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和風魔界の反逆者  作者: 猫もしくは犬
二章 羽膳
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九十一話 自己紹介

何を話すにしろ、まず皆への自己紹介から始めた方がいい。


青、鉄、咲の三人には事前にそう伝えておいた。

勿論難色を示す、なんて騒ぎじゃなくて絶対嫌だの一点張りだった。

だが俺が思うに、この子達がどれだけ魔族を嫌おうと、

それはそれとして謝意を伝えなければいけない人が一人いた筈だ。


「お前達の怪我を治したのは誰だ?」


「それはあの、月陽っていう女の子だって……! でも、その子も人間……」


「その前だ。怪我だらけのお前達に応急手当てをしたのは

 誰だって話だったっけ……?」


それを聞くと全員が無言になった。

それならと俺が言葉を繋ぐ。


「延老さんだ。お前達が殺そうとした延老さんが、

 傷だらけのお前達を手当てしたんだ。

 それに……恐慌状態のここの住民がお前達を傷つけようとするのを

 延老さんが必死に庇っていたのも見ていた筈だぞ」


……まだ無言。だけど、この言葉に反論しない辺りは、

自分達の分が悪い事ぐらいは自覚してるんだろう。それはいい傾向だ。


「俺は別に魔族と仲良くなれって言ってねぇ。

 そりゃ自分達を食べてるような奴等といきなり仲良くなれってのも無理だ、

 それは十分理解出来る。だけどなぁ……礼を言わなきゃならない時は、

 ちゃんと礼を言うもんだ。それも出来ないのなら

 人間は魔族以下だって話になっちまう」


「……毛人以下なもんか!」


小声ながらも鉄が言い返す。

だが残念ながらその反論は鉄自身に突き刺さる。


「そう思うなら、やはり礼ぐらいは言うべきじゃないか?

 人間が魔族より上等だっていうのなら、礼儀でもそれを示さねぇとな」


鉄はまだ何か言い返したいような表情だが、その言葉がなかなか出てこない。

それを見かねたか、青が代わりに言葉を返す。


「別に手当てをしてくれなんて言ってない。

 それに『閃刃』が俺達を守ったのも、

 破裂されて自分が死ぬ事を恐れたからだ。決して俺達の為なんかじゃない!」


「そうだ……そうだよ!」


なるほど、こう言い返すのか……。

俺には無かった考えなんで、思わず感心してしまった。


「それは確かにそうかもしれないなぁ……」


個人的には延老さんはそんな風に物事を考えないとは思うが、

そんな事をこの子達に言っても分かっては貰えないだろう。

ならば肯定するしかない。


「……な、そうだろう!」


そう得意げになる青。

……それを見てると、ちょっと思う事がある。


(遠鬼からしたら、口答えしている時の俺ってこんな感じなのかなぁ……)


だとしたら自省案件だ。今後は気をつけようか。


「……でもさ、もしお前の言う通りじゃあなかったらどうなるんだ?」


「え……!?」


言い負かした気になってる青にはちょっと悪いが、

自分に都合のいい予測を事実として話を進められても困る。


「いやさ、延老さんがお前の言う通りに

 自分の身可愛さにお前達を助けたとか、そういうんじゃなくて、

 本当に善意から子供達を傷つけまいと頑張っていたとしたらさ、

 どうなるんだ?」


「毛人はそんな事を……」


「その思い込みを一旦捨てて考えてみてくれ……

 そしたらどうなる? お前達はその命を狙っておきながら助けられ、

 更にその後手当してくれて敵から守ってもくれた恩人に、

 礼の一つも言わない恩知らず、という事になる」


「で、でも、そんな……」


「少なくとも俺の知る延老さんはそういう人だ。

 剣を人間から習った事にはちゃんと敬意を払っててな、人間魔族を問わず、

 女子供を殺さない事を誓った歴戦の戦士……それが延老さんだ」


「……信じられるか!」


「なら信じられるかどうか、自分で確認すればいい」


その言葉の意図が分からないのか、驚いた表情のまま言葉を無くした青に向けて、

最後にこう言ってみた。


「お前達の目と耳で延老さんがどんな人か実際に確認してみればいい。

 その機会はちゃんと作ってやる。

 ……だけどな、そこで話は最初に戻る。

 人と話す時はな、まずは自己紹介だ……分かるな?」







その日の夜、特訓を終えて集落の屋敷に戻って来た俺達は、

全員が一室に集まって話し合う機会を作った。

勿論発案者は俺で、誰も文句は言わなかった。


……まぁ、人間の子供達も話に混ざってもらう、

その言葉には春夜さんが難しい顔をしていたが。


「……俺の名は青、こっちは鉄で……こっちが咲」


俺が自己紹介を促すと、やはりこちらも難しい顔はしていたが、

子供達はちゃんとそう自己紹介をしてくれた。


「……驚いた。一言だって私達と喋ろうとしてなかったのに」


そんな子供達を前にして、驚きを隠さない春夜さん。

その気持ちはよく分かるけど……驚くより前にやって欲しい事があった。


「……では、もうご存知かと思いますが私からも自己紹介を」


流石に延老さんは俺の気持ちを分かってくれていた。

そう、自己紹介には自己紹介を返すべきだ。たとえ相手と種族が違おうと。


「私は延老と名乗っております。『閃刃』の方で知られているでしょうから、

 そちらで呼んでくださっても構いません。よろしくお願いします」


「私は月陽。こっちの界武君のお姉さんね。えっと……よ、よろしく」


「……遠鬼。魔族の戦士だ」


延老さんは普段の好々爺の態で、月陽はちょっとはにかみながら、

遠鬼は……もうちょっと言いようがあるだろうに、

いつもの仏頂面でそれだけ言った。


「え!? わ……私もするの!?」


人間に自己紹介をするという考え自体が無かったのだろうか、

慌てる春夜さんだったが……周りからの冷たい視線に簡単に屈した。


「は、春夜……魔族の戦士……です」


何故か丁寧な口調だった。


「よし、俺はさっきもしたけどもう一回。

 名前は界武。遠鬼達と一緒に延老さんを助けにここまで来た。

 ……よろしくな」


「……よろしく」


その青の言葉の後にぼそぼそと小さな声が聞こえた。

鉄と咲の返事だろう。微かにだが、よろしくと聞こえた気がする。


「……じゃあまずは情報共有を済ませよう。

 青、鉄、咲……お前達も知ってる事があったら教えてくれたら助かる。

 勿論言いたくなかったら言わなくてもいいけど……

 こっちは何も隠す気はないからな」


そして昨晩から続いての作戦会議が始まった。







「……じゃあ、その廃砦に逆徒がいる可能性が高いんだな?」


「ああ。先生も怪我をしていたから……そうだと思う。

 あの砦はかなり前から使っていたみたいで、かなり補修されているし

 包帯みたいな薬も揃ってた」


「ですが、逆徒が逃げ出す前に『山嶽王』を連れてくるらしき事を

 言っていたのですが……その辺りはどうなのですかな、青君?」


「え、えっと……だとしたら、凪さんが呼びに行ったんじゃないかな。

 あの人なら馬にも乗れるし強いから……」


「ああ、あの人間の青年ですか……。

 確かに、弓の腕はかなりのものでしたな」


「……簡単に打ち落としてたじゃないか」


「鉄君、簡単に見えますがあれは私だから出来たのですよ。

 実際にここにいた役人達は何も出来ずに殺されてます」


笑ってする話でもないと思うのだが、延老さんは大いに笑っている。

それを見て子供達も苦笑いだ。


(……いや、別に付き合って笑わなくてもいいよ)


そう思うが言葉に出すのは野暮だ。

ひとまず会話が続いてるのを良しとすべきだろう。


……こんな感じで、青達は不思議な程に素直に色んな事を喋ってくれた。

また、最初は逆徒をそう呼ばれるのを嫌がるそぶりも見せたが、

ここまでの魔族の人数に押されたか黙認してくれている。


その子供達だが、自分達から延老さんと話す機会を積極的に作ってくれている。

俺の言った事が少しでもその心に響いたか、

延老さんの為人を調べようとしてるのかもしれない。


「だから……多分、先生は廃砦に。凪さんは巨人族を呼びに

 もう少し西の方にある隠れ家に行っている……と思う。

 他の子供達はまた別の場所にいるけど……そっちは教えられない」


「はい、それで構いません。子供達を戦いに巻き込むのは本意ではないのです」


延老さんも流石に今は戦士ではなく、

好々爺の顔で子供達の話を聞いてくれている。


「……では界武君、こうやって逆徒の動向もある程度分かってきましたが、

 次はどのように動きましょうかね?」


情報共有が大体済んだと思われた頃には、

そうやって延老さんがこっちに話を振ってくれた。


「それだけど……俺はこれから、逆徒に会いに行こうと思う」


「えっ!?」


驚いたのは春夜さんだ。


「ちょっと界武君! 今この状況で逆徒に会いに行って

 どうしようっていうの!?」


「……春夜さん。そもそも俺達はさ、遠鬼が逆徒と一緒に変な事を企んでる、

 そんな疑いを晴らすために旅を始めた筈なんだ」


今更な話かもしれないが、そもそもの話の発端はそうだった。


「それは知ってるけど……それと逆徒に会いに行く事とどう繋がるの?

 逆に怪しまれるんじゃないの?」


「いや、こうして遠鬼がそんな企みに加わっていない事を

 証言してくれる人も助けられた……そうだな、延老さん」


「この老い耄れの言葉を聞いてくれるかは分かりませんが、

 勿論ちゃんと報告しますよ、遠鬼殿は無実……であるとね」


無実、の所で何やら含むものがあるみたいだったが、

それも延老さんは笑って流した。

……多分、月陽の服従印を解除した事だろうが、

ちゃんと秘密にしてくれてるのだろう。


「まあそんな訳でさ、当初の旅の目的はもう果たされてるんだ。

 だから次は……逆徒だ。アイツのやり方だと人が死に過ぎる。

 特に青みたいな子供達だ。

 こんな子供がまだ百人近くも殺されるのを待っている。

 こればっかりはどうにかして止めないと、俺の気が収まらない」


「え? でもそれなら逆徒を殺しちゃえば……」


そう言いかけた春夜さんだが、

青達の敵意のこもった視線に気付いて言葉を引っ込めた。


「分かるだろ? 青達も逆徒が殺されるのまでは望んでないんだ。

 なら逆徒を殺さないように事を収めるには、説得するしかない」


その俺の言葉の後、暫し屋敷が静まり返る。

……まあ、遠鬼と月陽は元々静かだったが。

というか、月陽に至ってはもう遠鬼の膝を枕に寝息を立てていた。


(特訓で疲れていたのか……起こさないようにしないと)


そんな俺の気遣いを察した訳ではないだろうが、

延老さんが少し小さな声で俺に言う。


「界武君、私は逆徒と戦いましたが……

 あれは説得に応じるような男ではないですよ。

 人間の世界を取り戻す為にあらゆる犠牲を払ってきた男です。

 今更何と言われようとその目的を覆す事はないでしょう」


「延老さん、俺は逆徒に人間の為に戦うのを止めろ、なんて言う気はねぇよ」


「ほう……では何と?」


「やり方を変えて欲しいっていうだけさ。

 子供達を犠牲にしてまで叶えるような夢じゃない。

 というかさぁ……まずその百人の子供達を幸せにする事から

 始めりゃいいじゃねぇか。俺は逆徒にそう言いたんだよ」


俺は三人の子供達を見る。

昨日今日の付き合いでしかないが、それでもかなり分かってきた。

青は頭が良くて責任感が強い。鉄は向こうっ気が強いが優しい所がある。

咲は気弱に見えるが好きな話題にはとことん饒舌だった。


(……多分、他の百人近い子供達も同じようなもんだろう。

 知ってみればどこにでもいる普通の子供達だ。

 そしてそれを俺の手の届く範囲で殺されたんじゃ……寝覚めが悪い)


俺は、こんな理由で今回の戦いを止めようとしているんだ。

人間がどうとか魔族がどうとかはどうだっていい。


「ハッハッハッハッ……」


唐突にその哄笑が屋敷に響く。勿論延老さんだ。

……ああ、月陽も目を覚ましてしまった。ごめんな。


「やはり界武君は面白いですなぁ……!

 なるほど! それならばあの逆徒と言えど……

 少しは話を聞こうとするやもしれませんな!

 いやぁ面白い! 昼の魔力のおむすびといい……

 何もかもが独特でこの私が予測も出来ません。

 こういう事があると、長生きして良かったと思いますなぁ……!」


「……じゃあ延老さんは賛成か?」


「やる価値はあると見ました。

 私としても再度逆徒と戦うのは別にいいのです、

 『山嶽王』を呼んでもらっても構いません……いやむしろ望むところでして!」


(いや延老さん、アンタ怪我だらけじゃないか……)


だけど延老さんならやるだろう。そして勝ってしまいかねない。


「……まぁ、私はあの男が子供達を殺めるのを止め、

 その世話に全力を投じるというのであれば

 必要以上に追い立てようとは思いません。他にする事もありますし……」


「する事? ああ、あの人間の反乱を鎮圧に行きたいって奴?」


「はい。遠鬼殿よりも先に『勇者』を倒してしまってですね、

 それを以て伸びに伸びていた勝負の決着としようかと」


延老さんは笑いながら遠鬼を見る。


「……そういう事なら、こちらも急ぐか」


さっきからずっと黙っていた遠鬼だが、

流石にここはちゃんと意思表示をした。


「俺は『山嶽王』と戦えればそれでいい。

 逆徒とやらを殺すなというのなら、俺からは勝負を挑まない」


「よし! 遠鬼はそう言うと思ってた」


残るは春夜さんだけ、そう思いながら視線を向けると、

春夜さんは諦めたような表情で首を振った。

どうやら俺の考えに同意してくれたらしい。


「青、鉄、咲。これでこっちの方針が決まった。

 明日すぐ、お前達を連れて逆徒に会いに行く。そして説得して……

 その服従印と、破裂する魔術を解除してもらおう!」


「……それで、本当に……いいのか?」


三人の子供達は未だ信じられないといった表情で俺達を見詰めている。


「……ああ! 全部上手くいったらさ、お前達も幸せになれる!

 きっとそうなるって!」


「幸せって……楽しい事が沢山出来るんだよね?」


「そうだぞ咲。友達を作ってだ、好きな話題で盛り上がる、

 なんて事も出来るんだ!」


少なくとも、俺はこの子達にそうなってもらう為に全力を尽くすつもりだ。

……だってここまで関わったんだ。そうするしかないだろう。


これまでの人生で感じた事のなかった幸せの予感、

それに子供達が体を震わせていたその時に、空気の読まない男が口を開いた。


「……ちょっと待て界武。明日ここを発つのか?」


「何だ遠鬼、話聞いてなかったのか? 急がないと逆徒に会えなくなるんだ、

 明日出るしかないだろう」


「……月陽はどうなる?」


「え……私?」


急に話題を振られて慌てだす月陽。

まぁ……さっきまで眠っていたから話の流れが分からないんだろうが、

それにしたって遠鬼の方も説明不足だ。


「月陽が……どうしたってんだ?」


「魔力の霧が出せていない。

 今のままだと……お前はともかくとして、月陽が無防備だ」

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