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【全てを壊すための力】

 夕食の後、リオと遥歌が就寝までの時間を自由に過ごしていた頃、恭一郎は司令室の会議卓に着いていた。その席にはミズキとミナに加え、マクシミリアンとゼルドナの二人の姿もある。

 これから話し合われるのは、オメガ製のCA。オディリア統合軍にアビスというコードネームで呼ばれている、デヴァステーターに関することだ。




 ミズキが制作した平面図がモニターに表示され、その特異な構造に目を奪われる。オディリアとトイフェルラントでCAの運用思想が大きく異なるように、オメガも独自の運用思想を持っていた。

 デヴァステーターの外見的特徴は、シルエットの不吉さを別とするならば、CAの範疇に収まるモノだ。共通規格のコネクターで各部位が接続されていて、必要に応じてパーツが簡便に交換することができるのも同じ。

 だが、ヒュッケバイン改と蒼凰のような互換性のあるアルファ・コネクターは搭載されておらず、もっと有機的で生物の構造に近いモノとなっていた。便宜上、この規格をオメガ・コネクターと呼称することになっている。

 このオメガ・コネクターは、それぞれ独立したモジュールを連動して扱うアルファ・コネクターとは違い、独立したモジュールを一本化させて扱うものだった。もっと分かり易く言うと、分散制御する機械と脳で一括して動かす生物の違いである。

 通常のCAの場合、パイロットの指示が操縦桿などのインターフェイスを使って機体の制御中枢へと送られ、規定の動きをするように命令する制御信号が、機体の各部の関節を始めとする制御パーツへ送られることになる。それによって、各所のパーツが連動して機体が動く。

 対するデヴァステーターは、機体の全てを制御中枢で集中的に処理していた。関節を動かすためのパーツごとに、アルファ・コネクターと違って独自の制御機構が組み込まれていないため、同じ外見でも強度や製造コストが非常に優れている。その分、制御中枢という弱点を護るために、胴体の構造がヒュッケバイン改に匹敵する性能を持っていた。また、機体の反応速度がアルファ・コネクター規格機と比較して、少なくとも三割ほど早い。制御中枢からの情報を機体各所で再処理している工程を、完全に省いているためだと考えられる。

 艤装ぎそうされている装甲材は、原材料こそ一部不明な点が残っているが、その構造的特徴から無重力環境下で製造された、チタン系の宇宙合金(ゼロGメタル)であることが解った。宇宙の重力がほとんどない状態で製造された合金は、混ぜ合わせた物質同士の構造が均一に混合した状態を保てるため、重力下で製造したモノよりも高品質となって硬度が向上する。また、溶解している金属は液化して球形となって浮遊するため、溶解炉などからの不純物が混ざらない状態で製造できる。

 この宇宙合金が採用されたデヴァステーターは、ゲージ・アブゾーバーを展開中の平均的なメサイアと同等の防御性能を、特殊な防御システムを持ち要らずに有していた。

 デヴァステーターに搭載されていた主機は、そのほとんどがブラックボックスと化していて、どんなに調査しても正確な答えが出なかった。それでも判明したことが幾つかあり、燃料となるべきモノが、量子エンジンとは違う方式で供給され続けていることだ。どうやら、重力制御技術を応用したエネルギー発生機関であるらしい。その出力が量子エンジンと同程度まで出せる。という曖昧なモノだった。

 恭一郎達が予測した通りの高出力を誇る主機を搭載していたため、ドルヒ級宇宙戦艦を一撃で轟沈させることの可能なビーム攻撃が行なえた。だが、次元潜航中に大出力の武装は使用できないようで、エネルギー消費のほとんど必要ない実体剣を装備していた。

 デヴァステーター最大の特徴である次元潜航能力は、このブラックボックスからのエネルギーと空間歪曲の技術で、次元境界面の裏側に身を隠しているような状態となっている。

 イメージとしては、次元を一枚の大きな布と見立て、その一部を押し込んでたわみを作る。そこに機体を潜らせてから、周囲の布を巾着きんちゃくの口のように小さく閉じるのだ。

 こうすることで、次元潜航中は光学的に限りなく観測できなくなる。デヴァステーターの潜んでいる空間の開口部は非常に小さいため、レーダーを始めとしたセンサー類での観測は非常に困難だ。

 だからといって、どこにでも潜んでいられるわけではない。次元潜航には空間と質量に限界があり、水中では機体周囲の質量が空間内に収まらなくなってしまうため、使用ができない。似たような理由で、ある程度の雨量までなら大丈夫だが、台風や砂嵐のような視界に影響が出る状況では使えない。

 また、質量はこちらの次元に残ったままなので、リオの魔法のように空間における重さを観測することで、その存在を知ることができた。

 結論として、オメガによって生み出されたデヴァステーターは、オディリアのメサイアを破壊するために生み出された存在のようだ。色々と規格外であったヒュッケバイン改でしか対応できなかった事実も、これで納得がいくというモノだ。




 一通り、ミズキからデヴァステーターの情報を聞いた一同は、思案のために沈黙した。しばらくして最初に口を開いたのは、ゼルドナだった。

「恭一郎殿に撃墜された俺の機体を含めても、デヴァステーターの配備数は多くはないと思う。記憶にあるだけだと、ヴェルヌの格納庫で見た一〇機程度だ」

 ゼルドナの記憶によると、出撃のために送り込まれた格納庫で、自分用に調整されていた機体の他にも、複数の機体を目撃していたそうだ。マクシミリアンも同様の報告をしてきたので、少なくともその時点では、実戦投入可能な機体が複数あったようだ。

「今までの話しから総合すると、デヴァステーターの実践配備は、ここ最近のことのようですね」

 ミナがこれまでに得た情報から、早くとも一年前程度には機体が開発されていて、それを動かすためのパイロットをオメガがマインに命じて蘇らせていたモノと考えられた。恐らくだが、永らく見下していた人間達にオディリアから追われたことで、オメガは報復のためにデヴァステーターの開発に着手していたのだろう。

 やがてデヴァステーター部隊が稼働状態へ移行したタイミングで、オメガはマインをオディリアへと密かに送り込み、人間達への報復を開始するための拠点としようと行動を開始したのだろう。

 しかし、恭一郎達に手を出してしまったことで、オメガは自身の専用機と共に消滅してしまうことになった。

「しかしだな。いくらデヴァステーターが強力な機体だからと言って、たったあれだけの数で勝てるとは思えぬ」

 マクシミリアンが解せないと、顎を揉んで考え込んでいる。

 確かに、デヴァステーターは強力な機体だ。しかし、複数のメサイアを同時に敵に回して、必ず勝てるかというと、あまり保証ができない性能だ。

 先日の刺客のような殺人マネキン程ではないが、奇襲による不意打ち戦法でなければ、複数のメサイアを手玉に取ることはできない。それに加えて、オディリアにはある程度までの物量戦を仕掛けるだけの戦力がある。犠牲を恐れず物量で押し込まれれば、デヴァステーターとて勝てるモノではない。

 本気でデヴァステーターを主力として投入するつもりならば、ゼルドナ達が目撃した機体は、先行量産型である可能性も低くない。現在もヴェルヌ渓谷で製造ラインが稼働している可能性があるからだ。

『この機体を調べていると、どうにも生物の解体を行なっているような気分になってしまいました』

 ミズキの気持ちは、恭一郎にも分かる。

 デヴァステーターの制御系は、人間のような動物のそれと非常によく似ている。脳からの送られてきた微弱な電気信号によって、動物は体組織を動かしている。人間は手の小指一本を動かすだけでも、肘の辺りまで稼働する部分がある。機械の場合、人体の構造を再現した物でない場合、そこまでのパーツを同時に動かすのは非効率だ。

 機体を集中制御するデヴァステーターの中枢部は、その構造もかなり生物的である。ミズキの人工知能のように、高度で複雑なニューラルネットワーク構造をしているのだ。機械的な構造のミズキとは違い、デヴァステーターの物はより人間の脳に近い。

 このような構造のため、デヴァステーターは分解調査ではなく、司法解剖のような雰囲気だったようだ。

「エンジン関係は謎の部分が多いが、収穫は十分にあったな。装甲用の新素材の開発にも参考になったし、何より次元潜航への対抗手段が判明した。これで、不意の奇襲にも備えることができる」

 デヴァステーターから得られた情報の数々に、恭一郎は満足していた。

 ヒュッケバイン改に搭載されている装甲の強化プランにも、宇宙合金を取り入れることで性能の向上が見込まれる。オディリアの医療用ナノマシンの技術を得ることができたなら、極小の魔導具を封入した宇宙合金から、トイフェルラント式の超高感応骨格素材が生み出せるかもしれない。

 次元潜航技術も、種が分かってしまえば対処は楽になる。光学センサーと質量による空間の傾斜を捉える高性能観測装置を開発することで、不意打ちを受ける確率が一気に減る。潜水艦にとってソナーが天敵であるように、デヴァステーターにとって天敵となるソナーを開発するのだ。

『オメガ製の主機がどうにも不気味ですが、今後も調査を継続していきます。下手なブービートラップが、ブラックボックスの中に仕掛けられていなければいいのですが……』

「万が一の場合は、破壊してかまわない。しばらくの間、活動に制限が掛かることになってしまうが、その時は専用機の開発を進めれば良いだけのことだ」

 マクシミリアンの持ち込んだデヴァステーターには、秘密裏に外部と交信を行うような部品は組み込まれていないようだ。不審な電波や音波も観測されていない。だからと言って、用心しておくに越したことはない。何も起こらなければ、取り越し苦労だったと笑って頭を掻いてしまえばいい。

 その後も議論が行われ、デヴァステーターの報告は終了となった。




 ミナ直轄の隠密諜報工作員であるゼルドナとマクシミリアンは、それぞれが与えられた宿舎へと戻った。身内以外に見つかってはいけない二人のために、ガレージのコンテナ置き場の中に個室が用意されている。積み上げられたコンテナを改造して、その内部に簡易的な生活空間を設置したのだ。

 トイフェルラント版のワンルームマンションのようなコンテナが二基用意され、窓が無いことさえ我慢すれば、なかなかに快適な居住性を持っている。上下水道に電気まで巧妙に偽装されて備わっているため、部外者がガレージにいる場合でも我慢して生理現象に耐える必要はない。

 とはいえ、このまま二人をガレージの虫にするのは、恭一郎の本意ではない。いずれ頃合いを見計らって、エアステンブルクやノイエ・トイフェリンに家を用意しようと考えている。せっかく自由を手に入れた後世ごせなのだ。仲間となった二人にも、幸せな暮らしを約束してあげたい。




 ――トイフェルラント生活一二三五日目。




 この日、恭一郎がオディリア製の新たな温室の建設作業に従事していると、事件の一報が飛び込んできた。それは、オディリア統合軍と複数のデヴァステーターとの間で、大規模な戦闘が起きたというモノだった。

 場所は、オディリア統合軍が宇宙基地を建設している宙域だ。この宙域の外縁には、防衛網として相当数の観測用プローブが配置されていた。恭一郎から次元潜航に対抗する非効率的な手段を伝えられたシズマが、それを試験的に導入していたのだ。

 その観測用プローブが、不可視の質量の移動を観測した。それからは、見えない敵への壮絶な砲撃戦となった。多数のドルヒ級宇宙戦艦に加え、最新鋭のドッペル級宇宙戦艦が初めて実戦に投入された。このドッペル級はドルヒ級の強化発展型で、戦艦としての火力と装甲が重点的に底上げされている。翼面の大口径レーザー砲はそのままだが、艦体に多数のミサイル発射管を増設。艦首にはプラズマキャノンが搭載されたことによって、砲雷撃戦能力が向上されていた。

 この火力の強化には、先のヒュッケバイン改の搭載していた武装の影響が色濃く出ている。多数のミサイルによる面での制圧能力。プラズマキャノンによる範囲砲撃能力。どれも恭一郎達が実戦で有効性を証明した攻撃方法だ。

 これら多数の戦艦群により、質量の移動が観測されたエリア全体に対して、猛烈な砲撃が加えられたのである。照準すら適当な広域殲滅砲撃に曝されては、逃げ場などありはしない。

 次元潜航していたデヴァステーターが、次々とその姿を現した。そのうちの数機は、この砲撃によって撃破されている。

 姿を現した敵機に対して、機動部隊が戦闘を仕掛ける。ドッペル級と同時期に開発されたエルターン級宇宙母艦も投入され、ドルヒ級からも多数の宇宙用CAのインベーダーと宇宙用支援機が発進した。

 機動部隊は敵機の分断と足止めを兼ねた迎撃部隊と、敵機の撃墜を担う攻撃部隊に役割が分かれていた。これも、先日のヒュッケバイン改との模擬戦の結果を反映させたモノだ。圧倒的多数の数の暴力を武器に、敵機を確実に各個撃破して行く。

 この戦闘において、決して少なくはない犠牲を払いながらも、機動部隊は多くのデヴァステーターの撃墜に成功した。この機動部隊に参加していたカレンとカリムの双子も、先日の雪辱を晴らす金星を掴み取ったようだ。

 この戦闘では数機の敵が撤退したようだが、二桁の強敵を血祭りに上げることに成功したオディリア側の勝利に終わったという。

 ミヒャエルからヒナを経由して伝えられた報告は、以上だった。




 この戦闘において、ゼルドナ達が目撃していたデヴァステーターの数とほぼ同数の機体が、オディリア統合軍によって撃破されたことになる。

 戦勝を祝う名目で双子に通信を行い、戦闘の状況に探りを入れてみた。どうやら撃破されたデヴァステーターは、どれも爆散して調査のしようが無いほど破壊されているようだ。今のところ、デヴァステーターが有人機であることは、彼等には知られていないようだ。

 しかし、解せない点がある。建造中の宇宙基地の破壊を目的とした攻撃であったのだろうが、配備数で圧倒的に劣るデヴァステーターのみで攻撃を仕掛けた理由が思い付かないのだ。

 デヴァステーターの戦闘スタイルは、敵の不意を突く奇襲だ。陽動となる別働隊も同行せず、罠だらけの宙域に援護なしで突入させる意図が、まったく読めない。

 そのことに、背筋に薄ら寒いモノを感じる恭一郎だった。




     ◇◆◇◆




 その日の夜、恭一郎は就寝前に、秘密ドックを訪れた。

 空港の地下に秘密裏に建造されたここは、近衛軍基地のガレージとは比べられないほどに巨大な、かまぼこ状の地下空間となっていた。縦に一八〇〇メートル、横に五〇〇メートル、高さは最大五〇〇メートル。リオの魔法で強度が確保されているため、天井を支えるような柱や梁はない。超巨大な体育館のような造りだ。

 現在ここには、自分達専用の戦艦を建造するための機材が運び込まれ、素材となる資材が保管されている。同時進行しているゲシュペンストタイプも、この場所で製作されていた。

 ゲシュペンストタイプには、ヒュッケバイン改と同じ方式の最新型量子エンジンが搭載されることになっている。次元潜航に必要なエネルギー出力を得るためには、最新型のプラズマエンジンを搭載したパワーパックでは、複数搭載しなければならなくなるからだ。

 その一方で、近衛軍基地の主機からエネルギーを得る方式になったことで、別の問題が生じるようになった。それは、基地の主機への負担が増すことである。

 近衛軍基地は機能の拡張を繰り返したことで、余剰エネルギーの総量が低下してきている。まだ問題になる段階ではないが、複数の計画と同時使用となると、余裕があるとは言い難い状況になる。

 そこで、戦艦に搭載する主機から開発を始めている。その方式は、プラズマでも反物質でも量子でもない。魔力を使ったモノだ。

 少ない魔力で膨大なエネルギーを生み出す魔力融合反応を使用した、魔力を超高密度に圧縮する方式の縮退炉である。そこで得られたエネルギーを電力や魔力へと変換することで、補機や魔導具を稼働させる。そして補機や魔導具を稼働させて得た魔力を主機の縮退炉の燃料とするサイクルを取り入れた、永久機関となる超大型炉だ。

 戦艦に搭載予定となる艦首の大口径砲は、この縮退炉の出力を攻撃に用いる凶悪仕様だ。最大出力で発射した場合に生み出される理論上の破壊力は、惑星オディリアを照らす恒星ゾンネファルナを吹き飛ばすことも可能だ。

 実用性を無視したロマン兵器だが、何重にもプロテクトを掛けて実装するつもりだ。それは何故だと尋ねられたら、ロマンだからとしか言い返せない。

 そんなとんでもない性能の縮退炉は、その超高圧力に耐える内部構造の製作段階に入っている。疑似反重力装置の技術を応用して作り出した微小重力空間によって、リオに魔法で強化された超合金を製造している。

 恐ろしく手間が必要な素材だが、その耐久性能は恐ろしく高い。それに加え、ゲージ粒子技術や魔力障壁などで防御を高めるため、例え戦艦が撃沈されても、縮退炉だけは原形を留めていることになるだろう。

 縮退炉の内部では、炉内に注入された魔力が一点に集められ、超高圧超高密度の縮退状態となる。この縮退圧と縮退境界面を制御することで、魔力融合反応を持続的に引き起こすことになる。

 そこから得られた膨大なエネルギーは魔導具に回収され、その一部がE‐コンバーターに送られて電力へと変換される。その電力で戦艦のシステムを動かすのだ。この電力の一部が補機として搭載されるパワーパックを動かし、その電力の一部がM‐コンバーターで魔力へと変換される。その魔力は縮退炉へと送られるため、稼働のための基本エネルギーは減らない。

 将来的に重水を製造するためのプラントも併設されるため、完成した戦艦は、かなりの長期間を無補給で活動できるようになる。

 ともあれ、この縮退炉の稼働がゲシュペンストの完成に繋がるため、作業は昼夜を問わず行われていた。




 秘密ドックでの作業の進捗を目視で確認した恭一郎は、ガレージへと戻った。

 ガレージにおいても、別の作業が行われている。ちなみにガレージ脇のコンテナの中には、いつでも組み上げられる状態で、デヴァステーターのパーツが保管されている。

 現在はオールド・レギオンタイプを強化発展させた、アンドロイド姉妹達専用のパラーデクライトタイプの製造が行なわれている。

 パラーデクライトは、儀仗用に作られている見た目重視の小型CAだ。七機同時に製作されることになっているため、製造中の各モジュールは規格が統一されている。まずは、姉妹達の専用機に相応しい機体にするため、ライトレッグの軽量型が製作される。

 姉妹達の勝負服であるリオのドレスアーマーをシルエットに取り入れているため、兵器としての重厚感は鳴りを潜め、美しい曲線や優雅な膨らみなどを再現している。

 頭部モジュールには、人の顔のような装飾が追加されることになっている。叫びに合わせて口が稼働するようなギミックはないので、凛とした表情のままだ。

 胴体モジュールはその構造に大きく手が加えられ、女性的なフォルムへと近付けるため、前後の厚みが大幅に縮められている。その結果、ブースターはヴァンガードと同じ方式で背面に取り付けられている。内蔵する小型パワーパックも形状が見直され、コクピット機能を廃して直接制御に方式を切り替えたことで、省スペース化に成功している。

 胴体後部のコネクターは大型化され、基地に残っていたへヴィーウェポンを改修したモノを固定して装備することができるようになった。

 腕部モジュールはドレスアーマーのデザインに合わせ、装甲の大部分が薄くなっている。肩部先端のエクステンドには、装飾された追加装甲の盾が取り付けられるが、あくまでも見た目のためであって、盾としての効果は限定的だ。

 脚部に関しては、もはや従来のライトレッグとは別物になっている。ドレスアーマーのスカート部分を再現するために、前後左右のスカートアーマーが独立稼働する形で大型化されている。結果的に防御性能が向上して重量が増したため、ライトレッグの売りである機動性が低下してしまっている。脚部自体が重たくなってしまったことで、積載重量も大幅に低下してしまった。

 とはいえ、女性的な美しさを表現するための仕様なので、某究極ロボの愛娘仕様とは違った趣の、見た目の美しい機体となる。

 機体の性能は従来機と変わらないレベルに留まっているので、戦闘には一応耐えられる能力は担保している。

 だが、このままではヒュッケバイン改との性能差が開き過ぎていて、パラーデクライトのままでは、これからの戦場には立てない。そこで、機体の性能を飛躍的に高めるための強化パーツが開発されている。

 それは、ルフトシュピーゲルングという、特殊戦闘攻撃機だ。

 単体では飛行できないパラーデクライト用の外部飛行ユニットとして、胴体の主要コネクター五カ所に接続する形で、空襲仕様のパラーデクライト・ルフトアングリフへと進化する。

 ルフトシュピーゲルングには、三基の同型パワーパックが搭載され、M‐コンバーターと多重魔力障壁の魔導具も取り付けられている。機体各所への装甲の追加能力もあり、特に頭部は兜状のプラスパーツにバイザーシールドが付いているため、戦闘時には顔の部分を保護できるようになる。

 両背の武装を排除してからルフトシュピーゲルングと接続されるため、それに代わる武装がルフトシュピーゲルングに搭載されることになる。その武装は機体上面のコネクターに接続されるため、場合によっては取り外したへヴィーウェポンをそのまま搭載することも可能だ。

 後々になるものの、モジュールのバリエーションが増えて行けば、メサイアに迫る性能になってくれる機体だ。




 このような野心的な性能の戦力を整えている恭一郎だったが、やはり言い知れない不安が思考の片隅から離れてくれなかった。ヒュッケバイン改を上回るヴァンガードの製作に着手したい所なのだが、これ以上は製造設備の稼働率を上げることは不可能だ。

 よって、事態が急変しないように祈りながら、愛しい家族の待つベッドへと向かう恭一郎だった。


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