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瑠璃色の空  作者: 須玖 明希留
3/6

海に行った日の話

 それから璃音は夜が明ける度に竹の如く成長して行った。

 なんと今では俺と頭ひとつ分くらい違うまでに背が伸びている。さながらかぐや姫の成長speedスピードを生で実感したような感じだ。

 そのうち月に帰るとか言い出さないよな?


「お兄ちゃん。」

「どうした? 璃音。」


 ん?お兄ちゃんて呼ばせてる変態って誰の事だ? まさか俺の事か? 違うな。俺は呼ばせてるんじゃなく、呼ばれてるんだ。

 なんだか疑わしそうな目で誰かが見ている気がするので弁明をだな……。いや、決して違うんだ。強制じゃない。たまたまベッドの下に隠してあった俺のbibleバイブルが見つかって……。エロくはない!とっくにR18は処分してある!ただ、どうしても捨てられなかったR15の兄妹モノを読まれてしまってだな……。その、不可抗力だ!

『お兄ちゃんって呼ばれる方が嬉しい?』なんて聞かれたら答えはYESしか無いじゃないか!


「ここ、行ってみたい。」


 璃音が持っていたのは何年か前の観光雑誌だった。路上で配られてたやつだ。それを広げ、指差したのはとあるリゾートスポット。

 青い海、白い波飛沫なみしぶきが打ち寄せる黄色い砂浜。所狭しと並ぶカラフルなビーチパラソルの群れ。


「海か。……どうしても行きたいか?」


 遠出、しかも眩しい太陽がギンギラギンと直撃する場所。引きこもりの俺には辛いものがあり、躊躇いがあった。顔が少し引きつっているのが自分でも分かる。


「行きたい。」


 しかし璃音がワガママを言うのは初めてなので叶えてやりたい。俺は渋々了承する事にした。


「仕方ないな、連れてってやる。海で何をしたいんだ?」


 そう思いつつも既に俺の右手は通販サイトで海のレジャーグッズをポチっていた。

 浮き輪、ビーチパラソル、レジャーシート、クーラーボックスなどなど。思い付く限りの物はcheckチェックしていった。


「海を見たい。」


 見るだけだと水着姿が見れるchanceチャンスが無くなってしまう!そう、俺は水着という素晴らしいitemアイテムを思い出していた。そりゃあ、180度意見を変えざるを得ないだろう。

 俺は海の遊びを沢山教えて璃音をその気にさせ、水着を選ばせるところまで持って行った。


 そして翌々日の朝に早出をし、電車に揺られてバスを乗り継ぎ俺達は海へ来た。

 太陽から直接くる日差しと砂と海から反射する光が目と肌に痛い。健康的に焼けてしまうじゃないか! 青春かよ!


 早々に着替えを終えた俺は重いビーチパラソルを日傘がわりにさして、腕をプルプルさせつつ璃音りんを待っていた。

 砂浜にさしとけばよかった。余計な体力消耗してるよなこれ。

 そんなアホをかましてる俺の耳にサイコーにcuteキュートfantasticファンタスティックな声が届いた。


「お兄ちゃん、お待たせ。」


 手を振る可憐でbeautifulビューティフルな美少女に俺のハートは釘付けだぜBabyベイビー

 俺は何を言ってるんだろうね?一旦落ち着こうか、深呼吸。


「全然待ってないぞ。」


 言ってみたいデートの待ち合わせのセリフの一つ!これはもうデートでしょ。


「どうかな?」


 そう言ってくるり、くるりと腰をひねってしきりに自分の姿を確認する璃音。上はフリルで装飾されたビキニ、下はフリルのスカート。璃音の動きと合わせて揺れるフリル。揺れるのはフリル。


「俺の妹が可愛すぎる件。」


 俺の言葉が理解し辛かったのか一瞬キョトンとするが、褒めている事が分かるとニッコリと笑ってくれた。


「ありがとう、お兄ちゃん。」


 俺は今まで神を信じた事はなかったが、天使が目の前にいる手前、信じざるを得ない。

 神様ありがとう!こんな可愛い妹に俺を引き合わせてくれて!……一番の功労者は璃音を育てたミハイルか。ミハイルにも米一粒分ぐらいは感謝するか!


「よし、まずは場所取りからだな。」

「わたし海の近くが良い。」

「そうだな……じゃああそこなんかはどうだ?」


 俺が指差したのは他の海水浴客が場所取りしてる間にちょうど空いたspaceスペース。ちょっと狭いが、2人だけならちょうどいいと思った。海にも近いし、何より璃音に接近しやすい!

 璃音は頷いて了承してくれたので、俺はそこにパラソルをぶっ刺した。レジャーシートを広げて持ってきた荷物を重しに載せる。

 そして鞄から杭を取り出して取った場所を囲むように四ヶ所に設置し、3とプリントされたシールをレジャーシートの真ん中に貼り付けた。

『何でも固定。盗難防止用防犯グッズ「ロック君」』

 という謳い文句の商品だ。reviewレビューが高評価なので即ポチった。

 なんでも杭で囲んだ範囲内の地面に接着してるものを魔法陣を展開させて固定し、付属シールで指定した時間が過ぎると解除されるらしい。

 風でも飛ばなくなるので、レジャーグッズとしても使われていた。

 こう言った魔法を使えない俺ら一般人でも使えるようにした便利グッズが近年増えて来ている。

 その先導者は……っと、この話は蛇足になるな。

 今は璃音と海を楽しむに限る!


 浮き輪を膨らませて璃音の腰にピッタリと装着させた。璃音が泳げるかどうか分からないから、万が一沖の方へ行ってしまっても溺れないようにする為だ。俺は頭にゴーグルをしてロープを腰に巻き付けた。直ぐに助ける事ができるように準備は万全にしておかないとな。

 軽く準備体操をしていざ海へ。


「冷たい。」


 波打ち際で波とたわむれる璃音の新鮮な反応に俺の口元は緩みっぱなしだ。

 砂でお城を作ったり、綺麗な貝殻を拾って飾ってみたり。なるべく一人で完成させたいようだったから、俺は少しだけ手伝う事にする。

 この為だけに買ったとも言えるカメラを持って璃音を撮り続けた。容量持つかな。


「お兄ちゃんも遊ぼう?」


 そう言って手招きされた時は直ぐに撮るのをやめて一緒に楽しんだ。生璃音最高!

 そう思いつつ、またシャッターを切る俺だった。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ターゲットを捕捉しました。」


 佐藤は通信機に向かって呟く。

 現場についてものの数分で琉空達を見つけることが出来た。自動販売機の前に居た2人にゆっくりと近づき、話しかける。


「私は佐藤と言います。こちらをどうぞ。怪しいものではありません。すみませんが、同行願えますか?」


 青年は佐藤から差し出された名刺を反射的に受け取った。そして名刺を何気なく見て驚きを露わにし、それから険しい表情になった。


「急に、何すか?」

「ミハイロ博士と言ったらわかりますか?」


 そう言って佐藤は人形の方を見た。人形はハッとして佐藤を見返した。


「ミハイロくんを知ってるの?」

「璃音のパパか。」


 あの年でパパは無いだろうと佐藤は内心で突っ込んだ。見た目からしてミハイロはまだ小学生、それも低学年と中学年の間ぐらいである。


「そのミハイロ博士が貴女を探しています。」

「……璃音、どうする? 行かなくても良いんだぞ?」


 青年が戸惑う人形の肩に手を回して自分の方へそっと引き寄せた。


「……ううん、行く。」

「そうか。……俺も同行して良いっすか?」

「貴方も連れて行く予定でしたので、こちらとしては好都合です。車をあちらに止めて有りますので、準備が出来次第あの時計台の前にお願いします。」

「分かりました。」



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 いつかはこうなる気がしてた。璃音は帰りたいと一度も言った事はなかったが、何かを思い出すようにふと虚な目をする事があった。

 帰りたいかと聞かなかった俺もズルイが。

 あの佐藤とか言う男と別れてから、ブルーシートを敷いた場所に戻るまでずっと璃音は何も言わず、時々自分の右肩に刻まれた『7』のタトゥーを見ては瞑目めいもくしていた。おそらくミハイロが彫らせたものだろう。


「なぁ、何もすぐに行かなくても良いんだ。あっちはアポ無し訪問なんだし。」


 俺は重い沈黙を破るように明るい声で璃音に話しかける。璃音は不思議そうにパチクリと瞬きをして俺の方を見た。


「今は海を楽しもうぜ、その為に来たんだしな。準備ってのは心の準備もある。いくら遅くなったって構いやしないさ。璃音はまだ準備出来てないだろ?」


 璃音はまるで天啓を受けたかのように目を見開き、頬を緩ませ頷いた。

 璃音の表情が少しでも明るくなるようにと言ったが、もしかしたら最後になるかもしれない。そう思った俺が一緒に居る時間を伸ばすための言い訳でもあった。


「さぁ、遊びの続きだ!次は何しようか?」

「ビーチバレーやりたい。」

「よし、やるか!」


 それから俺達は暗い気分を晴らすように陽が傾くまで存分にenjoyエンジョイした。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「随分と遅かったですね。」


 時計台の前で直立していた佐藤に開口一番に文句を言われた。待たせていた俺も50%悪いので頭を下げる。


「サーセン。せっかく遊びに来てたのにすぐ切り上げるなんてもったいないっすからね。璃音もすぐに会いたいっていう感じじゃなかったし。」

「そうですか。」


 佐藤はピクピクと口角と眉尻を痙攣させていた。

 こりゃ相当イラついてるな。当たり前か。


「既にこちらは受け容れ体制が整っています。幸いなことに待機時間が長かったお陰です。」


 嫌味かな? 刺激するのもアレだし、ここはスルーするか。


「では行きましょう。」


 佐藤に付いて駐車場へ向かう。

 ピークを過ぎ少し閑散としているその一角に、サトウと同じような服装をした男が小さめな黒塗りのセダンの前に立ってじっとこちらを見ていた。

 佐藤は真っ直ぐにそいつの方へ目指していて、俺達はどうやらあの車に乗せられるらしいと悟る。


「こちらは鈴木です。運転を担当します。」


 鈴木と呼ばれた男は近くで見るとガタイが良かった。この男が大きかったために、車のサイズが少し小さく見えてしまっていた。

 佐藤が後部座席のドアを開けた。


「どうぞお乗り下さい。」


 璃音、俺の順に、丁寧に白いカバーの掛けられた座席に座る。

 佐藤はドアを閉めて、助手席に乗り込んだ。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 道中は誰も言葉を交わさず、始終無言だった。

 エンジン音と、ウィンカーのカチカチ音だけが時折車内に響く。

 暇を持て余した璃音は頭の部分に内蔵された記憶装置からバックアップしていた過去の記録を参照し始めた。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 自分と似た容姿の少年がストップウォッチを左手で持ち、こちらを見据えている。


「今日は耐久テストね。今回はどのぐらいもつかなぁ?」

「……。」


 頬を平手で打たれ、腹に拳を入れられた。

 傾いた身体に畳み掛けるように蹴りを入れられ、地面に叩きつけられる。起き上がるとまた同じ動作を繰り返された。

 顔が歪み、身体には所々凹みが出来ていく。

 それでもまだ意識はあった。


「うん。だいぶ保つようになったね。そうでなくっちゃ。八つ当たり程度で壊れてるようじゃ商品にはならないからね。」


 しばらくの間暴力が振るわれ、そのうち意識が朦朧とし始め、身体の軋みが酷くなっていった。

 ショート直前で行為が止む。


「記録43分。うーん、あと20分くらいは保って欲しいんだけどな。まあ、試作品にしては良い出来か。さーて、修理と修正しないとね〜。」


 その声を最後に、視界がブラックアウトした。


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