表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
99/198

九十九話 希望

「……大丈夫か?」


「大丈夫だって……急がないといけねぇからな」


あれから何度も肩を貸そうと申し出てくれている鉄に、

俺はやっぱり何度も断りの返事を入れている。


「ただでさえさっきの手当てで時間を取られてんだ。

 この調子で行くとさ……今日中にぎゃ……先生に合流出来ねぇぞ」


羽膳との戦いを中断して森に入ってからすぐ、

あちこちの出血が痛々しいとの事で子供達から手当てを受けた。

一人戦う俺の事を気遣ってか、

青が治療道具を持ってきてくれていたから、今の俺は動きづらいまでに

全身が包帯でぐるぐる巻きにされている。


それが理由という訳でもないが、

動きの鈍い俺のせいでどうしても俺達の行軍は遅れていた。

そして、あの戦いを切り上げた時点で既に陽が沈みかけていたのもあって、

今この森の中は相当に薄暗かった。


「そろそろ……灯りが無いと迷いかねないな」


先導する青が困り顔で呟く。

この森の中で迷ってしまうと逆徒を追うどころの話じゃない。

普通に遭難する。


「……でもさ、灯りを付けて大丈夫かな?」


咲は不安げに空を見上げる。

恐らくは、羽膳の奴がその灯りを頼りにこちらを見つけてしまうのを

警戒しているんだ。


「……どうなんだ、界武。

 あの……鳥の毛人と鬼の毛人、どっちが強いんだ?」


鉄のその質問、ちょっと答えるのは難しかった。


「実はよく分かんねぇんだよ、俺も。

 羽膳の奴も遠鬼も、全力で戦ってるのを見た事はねぇんだ」


「全力って……あの鳥の毛人、羽膳……だったか?

 お前と戦ってた時も全力じゃなかったってのか?」


「ぐっ……!」


尚更に答えにくい質問が来た。

素直に肯定してしまえば、俺は全力を出してない相手にボロボロになるまで

やられていたと自白する事になる。


「あ……あれは全力……だったかもしれないな。

 だけどな、俺はあれを含めて二回しか羽膳と戦ってない。

 だからアイツが本当はどこまで戦えるか……何てのはよく分からない」


「……そうなのか」


言い訳のように聞こえかねない言葉に、鉄の方も反応が弱い。

……ここは一つ、もう少し虚勢を張って見るべきか。


「勿論……俺の方だって全力で戦えなかったんだ。

 この右手のせいでな……」


「右手? ああ、動かないんだっけか」


「そうそう、そうなんだ。

 でも本気で戦う時はこの右手を包帯でしっかり固めて

 ちゃんと拳を作るんだよ。そうやって右拳が使えたらな、

 俺の格闘術でも使える技がもっと増える。それなら多分、

 あの羽膳の顔をもう二、三発はぶん殴ってやれたんだけどな……。

 だけど……ほら、今回は先生と話し合うつもりだったから、

 右拳を作って来なかったんだ」


「そうか! それなら右拳が使えたらアイツに勝てたんだな!」


(か……勝てた? いや、流石にそこまでは……)


そう思ったが口には出せない。鉄の尊敬の眼差しが俺にそれを許さない。


「た……多分な」


「そうか……界武、やっぱりお前、凄いな……!」


「だ……だろう?」


……これ以上は不味い。嘘を付いているつもりはないが、

それでも騙しているみたいで居たたまれなくなる。

そう思った俺は多少強引でも話を変える。


「じゃあ話を戻すけどな、俺はあの二人のどっちが強いかは正直分からない。

 だからもしかしたら羽膳の奴が勝っていて、

 今は俺達を探してこの上空を飛び回ってるかもしれない」


「じゃあやっぱり灯りを使わない方がいいのか?」


不安そうに聞いてくる青。だがその返事をすぐには出来ない。

おかしいんだ。先の言葉、自分で言っておいてなんだがまるで現実感が無い。


「う~ん……」


「ど……どうした、界武。急に唸りだして……」


「ああ……それがな、青。さっき自分で羽膳が勝っているかもとは

 言ったんだけどさ……何故か俺は遠鬼が誰かに負ける姿、

 って奴が全く想像出来ねぇんだ」


「じゃあ……あの遠鬼って毛人が勝つって言うのか?」


「多分……勝ってると思う。いや、多分じゃねぇな……

 勝ってるわ、間違いなく。そういう訳で見つかるのは気にしなくていいぞ。

 思いっきり明るくして少しでも早く追いつくんだ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。本当に……大丈夫なのか?」 


「ん? ああ……心配するな、大丈夫だって。

 遠鬼が負ける訳が無いんだよ、よく考えればな」


疑り深くなる青の気持ちは分からないでもないが、

この安心感ばっかりは共有できないだろう。

何しろあの遠鬼だ。戦いに人生の全てを費やしたような戦闘狂なんだ。

それがあんないい所の坊ちゃんみたいな羽膳を相手にして、後れを取る筈がない。


春夜さんや月陽ならこの気持ちを分かってくれるだろうけど、

青達にはまだちょっと無理だ。


「……変だな、それ」


一応は納得したような顔をした青だったが、

今度は別の疑問が湧いてきたようで、神妙な面持ちで俺に聞く。


「何がだよ?」


「だってさ……界武、今の話の通りだとお前、

 あの遠鬼って毛人の事を信頼してるように聞こえたんだよ」


「し、信頼……!?」


気持ち悪い事を聞く奴だと思ったが、

怪訝な表情をしているのは青だけではなく、鉄や咲も同じだった。


「信頼とか……そんなんじゃねぇよ」


慌てて否定する。だが……信頼でなければこの感情は何だろうか?

それが今は俺自身にも分からない。


「……でも、聞いてると遠鬼ってのは界武よりも強いんだろう?」


「何だよ鉄、お前まで……」


「俺はそこでちょっと変だと思ったんだ。

 だって今までアイツ、界武の言う事に従ってるような感じだったし、

 てっきりお前の方が強いのかも……とか思ってたんだ」


その鉄の言葉に他の二名も特に異論が無さそうな所を見るに、

彼等からは俺と遠鬼はそんな関係に見えていたらしい。


……そういえば、俺が遠鬼から教えを受けて特訓をしている姿、

なんてのは見せていなかったから、そんな事もあるのかもしれない。


「いや……それはな、アイツは強い奴と戦いたいってだけで、

 他の事はどうでもいいから俺に任せてる……って感じなんだよ」


「……それなら尚更、そんな毛人と一緒にいて怖くないの?」


「……怖い?」


咲の言葉に遠鬼の事を思い出してみる。

そりゃああの体躯だ。最初にあった時はちょっと怖いと思った事もある。

だけど……今は怖くない。遠鬼には恐怖を感じる部分が全く無いんだ。


「いや、全然……」


「で、でも……そんな強さに拘ってるような毛人なら、

 界武が人間だと知ったらすぐ食べちゃうんじゃないの!?

 毛人って……人間を食べると強くなれるんでしょ!?」


「ああ、それは……」


遠鬼が言うには、自分はもう十分強いから人間なんか

食べる気がしないんだそうだ。

変な話だとは思わなくもないが、実際俺達をそんな目で見た事なんて

一度も無かったせいか、今では全く疑っていない。


「アイツ、人間食べなくても十分強いから食べた事無いんだとさ」


「そんな言葉……信じるのか?」


相変わらず青は疑り深い。だが……。


「実際にな、アイツは最初っから俺や月陽が人間だと知ってるけど、

 食べようなんて素振り全く見せてないぞ」


「「「え!?」」」


「な、何だよ三人揃って……」


俺としてはこんな話を続けるよりもさっさと灯りを付けて

先に進みたいんだが……。


「界武、人間だって知られてるのに毛人と一緒にいたのか!?」


「ああ……そういや言ってなかったか?

 遠鬼と延老さんは知ってる。春夜さんは……

 ちょっと事情があって教えてないけど」


「界武、自分よりも強い毛人が側にいて、

 しかも人間だと知られてるのに……何で平気だったんだ!?」


一番俺の近くにいた鉄が、掴みかかる勢いで俺に聞いてくる。


「平気? ああ……そういう事か。

 ようやくどうしてお前達がそんなにこの話題に食いつくのか分かったぞ」


逆徒の教育方針については大体想像出来るし、この子達を見る限りは

その想像は実態と大きくズレてはいないと思う。


人間にとって魔族は捕食者であり不俱戴天の敵。

共存など有り得ないしどちらかが滅ぶまで戦うしかない、

ぐらいの固定概念がこの子達にはあるんだろう。逆徒の教育の賜物である。


だからこの子達には分からない。

俺と遠鬼は人間と魔族ではあるが……仲間なんだ、という事が。


「お前達の言いたい事も分かる。俺も何人もの魔族と会った事があるけど、

 人間を食べ物としか見ていない奴も沢山いたからな……」


(というか、遠鬼を除いて殆どそうだったような気もするな。

 野盗とか牧場の管理人とか……そんなんばっかだったし)


「だけどさ、そうじゃない奴も居ない訳じゃないんだ。

 遠鬼の奴もそんな一人だ。それで……俺と遠鬼は今は仲間なんだ」


「人間と……毛人が?」


「そうだ。話してみれば意外といい奴も居るもんだぞ、魔族の中にも。

 勿論……嫌な奴の方が多いのは否定しないけどな」


そう言って羽膳の事を思い出す。

……次は、あの蹴り主体の格闘術をどうするか考えないと。


「……俺、界武と会ってから驚く事ばっかりだ」


俺の肩に乗せていた手を引くと、鉄はしんみりとそう話す。


「人間なのにこの毛人の世界の中で生きている、

 それだけでもう十分驚いたのに……」


「私達に幸せになる為に戦えとか言ったり……

 私、あの時まで幸せって何か全然知らなかった。」


咲が鉄に続く。


「そうだな。そしてさっき戦ってる所を見たけど、

 本当に強いんだもんな、お前。

 俺は人間が毛人と格闘戦が出来るなんて考えた事もなかった」


青までもが話に加わる。

呆れられてるのか、それとも褒めてくれてるのか……後者だと嬉しい。


「そしてついには毛人を仲間にしてるんだもんな……!

 俺さ、界武の事本当に凄いと思う!」


(ああ……後者だった、良かった)


その鉄の言葉にほっと胸を撫でおろす。

……でも、これでいい感じに話がまとまったんじゃないだろうか。


「そりゃあ良かったよ。

 それじゃ、灯りを付けて急いで先生を追いかけないか?

 もうちょっと凄い所を見せてやるからさ」


「凄い……所?」


「……ああ! 俺がしっかり先生を説得してやるよ。

 そしたらお前達はな、残ってる皆と幸せに暮らせるようになるんだ。

 ……どうだ、急ぎたくなったか?」


「ああ!」

「おう!」

「うんっ!」


青達は背負う荷物から松明を取ると、急いで火をつけ始めた。

その表情は皆明るくて希望に満ちてるように見えるが、

見えるだけじゃなくて実際にそうなんだろうと思う。


(責任、重大だな……)


俺は包帯だらけの自分の身体を見詰める。

幸い骨を折ってはおらず、青達の献身的な手当てのお蔭か

徐々に体力も戻って来ていた。

魔力は……透明の腕はともかく、銀の腕を作れる程はまだ戻っていない。

だがそれとて歩いている内にある程度は回復するだろう。


(逆徒を説得する時、魔力のおむすびを作れる程度に回復してれば十分だ)


ならば急ごう。とにかく、一人でも多く犠牲者を減らす為……

いや、それもあるが……それよりもだ、青達に喜んでもらう為にも

俺は逆徒に会わねばならないのだ。


松明を掲げた三人の子供達に先導されて、

俺は森の中を先へ先へと進んで行った。







「そういえばさ、界武」


「何だ、青?」


「さっきの話だけどさ……お前は最初否定してたけど、

 やっぱり遠鬼の事、信頼してるんじゃないか……」


青が恨めしそうな顔で言う。

さっき俺が嘘をついたとでも思っているのだろうか。


「いや、なんつぅかさ、それは……」


「……それは?」


「なんか、照れくさかったんだよ……」


その辺の機微は、言わずとも分かって欲しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ