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瑠璃色の空  作者: 須玖 明希留
2/6

寝る子は育つのかもなって話

 懐かしい夢を見た気がする。

 緊張と興奮で眠れるわけがねぇ!そう思っていた俺だが、いつの間にやら寝ていた。意外と図太いな俺の神経。

 ふと隣に寝て居る璃音の方を向くと、そこには美幼女がいた。朝から眼福だな。

 よくよく見ると、あどけなさはまだ残るが顔の線が前より少しシャープになって居る気がする。痩せた、わけじゃないよな? 少し成長したか?

 暫くじっと寝顔を眺めていると、璃音がパチリと目を覚ました。


「はよー。」

「おはよう。」


 どうやら璃音は寝起きがかなり良いらしい。俺に挨拶を返すとすぐにベットから降りて流し台の蛇口を捻り、コップに水を汲んで飲み始めた。

 昨日の日中にダラダラしている時、璃音が何かしようとするたびに許可を求めて来たので、勝手にして良いし、勝手に使って良いと言った。

 ただ、ガスと作業机の上にある物は使用禁止にした。危険度が高いからだ。

 その上で不思議に思ったのは、小さい子にありがちなドジをする事が一度も無い事だ。転ぶ、倒す、忘れる。

 一体どういう育ち方をしたらこんな良過ぎるくらい賢い子になるのだろうか。

 俺は手間が掛からずに済んでluckyラッキーなんだろうが、少し物足りないものがあった。だからせめて食事に気を使うことにする。

 ポチった料理本を片手にまずはだし巻き卵と味噌汁を作った。

 あとはテキトーにちぎったレタスにミニトマトをのっけてサラダを作り、炊いたご飯をよそって今日の朝食はこんな感じだ。

 やっぱりインスタントは味気なかったのか、味噌汁を飲んでいた璃音は満面の笑みを浮かべていた。噛み締めるように食べる璃音を見守りつつ、俺も箸を付けた。料理、頑張るか。


 昼には璃音用の生活用品が届き、璃音が少しこの部屋に馴染んで来た気がする。

 密かな喜びを胸に今日も2人で一つのベットに眠りに着いた。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 そうして璃音と出会って二回目の朝を迎えわけだが……。

 なんと言うことでしょう。隣には璃音に似た10才くらいの美少女が寝ていた。思わず二度見た。

 もしこの女の子が璃音なら一晩でかなり大きくなった事になる。タイムスリップしてきた未来の璃音と言われた方がまだ納得できるな。

 成長が早過ぎやしませんかね。よく幼児の可愛い時期は一瞬だって言われてるけど。え?子供ってこんな成長早かったっけ?

 俺が人体の神秘に圧倒されていると、パチリと璃音が目を覚ました。


「りく、おはよう。」

「……おはよう、璃音。その、大きくなったな。」

「……?」


 俺の目線はどうしても胸の方に行ってしまう。すまん、不可抗力だ、許せ。


「鏡見て来てみろ。」


 そう言って脱衣所の方を指差す。璃音は「分かった。」と頷いてそっちに向かった。

 そして脱衣所から出てくるなり俺に小走りで駆け寄って来て嬉しそうに報告した。


「育った! ありがとう。」


 うん、未来から来た説はこれで払拭ふっしょくされたな。紛れもなくただ成長が早かっただけの璃音だ。


 まあ、特に大きくなったからと言ってやる事は変わらないが。せいぜいお祝いにステーキを焼くくらいか。

 璃音には好き嫌いが無く、何でも食べるので俺は自分の好きなものを作ることにしていた。璃音の好みを強いて言うなら、丼ものよりは定食の方が好きな感じか。


 今日も璃音という心のoasisオアシスに少し彩られた代わり映えしない俺の日常が始まった。


 〜fin〜


 終わらねーよ!?(finのテロップを投げ捨てる)



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ミハイロ君。君が作った人形が外で動いていると目撃が入ったんだが。どう言う事か説明してもらおうか。」


 口調の割には柔らかい表情で、白毛の混じった顎髭をさすり男は言った。


「なぁに? 試作品のこと? アレはもう捨てたよ。」

「捨てただと?あの人形の価値がわからないのか。下手をすれば小国を買えるほどの金になるんだぞ?」


 焦げ茶の髪を無造作に掻いて、ミハイロは後ろを振り返り、その青い目を男に向けた。


「そうなの? 不完全なモノに価値があるなんて僕は思わなかったんだけど。でも捨てちゃったから今頃プレス機器にペチャンコにされてるんじゃないの?」

「GPSは付けているのか?」

「うん、社長に言われたからね。一応は。」

「今すぐ調べてくれ。」

「了解でーす。」


 ミハイロはパネルをタッチして地図を出す。海岸に赤いピンマークが表示された。


「海に棄ててって言った覚えは無いんだけどなぁ。」

「目撃情報は『浜辺に現れた外国人美少女』と題してネットにアップされた画像を、我が社の秘書の一人が見つけてお前が作った人形に随分と似ていると気付いた事から来てる。」

「ふーん? 遊んでるってこと?」

「そのようだ。 人形は水着を着ていた。」


 水着という言葉を聞いてミハイロはピクリと耳を動かした。そして「海に入る気なのかな。全身に防水加工はしてあるけど、どーなんだろ?」と独り言を呟いた。


「それで? どうするの?」

「速やかに回収する。万が一人形を他企業に奪われて技術を盗まれたら利益の損失が大きいからな。特許を取り、暫くは我々の独占事業としたいと考えている。」

「試作品だからそこまで大したものじゃないけどねー。しかも魔法陣は埋め込んじゃったし、盗もうとしたって結構な時間かかると思うよ。」

「だからと言ってそう易々と渡すほど軽いものではないだろう。我が社の大事な研究員の賞賛すべき成果なんだぞ。」


 それを聞いたミハイロは照れ臭そうに鼻を鳴らした。


「部下を君に着かせる。2人で事足りるとは思うが人手が必要になったら言ってくれ。人形の回収は頼んだ。なるべくなら無傷が良いが、場合によっては壊してしまっても構わん。他企業が気付く前に処理して欲しい。」

「はーい。」


 研究室を出て行く社長の背を見送りながら、ミハイロはここに来る前の事をふと振り返る。


「親に捨てられて、孤児院で育てられ、僕の天才すぎる頭脳を不気味がられて、僕は僕のルーツがあるジャポネに逃げて、社長に見つけてもらって、今研究室まで貰ってここにいる。

 今はお給料も貰って好きな事をして幸せなはずなのに、心が満たされてないのはなんでなんだろ?」


 ミハイロの独り言は機械音にまぎれた。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 数時間後に社長は2人の男を連れて再び研究室に来た。社長は「後はよろしく頼んだ。」と言ってすぐに出て行ってしまったが。

 頭を下げて社長を見送っていた細身の男がミハイロに向き合った。スーツをキッチリと着こなし、堅そうな印象を受ける。


「今回貴方と協力させて頂く事になった佐藤です。横の男は鈴木と言います。我々の専門はボディーガードですので、捕縛には力添え出来るかと。」


 佐藤が目配せすると隣に居たガタイの良い男は「鈴木です。」と一言だけ言い、一礼した。こちらもスーツだが、キッチリというよりもピッチリという擬音が合っており、別の意味で硬そうなイメージを抱かせた。


「僕はミハイロ。僕は外に出たく無いから、捕まえるのはキミ達に任せるよ。その代わり援護はバッチリするから、よろしく。」


 三人は握手を交わし、研究室のモニターの前へと移動した。


「まずはターゲットの情報共有をお願いします。」

「了かーい。」


 地図が表示されていた画面が、人形の全身が写った画像へと切り替わる。


「棄てる直前のデータはこんな感じ。服は着替えてるらしいから服装から判断するのは難しいかもね。」

「となると特徴としては焦げ茶の髪に、青い眼ですか。あと、ロセアンっぽい顔立ちをしてますね。」

「No.7(ナンバーセブン)は僕の顔立ちと似せて作ったからね。」

「そういえばミハイロさんはロセアンから来たんでしたっけ。」

「そうだよ。社長にスカウトされてジャポネに来たんだ。そんな事よりNo.7だよ。もし本当に起動してるなら今の服装を確認しなくちゃね。社長によれば水着らしいけど……。」


 画面が再び地図に切り替わる。ミハイロはパネルを操作し、ピンマークの位置を拡大した。

 そして指で魔法陣を書き出すと、そこから鮮明な映像が流れ始めた。

 海辺で水を掛け合い遊ぶ楽しそうな二人組。片方は黒目黒髪の青年、もう一方は焦げ茶の長い髪に青い目をした水着の美少女が映し出されていた。


「わぁ!僕の設計通りに育ってるね。どうして僕のやり方だとダメだったんだろ? 後でちゃんと調べないとなぁ。」

「確かに先ほどの画像から比べて大きくなっていますね。しかし、人形が育つのですか?」


 佐藤は信じられないという風に目を見開いてミハイロに質問する。


「簡単に言うと、巨大化魔法に時の魔法を掛け合わせて、少しずつ身体が大きくなる仕組みになってるんだ。それで成長してるように見せてるってわけ。」

「なるほど……。」


 佐藤は冷静に相槌を返したが、内心はとても動揺していた。

 巨大化魔法は一般では禁止され、許可された場所でのみの発動が原則となっている。物を製造する工場などが大規模な生産をする時などに使われているのが普通だ。

 コントロールが難しい為、使用者が意図する大きさにする事が出来ないとされていた。だから一般では使用禁止になっている。それを時の魔法と組み合わせるという斬新な発想をしたミハイロに感心せざるを得ない。

 ちなみに時の魔法は対象の時間経過を遅くしたり、逆に速める事、また止める事も出来るものだが、使える者が世界でも数百人しかいない為、その存在は重宝されている。生死問わず、生物には使えないが。


「試作品にはそこまで期待してなかったんだけどなぁ。うーん……捨てないでサンプルとして保管して置けば良かったかなぁ。」


 ミハイロは人形から青年に目を移した。


「この人の影響もありそう。ねぇ、サトウさん、この人も連れてきて欲しいな。僕の研究に協力してもらいたいんだ。

 あとこれ、No.7の位置データを入れた通信機を即席で作ったから持っていって。」

「承知致しました。行くぞ、鈴木。」


 小さな液晶パネルが付いた腕輪型の通信機を受け取ると佐藤はツカツカと出口に急いた。


「スズキさんもよろしくね。」


 鈴木は首を縦に小さく振って佐藤の後を追った。

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