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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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九十五話 楔と槌

「何故……そうまでして戦う、界武っ!」


俺の前蹴りを左脛で防いだ羽膳が問う。


「テメェが……気に入らねぇからだ!」


羽膳の踵落としを両腕を重ねて受け止めた俺が答える。


「逆徒を取り押さえるのが遅れれば、それだけ多くの人が死ぬ!

 分かってて……言ってるのかぁ!」


胴突きからの膝蹴り、その俺の連撃をも軽々といなし、羽膳は尚も問う。


「俺だってなぁ……それが嫌だから、こんな所まで来てんだよっ!」


蹴りが主体の羽膳の格闘術はその手数……いや、足数か?

とにかく、その足数が俺よりも少ないからか、

俺が二度攻撃する度に一度反撃が来る、そんな乱打戦だった。

だというのに……俺の攻撃を羽膳は軽々と捌く。

悔しい事に、格闘術ですらまだこの男には届かない。


「ならばお前も……逆徒を倒しにここに来たと……いうのかっ!」


「倒すっつうかさぁ、説得に来たんだよ!

 こんなどうしようもない事は止めろってな!」


「そんな……言葉が……通じる……男かっ!」


その叫びと共に打ち放たれたのは中段蹴り、

力のこもった一撃だったが、それでも俺は防ぎきる。

だが……そこから羽膳の蹴り足が戻らずに空中に留まっている。

それを奇妙に思う間もなく、変則的に動くその蹴り足が俺の顎先を掠めた。


「うわっ……あぶねぇ……!」


のけぞったまま距離を離す。

今のは……危なかった。何と呼べばいいのか……変則二段蹴り……?

初見で躱せたのは正に幸運で、咄嗟に上体を逸らしていなかったら

顎を綺麗に蹴り飛ばされていただろう。


「チッ……今ので昏倒していればそれでいいものをっ……!」


「馬鹿言うな! テメェの顔に一発入れる前に気を失って……たまるかぁ!」


羽膳の蹴りほど変則的ではないが、

俺にも延老さんから習った連撃がいくつかある。

先の返礼にとそれを披露する。まずは左の縦拳……体をよじって避けられた。

ならばもう一歩踏み込んでの右の肘打ち……これも躱される。

分かってはいるが体捌きの速度が一段階違う。


(だがこの連撃は次が本命だからな……!)


肘打ち時の体の回転を利用しての左の裏拳、これこそが連撃の締め。

敵の体勢によっては死角から襲いかかるこの一撃、

躱すのは至難と延老さんから聞いている。


(……どうだっ!?)


唸りを上げて襲い掛かる裏拳を……羽膳は上体を逸らしかろうじて避けた。


「っ! あぶな……かったぞ……!」


当たってないという体で構えを取る羽膳。

その反応だけを見れば避けられたように思えるが……。


(いや、拳の先に微かに感触があった。これは……掠ったか?)


「今の……当たったんじゃねぇか?」


もし当たっていたとなれば、掠った程度とはいえ

羽膳との戦いにて初めての殊勲である。だからと俺は念押し気味に確認する。


「……当たってない」


ばつが悪そうに呟く羽膳。この反応は……。


「当たってただろ! 拳の先に感触あったぞ!」


「あ……当たってない! 絶対に当たってないからな!」


ムキになって否定するその分かりやす過ぎる反応。

羽膳はどうやら嘘を付くのが下手らしい。


「ざまぁ見ろ! 一発、その顔に入れてやったぞ……!」


このいけ好かない男の顔にようやく一発入れる事が出来た。

状況は勿論まだまだ不利だが、何故かもう勝てたような気分になる。


「だから、当たってないと……!」


喜色満面の俺を黙らせよう尚も叫ぶ羽膳だが……。


「じゃあその鼻血……何だ?」


その言葉に、羽膳はしまったという表情で鼻に手を当てる。

勿論鼻血なんて出ていない。鎌をかけたんだ。


「嘘だよ馬鹿。だけどな、当たってないんならどうして鼻に手を当てる……?

 ……ああ、鼻に掠ってたのか。そりゃ悪かったな」


俺は大いに笑った。

もうこれで俺の勝ちでお終いでいいんじゃないかってぐらいに笑った。

前回の敗北も今なら許してやれなくもない、そんな上機嫌な俺だった。


「……もういい、もう十分だ」


その俺の機嫌に反比例するかのように羽膳は超が付くほど不機嫌だった。


「屋内で魔術を使うとどうやっても建物を傷めてしまうからな、

 いつもの癖で自制していたが……よく考えればこんな砦、

 壊れたところで誰も困るまい」


「え? い……いや待てよ、この補修の後を見ろって。

 誰かが頑張って直して使っていたんだぞ。

 お役人様よ、そいつを壊すのは非道って奴じゃねぇか……?」


「それは逆徒だろうがぁ! 構うかぁ! この砦ごと吹き飛べ、界武!」


その狭い砦の一階に暴風が吹き荒れる。

床板が剥がれ、隣室の畳が跳ね上がる。筵や枕、竈の蓋のような寝具家具に

短剣弓矢といった武器の類まで、所狭しと辺りを飛び交う。


「ば……馬鹿止めろ!」


叫んでみるが、この声、羽膳に届いてはいまい。

廃砦はそのあらゆる箇所が軋みを上げ、それが暴風の音と重なって

自分の声すらよく聞こえない。


これはたまらないと後ろに退いた。そして慌てて階段を駆け上がり、

砦の二階に逃げ込む。


階下の騒音にうんざりとするが、この二階はそれなりに穏やか……

と思っていたら、バァンと激しい破裂音が鳴る。

見れば床板が弾け飛び、大きな穴が開いていた。


(風の……塊……!)


その大穴から飛び上るように出てきたのは勿論羽膳だ。


「逃がすと……思うか?」


「ば……馬鹿野郎! 階段使え!」


「うるさいっ!」


今度は風の塊の連射が砦の二階を襲う。

身体を伏せ、壁に沿って走り回る俺の後ろからバンバンと破裂音が鳴り、

風通しが良くなっていく。

……この砦を必死に修繕したであろう子供達には申し訳が立たない。


「……畜生! これじゃ外でやるのと変わんねぇぞ!」


むしろ当たると痛そうな家具や木板が飛び交う辺り、

こっちの方が不味いまである。


逃げ回ったその先に階段を見つけ、またしても俺は上の階へと逃げ込んだ。

三階は……階段が無い。どうやらここで行き止まりらしい。

その三階は殆ど家具が無く、弓が幾つかに大量の矢が束ねて置いてあった。

見れば左右の壁には大きな引き戸があり、

ここを開けては外に向け矢を撃っていたのだろう。


つまりは……ここから外には出られるだろうが、三階の高さである。

魔術の腕を使えばなんて事はない高さといえばそうだが、

そんな悠長に降りていては羽膳に狙い撃ちされかねない。


(いや……待てよ? 高いって事は……位置エネルギーが使える!)


姉さんも言っていた。高い所から重たい物を落とす。

それだけで悪人をやっつけるには十分だと。


この場合落とすのは多分俺達二人で事足りる。

羽膳を下にして飛び降りるんだ。

それで二人分の位置エネルギーをその身に浴びてもらう。


その考えに至った時、二階の時と同じくこの階の床板も弾け飛ぶ。

ならば次にこの穴から出てくるは、間違いなく羽膳の筈だ。

そう思ったからこそ、躊躇いもせずその穴の方に駆け出した。


「逃がすか……って、何だっ!?」


「落ちろぉ……羽膳っ!」


案の定飛び出てきた羽膳に俺は飛びかかった。







予定では、このまま羽膳を組み伏せて、

後ろの引き戸を突き破り羽膳諸共身を投げる筈だった。

だがその俺の予定の邪魔をしたのは、前回の戦いと同じく防壁の魔術だった。


唐突に現れた俺の身体よりも大きな防壁に突進を止められ、額を打ちつけた。

……痛い。だけどそのままでいる事も出来ないとその防壁を蹴って後ろに跳んだ。


「逃げるなとは言ったが……抱きついて来いとまでは言ってないぞ」


俺の奇襲を完璧に防いだ事で心に余裕が生まれたか、

羽膳は冷笑含みの皮肉を返してくれる。この鳥野郎め……。


「……やっぱりその防壁から先にどうにかしねぇと駄目か」


「どうにか出来ると?」


「……まぁ、なぁんにも考えてこなかった訳じゃあないからな」


そう言って、不意打ち気味に打ち込むは銀の腕の二連撃。

勿論先程から張りっぱなしの防壁に弾かれる。

弾かれた銀の腕は砦の屋根にぶつかり、

一階二階と羽膳に思う存分破壊された廃砦は

可哀想にここ三階でも悲鳴の如き軋みを上げる。


「その壁、砕けろぉっ!」


羽膳が開けた大きな穴を挟んで俺達は対峙する。

今度は俺が一方的に銀の拳の連撃をけしかける。

ただ残念ながらその全てをあの憎たらしい防壁が防ぎきる。

悲惨なのはここの屋根だ。弾かれた銀の腕が既に何個も穴を開けており、

砕けた瓦がここの床にも散らばっている。


「……そろそろ魔力も尽きるんじゃないか?

 そこまで頑張ってもらったところで悪いが、

 お前の攻撃は何一つとして俺に届いてはいないぞ?」


巨大な防壁で身を守る羽膳といえば、息を切らす俺を笑って余裕の表情だ。


「……さっきの裏拳は?」


「あれは! 当たって! いない!」


「まだ言うか……」


そして二十を数えた銀の連撃もそろそろ打ち止めだ。

二十一発目も防壁を砕けずじまいで、俺はついに魔力を切らし膝を付く。


「……そろそろ終わりか?」


防壁の向こう側に留まる銀の腕を見て羽膳は笑う。


「ならばもう終わりだ」


そしてその右翼を振り上げる。

ああ……今から止めの風の塊を撃つつもりのようだ。


「だな。これで終わりにするわ」


だが俺の方も丁度準備が整ったのだ。

あの壁を破る……準備が!


「なっ……!?」


羽膳が驚いた理由……それは、壁の向こうの銀の腕が急に変形したからだ。

その変形の結果生まれたものは細長い楔型の魔力の塊。

別件での特訓の結果、こういう尖った形の成型もかなり上手くなってきた。


「何だこれは? 何を……する気だ?」


そう問う羽膳に親切に答えておく。息を整える間も欲しかったし丁度いい。


「見ての通りの魔力の楔だよ。壁みたいな硬いものを砕く時はな、

 こういったものを間に挟んで槌を打ちつける訳だ。

 その効用は説明するまでもないよな? 壁と接する面積が小さいほど、

 その面にかかる圧力が大きくなって……それで壁を砕くって寸法だ」


「壁を砕く……?」


「そうだ。後は槌をその後ろから打ちつければ、その壁も砕けるのさ。

 で、その槌だけど……ああ、そういや羽膳……ちょっと床を見てみろよ」


この三階の床、羽膳が開けた大穴を除いては結構綺麗に片付いていた。


「……天井の瓦礫は、何処に行った!?」


「あれはな、透明の腕でこっそりと片付けておいたのよ。

 俺はお前と違って行儀がいいんでな、散らかしたら片付ける事にしてる。

 ちなみに出た瓦礫の山は……あそこだ」


そう言って俺は自身の後方を指差す。

いつの間にか引き戸が破られ開放的になっていたその茜空には、

瓦礫を取り込んで膨れ上がった銀の腕があった。


「なっ……いつの間に……!」


「一つ一つは小さな瓦礫でもなぁ、あれだけ集まったら結構な重さになる。

 分かるか!? あれが槌だ! お前のその防壁を砕く為に作った……

 魔力の槌だぁ!」


右手で引っ張るようにその魔力の槌を打ち込む。狙いは勿論魔力の楔……!


衝撃。恐らくはこの戦いで最も苛烈であろう衝撃が

楔を通じて青白く光る魔力の壁に伝わる。


「まさか……こんな手が……!」


その魔力の壁が楔と接する細長い線。そこから一気に壁全体へと亀裂が広がった。


「……界武っ!」


金属の壁が砕ける時はこんな音がするのだろうか。

そんな風に思えるような重い破壊音と共に、羽膳の防壁の魔術が砕かれる。


「今度こそだ! 落ちろぉ、羽膳!」


俺は壁を砕かれて無防備な羽膳に掴みかかり、

後ろの引き戸を突き破って諸共に宙に身体を投げ出した。

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