魔法使いじゃないから!『レベル11―天の川に魚は泳いでいませんから! ―』
―1―
「わあ。夜に流れる川があるなんて凄いね!」
そう言った彼女は、銀色の髪の少女だ。
これから話すお話は、昨年の七夕のお話し。
でもいつも通り自己紹介から始めるね。
僕は、審七生。現在高校二年生。昨年の登校初日の帰り道に、銀色に光る水色の髪に瞳の少女ミーラさんと出会った。
ミーラさんに僕は、彼女の世界から召喚したモンスター倒しを押し付けられた! ミーラさんが持参した『杖』は、師匠が造ったよりによってレア物だったらしく、僕にしか使えないものだった!
向こうの世界では、その杖を造れば名が轟く程の逸品らしい。でも地球じゃ使わないものだし、杖なんて持って歩けない! と言ったらミーラさんの師匠のパスカルさんは、ペン型にしてくれた――大きなお世話だ!!
杖をレベルUPさせたいパスカルさんは、ミーラさんを杖野ミラと言う名で転校生として送り付け、事もあろうに彼女が作った『モンスターを召喚できちゃう』杖を使わせ、僕にあの杖を使わせようとした。――その企みは残念な事に成功してしまった。
今日は、かそう部の皆で天の川の鑑賞の予定だ。『かそう部』――この部は、趣味全開! 魔女っ子大好きの大場幸映と同じクラスの二色愛音さんがエンジョイする為に作った部だ!
僕はその部の部長だ。やりたくないがやらされた! そしてミーラさんは、部員になった。
いつもミーラさんが絡むと、よくない事しか起こらない。今日は今の所大丈夫そうだけど。
「ねえ、この世界にも魚っているよね?」
「魚? いるけど……」
「やっぱり、川と言えば魚だよね」
いや、川と言ったら山だろう。
うん? 合言葉じゃないのか?
って、まさか!
ミーラさんは、いつの間にか杖を手にしていた。
あの杖は、ミーラさんが作った失敗作。
失敗と言っても何も出来ないんじゃなくて、モンスターを出しちゃうとんでもない杖!
もしかして彼女がやろうとしている事って!
「えい!」
「ちょっと待って!」
遅かった!
天に向けて振った為、モンスターが上から振って来た!
勿論それは、魚です。
天の川って言っても、本当の川じゃないからぁ!!
―2―
「ねね、七生くん。七夕ってなーに?」
七夕の前日の放課後、部室で突然そんな質問をミーラさんが僕にした。
誰から聞いたのやら。
変な事言い出しそうだ。
「織姫と彦星が、1年に1度だけ天の川で会える日」
「夜空にある川なのよ」
「えー!! 見たい!」
変に興味を持たれないように簡素に答えるも話を聞いていた二色さんが付け加える。
夜空にある川なんて言ったら見たいって言うに決まってるのに……。
「じゃ、四人で見に行きましょう!」
「もしかして、部活動って言わないよね?」
「いや、私服でいいだろう?」
僕が聞くと大場がそう答えた。
まあ、結局四人で行くんだけどね。
明日は土曜日で、学校の近くの河川敷に19時半集合となった。
場所がわからないので、ミーラさんは僕の家に来る事に。
次の日、ふと何か感じ振り返ると、魔法陣が出現してそこからミーラさんが!!
ここに直通かよ!
って、靴のままじゃん!
「おまたせ」
「おまたせ。じゃなくて、靴脱いでよ」
「そうだった!」
大人しくミーラさんは、靴をぬぐ。
って、制服なんだけど……。ま、いっか。
「あ、そうだ。杖はちゃんと持って行ってね」
「……必要ある?」
「モンスターが出るかも!」
この世界にはいないから!
ミーラさんが出さない限り、出現しないから!
でも一応持って行こう。もし万が一、ミーラさんがモンスターを出した場合、僕にしか倒せないんだから。
こうしてペン型の杖を持参して、河川敷に向かった。
僕達は、19時過ぎに到着。
ミーラさんが急かすから早めに家を出たからだ。
まだ、明るい。
「川見えないね」
「まだ明るいからね」
見上げて言うミーラさんに、そう言うと僕は草の上に座り込む。
そうすると、ミーラさんも横に座った。
二人で何もせずにただぼんやり過ごすのって初めてかも。
「夕日が綺麗だね」
「うん……」
ドキっとした。夕日を見つけるミーラさんが、ちょっと神秘的に見える。髪色のせいだ。うん。
早く二人こないかな。
何かこの間が嫌だ。嵐の前の静けさのようで怖い。
―3―
うーん。二人共遅くないか? 半になったんだけど。
「うわ。星がいっぱい!」
「そうだね」
「ねね、どこに川があるの?」
二人には悪いけど、ミーラさんが満足すれば帰れるし。
あっち。
僕は天の川を指差した。
おぉっとミーラさんは、感動している。
「わあ。夜に流れる川があるなんて凄いね!」
うん。星の川だけどね。
「ねえ、この世界にも魚っているよね?」
「魚? いるけど……」
「やっぱり、川と言えば魚だよね」
何の話だと振り向けば、いつの間にかあの杖も持って振りかざそうとしてた!
「えい!」
「ちょっと待って!」
あぁ!!
僕の予想は当たった!
って、何でこうなるんだ!
ミーラさんが出した魚のモンスターは、僕らの頭ぐらいの大きさで僕達の目の前に落ちて来た!
それもなぜか二体!
「二人は、恋人なの!」
ちょっと待て!
何を吹き込まれている!?
「凄いよね。引き裂かれた二人が一年に一度出会う日なんて!」
「誰から聞いたかしらないけど、出会うのは魚じゃないからな!」
「え!? そうなの?」
どういう思考回路してるんだよ!
って、そんなコントの様な会話をしていたら魚のモンスターは、ピチャピチャと跳ねながら川へ向かっている。
まずい! 川に逃げられたら追いかけられない。
僕は、ペン型の杖を手にした。
「るすになにする」
杖を元に戻す言葉を口にすると、ペン型だった杖は元の大きさになった。
「待て! 消滅しろ!」
杖を向けて唱えるも一度じゃやっぱり消滅しない。
って、ちゃぽんって水の中に!
「げ! 逃げら……いった!」
慌てて川に向かうと、魚のモンスターが口に含んだ水を僕に向けて発射した!
水鉄砲かよ。
これが水圧があって結構痛い。
二体並んでぴゅーとやってくるからたまらない!
って、僕ずぶ濡れなんだけど!
「七生くん、がんばぁ!」
「がんばぁ~。じゃない! どうするのこれ!」
辺りが暗いからばれないけど、ミーラさんの杖で出したモンスターは、僕以外の人にも見える。
ばれた大惨事だ!
人に見つかる前に、消滅させないと!
「消滅! 消滅!」
やっと一体が消滅した。
あれ? もう一体の目が赤い……なんで?
目が赤くなるのは、ゲームでいうならある程度HPが削れると、敵が狂暴化になる状況と一緒だ!
もしかして、対だからなのか!?
めんどくさいモンスターを召喚しないでほしい!
「うわぁ!」
右腕に水が命中し、痛みで杖を離してしまった。
って威力半端ない!
僕は、杖を拾うと左手に持った。
右手がジンジンしている。
僕は距離を保って攻撃する事にした。
杖の有効距離がわからないけど、そうしないとこっちが攻撃出来ない。
「消滅! おわぁ」
水が当たるも、痛いけど威力はそこまでない。
「消滅! 消滅!」
やっと、魚のモンスターは消滅した。
僕は、へなへなとその場に座り込んだ。
疲れた。
「大丈夫?」
「大丈夫なわけあるか!」
「杖、持って来てよかったね」
「よくないわ!」
もう勘弁してほしい。
流石にずぶ濡れって寒いんだけど!
「お待たせ。悪い悪い」
大場がそう叫びながら僕達に近づいて来た。
やっと来た。
「くっしゅん」
僕は、盛大なくしゃみをしたのだった。
―4―
大場と二色さんは、僕を見て驚いている。
「なしたのお前」
さてどうしよう。
本当の事を言うと面倒だよな。
「か、川に落ちた」
「はぁ? 何やってんだよ」
「大丈夫なの? 怪我は?」
「うんまぁ。右手がちょっと痛いかな」
二人は、チラッとミーラさんを見た。
怪しんでいるのかもしれない。
「うんとね。魚を追いかけて……」
「うわぁ!」
僕は、慌ててミーラさんの口を塞ぐ。
これでまた、自分達もモンスターを出すなんて言われたら僕は帰れない。
早く帰りたい。寒いんだよ!
「そう! 魔法で魚をすくおうと!」
「それで川に落ちたと?」
僕が頷くと、大場は大きなため息をついた。
「気持ちはわかるけどさ」
わかるって何?
大場も魔法で魚をすくいたいって事!?
「まあそれは、また今度という事で花火しましょう!」
「花火って何?」
「これよ。これ買いに行っていたら遅くなって」
買い物袋から出したのは、花火セットだ。線香花火もある。
帰りたいけど言ったら帰してくれるだろうか?
「わぁ。すごーい」
って、もう始めてるのかよ!
結局、僕は花火をして帰る事になった。
寒い! これ絶対風邪ひいた。
明日は、大人しく寝ていよう。
まあこのずぶ濡れがなければ、楽しい時間だったんだけどね。
―エピローグ―
「見舞いに来てやったぞ」
来なくていいのに三人で何故か学校帰りに来た。
やっぱり風邪を引き、月曜日になっても下がらなかった。
「魔法使いなのに、体弱すぎじゃないかしら?」
なぜ魔法使いは、体が強い設定なんだ。
二色さんの魔法使いのイメージがよくわからない――が、これだけは言える。
「僕は、魔法使いじゃないから!」
「何、言ってんだよ。魔法で、魚を釣ろうとしたんだろう?」
そう言えば、誤魔化す為にそう言ったんだった!
「それでも魔法使いじゃないってば!」
「熱にうなされてるわ」
二色さんが、そう言った。
三人がいたら余計熱が上がりそうだ。
それなのに、三人は僕の部屋で魔法使いの話で盛り上がっているのだった――。