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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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九十四話 矢と防壁

この廃砦、その周囲には幾つもの塀が立ち並んでおり、

今俺はその内の一つに身を伏せている。


その俺の耳に、またしてもあの身の毛がよだつ音が届く。

あの、絶え間なく響く笛の様な風の音……。


「ええいっ!」


風の塊がすぐそこまで来ている事を知った俺は急いでそこを離れる。

それとほぼ同時に、俺が今まで潜んでいた塀が砕け散った。


……そりゃあ、補修も碌にやってない土塗りの塀だ。

俺が強く押した程度でも倒れて崩れはするだろう。

だけどそれを破砕するとなると話が違う……なんて、破壊力だ。


「羽膳っ! お前さっきからそればっかりしてきやがって……!

 その速さで見えにくくて更にその破壊力、盛り過ぎだろ馬鹿!?」


逃げ回りながらも悪態をつく。

というか……俺はさっきから逃げ回ってばかりだ。

あの小さな風の塊、見えにくい上に連射も出来て威力も銀の腕を上回る。

あれをどうにかしない事には戦いはおろか、近づく事すら叶わない。


幸いというか、ここにいた子供達はさっきの口論の間に避難を済ませており、

そのお陰で俺は戦場を広く取れていた。

だからまだ、逃げるぐらいはどうにかなっていたが、それとてどれだけ持つか。


「お前こそ、さっさと当たれ、当たってしまえっ!」


先と変わらず塀の上に立つ羽膳、その左右の翼が俺に向かって振り下ろされた。


「……畜生っ!」


羽膳も俺の逃げ方に慣れてきたか、今度の風の塊は

俺が逃げ込もうとした塀に向けられていた。


咄嗟に伸ばした魔術の腕で壊れる前の塀を掴み、俺の身体を放り投げる。

上に跳んで急場を凌ごうとの判断だが、なにせ急いでやった事だ。

着地場所も着地の姿勢も考えての行動じゃない。


「うわっ……!」


風の塊の一撃自体は避けられたものの、着地地点にはまた別の塀があった。

その塀に背中から突っ込んで強かに背中を打ちつけた。

塀がガラガラと音を立てて崩れ落ち、

俺の小さな体は瓦礫の山と土煙に隠れ羽膳からは見えなくなる。


「……無様だな、界武! それで終わりか……!?」


俺の醜態を前に、ここぞとばかりに羽膳の声が響く。

……背中をちょっとぶつけたぐらいで大袈裟な奴だ。

それに何よりも……。


(……俺は無様でも一向に構わねぇ。

 けどな……テメェに失望されるのは絶対に御免でな……!)


土煙の中から伸ばすは二本の銀の腕。それで再度羽膳を襲う。


「それは効かないといつになったら分かるっ!」


羽膳が前面に展開するは防壁の魔術。

前回の戦いも、ついさっきもそうだ。俺はあれを突破できなかった。

……だが、遠鬼が言うにはそれは単に威力の問題なんだそうだ。


銀の拳の連打が始まる。初撃の突きに始まり、

振り下ろし、振り上げ、薙ぎ払い……。


「こっ、これは……」


その連打、五発目になってようやく羽膳が気付いたか、

その拳の重さが今までと全く違う事に……。


直撃は避けられているとは言っても、その重さ故に衝撃が殺しきれてない。

たまらず塀から振り落とされた羽膳だが、

その上から追撃の鉄槌が振り下ろされる。


「なるほど、こと戦いに関していえば、遠鬼の助言は間違いねぇなぁ……!」


『「それじゃあ遠鬼、お前ならあの防壁、どう破るんだ?」


 「どうもこうもない。難しく考えるな、あんなのはただの壁だ」


 「えっと……つまり?」


 「力任せにぶん殴れば破れる」』


思い返せば、確かに遠鬼はそう言った。

聞いたその時は呆れはしたが……今こうして羽膳が防戦一方に

立ち尽くしているところを見れば、確かに威力の問題らしい。

つまりは……このまま衝撃を与え続けていれば、

あの防壁の魔術を破る事も出来るかもしれない。


既に瓦礫の山から這い出ていた俺は、

銀の拳の猛撃を前に守りを固める羽膳を見やる。


「界武、一体何をした……!」


絶えず続く銀の拳の連打に体を左右に揺らす羽膳。

防壁の魔術でも、流石にあの重さの拳は受けきれないと見た。


「その銀の拳はなぁ……さっきの瓦礫の欠片を握りしめていてな!

 ……分かるか? 殆ど質量が無かった時でも破壊力のある銀の腕だ、

 それがこれだけの質量を持っていると……こうなるっ!」


今度は俺の番と、魔力の消費を省みずにひたすらに連打を続ける。

だが魔術の壁は未だ羽膳を守る。こうまでしても俺の攻撃は届かない……!


「砕けろ、防壁の魔術っ……!」


ならばと二本の銀の腕を一つにまとめる。これで重さが二倍、威力も然り!


「くらええええっ!」


「くらうかぁ!」


縮こまっていた羽膳がその羽を広げる。

それと同時に恐ろしい程の圧力を持つ風が辺り中に吹き荒れた。


「なっ……!」


それは目も開けられない……伏せてなければ身体ごと持っていかれそうな暴風。

たまらず俺は這いつくばり、銀の腕はその握っていた瓦礫諸共吹き飛ばされた。


「いい加減にしろ……多少重くなろうがなぁ、その原始魔術は俺には効かん!」


吹きすさぶ暴風が止んだと思ったその時だ。

その羽膳の言葉と共に飛ばされた風の塊に、

這いつくばっていた俺は今度こそ吹き飛ばされた。


凄まじい衝撃。これに前は意識を断たれた、それだけは……覚えてる……

耐え難い悔しさと共に!


(今度は……絶対に……これで終わらねぇ!)


そう、終われない。終わってなるものか。

二度同じ相手に負けるのも格好悪いのに、

負け方も似たようなものとあっては戦士の恥だ……!







……塀に叩きつけられた後、それでもすぐにその体を起こせたのは、

あの時の悔しさがあったからだろう。


「原始魔術が効かない……? いや、強がりだな……!

 あと一歩でお前の防壁はぶっ壊れてたんじゃねぇか?」


さっきの羽膳の攻撃は全然効いてない。

そう思ってもらう為にしっかりと虚勢を張っておいた。


しかし……痛い。万遍なく全身を打ちつけたようだ。

すぐ立ち上がれたところを見ると、骨に異常はないかもしれないが……

それでもまたさっきの調子で逃げ回るのはきつくなった。


「ほざけ!」


羽膳は罵りながらも攻撃するという悪い癖がある。

いや、他の誰にもそうしているかは知らないが、俺に対しては間違いなくそうだ。

そうと分かっていたから咄嗟に銀の腕を生やして防御に使えた。

案の定……その銀の腕は弾け飛び、その衝撃で逸れた風の塊が、

俺の後ろの廃砦の壁を強かに叩いた。


(……廃砦?)


ふと背後の廃砦を見たが、先程の攻撃に軋みを上げてはいたが

壁が破られるまではいかなかった。逆徒達が補修をしていたか、案外と頑丈だ。


(……待てよ、外なら確かに羽膳は強い。だが部屋の中なら……どうだ?)


羽膳の武器はあの空をも駆ける機動力に風を操る魔術だ。

そのどちらも、屋内では十全に機能しないように思えた。


「試して……みるかぁ!」


牽制にと伸ばした銀の腕、羽膳はそれを一薙ぎに吹き飛ばすが

その分背を向けて逃げ出す俺に気付くのに一呼吸遅れた。


「待て界武、貴様、逃げる気か……!」


「馬鹿言うな、戦場変えるんだよ! 俺が怖くねぇのなら追って来い!」


その捨て台詞を残して、俺は廃砦に駆け込んだ。







入ってみれば、廃砦は確かにかなりの補修がしてあった。

床には穴の一つもなく、天井に至っては全ての板が

張り直されている様にすら見えた。

ただ壁については補修が間に合っていないのか、

その所々に穴や隙間がある。ただそのお陰で外から入る光も多く

屋内と言ってもそれなりに明るかった。


その砦の中、土間の両隣りに部屋があり、奥にももう一部屋見えた。

その奥の部屋の側に天井へ続く階段があり、そこから二階に上がれそうだった。


(ここの天井の高さは……十尺ほどか? 外から見た感じだと……

 この砦自体はまだ相当に高かった。なら多分二階建てという事もなく、

 三階……もしくはそれより多い)


まだ上に逃げられる、その事実に少しだけとはいえ心に余裕も生まれた。

それに……この狭さなら……!


(ここならいける、羽膳と五分以上に戦えそうな……気がする!)


気がするだけだが、それでもいい。痛みに萎えた戦意が甦ってくるからだ。

しかし悠長に構えている時間はない。どうせすぐに羽膳はやって来る。


「何か……ないか?」


もう少し何かが欲しい。俺と羽膳の戦力差を埋められるだけの何かが……。


目に付いたのは、子供達が使っていたと思われる武器……その予備だ。

土間の壁に立てかけてある幾つもの弓矢に短刀……

そこで俺は扱えもしない弓矢に手を掛けた。

そう、まだ短刀の方が使いでがあるだろうに、ほぼ初見の弓矢に行った。

……仕方ないだろう、前々から興味があったんだ。


(両手を使って……これで弦を引っ張って、

 弓の弾性エネルギーを使って矢を飛ばすのか……)


姉さん譲りの探求眼でその大きな弓を調べてみた。

遠鬼と延老さんから弓についてはある程度の事を聞き齧ってはいたが、

やっぱり実物を見ると想像していたものと印象が全く違う。


俺の右手は弓を構える事は勿論、弦を引く事だって出来はしない。

だとしてもどちらかを原始魔術の腕で代用とすれば、

矢を打ち放つ事も出来そうに思えた。


実際に魔術の腕で弓を固定し、矢を番えてその弦を引いてみる。


(……結構力が要るな。

 これ、両腕しっかり鍛えないと狙いも定まらないぞ……っと!)


「界武! こんな所まで逃げて……ん、ゆ……弓だと!?」


間の悪い奴、羽膳がそこにやって来た。目にしたのは弦を引いている俺。

撃たれるとでも思ったか、羽膳は咄嗟に大きな防壁を作り出した。

大袈裟な奴だ、そんなに強く弦を引いてすらいないのに。


だがそういう事ならその要望にお応えしようと、俺は弦を引く手を放す。


「くらえっ!」


俺と羽膳とは五歩程も離れていない。この距離なら如何に弓の素人だろうと、

羽膳の身体の何処かに当たる筈だ……!


そう思ったんだ。だから掛け声だけは威勢が良かった。

だが現実は非情だ。矢は当然のようにあらぬ方向に飛んでいった。


「……」

「……」


先の屋外での激戦が嘘のように静まり返る。

……沈黙、痛々しい沈黙。一体どうしてこうなった。


「……う、羽膳! 小心者だなぁお前!

 そんな大きな防壁を張って、そんなに弓が怖いのか!?」


誤魔化せ。こうなったら誤魔化すんだ。

そう考えた俺は、羽膳の防壁……その大きさを笑ってから

役立たずの弓を投げつけた。


「なっ、小心者だと……!

 お、お前こそ……何だ今の情けない矢は……!」


投げられた弓を翼で打ち払い、羽膳は怒鳴る。


「うるさいわぁ!」

「そっちがだろうがぁ!」


半ば八つ当たり気味に始まる砦内での格闘戦。

一気に距離を詰めた俺の左拳と、それを迎え撃つ羽膳の左回し蹴りが交差する。

互いの一撃はほぼ同時に相手に届く。俺の拳は羽膳の右手が受け止めて、

羽膳の蹴り足は俺の右腕が防ぎきる。


初撃はほぼ互角……ならば、次はどうだ!?


「くたばれぇ!」

「倒れ伏せろっ!」


蹴りと拳が乱れ飛ぶ、乱打戦が始まった。

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