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【燃えるお兄ちゃん】

 後顧の憂いの無くなった恭一郎は、大切な家族となったハリエットを手籠てごめにしようと行動していたアレスに対して、人知れず裁きを与える行動に移った。至急ミナを呼び寄せ、幽霊へと指示を出す。

 ミナにハリエットから排出された人工物の一式を渡し、これで幽霊に破壊工作を行わせるためだ。

 その概要は、こうだ。

 アレスの邸の中に、かつてハリエットを構成していた人工物を潜ませておき、事故に見せかけた幽霊の破壊工作によって、人的被害が出ないように邸を破壊。捜査機関の事故原因特定作業において、潜ませていたかつてのハリエットの一部を発見させる。

 恭一郎は大統領のシズマに対して、アレスの一方的な因縁によってヒュッケバイン改が損傷を受けた件を、トイフェルラントの立場として抗議する。その光景を密着取材しているカメラの前で、不愉快な扱いを受けて憤慨している演技で行う。

 これらとほぼ同時進行で、ハリエットの専属医であったアイリスに対して、匿名のタレコミをしておくのだ。それによってアイリスには、事故現場で見つかった人工物が、ハリエットにアイリス自身が移植したモノであることを確認させる。

 こうなってしまえば、何も裏事情を知らない者から見ると、アレスが入院中のハリエットを邸へと拉致して殺害。証拠隠滅のため、事故を装って邸を破壊した。と考えるだろう。

 これにより、ハリエットはオディリアでは死亡したことになる。そして、オディリアが一連の疑惑を捜査している間に、恭一郎達は悠々と帰国するために機上の人となるのだ。

 その結果、アレスがどうなろうが、恭一郎には知ったことではない。因果は巡る、というやつだ。




     ◇◆◇◆




 模擬戦闘用に貸与されたガーディアンは、恭一郎好みのミドルレッグの機体だった。一般兵用の量産機であるため、錆び止めの艶消し塗装だけの鋼色の機体だ。武装は模擬戦用のライフルと長剣で、バランスが非常によろしい。

 この機体を使用していた兵士は、これまで器用貧乏と呼ばれて悔しい思いをしていて、同じような機体構成で活躍する恭一郎の戦術を熱心に研究していたのだそうだ。そのため、ガーディアンで最も汎用的なパーツのみで、機体を構成していた。

 恭一郎は有り難く、この機体を使わせてもらうことにした。

 胴体正面下部のコクピットハッチから搭乗して、機体に固定されているパイロットシートに着座する。オールド・レギオン方式のように、ショックアブゾーバーは装備されていない。それ以外は基本的に、今まで操縦してきた機体と操作は同じだ。強いて違いを挙げるなら、登録できるモーションパターンが、オールド・レギオンタイプよりも少ないことだろう。

 とはいえ、ガーディアンはある程度の飛行能力を持っている。メサイアのような完全な飛行には及ばないが、立体機動戦闘能力はトライリープタイプよりも格段に高い。

 そんな機体の感触を確かめるように、恭一郎はゆっくりと模擬戦エリアへと向かった。




 模擬戦相手のアレスは、すでに恭一郎の登場を今か今かと待ち構えていた。

 愛機のヴェルセルク同様に、ライトレッグの機体に模擬戦用の長剣を二刀流で装備している。

 対する恭一郎は、こちらへ到着するまでに、可能な限りのモーションパターンを、ガーディアンで再現できるように仕込んでおいた。宮本武蔵と佐々木小次郎の巌流島での決闘よろしく、恭一郎は時間を掛けての登場である。よって、模擬戦前のセリフはこれで決まりだ。

「アレス・バストロール、敗れたり!」

 模擬戦開始の合図がまだのため、アレスから濃密な殺気が垂れ流しになっている。恭一郎の挑発は、効果が抜群だ。

 そして、模擬戦闘が開始された。




 最初に動いたのは、やはりアレスだった。アレスの機体は飛び道具を装備していないため、長剣の間合いでしか攻撃ができない。よって、一気に長剣の間合いへと詰めてくる。

 アレスの戦法は百も承知な恭一郎は、牽制のためにライフルの模擬弾を撃ち込みながら、アレスから距離を取る。模擬戦闘のために設定されたエリアの外縁を撫でるようにして、アレスに長距離の追撃戦を強いる。

 逃げ腰の恭一郎にフラストレーションの募るアレスは、牽制射撃への回避行動を取り止め、長剣での武器防御へと切り替えた。長剣の刃に被弾判定が出て耐久力が損なわれていくが、追撃速度は格段に上がる。

 アレスの猛追により、ほどなくして恭一郎は、彼我の距離を詰められてしまった。そこで恭一郎は、手にしたライフルをアレスへ向けて投げ付けた。

 アレス機が邪魔なライフルを長剣で横へと弾くと、今度は恭一郎機から、長剣が投擲されて飛来した。これを叩き落としたアレスは、長剣に大きなダメージを負った。ライフルやその弾と違い、長剣はかなりの質量を持っている。そのようなモノを長剣で叩き落とせば、傷付いていた分だけアレスの持つ長剣のダメージが大きくなるのは自明の理だ。

 攻撃モーションの終了した直後のアレス機の目の前に、恭一郎機が無手のまま飛び込んだ。とはいえ、攻撃手段の無い恭一郎に、有効な攻撃方法はない。だが、アレス機が素早く対応して振り上げた長剣を持つ右手首を自機の右のマニュピレータ―で抑え、機体を外側に流しながら回り込むようにして側面へと移動し、振り下ろされる長剣の勢いを利用して、肘の関節を自身の機体の方向へと捻りながら、左のマニュピレータ―で力を加えた。

 攻撃に用いられた力と恭一郎機から加えられた捩じる力が合わさり、アレス機の右腕の肘が破壊された。CAの構造を利用した、対人用の肘の関節技である。人間ほどの柔軟性を持っていない機械では、想定外の力を加えたことで、負荷限界を超えたパーツが破損していた。

 機体のバランスを崩しているアレスに対して、恭一郎は先程投擲した長剣を再取得すると、迷わずアレス機の左腕に長剣を叩き付けた。アレス機は何とか攻撃を受け止めようと長剣を振り上げたが、恭一郎機の振り下ろした長剣によって刀身が砕かれてしまった。そのまま左腕に直撃判定を受け、アレスは完膚なきまでに敗北した。




 模擬戦を終え、貸与された機体を返却に向かおうとすると、右肘を損傷しているアレス機が、恭一郎機の背後から襲い掛かってきた。

「この愚か者が!」

 振り向きざま、居合の一閃のように長剣を振り抜く。刃はアレス機の腰のコネクター部分に直撃して、刀身はバラバラに砕けた。それでもアレス機は勢いを完全に削がれ、仰向けになって機能が停止した。

 ここまで往生際が悪い奴だとは予想していなかった恭一郎は、もはや手心を加える必要を感じていなかった。

 アレスの蛮行に憤慨する兵士達の手によって、アレスが機外へと追い出される。それでも自らの行いを顧みないアレスは、強化された身体能力を使って、取り押さえに来た味方であるはずの兵士達を暴力で排除している。

「もはや、処置なしだな」

 一気に興が醒めた恭一郎は、アレスに引導を渡すために機外へと出た。昇降用の足掛け付きワイヤーで地上へ降り、アレスの下へと歩み寄る。

「この、知れ者が!」

 恭一郎の一喝に、周囲の音が消える。オディリアにおいての恭一郎のイメージは、大きく分けて二通り存在する。一つは、オメガを討伐した、比類なき武勇を持つ英雄。もう一つは、英雄と呼ばれると困り顔で照れてしまう、心根の優しい青年だ。実際には後者の面しか表に出してこなかったため、このように感情を表に出すことは、身内以外では稀有なことだ。そのような英雄然とした行動を目の当たりにしてしまえば、実力がモノを言うほとんどのオディリア人は、思わず息を呑むことになる。

 恭一郎の進路上にいた兵士達が無言のまま道を開き、恭一郎をアレスの所まで最短距離で案内する。

 面と向かって顔を合わせたアレスは、大柄で筋肉質の中年男だった。得物代わりにヘルメットを手に持って、幾人もの兵士達を怒りに任せて叩きのめしている。その姿はあたかも修羅のようで、恭一郎の顔を見るなり、雄叫びを上げて組み付いてきた。

 襟首に迫るアレスの腕を素早く掴み、逆に恭一郎がアレスの襟首を掴み、足を払って体勢を崩し、身体を捻りながら背中をアレスに向ける。そのままアレスの力を利用して、恭一郎の背負い投げがアレスの筋肉質の体を地面へ強かに叩き付けた。メサイア操者として強化され、鍛え上げられた自身の力を背中からもろに受け、アレスの呼吸が一瞬止まる。

 恭一郎の追撃により、仰向けのアレスは投げ飛ばされた腕を両足で固定され、きっちり手首を固められてたうえで、肘関節を可動域を越えた状態で決められてしまう。

 恭一郎がハナから教わっていた寝技の一つ、腕拉ぎ十字固めという技だ。上腕を抑えている足を使って、アレスの首にも圧を掛ける。いかに強化された相手でも、この状態からの脱出は肘を犠牲にするしかない。

 容赦なく反らされるアレスの肘から、内部の破壊音が聞こえてくる。

「力に溺れ、力を過信する愚か者に、訓示を一つ垂れてやる。力だけで、全てを自身の思い道りにできると考えるな。真の強者は、真の仲間と共にある者だ。身体能力で勝る相手の足をすくったこの技は、仲間から教えられたモノだ」

 たっぷりと苦痛を与え、肘を逆方向へ完全に破壊した恭一郎は、首を締め落される寸前に陥っていたアレスから身を離した。

「この雑魚を、独居房にでも放り込んでおけ。これにて模擬戦は全て終了だ。諸君らは、こんな馬鹿にはなるな」

 少々芝居がかった演技でその場を離れると、興奮した兵士達が歓声を上げ始めた。恭一郎は素知らぬ振りで密着取材のスタッフ達と合流して、輸送機へと向かった。




 移動の途中で、こちらも恭一郎の勝利に興奮していたマリーが、声を掛けてきた。

「見慣れない動きでしたが、鮮やかな勝利でしたね。相手を投げ飛ばしてからの肘関節の破壊に至るまで、全く迷いを感じませんでした」

「オディリアには、対人格闘術のようなものはないのか?」

「私の知る限り、存在しませんね。オメガとの戦いは機動兵器が主体でしたから、戦闘に耐えられる肉体を得るためのトレーニングばかりです」

 マリーの答えは、意外なモノだった。全ての人間がオメガとの戦いに目を向けていたのだから、むしろ当たり前の答えなのかもしれない。

「まあ、アレス程度の力の持ち主なら、俺程度でもなんとかなる」

「あの操者は恭一郎様にとって、そんなに弱かったのですか?」

「取り押さえようとした屈強な兵士達を見ていただろう? 俺なんか一撃で、簡単にノックアウトされていたはずだ。言っておくが、ハリエットの細腕も動かせなかったくらいの力しかないからな」

「ではなぜ、こうも完璧に勝利をモノにできたのですか?」

「簡単さ。『柔能く剛を制する』って言葉、知っているかな? 温柔な者がかえって剛強な者に勝つことができる。ってことさ」

 それから恭一郎は輸送機へ移動しながら、ハナと行ったオールド・レギオン式軍隊格闘術の簡単な説明を行った。

「とはいえ、今回は最初から心理的な罠に嵌めていたから、勝つことができた。アイツとはもう、二度と戦いたくない」

 アレスの遥か格上であるリオすら組み伏せたことのある恭一郎だが、それはあくまで前提条件が整っていたから得られた辛勝に他ならない。己の爪を隠して相手を油断させ、その隙を突いての電撃的勝利なのだ。同じ手が二度も通用するほど、相手も馬鹿ではない。

 ともあれ、公衆の面前でアレスを恥辱塗れの公開処刑に処した恭一郎は、次なる行動に移るのだった。




     ◇◆◇◆




 帰りの輸送機に到着した恭一郎を、ミナが出迎えてくれた。ラナは輸送機の発進準備を監督しているため、この場にはいない。

「シズマ大統領閣下より、ホットラインが入っております」

 出迎えのミナが、通信機を恭一郎に手渡した。ここからが、新たな演目の始まりである。




「シズマ大統領、私は非常に気分が悪い。その理由は、閣下も御存じだと思うが……?」

 私人としてではなく公人として、シズマに話し掛ける恭一郎。もちろんこれは演技なのだが、アレスに対する怒りの残り火が、言葉の端々を熱で焦がす。

『報告は聞いている。我が軍の者が、大変な無礼を働いてしまった。この場を借りて謝罪する』

「事は閣下の謝罪程度では済まされない。愛機を一方的に傷付けられ、模擬戦では事前の取り決めを反故にされ、挙句の果てには直接手を出してきた。あの者は、閣下と同じオディリア人なのか? 一度徹底的に、その身元を調査することを強く勧めるぞ。もしかしたら、オメガからの間者かんじゃかもしれないからな」

『ご指摘、痛み入る。この者の素行には、悪い噂が付き纏っていた。これを機に、国内の綱紀粛正に取り掛かることにしている』

「頼みましたよ。私の大切な友人であるハリエット・ラザフォード上級特佐に対しても、何やら良からぬことを続けているという噂も聞いている。もし彼女に何かあれば、それは私への挑戦ではなく、我が国に対する挑発であることを肝に銘じてもらいたい」

『重々承知している。処分に関しては、私が責任を持って裁きを下すことを約束しよう』

「それは助かる。私も友人である閣下に、銃の引き金を引かずに済みそうだ」

『そんな恐ろしいことは、冗談でも言わないでほしい』

 全面的に非のあるシズマが、恭一郎に対して本気の謝罪を繰り返す。少々気の毒にはなったが、こちらも悪巧みのために行動をしている。初志貫徹して、シズマには泥を被ってもらう。

「それでは私は、このあたりで失礼させてもらう。もうすぐ離陸するから、取材スタッフも機内の座席に移動してくれ」

 ホットラインを繋いだまま、これみよがしに密着取材の最中であることをほのめかす。

『恭一郎君、今何と!? ねぇ、恭一郎く――』

 絶妙なタイミングで通信を切った恭一郎は、不機嫌な演技を止めて上機嫌となった。

「トイフェルラントへ向けて、全速前進!」

 恭一郎はパイロットスーツのまま輸送機に乗り込み、身体をシートベルトで座席に固定した。

 ほどなくして輸送機は、デージーからトイフェルラントへと飛び立った。




 高度を上げて飛行する輸送機の窓から、デージーの市街地が一望できた。そこの一部で閃光を伴った爆発が起こり、黒煙がもうもうと立ち昇る。

 幽霊が首尾よく、破壊活動を行ってくれたようだ。

 突然の爆発で混乱するデージーを後にして、輸送機は蒼穹の彼方へと飛び去った。




     ◇◆◇◆




 安定飛行に入った輸送機の中で、恭一郎は機内を移動してヒュッケバイン改のコクピットへと向かった。同行する取材スタッフには、本国へアレスに関する処置の報告を行ってくる。ということになっている。

 実際は、狭いコクピットの中に身を潜めているリオとハリエットの世話をするためだ。格納庫への出入りはミナが目を光らせているため、身内以外に存在が知られる危険は少ない。

「ハティーの様子は?」

 コクピットの中をハッチの上から覗き込み、リオに状況を訊ねた。すると、ハリエットが意識を取り戻していた。

「元気になったのですが、まだ記憶の方が戻らないみたいで、あの時のままです」

「ニィニ、おかえりなさい! わるいひとやっつけているニィニ、すごくすっごくかっこよかったの! ネェネがね、ニィニのことね、すんごいたくさんほめていたんだよ!」

 ハリエットは幼稚化したままだったが、その表情はとても幸せそうだ。家族となった恭一郎が、同じく家族となったリオにべた褒めされいたことが嬉しかったようで、興奮気味に身体を動かして感情を表現している。

「ただいま、ハティー。リオが少し苦しそうだから、少し落ち着こうな」

 コクピットの中が狭いという事情もあるが、ハリエットは恭一郎よりも少し背が高い。そのため、ガンナーシートで元気に動くことで、リオが揉みくちゃになってしまっている。そのうえ、簡易的な作りのペイシェントガウンの隙間から、白磁のような綺麗な素肌が、際どい部分まで見えてしまっている。リオに対しては耐性を備えている恭一郎でも、この不意打ちは目に毒だ。

「リオ。ハティーの身体が冷えないように、毛布を持ってきた」

 恭一郎がハッチの上から、ガンナーシートに毛布を差し出す。毛布を受け取ったリオが、手早くハリエットの身体を毛布で包んでくれた。これで、目のやり場に困ることはなくなる。

「あちらの首尾も上々だそうだ。これで安心して、家に帰れるな」

「おうちって、ハティーのすむおうち?」

「ええ、そうよ。恭一郎さんと、私の住んでいるお家。これからは、皆で一緒に住むお家よ」

「わ~い! ニィニといっしょ! ネェネといっしょ!」

 毛布に包まれてぬくぬくとしているハリエットの様子に、恭一郎は問い掛ける。

「ハティー。皆と新しく家族になったから、ハティーに新しい名前をプレゼントしたいんだけど、受け取って貰えるかな?」

「ハティーの、おなまえ? ニィニが付けてくれるの?」

「ああ、そうだよ。ハティーがこれから楽しく暮らせるように、素敵な名前を送りたいんだ。どうかな?」

「うん! ニィニから、おなまえほしい!」

「よかった。ハティーがこれからもずっと楽しく、お歌を歌って暮らせるように考えたんだ。だから、今日からハティーは、『遥歌はるか』。烏丸遥歌、って名前だ。気に入ってくれたかな?」

「うん! わたし、はるか! きょういちろうニィニとりおネェネのかぞくになるの!」

 恭一郎から送られた新しい名前に、ハリエット・ラザフォード改め烏丸遥歌は、屈託のない笑顔で新しい家族の証を連呼した。

 そこへ、リオから恭一郎へ魔法で接触を図ってきた。

『その名前は、恭一郎さんの亡くなられたお母様の名前から?』

(その通りだ。遠い世界の彼方にいた俺の親戚の子に付ける、ちょうどいい名前だろう? もし俺に妹がいたら、そう考えたら思い浮かんだ名前だ)

『一人で勝手に名前を付けるなんて、恭一郎さんはずるいですよ』

(リオだったら、どんな名前にしていたんだ?)

『そうですね……アル〇〇〇アとか、〇ィナとか、チェー〇〇とか、リ〇とか、リリー〇あたりですね』

(カテゴリーが偏り過ぎだ!)

『だって、どう見ても恭一郎さんの「妹」には見えませんよ』

(当然だ。妹は妹でも、義理の妹だからな)

『遥歌さんは、恭一郎さんと同じ義理の方の妹、という認識なんですよね?』

(一応、神気が発動したから、そう認識していると思う。……が、理解していないかもしれない……)

『惚れた雄に言うのもアレなんですが、たまに恭一郎さんって、馬鹿になりますよね? 普段はしっかりしているのに、追い詰められると博打に走りますし、後先考えずに盤上を引っくり返しますし』

(リオのような天賦の才は、持ち合わせていないからな。感情だけで動くこともある。それに、俺一人では無理なこともリオ達がいれば、何とかなるかもしれないだろ?)

『まあ、そんなところも好きになっちゃった、私が一番馬鹿なのかもしれませんが』

 声に出さないため息を吐いて、リオは無邪気にはしゃぐ遥歌の頭を慈しむように撫でるのだった。




     ◇◆◇◆




 夜になり、トイフェルラントに到着した恭一郎一行は、同行してきた密着取材のスタッフの入国手続きをマナに託して、ヒュッケバイン改で近衛軍基地へと戻った。

 その背後には、幽霊達の乗ったデヴァステーターが付き従っている。次元潜航で姿を消しつつ輸送機と並んで飛行して、誰にも知られずに帰投してくれたのだ。

 ハンガーに機体が固定され、昇降用のタラップが掛けられる。コクピットから降りたリオは、はしゃぎ疲れて眠ってしまった遥歌を部屋のベッドへと運んで行ってくれた。ガレージに残った恭一郎は、幽霊二人と司令室まで移動する。

 今回暗躍して活躍した二人に対して、今後の方針を伝えるためだ。




 会議卓へと着席した三人は、ミズキを交えて話し合う。

「ジェラルドさん。マクシミリアン卿。お二人の活躍で、無事にハティーを助けることができました。感謝します」

 深く頭を垂れて謝意を示す恭一郎に、今回最大の功労者である二人も、無言で頭を垂れて返礼する。

「ハティーを救うためだったとはいえ、ジェラルドさんから妹を奪ってしまい、本来の名を捨てさせてしまいました。どうか、許してほしい」

「自分はすでに死んだ、過去の存在。妹の未来には、悲しい過去は必要ありません。どうか不肖の妹を、幸せにしてあげてください」

 平身低頭の恭一郎に、本来は義兄となるジェラルドの方がより深く感謝を述べている。たった一人残された妹の命が救われたのだ。それだけでも、ジェラルドにとっては一生返せない恩を感じているのだろう。

「その言い回しだと、貴殿の妹君を恭一郎殿に嫁がせているようであるな。陛下が聞いたら、睨まれるだけで済むかな?」

 マクシミリアンが自慢のライオン風ヘアーを愉快そうに撫でながら、どちらが先に床へ頭蓋をめり込ませるかを争っているような二人に対して、不穏当なツッコミを入れる。

『ともあれ皆様、お疲れ様でした。作戦は全て完了です』

 お礼合戦の様相を呈してきた場の空気を一度締め、ミズキが本筋へと話題を戻す。

「今回の作戦によって、次元潜航の有用性が証明された。よってお二方には、トイフェルラントの隠密諜報工作部隊として働いて頂きます。今後は四女のミナの指揮下に入って、チーム『ゲシュペンスト』として活動していくことになります」

『現在、エアストの改修計画と並行して、お二人の専用機として新たにG計画として、ゲシュペンストタイプのCAを開発中です。それまでは、デヴァステーター一機だけで我慢してください』

 ミズキが新型機の青写真を、二人の幽霊に開示する。デヴァステーターの次元潜航の技術を取り入れた、幽霊専用の超極秘戦力だ。

「さて、正式にこの基地の所属となったわけだが、お二人には今後とも、幽霊のままでいてもらいます。そこで、偽名のようなモノを名乗ってもらうことになります」

 恭一郎の意向を聞き、幽霊二人が思わぬところで頭を悩ませた。生きていた時代が違い過ぎるマクシミリアンは、本名のまま素顔を曝しても大丈夫だろう。だが、つい数年前まで素顔と名前を世間に知られていたジェラルドは、名前と素顔を隠しておかなければならない。

 そこで恭一郎は、いくつかの偽名の例を提示することにした。〇〇スバル、〇ュドー、ハ〇〇ェイ、〇〇ブック、〇ョウジ、ミリ〇〇〇。

 リオに毒されていた名前ばかりであった。言っていて恥ずかしかったことは、本人だけの秘密だ。




 そんなこんなですったもんだがあって、幽霊二人の偽名は次のようになった。

 マクシミリアン・フランツ・エトガル・レオハルト・フォン・レーヴェ改め、マクシミリアン・ハイデッカー。

 ジェラルド・ラザフォード改め、ゼルドナ・ゾンターク。

 ゼルドナと名乗ることになったジェラルドには、その素顔を隠すための魔導具が渡された。恭一郎がリオのゲノム・シフトから着想を得た、体組織の色を偽るカラー・シフトの魔導具だ。眼鏡型、懐中時計型、万年筆型、身分証型、様々なタイプの日用品にカムフラージュされた魔導具が、ゼルドナ以外には効果を発揮しないように制作されている。

 変身後のゼルドナは、銀髪で浅黒い褐色の肌をした青年となっている。

 ゼルドナ同様に、遥歌と名乗ることになったハリエットにも、カラー・シフトの魔導具が持たされることになっている。こちらの魔導具は衣服用のアップリケやネックレスなどの装飾系アクセサリーとして製作されており、変身後の遥歌は、恭一郎やヒナと同じ日本人風の美少女となった。

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