こんな日もある
跳ねる水が履き古したスニーカーを汚す時、吹く風が前髪を弄ぶ時、ふらりと行った神社に人が誰もいなかった時、衝動的に車道に飛び込みたくなった。
死にたがりになる日、思春期独特の感情で1人町を歩いた。親にすら理解されないであろうこれは発作的に訪れて体の中のなにかを傷つけて去っていく。
食欲がないわけではない。出かけるのが億劫なわけでもない。鬱病であるわけない。ただ心が不健全なだけだ。
平等に訪れる死が羨ましく思ってしまう、そんな日があっていいはずがないのに。そんな考え方をして自分で自分の首を絞めていく。
雨の夕の金木犀の香りはより一層目の奥に重く響く。
責めるように香るそれに頭の奥の方が熱くなる。
気軽に寄った神社には人が誰もいなくてそこに広がるのは静寂だった。
風の音が遠くに聞こえて、鳥が示し合わせたように鳴くのをやめた。大降りになった雨は人を嫌っていた。重い足取りで家まで歩く。道に咲いている金木犀はむせ返るほど強く香って体を揺すっていた。
何もかもダメな日であったと錯覚させる秋の黄昏。雨はやまずに身体を汚した。
ほろりと溢れた涙の名前がわからず、ただ死にたいとだけ思ったのだ。
上を向いて歩けとどこかの誰かが歌っているのを思い出して落ち込んで、落ち葉の数を数えながら歩いた。これだから雨は。これだから秋は。これだから私は!意味もなく湧いてきた怒りにまた泣いて、明かりのついた家を見て死にたくなった。
音をたてて閉じた玄関の扉を背中で聞きながら死にたい気持ちそのままに帰宅の挨拶をこぼす。
今日の夕飯は大好きなシチューだそうで。
さっきまでの感情は手を洗った時に流れて消えた。
なんとあっけない!今さっきまでのあれはなんだったんだ!大バッシングをよこす脳内を優しい匂いで強制的に黙らせた。
これだから思春期は!と頭の中で嘯いた自分に嘲笑をおくる。
井田あゆみ。17歳、女子。
感情を持て余すお年頃である。