恐怖
翌日、俺は学校へ向かう。
一応、部屋を出るときに隣を見るようにする。
また、倒れてたら困るし。
そして倒れてないことを確認してから学校へ向かう。
学校についても、特に変わったことは無い。
変わったことといえば…
「あ、おはよー京くん」
一ノ瀬が俺のことを京くんと呼ぶことぐらいだろうか。
「あぁ、おはよ」
何故だろう?俺と一ノ瀬が挨拶をしただけなのに、クラス中の視線が俺の方に!
しかし、落ち着いて考えれば簡単なことだ。
俺みたいなクソインキャがこんなクラスの中心人物、しかも人気者の一ノ瀬様と会話しているのだから。しかも、彼女は俺のことを「京くん」と呼ぶ。
そりゃー、突然あだ名で呼ぶなんて怪しいですよねー。
って、そんなこと考えてる場合じゃねえ!
クラスの一人の男子がだんだん俺の方に近づいてきている気がするんですけどー、気のせいですかー?
「なぁ、森木、ちょっといっしょにトイレ行こうぜ!」
あー、もう終わったー。
クラスの中心の男子、まぁ、少しいかつい奴の郷田 剛が、話しかけてきた。
ほんと名前で強さアピールしすぎでしょ?!
「は、はい…」
もー、こうなったらボコボコにされるか。
俺が渋々郷田についていこうとした時、目の前に真昼が現れた。
おい、このままいけば真昼も俺に挨拶する。そしたら、こいつも俺のことを「京くん」と呼ぶことがバレてしまうぞ!頼むぞー、絶対に言わないでくれ…。
「あ、京くんおはよー」
言っちゃったよ。まぁ、こいつに期待した俺にも責任があるか。
それよりも…、少し前から隣で手の指や首、腰のあたりからポキポキという音が聞こえる気がするんだよなー。
「よーし、森木、行くか!」
なんなの?この「行く」って言葉が俺には、「(天国に)行く」にしか聞こえないのだが?!
「は、はい…、それとおはよ…」
「うん。おはよー」
頼むからそれ以上口を開くな!
さっきよりポキポキする音でかくなってんだよ!
そんな言葉も発することも出来ず教室を出る。
俺たちの教室からトイレまでは意外と遠い。
なんかもー、殴られるんだったら早くしてくれよ!無駄に遠いんだよ。トイレまで!
無駄にゆっくり歩いて行くのは、何故だか俺にも分からん。
普通なら、早く殴りたければ早くトイレまで行きたいはずだろ?
分からん。
そんなことを考えつつだんだんトイレに近づく。
そして、トイレに近づくにつれて、恐怖が倍増し、
教室を出た時の数百倍にまできている。
そして、とうとう3メートル、2メートル、1メートル。
そして、とうちゃ…
「おーい!つよしくーん!ちょっと手伝って欲しいことがあるんだけどー!」
完璧なタイミングで助け舟を出してくれたのは、言わずともわかるだろう。
昨日は散々俺をからかっていたのに、いざという時には頼りになる女、そう、一ノ瀬 来未だ。
呼ばれた本人の郷田は、よほど美少女に呼ばれたのが嬉しかったのだろうか、飼い主にキャンキャンなく子犬のように走って行く。
おそらくだが、これで郷田が俺を殴ることはないだろう。
その理由は、2つある。
1つ目、自分が呼ばれてないのに、インキャの俺が呼ばれているという状況ではなくなった。
この男も下の名前で呼ばれたのだから怒る必要はない。
2つ目、そもそも、名前を呼ばれたのがとても嬉しくて、俺を殴ることなんて忘れている。
2つ目はあくまで予想、願望に過ぎないが、1つ目だけでも理由としては十分だろう。
予想通り、郷田は俺を殴るどころか、話しかけてさえこなかった。
「ありがとな」
「いえいえ、これで借りが出来ちゃいましたね?」
「は?そんなもん昨日俺をからかったことを許すってことでチャラだな」
「けち」
一応感謝はしておいた。
そして授業が始まる。
1時間目から6時間目まで寝ることなく、終えた。
そして最後のHRが始まった。
「今日はプリント配布はない。それと、数週間後にある体育祭のことなんだが、種目とかは一ノ瀬に渡しておいたからそれをクラスのグループラインにでも送ってもらうから、それを見て、出たい種目とか決めておいてくれ」
そうなのだ。この学校では入学した一年生、クラス分けをした2、3年生が、クラスで仲良くなれるようにと体育祭が開催される。
普通、こういうのって、遠足とかするのかと思ってたわ。
「以上、それじゃあ気をつけて帰れよー」
こうしてHRは終了し、部活は行く者、帰宅する者に分かれる。
そして俺たち(俺、真昼、一ノ瀬)は帰宅組だ。
「それじゃあ帰ろっか」
こうして俺たちは教室を出た。




