、複数の料理を無理せず味わえるように、一皿の量が少なくなっている。今回は六品を出しているため、一人前を六等分にして順番に出しているのと同じなのだ。たったそれだけの量で、健啖家のリオが満足することなど有り得ない。披露宴の食事でウォーミングアップをしておいて、今から恭一郎と一緒に本格的な昼食を食べることになっていただけのことだ。
後ほど合流する撮影隊の分を確保しつつ、コース料理を一気に並べて味わい尽くす。肉や魚などの動物性たんぱく質はほとんど使われていなかったため、恭一郎としては少々物足りない。しかし、味はそのことを考慮してかなり気を使っておいたため、満足ゆく味になっている。
今回の料理を通して、アントニーの技量の上昇が確認できたことも、恭一郎にとっては大きな収穫だった。このまま彼が修行を続ければ、数年で恭一郎を上回る料理を作れるようになるだろう。さすがに主夫レベルでは、プロの料理人には敵わない。
オディリアの飯マズを根絶する大きな希望が誕生したことに、恭一郎は静かにアイスクリームを乗せたバウムクーヘンを口にする。
「……美味い」
リオから、非難するような視線が送られてきた。美味しいモノに、罪はないはずだ。たぶん。
――トイフェルラント生活一三四〇日目。
寒さの厳しくなってきたトイフェルラントで、多くの亜人達が冬籠りモードに入っていた頃。リオは例年になく、冬季の活動能力を高い状態で保っていた。恐らくマインと融合したことで、冬眠反応が抑制されているのではないかと思われている。
そんなリオは雪の舞う中をノイエ・トイフェリンへ向けて、元気にお空の通勤をしている。冬籠りが明けるまでに、行政施設をもっと充実させるためだ。
一方の恭一郎は、秘密ドックで縮退炉の最終調整に参加していた。現在開発しているのは、試作の実験炉である。計画当初の予定から、状況の変化に合わせて一部に変更が加えられていたからだ。
戦艦の艦体や艤装は順調に進められているが、やはり最大のネックが新型主機である縮退炉だった。そのあまりにも挑戦的な仕様に、どうしても実際の運用データが必要になっていた。
そこで、戦艦の中枢部分を独立した艦として作り変え、その艦と戦艦本体が接続するコア・シップ/バトル・モジュール方式に切り替えられた。
コア・シップたる艦の中枢部は、それ単体で超弩級の万能航宙艦として、宇宙と地上の往還が可能になっている。この艦に試作の縮退炉を搭載して、実際の稼働状態のデータを手に入れるのだ。
また、推力として重水式のパルスロケットとは別に、縮退炉の魔力縮退方式を応用した魔力融合ロケットを搭載することで、トランス・ブースターのような打ち上げ用の外部取り付け推進装置を必要としない推力を得られるようになった。
コア・シップはあくまでも技術の確立が目的であり、戦艦の艦首に搭載予定の大口径砲は実装されていない。その代り、試作のシリンダー式汎用武装モジュールを複数搭載してあり、シリンダーモジュールを回転させることで、内部に格納されている複数の武装を選択して切り替えることができるようになっている。また、武装を格納状態にすることで、突撃防御形態へと移行することが可能となっている。
これらの武装は艦の喫水線の上に集中しており、艦底部は多少の損傷でも大気圏に再突入可能なほどの強靭な造りとなっている。
間もなく完成するコア・シップは、近日中に実戦でのテストを予定している。ここ最近のオディリア近傍の宇宙空間では、オメガ残党軍との小競り合いが頻発していた。恭一郎はオディリア政府から依頼される形で、統合軍の支援に向かうことになっている。
トイフェルラントから輸出できるモノが少ない現状では、この傭兵のような派兵が重要な外貨の獲得に繋がっている。また、結果的にオディリアの切り札であるメサイアの操者二名を欠員にした分の、穴埋めという意味も含まれている。
――トイフェルラント生活一三五〇日目。
秘密ドックからホワイトインレット地中港の海中に作られた擬装扉を通って、マイン・トイフェル空港へと飛行してお目見えを果たした濃い蒼鼠色のコア・シップは、全長が四〇〇メートル、最大幅六〇メートル、水上艦のフォルムを踏襲した木の葉のような流線型の艦体をしている。
武装は艦の前方部分に集中しており、大型シリンダー一基、中型シリンダー四基、小型シリンダー二四基が、左右対称となるように設けられている。
シリンダーには最大四種類の武装が搭載でき、縦五〇メートル、横三〇メートルの円筒形の大型シリンダーには、プラズマキャノン、レーザーキャノン、レールキャノンを搭載している。残り一種類用のシリンダーには、何も搭載されていない。大型シリンダーは、艦首に最も近い艦の中心線上に配置されている。
大型の半分の大きさとなる中型シリンダーには、そのサイズに合わせた同系統の武装が搭載されており、こちらのシリンダーにはミサイルランチャーが追加されている。大型シリンダーの後方左右両舷に、小型シリンダーを間に挟むようにして少し離れて配置されている。
中型のさらに半分の大きさとなる小型シリンダーには、近接防御用の武装が搭載されている。プラズマブラスター、レーザーバルカン、ガトリングガン、自律型迎撃ミサイルの四種類である。一二基ずつが中型シリンダーの合間に設置されている。
艦の後方には、艦橋と格納庫、主機と推進装置がある。
艦橋は戦闘時に艦内へと格納される構造となっていて、その下部には乗員の居住空間が確保されている。基礎構造は鹵獲したドルヒ級のモノを参考にしているが、生活空間は軍艦のような無骨さは鳴りを潜め、自宅にいるような温もりを持つ広い間取りと内装に変更された。また、人工重力により宇宙空間でのストレスを大きく軽減している。
格納庫には、ヴァンガードサイズを最大四機、パラーデクライトクラスを最大八機まで搭載し、そのうちの九機を同時に運用することが可能となっている。格納庫内は人工重力の反転が可能なため、重力下でも無重力状態にすることが可能だ。
主機は試作の魔力縮退炉であり、補機にパワーパックを四基搭載している。各コンバーターも複数搭載しているため、理論上は無限にエネルギーを増幅して取り出せる仕組みとなっている。
推進装置は、艦尾中央のメインノズルが魔力融合ロケット、左右の上下のサブノズルにプラズマ・パルスロケットが搭載されている。艦体各部には姿勢制御用の小型ノズルがあり、こちらにはプラズマ・パルスロケットが採用されている。
このコア・シップは、女王を意味する『ケーニギン』と名付けられた。建造中のバトル・モジュール『ツァオベリン』と合体することで、超戦艦『ツァオバーラント』となる。ちなみにそれぞれの意味は、女魔法使いに魔法の国だ。
これらの言葉で察しが付くように、この艦名はリオの治める新生トイフェルラントの隠喩である。本来ならば『リオニー・ウンべカント』、『グロースリーベン』、『ケーニギン・トイフェルラント』となるはずであった。それぞれ、名無しの雌ライオン、大いなる愛、トイフェルラントの女王となる。しかし、リオからの猛抗議によって、現在の名前に妥協していた。
この万能航宙艦ケーニギンには、ヒュッケバイン改と三機のパラーデクライトが搭載されている。そして秘密裏に、ゲシュペンスト一機も次元潜航状態で格納されている。
マイナーチェンジの図られたヒュッケバイン改は、背部武装がより大型の複合型武装へと換装された。
グレネードキャノンのバシリスクは折り畳み式の砲身が見直され、短砲身化で軽量化した分、装弾数を倍増させている。さらに改良型バシリスクの弾倉部分には、大型のミサイルランチャーが一体となっており、弾倉の交換と同時にミサイルも補給できるようになっている。
量子エンジンやシームルグなどの武装も改修が加えられ、より確実性が増した性能となっている。
初めて実戦に投入されるパラーデクライトは、宇宙戦闘用の特殊戦闘攻撃機『ラオム・ファールト』を装備した『ラオム・アングリフ』となっている。
パラーデクライトはオールド・レギオンタイプから引き継いだ武装を強化改修して使用しているため、体高八メートルに満たない小型機ながら、オディリア統合軍のメサイアに迫る攻撃力を有している。
防御性能はヒュッケバイン改で有用性が証明された物理と魔法による複合装甲を正式に採用しており、『ヘルテン』と正式に名付けられたこの複合装甲材によって、耐久力がオールド・レギオンタイプから大きく上昇している。
ラオム・アングリフ状態のパラーデクライトは、本体の一基とラオム・ファールトの三基からなる合計四基のパワーパックが稼働しているため、多重魔力障壁を展開して防御力をさらに高めることができるようになっている。
今回ケーニギンに搭載されている機体は、マナとリナとセナの機体だ。そのカラーリングは各自の勝負服に準拠しており、シルバーグレーにパーソナルカラーが差し色となっている。
マナは防衛戦闘が得意なため、ヘヴィーレッグにカスタマイズした機体を組み上げている。腕部にはスナイパーライフルを二基、肩部にはデコイチャフ、背部のラオム・ファールトにはヒートキャノンを二基と対艦ミサイルを二基搭載している。
リナは戦闘行為が苦手なため、ライトレッグのままの機体構成となっている。腕部にはマナ用の予備弾倉を仕込んだヘルテンシールドを二基、肩部には自律迎撃ミサイルランチャー、背部のラオム・ファールトにはKセントリーガンを二基とバシリスク用予備弾倉二基を搭載している。
最後のセナの機体は、ミドルレッグにカスタマイズされた予備機である。セナはヒュッケバイン改に乗ることで真価を発揮するため、セナ機は他の姉妹達のための予備機という前提で運用されている。
実際にセナが乗っても、十分に機体性能を発揮できるように調整が成されているが、ヒュッケバイン改と比べては大きく見劣りする。そのため、恭一郎の愛用していたミッテを参考とした、腕部にキネティックライフルを二基、肩部に補助アームを装備してソニックブレードを二基、背部のラオム・ファールトにはKモーターカノンを二基とプラズマミサイルランチャーを二基搭載している。
次元潜航しているゲシュペンストには、ヘルテン装甲に加え量子エンジンが実装されている。基本骨格は改型の構造を流用し、デヴァステーターのオメガ・コネクターを廃して、アルファ・コネクター方式を採用した。また、胴体には多重魔力障壁が搭載されており、次元潜航中を除いて、防御力の底上げが成されている。
搭載されている量子エンジンは試作縮退炉に紐付されており、想定通りの出力を得ることができている。その証拠に、次元潜航は上手く機能してくれている。
ゲシュペンストはデヴァステーターのような悪鬼を想起させるフォルムを否定して、もっと丸みを帯びたシルエットの優しいコンセプトに再設計されている。黒いカラーリングこそ継承しているが、防御重視のミドルレッグの印象は、特殊部隊の専用機らしい力強さを持っている。
武装は基本的に、エネルギー消費の少ない方式となっている。エネルギーカートリッジ式のバスターライフルを二基、ソニックグレイブを二基、ガトリングライフルを二基、腕部及び肩部と背部に補助アームで搭載している。この装備によって、次元潜航中でも通常空間へ攻撃がし易くなっている。
出撃準備の整ったケーニギンには、恭一郎以下、マナ、リナ、セナ。非戦闘員として、ヒナが乗艦している。今回はリオ達はトイフェルラントに居残りとなっている。その代り、チームゲシュペンストのマクシミリアンとゼルドナが参戦してくれている。
マクシミリアンはゲシュペンストにテストパイロットとして搭乗しており、ゼルドナが恭一郎不在時のケーニギンの指揮を執る。ヒナはゼルドナの戦闘時のサポートを中心に、食事を始めとする家事全般を担当している。
たった七名だけの派兵であるが、投入される純粋な戦力としては、近衛軍基地の総戦力の七割を超えている。事実上の総戦力だ。
秘密ドックのツァオベリンが進水すれば、今回の戦力比率が大幅に改善されるのだが、オメガ残党の動きが活性化しつつある現状では、オディリア統合軍に味方して、敵戦力の漸減に動かなくてはならない。
惑星オディリア史上初となる完全浮遊する艦であるケーニギンは、リオや遥歌達に見送られながら静かに発進した。トイフェルラントから十分に離れた海上まで移動してから、推力と高度を上げる。本来ならば物凄い加速で強烈なGに襲われるところだが、人工重力による慣性制御によって質量移動のエネルギーが相殺されているため、新幹線のような高速鉄道に乗って旅をしているのと同じ感覚で宇宙へと向かうことができた。
◇◆◇◆
オディリア統合軍が順調に建設を進める宇宙基地の宙域まで進出したケーニギンは、友軍となる統合軍の艦隊と合流を果たした。そしてトイフェルラント・オディリア混成艦隊は、オディリアとナディアの中間宙域を目指して進撃を開始した。
翌日にはオメガ残党軍の迎撃部隊が出現し、その翌日に戦端が開かれた。
戦闘は一方的なモノとなった。混成艦隊による一斉砲撃によって、敵の大部分が消滅。機動部隊による戦闘で、敵は呆気なく壊滅した。デヴァステーターによる奇襲も起こらず、混成艦隊による蹂躙戦となった。
この際の戦闘で恭一郎達は、かなり手加減をして戦った。オディリア側にはそのように映らなかったようだが、想定を下回る弾薬の消費量で戦闘が終了してしまっていた。
あまりにも歯応えのない敵の行動に、恭一郎は何か良からぬ気配を感じて仕方がなかった。
そしてこのような戦闘が数回繰り返され、いつしか五度目の春が、トイフェルラントに訪れようとしていた。




