当たり前の距離が特別で
良多は当然だが、光の髪も短い。そして身長も、男女だがそれ程変わらない。
けれど、逆に言えば共通点はそれくらいで。
ふわふわと柔らかそうな良多の髪と違い、光の髪は黒くて硬くて真っ直ぐだった。流石にセーラー服姿を女装とまでは言われないが、体育の時のジャージ姿だとボーイッシュや中性的とはよく言われた。
「理系が得意なのも、カッコいいよな」
「そう? 文系な方が、情緒があって良いと思う」
それから、得意科目も見事に理系と文系で分かれていて。いつからか放課後、テスト前などは教室や公園で二人は勉強するようになった。
「数学とか、答えがハッキリしてて気持ち良いからね」
「その答えを出すまでが、解んねぇんだよ……国語とか英語は、ある程度暗記出来ればクリア出来るからな」
そんなことを話していた日は、暑かったので市立図書館で会っていた。文系の良さを語る良多の髪や長いまつ毛が、外から差し込む陽射しを受けてキラキラしていた。
(わたしと全然、違う……うん、綺麗)
思わず見惚れていると、不意に伏せていた良多の目が上がった。髪同様、色素の薄い瞳を向けられてドキッとする。
「光の髪、何かサラサラしてて涼しそうだな」
「……何? 暑さに逆上せた?」
「違ぇよ! 天使の輪出来てて目についたから……あ、ここ教えろ」
「どれ?」
図書館なので、注意されないように小声で会話を交わし。
計算式を書き込まれたノートを覗き込むと、同様に覗き込む良多と急接近することになる。
自分とは違い、まるで意識していない様子の相手にこっそりとため息をついて。
(全然違うけど、だからこそこうして近づけるんだ)
近くにいられる幸福を感じながら、光は声が上ずらないように気をつけて説明を始めた。