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瑠璃色の空  作者: 須玖 明希留
1/6

俺達が出会った日の話


Special thanks


リクエストとご協力頂いた時雨さんに感謝を込めて。



 ゴミ捨て場に美幼女が捨てられていた。


 何を言ってるか分からないと思うが、大丈夫。俺にも分からない。

 思わず二度見をしてしまった。目をこすっても頬を抓っても女の子はそこから消える事は無い。


「マジかよ……。」


 ぼさぼさの焦げ茶色の髪を肩まで伸ばし、元は白だっただろう薄汚れて生成きなり色になったブラウスは首元のボタンまできっちりと閉じられていた。厚めの紺色のスカートは膝丈の長さで、女の子の白く細い両足がそこから伸びている。

 目を疑う光景にしばし茫然と突っ立ったままの俺は、右手に持ったビニール袋からツーンと漂う刺激臭にハッと我に帰った。


「そうだ、ゴミ捨てしに来たんだった。」


 とりあえず女の子から出来るだけ離れた場所に可燃ゴミを置いた。そして腕を組んでどうするべきか考える。


「警察に言うのが手っ取り早い解決策だよなぁ。この近くに交番あったか?」


 スマートフォンを取り出して地図アプリを開く。交番を検索するとヒットしたのは一番近くて四キロ先にある交番だった。


「微妙に遠いな!!貧弱過ぎてそこに行くまでに確実にバテるわ!」


 女の子を担いで行くとなると普段からゴロゴログダグダしてる貧弱な俺の筋肉はすぐに悲鳴をあげるだろう。


「起こすか。自分で歩いてもらおう。」


 女の子の頬をペチペチと軽く叩いた。その音と感触に違和感があったが、女の子の目が開いた事ですぐに忘れてしまった。


「…だ…れ……?」


 女の子はその青い瞳でじっと俺を見ていた。身を硬くしてこちらの様子を伺う姿に、俺は何かイケナイコトをしているような変な気分になった。頭を振って変な考えを振り払う。


「俺は琉空りく。君は?」

「りく?……知らない人……。」

「今会ったばっかだし、はじめましてだな。」

「はじめまして……。」


 困惑気味の女の子に俺は手を差し出した。


「立てるか?」

「うん……。」


 女の子はゆっくりと自分で立ち上がる。俺から少し距離をとり、俯いて。俺はやり場に困った手で頭を掻いた。


「あー……なぁ、何でこんなところで寝てたんだ?」

「……? ベッドに寝てた……。」


 ゴミ箱がベッドじゃないよな。寝ているうちに移動させられたんだろう。


「ママとかは? どこにいるかわかるか?」

「ママ?」


 女の子は首を傾げて不思議そうに呟いた。


「ママって?」


 どうやら「ママ」の意味を知らないようだ。嘘だろと思ったが、一生懸命考え込んでる女の子に嘘は無かった。


「保護者、親、motherマザー、お前を育ててる女の人。って言えばわかるか?」

「わたしを育ててる人は男の子。だから、ママはいないよ。」


 父子家庭で最初から「ママ」が居ないならその単語を知らなくてもおかしくないなと俺は思った。


「パパはいるのか。どこにいるかわかるか?」

「パパ?」


 パパも知らないのか?


「お前のお父さん、fatherファザー。ママの男版のこと。」

「……ミハイロくんのこと?」

「ミハイル君とやらは知らないが、お前を育ててるんならそうだな。」

「ミハイロくんは研究室にいつもいるよ。」


 ミハイルは研究者のようだ。この近くに目立った研究所は無いが、いくつか大きな企業がある。ミハイルはそのどこかの所属で、研究室はその内部施設のことだろう。


「その研究室ってどこにあるかわかるか?」

「わたし、研究室から出たことない……。ここ、どこ……?」

「マジかよ……。」


 研究室から出たことが無い? どういう事だ。監禁? 人体実験? そして多分捨てられたという事は……。俺は悪い方向にしか考えられなかった。

 ミハイルとかいうやつのところに帰すのを躊躇った俺は、自分の部屋に連れて帰る事を考えた。

 いや、決して疚しい気持ちは無い。決してな!


「なぁ、お腹空かねぇ? 飯作ってやるから、俺ん家来いよ。」

「……おなかすいてる。」

「決まりだな。よし、ついて来な。」


 手を差し出すと、女の子はおずおずと俺の人指し指を掴んだ。なにこの可愛い生き物、天使かな?

 思ったよりガサガサして乾燥している肌の感触にそんな煩悩はすぐに吹っ飛んだ。

 後でハンドクリームを買ってやらねばと決意してゆっくりと帰り道を歩いた。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ほい、到着!」


 疲れたのか途中で眠ってしまい、おぶっていた女の子をソファに寝かせた。


「あ"ー、明日筋肉痛確定だなぁ。」


 ふんっと伸びをし、肩を軽く回したらポキポキと骨が鳴った。


「湿布は……消費期限切れならあるのか。全然使わねぇもんなぁ。っと、それより飯メシ。カップ麺の野菜マシマシで良いよな? つか、それしかねぇし。」


 やかんに水を注ぎ、火にかける。

 キャベツ、玉ねぎ、ニンジンをザクザクとテキトーに小さく切っていく。レンチン(レンジで温め)して、具の完成。

 沸騰させたお湯をカップ麺に注ぎ、切った具材を入れて蓋をして待つこと3分。

 付属のスープの素を溶き入れたら即席野菜マシマシ味噌ラー麺の出来上がり。


「おーい、起きろー。飯だぞ〜。」


 ツンツンと頬を軽くつついてみると、意外と固めの感触だった。柔らかそうな見た目に反しているのを不思議に思いながらつついていると、女の子が目を開けた。


「おはよう。ご飯食べるか?」


 トロンとした寝惚け眼で頷いた女の子にフォークと取り分けた即席野菜マシマシ味噌ラー麺を小皿に乗せて差し出した。

 それを受け取ると、小さな声で「いただきます」と言ってモソモソと少しずつ口に入れ始める。それを見て俺も即席野菜マシマシ味噌ラー麺を食べ始めた。女の子に分けつつ、食べ進めていると、底が直ぐに見えてきた。まだまだ腹の半分も満たされてない俺はもやしも入れるべきだったかなぁと後悔した。でもヒゲ(根っこ)取るのが面倒なんだよなぁ。

 女の子も小さい身体の割によく食べた。幼女の食欲をナメていた俺の落ち度だ。


dessertデザートでも久し振りに食べるか。」


 太るからと自重していた魅惑の甘い食べ物を今こそ解禁する時!俺は意気揚々と冷凍庫を開け放った。

 蓋にデカデカと書かれたスーパージャンボアイスの目に痛い黄色い文字に、俺のテンションはうなぎ登りだ。

 聞いて驚け、サイズはなんと、俺の両手に収まるくらい、つまり直径約20センチ!

 カップアイスの中ではぶっちぎりの大きさを誇るこのスーパージャンボアイス。味はバニラ、チョコ、イチゴのど定番の三種類。お値段なんとたったのワンコイン!(※実際には販売しておりません)

 スプーンを手に取り、いざ実食。


「約三ヶ月ぶりのsweetsスイーツ。ふへへへ、いっただっきまーす!」


 白い雪原にスプーンを突き立て口に運ぼうとした瞬間、ソファからの熱烈な視線を感じた。

 振り返ると女の子がじっと俺を、正確には俺の左手のスーパージャンボアイスを見つめていた。

 女の子をすっかり忘れていた俺は罪悪感を感じた。


「……お前も食べるか?」

「それ、なに?」

「アイスだ。正確にはラクトアイスだ。」

「アイス?氷?」


 食べたいと言うよりも興味があって見つめていたらしい。女の子は小首を傾げてスーパージャンボアイスを指差した。お菓子のアイスを知らないとは。


「冷たくて甘いトロける食べ物だ。つまりウマイ。」

「とろける……。」

「ふっふっふ、口の中に入れると熱で溶けるのだよワトソンくん。」

「ワトソン……わたし?」

「ん?ネタだよネタ。それともお前の名前ってまさかのワトソンなの?」

「わたし、今は名前無い。機体ナンバーは7。元の名前は……記録が無い。」


 記憶がないのか。期待numberナンバー?ラッキーセブン?


「とりあえず食べながら話すか。さっさと食わんと溶けちまう。」


 女の子から小皿を返してもらい、ささっと洗ってアイスを取り分けた。


「ほれ、お前の分。」

「……ありがとう。」

「んー!んっめ〜。やっぱアイスはウマイな!」


 俺が一口食べるのを見て、女の子もおずおずと口に運ぶ。


「……溶けた。」


 驚きを隠せなかったのか瞬きもせずにポツリと溢した。


「だろだろ?雪のようにスッと溶ける。それがアイスの醍醐味よ。お前の家では出なかったのか?かき氷も?」

「かき氷……?」

「氷を細かく砕いてシロップをかけたお菓子だ。」

「……氷のお菓子は、食べた事無い。」


 じっと興味深そうにアイスを見つめる女の子。

 はっはーん。さてはミハイル、頭キーンってなりやすいタイプだな?娘にカッコ悪いところ見せたく無くてその存在さえ教えなかったとか。

 そう考えると自己中だけど極悪人ってわけじゃないのかもな。その行動がカッコ悪いけど。

 女の子は痩せても無いし、ラーメンは知ってるようだし。飯はしっかり食わせてたんだな。


「今度食べさせてやるよ。

 それで?パパの名前は覚えてるのに自分の名前は覚えて無いんだな?

「……うん、消去されてる。」


 独特な言い回しをするなぁと思った。個性的な俺が言うとブーメランか。


「名前が無いと不便なんだよなぁ、俺が。思い出すまでは勝手に付けた名前で呼んでもいいか?」

「……。」

「ま、いやならいいわ。それなら幼女ちゃんて呼ばせて貰うから。」


 幼女ちゃんはとっても嫌そうな顔で俺の方を見た。そしていかにも渋々という風に名前を付けることを許可してくれた。


「『りん』っていうのはどうだ?」

「それが、わたしの名前……?」

「そうだ。瑠璃るり色の璃に、音で『璃音りん』。瑠璃色は海の色、音は広がるって所に色んな世界を見て欲しいって意味を込めてな。」


 璃は俺の琉の響きと一緒だし、形が似てるから兄妹感があって良いなと思ったのもある。引かれそうだから言わないけど。


「……璃音りん。」

「なかなか良い名前だろう?」


 璃音りんは首を縦に振ることは無かったが、少しだけ嬉しそうに口元を緩めている。様な気がする。きっと喜んでくれてるはずだ。多分。

 ……悲しそうな表情にも見えなくも無いな。あれ?俺間違ったか?なんか間違ったか?

 静かに葛藤している俺をよそに、璃音りんは取り分けた分のアイスを平らげて流し台で皿を洗っていた。


 璃音りん、恐ろしい子!


 俺の心が落ち着いた頃には、もうアイスはデロデロに溶けていた。


 取り溜めていた海外ドラマや映画を見つつ、ダラダラとネットサーフィンをする。引きこもり最高、引きこもり万歳!

 通販サイトでハンドクリームとその他璃音の為の生活用品もポチっておくのは忘れない。


 昼飯も即席野菜マシマシ醤油ラーメン。三つ開封して余った分は夕飯に回した。代わり映えしない俺の男飯。カップラーメンって楽で良いよな。

 そんなズボラ飯にも関わらず璃音は文句も言わずに黙々と食べていた。

 流石にずっとカップラーメンはマズいかもしれないな。野菜炒めの方がマシか?


 そしてまたテレビを観ながらダラダラしているとそろそろ良い子は眠る9時になる頃に璃音が俺の袖を軽く引っ張った。カワイ過ぎかな?


「りく、歯磨きしたい。」

「おう。大人用しか無いがそれで良いか?」


 洗面台に璃音を連れて行く。

 なんだよ?うん?お前の使用済みをあげるつもりかって?

 何言ってんだ!?新品に決まってるだろ!?

 疑わしそうな(疾しい妄想をしてしまった事に後ろめたさを感じている琉空の幻視)璃音の目の前で開封した紫色の歯ブラシを渡す。


「ありがとう。」


 シャコシャコと音を立てて歯を磨く璃音を見習って、俺も青色の歯ブラシを咥えた。何となく私物はblueブルー系統で統一してる。左手のコップも水色だ。

 それにしても、言われずとも自分から皿を洗ったり、歯を磨こうとしたり。璃音は俺が思ったよりも子供じゃないのかもなぁ。見た目は小学校低学年くらいだからフツーなのか?

 だとしても偉いわ。俺がその歳の頃はmamanママンに甘えまくってたから。

「ママ、歯磨いてー。」だの、「ママ、抱っこー」だの。今考えると恥ずかしいな俺。

 おいおい、俺がマザコンかって?よく分かったな、俺はmama’sママズ boyボーイだ。


「ほい、ほっふ(コップ)。」


 磨き終わったのを見計らって手渡す。璃音はペコリと頭を軽く下げてコップを受け取り口をすすいだ。

 そして返却されたコップに水を注いで俺も……いやいや、別に間接kissキスキタコレとか思ってねえし!洗うのが面倒なだけだし!


「りく、わたしどこで寝ればいい?」

「お、おう。俺のベッドで寝ればいいんじゃないか? 俺はソファで寝るし、しかもそれもベッドだし。」


 今時流行りのソファベッドってやつだ。最高にcoolクールだろ?


「あ、それとも璃音はこっちがいいか?」

「りくが寝る方に寝る。」


 Pardon(なんて言った?)?


「え?俺と寝たいって?」


 聞き間違いかな?


「寝たい、違う。寝るの。常識ではないの?」


 キョトンと純粋な目でそう言われるとなんだかグッと来るものがある。じゃなくて、え? 常識? 常識なの?

 多分、パパならいいんだろうけど、俺今日知り合ったばっかりだぞ? 大丈夫か?

 そう言うと璃音は無機質な青い目で俺を真っ直ぐに見た。


「今の保護者はりくだから。」


 俺が保護したから保護者か。字面は間違ってないな。意味は違うけど。


「まぁ、璃音がいいなら別にいいぞ。それならフツーのベッドで寝るか。あっちの方が広いし。」


 この機会を逃す手は無いとばかりに矢継ぎ早に言う。据え膳食わぬは男の恥ってな。


「わかった。」

「その前に風呂だな。璃音一人で入れるか?」

「うん。」

「あー……その前に着替えだな。すっかり忘れてた。とりあえず通販のやつポチっとくか。今日はどうしような……。」

「このままでいい。」

「それは衛生的に悪いんじゃないか?」

「大丈夫。問題ない。わたし人形だから。」


 いやまぁ、確かに人形みたいに可愛いけどな。


「でもなぁ……やっぱり汚れてるしそのままじゃだめだろ。」

「わかった。」


 連れて帰った時に即風呂に入れなかった俺も悪いな。反省。

 って、なんか脱ぎ出してるー!!


STOPストップ!待った!」


 璃音は小首を傾げて動きを止めた。


「こうしないと、洗えない。」

「いやうん分かるけど。脱衣所でやろうかそれはさすがに。脱衣所はあっち。風呂と繋がってるから。勝手にお湯入れて入ってていいから。スイッチは浴槽の近くにあるから一番上のボタンを押せば出て来る。」

「わかった。」


 素直に脱衣所に行ってくれたので、俺は着替えをどうしようか考え始めた。


「下着はコンビニしか思いつかねぇな。この時間帯にパジャマ売ってる所なんてあるのか?」


 検索するがヒットするのは数件でどれもここからかなり遠い場所にあった。

 俺の服を貸すしかない。かなりぶかぶかするだろうけど。今が冬じゃ無くて良かったと心底思う。

 タオルとトレーナー、短パンを持って脱衣所の前に置く。


「タオルと着替えここに置いとくな? 俺ちょっと出かけて来るから留守番頼んだ。」


 ドアの向こうに呼びかけると、「わかった。」と言う璃音の声が風呂場から反響して聞こえた。


「店員さんに変な目で見られる覚悟をしなきゃな……。」


 俺は遠い目で呟きながらスニーカーを履いた。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「……。」


 結論から申し上げますと案の定変な目で見られました。男性店員の生暖かい目だったから尚更辛い……。

 精神面的にダメージを負った俺はソファーに突っ伏した。

 しばらくはもう一軒先のコンビニ使おう、そうしよう。


「りく、タオルありがとう。」


 この癒しvoiceボイスで俺は何度でも蘇れそう。って風呂から上がってたのか。

 あれ?俺下着まだ渡してなかったよな……。

 思わずガバッとソファから身を起こす。

 そこにはぶかぶかの男物のトレーナーを着たおそらくノーパンの美幼女が……。


OUTアウト!」


 思わず叫んでしまったが、俺の精神衛生上ヤバイ。

 え?なに?この理性破壊神の権化と一緒に寝るって?それなんて無理ゲー!

 動揺しながらも買ってきた下着を渡す。


「下着買ってきたから、脱衣所でこれ着てこい。多分ぶかぶかだと思うけどなんとか工夫して着てくれ。脱衣所でな。」


 大事な事だから二回言った。

 璃音はコクリと頷いて脱衣所に再び戻って行った。


 璃音が着替えた後、俺もシャワーを浴びてさっぱりとした。


 さて、お待ちかねのbedtimeベットタイムだが。先に寝かせた璃音を見て、少し後悔する。

 今夜はちゃんと眠れるんだろうか。

 俺は不安を抱えたまま、璃音に背を向けてベットに横になった。



 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



「ただいまー。」


 幼い俺がベットに駆け寄る。真っ白いシーツに飛び付くと消毒液の匂いがふわりと漂った。


「いらっしゃい、琉空りく。」


 そんな俺を優しく迎えてくれたのは、ベットに横たわった女の人。


「学校の課題で名前の由来について聞いて来いって言われた。ねぇ、ママ。琉空りくってどういう意味があるの?」


 ママは蒼白い顔に微笑を浮かべて、細い指を絡め窓の外を見た。


琉空りくっていう名前はね。ここに居て、パッと思い付いたの。

 ここからは空がよく見えて、今日みたいに青空に雲がプカプカ浮いている日もあれば、黒い雲が全体にかかってシトシト雨が降ってくる日もある。風が吹いて、木の葉が飛んで来たり、天気雨で虹がかかったり、空は色んな事が起きてる。

 貴方のこれからの人生にもきっと色んな事があるでしょう。だから私が色んな空を見て楽しんでいるように、生まれてくる子にも降りかかる色んな事を楽しんで欲しい。そんな思いを込めたわ。」


 子供の俺はプリントと睨めっこしていた。汚い字で『ぱっと思いついた。ここから、空にくもがぷかぷか、黒い雨』文章はここで途切れている。


「長いよママ。ママが書いてよ。」

「あら、ママ任せにするなんてズル賢い子ね。ちゃんと覚えて欲しいから琉空に書いて欲しいな。今度はゆっくり話すから。」


 そう言って俺の額に手を伸ばし、気付かないうちに寄っていた眉間のしわを指で撫でながらママは優しく微笑んでいた。


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